本章では安岡ゼミナール8期生の「演習Ⅱ、Ⅲ」を中心とした3年次の生活に焦点をあ てる。演習Ⅱ、Ⅲは安岡ゼミ生活の中でも最も厳しい探究課題が与えられ、演習Ⅰでの学 びを基盤として高い活動成果と学習成果を求められる1年となる。この間に「学習・共同 体」としての安岡ゼミが「学習共同体」として機能し、学習成果の獲得と関係性の再構築 が促進された。第1節では1年間のゼミナール生活のデザインと実態を整理し、学習活動 の概要を押さえる。第2節では学習到達目標に照らした学習成果とその要因について整理 した。第3節ではこの1年間における各グループのリーダーシップの在り方から安岡ゼミ の「学習共同体」性について考察している。第4節では1年間の学びの過程における学生 と安岡の関係性と、共同体運営の中心となった企画班の学生たちと安岡の関係性について まとめる、第5節ではここまでの考察を整理し、改めて「学習共同体」としての安岡ゼミ の姿を検討し、小括とする。
第1節 演習Ⅱ、Ⅲのデザインと実態
2年次秋学期半年間の演習Ⅰで政策立案の基本プロセスやグループワークについて経験 した学生は3年次春・秋学期の演習Ⅱ、Ⅲにおいて1年間の通年活動に取り組む。また平 行して個人研究を進めることを求められる63。それぞれについてシラバスの到達目標を整理 したものが表5-1である。
表5-1 シラバス上の到達目標(TX13、14)
演習Ⅱ 演習Ⅲ
グル ー プ ワー ク
演習Ⅱでは,学生が,自治体の政策現場 におけるリサーチなどを通じて,政策担 当者と対等に議論できるようなレベル の知識とスキルを身につけることを目 指す。最終的には,自治体や国に自分た ちの提案した政策が採用されることを 目標とする。
演習Ⅲでは,学生たちが,自治体の政策 現場に入っていき,自分たちが立案した 政策の有効性をめぐって,自治体職員や 関係団体の人と対等に議論することが できるレベルにまで,政策形成に関連す る知識やスキル,討論能力を習得するこ とが到達目標である。
82 個人
研 究
同時に,グループワークを通じて育んだ 問題意識を個人研究に反映させ,政策立 案作業を通じて培った知識・スキルを個 人研究に関わるリサーチに活かしつつ,
学生同士の活発な議論を通じて,より充 実した政策研究が行えるようにするこ とを目標とする。
さらに,個人研究において,明確な問題 意識をもってテーマを設定し,文献調査 やインタビュー調査など,グループワー クを通じて培ったスキルを動員し,対象 とする政策に関して深く研究していく とともに,その成果を説得力ある形でゼ ミの中でプレゼンテーションし,論文の 中で論理的に提示していくことを目標 とする
演習Ⅰでは、基本的なスキルの修得に主眼がおかれていたが、演習Ⅱ、Ⅲでは実社会で 通用するレベルのスキルと、実際の成果が期待されていることがわかる。特にスキル面に ついては、演習Ⅰに引き続き「議論のスキル」と「情報収集能力」そしてそれらを高いレ ベルで行うための「専門性」が求められている。情報収集能力に関しては文献調査という 文言が新たに加えられている。これらの目標の下、学生は3分類7グループに分かれて1 年間、正確にはグループの決定から最終発表まで約6カ月間活動した。第1分類は「全国 政策立案大会系」であり、「全国政策立案大会・環境班」と「全国政策立案大会・教育班」
の2グループに分かれ64、国家レベルの政策立案を行い全国大会での受賞を目指した。第2 分類は「A市政策提言系」であり、「A市政策提言・エネルギー班」「A市政策提言・若者 定住班」「A市政策提言・限界集落班」の3グループに分かれて活動し、実際にA市市長や 市役所幹部職員に対し政策提言プレゼンテーションを行った。最後の第3分類は「活動系」
であり、「国際活動班」と「地域活動班」に分かれた。両グループは政策立案や提言ではな く、実際に社会貢献活動を行い、成果を出すことが目標とされた。このようにそれぞれの 活動特性が異なるため、厳密には各課題に共通する目標は存在しえず、政策担当者との議 論についても中間報告及び最終報告における質疑応答限りのものであったことは留意した い。しかし、学生は学習目標に拘らずそれぞれの学びをそれぞれの過程で獲得している。
なお、実際の1年間のスケジュールは表5-2の通りであった。
グループの選択は学生の希望が叶えられるよう配慮され、人数比が合わないところは学 生に移動の希望者がいないかを確認し、出来る限り均等な人数になるように配置された。
最終的なメンバー構成は表5-3の通りである。
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表5-2 演習Ⅱ、Ⅲの授業デザイン
2013年4月15日 第2講 ・ゼミ運営について
・C市役所訪問 2013年9月30日 第1講 ・休講(合同ゼミで代替)
2013年4月22日 第3講 ・グループワーク説明
・ゼミ運営について 2013年10月5,6日 2013年5月13日 第4講 ・個人研究報告
・プロジェクトチーム分け 2013年10月7日 第2講 ・政策立案大会プレゼン 2013年5月20日 第5講 ・プロジェクトチーム決定
・リーダー決定 2013年10月14日 第3講 ・A市班プレゼン 2013年5月27日 第6講 ・外部講演
・グループワーク 2013年10月21日 第4講 ・A市班,政策立案大会プレゼン
2013年5月29日 2013年10月28日 第5講 ・A市班プレゼンリハーサル
2013年6月2日 2013年11月3日
2013年6月3日 第7講 ・ゼミ説明会について
