インドビジネスにおいて様々な課題が出現しているが、インド市場のニーズに注力して取り 組む企業の将来が明るいことが事例研究を通してわかった。マルチ・スズキは、進出当時の既 存のインド市場にある車より低価格で高品質を提供した。それはボリュームゾーンのニーズに 当てはまり、大規模なマーケットの創出に成功した。さらに、現地企業のマルチが全国をカバ ーできるような販売網を持っていたため、低価格の車を一気に広いインドの隅々まで広げ た。
マルチ・スズキは、全国に広がる販売網を車の販売目的に限らず、地域ごとの顧客情報の取集 にも使用した。常に、顧客の消費行動を観察し、次々に新車を開発できた背景には、日本本社
からの技術的なバックアップもあった。開発拠点をインドに設け 、毎年100人のエンジニアを
日本で研修させた。現地の文化などを踏まえ 、デザインを変えただけではなく、技術的にもイ ンド独自の新技術にまで仕上げている。つまり、マルチ・スズキはコスト低減を超えるインパ クトを持つ現地化を進めることに成功した 。それは、プレミアムブランドにつながって、46%
以上の市場シェアをリードすることに繋がった。このように、低価格でありながら顧客のニー ズを最大限に満たし、企業として競争優位になり得る構造のことを「コスト・イノベーション ケイパビリティ(Cost Innovation Capability)」としておきたい。
その一方、進出当時のトヨタは、グローバルスタンダード(組織やサプライチェーン)を考 え、現地ニーズ(消費者行動)を後回しにしたことで、現地化(ボリュームゾーンニーズ)を 図った新型エティオスの導入前までは低迷したことも明らかになった。インドの乗用車市場は、
小売価格ベースで50 万~100 万円台を中心とする小型車(車長 4 メートル未満、かつエンジ
ン容量1400cc 以下)が乗用車市場全体の約 8 割を占めるのに、トヨタは、グローバルスタン
ダードにこだわった。インド市場においても世界同一品質の高い車を生産・販売し続けた結果
2009年までのシェアが低かった。インドの物価水準を考えると、 一部富裕層以外には安価な小
型車の人気が高く各社がしのぎを削っているが、 トヨタは IMV 車のセダン・タイプ 「エティ オス」 を 2010 年末から投入するまで高価格の車しかライナップされてなかった。 顧客の消費
行動を正確にとらえず、ボリュームゾーンのアプローチに失敗した結果である。2010 年以降、
コンパクトカーのエティオスがボリュームゾーンの市場のニーズをとらえたから、2015年時点
でのトヨタのインド市場シェアは5%にまで伸びた。
韓国の LGは、現地ニーズに細かく対応し、巨額の広告宣伝費を投じることによってプレミ
アムブランドの確立に成功した。現地ニーズ対応としては、LG の製品戦略の中核はなんとい
っても製品現地化である。LG は、インド進出直後から R&D 組織を設け、デザインや機能の 修正(Modification)を積極的に進めることによって、製品の差別化を図った。差別化の対象とな ったのは、主に先駆けてインド市場に進出していた日系企業であった。当時、世界的に標準化 されたモデル、その中でも日本国内市場では売れなくなっ た旧型のモデルを中心に販売してい
た日系企業を意識した LG は、本国である韓国で開発された最新モデルを、さらにインドの事
情に適合した製品に修正して販売したのである。この戦略は、今では日系企業を含めた多くの
後発企業にベンチマークされるようになっている。LG の現地化は、日本企業がターゲットと
した富裕層市場と違って、ボリュームゾーンをターゲットすることで成功した。現地に伝わら
ない日本企業の高価格のものより、現地仕様に新技術を適用した LGの製品が好まれるように
なった。つまり、コスト低減を超えるインパクトを持つ、コスト・イノベーションケイパビリ ティの構築に成功した。
本田技研のインド市場ターゲットはボリュームゾーンと低所得層の間にあり、本田は多くの
顧客の取り込みに成功した。その層に手の届く価格を設定できた理由は、部品供給の 100%現
地調達に成功したからである。日本の強いブランド・イメージを現地のインド人に浸透させ、
その上での手頃な価格が戦略的に成功したといえる。本田の基本設計は世界共通としているた
め、耐久性や燃費等品質レベルが高いが、現地調達率100% にすることで、地場企業と同等レ
