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日本諸方言の音便の実態

第3章 動詞の音便の地理的・歴史的分布

2. 日本諸方言の音便の実態

まず、日本諸方言に現れる音便の実態を把握するため、

GAJ の過去形を示した地図を参照した。14 枚ある過去形 の地図のうち、各行の動詞の地図を 1 枚ずつ、計 7 枚選 んだ。(カ行 96 図「書いた」)、ガ行(97 図「研いだ」)、

サ行(92 図「出した」)、タ行(95 図「立った」)、ハ行

(105 図「買った」)、バ行(102 図「飛んだ」)、マ行(103 図「飲んだ」)について、それぞれの語が各地でどのよう な形態をとるか確認した。同じ行で複数の地図がある場 合の地図の選び方は、例えば、サ行動詞の過去形を示す 地図は 92 図「出した」・93 図「任した」・98 図「貸した」

の 3 枚があるが、「任した」「貸した」は、それぞれ「任 せた」「貸せた」との分布を示すことに焦点がある地図で あるため、音便だけを観察できる「出した」の地図を選 択するというものである。なお、ナ行動詞は GAJ では調 査されておらず、ラ行動詞には「蹴った」が存在するが、

四段動詞として一般化するのは江戸時代以降であること、

また「蹴る」以外の語形で現れることが多いことから、

今回は考察から除外している。現代共通語に現れる形式 は各語の後に括弧で示した通りであり、サ行のみ非音便 形で現れ、その他は音便形で現れる。

上記 7 枚の地図における音便形・非音便形の現れ方を 表 2 のように整理し、1 枚の地図にまとめたものが図1 である。ただし、共通語形と方言形の併用をおこなう地 域が非常に多く、全ての語形を地図に反映させると地図 が煩雑になるため、共通語形との併用などで複数回答が ある地点は、現代共通語に対してより有標な形を採用

(「ダシタ」と「ダイタ」の併用ならば、音便形の「ダイ 表 2 図1のパターン一覧

パターン 買 出 飲 飛 研 立 書 1 ○ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ 2 ○ ◎ ○ ○ ◎ ○ ○ 3 ○ ◎ ○ ○ × ○ ○ 4 ○ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ 5 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ 6 ○ × ○ ○ ○ △ ○ 7 ○ × ○ ○ ◎ ○ ○ 8 ○ × ○ ○ ◎ △ ○ 9 ○ × ○ ○ △ ○ ○ 10 ○ × ◎ ○ ○ ○ ○ 11 ○ × ◎ ○ ◎ ○ ○ 12 ○ × ◎ ◎ ◎ ○ ○ 13 ○ × △ ○ ○ ○ ○ 14 ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ 15 ◎ ◎ ○ ○ ○ △ ○ 16 ◎ ◎ ○ ○ ◎ ○ ○ 17 ◎ ◎ ○ ◎ ○ ○ ○ 18 ◎ ◎ ○ △ ○ ○ ○ 19 ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ 20 ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ 21 ◎ × ○ ○ ○ ○ ○ 22 ◎ × ○ ○ ○ △ ○ 23 ◎ × ○ ○ △ ○ ○ 24 ◎ × ◎ ○ ○ ○ ○ 25 ◎ × ◎ ○ ◎ ○ ○ 26 ◎ × ◎ ◎ ○ ○ ○ 27 ◎ × ◎ ◎ ○ △ ○ 28 ◎ × ◎ × × × × 30 ◎ × × × × ○ △ 31 △ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ 32 △ × ○ ○ ○ ○ ○ 33 △ × ◎ × × × × 34 △ × ◎ △ × × × 35 △ × × × × × × 36 △ × × × △ × × 37 △ × × × △ × △ 38 △ × × × △ △ × 39 △ × × × △ △ △ 40 △ × × △ × × × 41 △ × × △ × △ × 42 △ × × △ △ × × 43 △ × △ △ △ △ △

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図 1 動詞の音便パターン

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タ」を採用)し、各地点 1 回答を地図に反映させている。GAJ の 7 枚の地図に現れる語形を整 理すると表 2 のようになり、ここで示したパターンによって図1の各記号を当てている。表 2・

表 3 の「買った」から「書いた」までの各語は GAJ の地図の順序とは入れ替えて示しているが、

これは音便現象の分布を整理する便宜を図ったためである。例えば、一番左側に挙げた「買っ た」という語は、GAJ105 図を見ると、促音便形「カッタ」とウ音便形「コータ」の対立が典 型的な東西分布を成しており、一番右側に挙げた「書いた」は、GAJ96 図でほぼ全国的にイ音 便形「カイタ」が分布しているものである。このように表 2・表 3 の語の順番は、右側にいく ほど、音便のあり方が全国的に同じ語であり、限られた地域でそれとは異なる形態が現れてい るということになる。

また、表 2 の記号は、現代共通語を基準として付しており、

○…音便形①(現代共通語に現れる音便形)

◎…音便形②(方言にのみ現れる音便形)

△…その他(調査語と方言形式の対応が異なるもの)

×…非音便形

をそれぞれ示している。現代共通語を基準としたのは、音便の種類が違うものを統一的に見よ うとするため、イ音便・ウ音便と整理しても動詞の音便を横断的に扱うことにはならないから である。非音便・共通語の音便・方言の音便と整理することで、動詞の音便を横断的に扱える ようになる。

このように、異なる語の音便のあり方を総合して整理していくと、全部で 43 パターンの現 れ方が存在した。各記号が表わすそれぞれの行ごとの語形については表 3 に挙げる。表 3 には 非音便形、音便形①、音便形②、その他の具体的な語形を挙げている。

なお、琉球方言については、共時的な過去形の形態で音便・非音便を判別した。判断不能な 場合はその他に分類している。例えば「買った」で琉球に一番多く分布している「kootaɴ」は 語幹が koot なので音便②、「書いた」で琉球に一番多く分布している「kacjaɴ」は語幹が kac であり判別不能なのでその他に分類したということである。動詞の過去形の形態や出自が本土

GAJ 105買った 92出した 103飲んだ 102飛んだ 97研いだ 101立った 96書いた

活用する行 ハ行 サ行 マ行 バ行 ガ行 タ行 カ行

非音便 カヒタ ダシタ ノミタ トビタ トギタ タチタ カキタ

音便① カッタ ― ノンダ トンダ トイダ タッタ カイタ

音便② コータ ダイタ ノーダ トーダ トンダ ― ―

その他 トータ等 ― クロータ等 アガッタ等 ミガイタ等 アガッタ等 カカラ等 表 3 活用する行と音便

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方言とは異なることを考慮すると、一様に判断することはできないが、今回は音便現象の概略 を掴むことを目的としているため、このような扱いとした。