・グループワーク 2013年11月11日 第6講 ・個人報告 2013年6月10日 第8講 ・A市職員レクチャー
・グループワーク 2013年11月16日 2013年6月17日 第9講 ・オープンゼミリハーサル
・グループワーク 2013年11月18日 第7講 ・全国政策立案大会プレゼン
2013年6月19日 2013年11月20日
2013年6月20日 2013年11月25日 第8講 ・全国政策立案大会プレゼン
2013年6月24日 第10講 ・グループワーク 2013年11月30日 2013年7月1日 第11講 ・鉛筆削り大会(地域活動班発表)
・ゼミ選考会準備 2013年12月2日 第9講 ・個人報告
2013年7月3日 2013年12月9日 第10講 ・個人報告
2013年7月8日 第12講 ・メール送信について注意
・グループワーク 2013年12月15日
2013年7月13日 2013年12月16日 第11講 ・個人報告
2013年7月15日 第13講 ・TAレクチャー
・グループワーク 2013年12月23日 第12講 ・個人報告 2013年7月22日 第14講 ・ペットボトルディスカッション
・グループワーク 2014年1月13日 第13講 ・個人報告 2013年7月29日 第15講 ・7期生によるシュウカツセミナー 2014年1月20日 第14講 ・個人報告
2013年9月12日~19日 2014年1月27日 第15講 ・リサーチペーパー受け取り
2013年9月20日 2014年3月14日
2013年9月23日 ・ISFJ中間発表
・地域活動班最終発表会
・地域活動本番
・OBOG会 ゼミプレ(2回生向け合同ゼミ説明会)
学部ゼミ対抗バレーボール大会
・合同ゼミ説明会
・ゼミ説明会(昼休み)
・選考会議
・新入生歓迎コンパ
A市・市長プレゼン(最終発表会)
新歓合宿
・追い出しコンパ
・国際活動班最終報告会
・全国政策立案大会最終発表会
・国際活動@インド
・長浜中間発表
表5-3 演習Ⅱ,Ⅲのグループ編成
グループ グループメンバー(L=リーダー)
全国政策立案大会・環境班 カケル、ケンタ(L)、コトネ、ハルナ、ミク、ユウマ 全国政策立案大会・教育班 サチ、タイガ、タカシ、トシキ(L)、マリ
A市政策提言・エネルギー班 カズキ、サクラ、タクヤ(L)、ミホ、ミヤビ A市政策提言・若者定住班 セイジ、ナナミ、ヒナタ、マナブ(L)、ミサキ A市政策提言・限界集落班 ダイスケ(L)、トモミ、ナオキ、リン
国際活動班 アオイ、マユミ、ショウタ、マコト(L)、ユイ、ユナ 地域活動班 ツバサ、メグミ、ユウコ、ユウタ、ヨシヒロ(L)
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安岡は「演習Ⅱグループワークの進め方」【TX17】でプロジェクトに共通する基本的な考 え方を以下のように示しており、授業外の学習、学生間での協力、そして教員とのコミュ ニケーションを学習活動として重視していることが分かる。
<プロジェクトに共通する基本的な考え方>
○各自どのような貢献ができるかを常に考える。貢献しないメンバーは…バイバイ!
○ゼミの時間は成果確認・情報共有の時間。ゼミの前後の時間・スカイプを活用する。
○すべてを記録に残す。議論の内容・フィールドワークの内容を詳細に記録する。
○私に相談する。勝手に作業を進めると後でひっくり返されることになる。
第2節 演習Ⅱ,Ⅲにおける学習目標の修得過程
続いて各学習目標の習得過程について考察する。学習目標の項目は演習Ⅰと大きく変化 ないことから第4章と同様に(1)議論のスキルの修得過程、(2)情報収集能力の修得過程、
(3)専門性の修得過程(4)コミュニケーション(プレゼンテーション)能力の修得過程 の順に整理する。(4)については演習Ⅱ、Ⅲの学習目標として明言されていないものの、
実際の学生のインタビューにおいては演習Ⅰ以上に多くの学びを得ていることが明らかに なったため記述する。
(1)議論のスキルの修得過程
演習Ⅰにおいて教員は「自分の意見を全体の意見につなげていく議論のスキルの習得」
を目指したが、2年生の半年間では「自分の意見を言う」「他人の意見を聞く」という議論 のスキルの最も基本的な能力の修得に止まったことは4章で示した通りである。そして演 習Ⅱ、Ⅲにおいてもこの2つの基本的な能力の向上は続いている(資料【5-1】IVリン
140131)。演習Ⅰでは、促されなければ発言できなかったが、促されずとも自ら意見を言え
るようになった者や(資料【5-2】IVカズキ140127)、教員の指導を通じて、ただ賛同す るだけでなく批判的に考えて発言していくことが出来るようになった学生もいる(資料【5
-3】IVヒナタ140116/【5-4】IVセイジ)。
そして演習Ⅱ,Ⅲを通じて、演習Ⅰの学習目標として安岡が期待した「自分の意見を全 体の意見につなげていく」議論のスキルの習得が進む。ショウタは自分が良いと思って出 した意見が教員に通らなかったことをきっかけに、他の人の意見を聞きながらさらに良い 意見を作ろうという姿勢に変わり(資料【5-5】IVショウタ140131)、ユウマは目標達成 のために相手の話しに肉付けをするような意見の出し方に変わった(資料【5-6】IVユウ
マ140127)。また自分自身による自律的な気づきや教員の指摘によるものではなく、同じ
グループの仲間に指摘され、相手の話をしっかり聞いた上で話すようになった学生もいる
(資料【5-7】IVハルナ140206)。
さらに自分の意見をただ言うだけでなく、強く推し出すという意識に変わっていってい