ベルでの価格設定が可能となった。このように高品質の商品を現地に合った価格で売ることに 成功している。これも、コスト低減を超えるインパクトを持つ、コスト・イノベーションケイ パビリティの構築に成功した例と言える。
このようなインド市場において、これまでのコスト低減を超えるインパクトを持つ「コスト・
イノベーションケイパビリティ」の構築に成功することで 、競争力をさらに向上させることが 分かった。コスト・イノベーションケイパビリティ構築の背景には、企業の戦略的なアプロー チが決定的な要因であった。下位層(ボリュームゾーン、BOP)をターゲットに取り組んだ企 業が見事コスト・イノベーションケイパビリティの構築に成功しているが、トヨタのように下
位層に取り組まない場合、成果が出せないことも解明した。コスト・イノベーションケイパビ リティの構築に成功した企業の成果も上がることが、事例を通じて明らかになった。
つまり、「下位層にアプローチをすることで、コスト・イノベーションケイパビリティの構築
に成功し、コスト・イノベーションケイパビリティの構築は、成果を向上させる」というのが、
本章の結論である。
1.R.C Bhargawa 氏は、インドの自動車メーカーのマルチ・スズキ・インディアの会長である。彼は、
アラハバード大学で数学修士取得後、インド中央府に任官した。エネルギー省局長、バーラット 重電機公社(BHEL)理事、インド政府主導で設立された自動車会社マルチの役員・社長など を務めたのち退社し、マルチにスズキ自動車の資本・技術提供が 始まったのち再入社した。イン ドでマルチ・スズキがトップシェアを獲得したことに大きく貢献した同氏は、インドを代表する 親日家の一人である。主な著書に『スズキのインド戦略「日本式経営」でトップに立った奇跡の ビジネス戦略』などがある。
2.スズキ株式会社は、マニュアルトランスミッションの利点とオートマチックトランスミッション の利点を両立させた新トランスミッション「 Auto Gear Shift(オートギヤシフト)」を開発した。
こ れ は イ ン ド 市 場 で 発 売 さ れ る 新 型 車 に 記 載 し て 販 売 す る 方 針 を 固 め た 。 http://www.suzuki.co.jp/release/d/2013/0114/
3. 97年進出した LG は、1次ラッシューの中ではもっとも後発企業であった。日本企業(先発企 業)や韓国の中でも SAMSUNG のようなブランドを確立した企業をインド市場進出を果たした際、
LG は技術的にも、ブランドの面から考えても比較的に優位ではなかった。
4. 東洋経済 の「イン ド合 弁解消で見 たホンダ 2輪 戦略の凄み 」におい て、 ホンダの現 地調達率 は 100%と記載している。 http://toyokeizai.net/articles/-/5765?page=2
5.東洋経済の「インド合弁解消で見たホンダ2輪戦略の凄み」において、ホンダの合弁解消につい ても記載している。http://toyokeizai.net/articles/-/5765?page=2
6. インド市場におけるユニリーバのポートフォリオ「 Aviance Beauty Solutions、Axe aftershaving lotion、LEVER Ayush Therapy ayurvedic health care and personal care products 、Breeze beauty soap、Close Up toothpaste、 Dove bar & skin cleansing, lotions & Creams、Denim shaving products、Fair & Lovely - fairness products、Hamam、Lifebuoy soaps and handwash range、
Rexona soap、 Vaseline petroleum jelly, skin care lotions Aviance Beauty Solutions 、Lakme beauty products and salons、Elle 18 beauty products Axe deodorant、Clear anti-dandruff hair products 、 Clinic Plus shampoo and oil 、 Dove Hair-care Range & anti-perspirant deodorants、Sunsilk shampoo、Sure anti-perspirant など」