一 仕 事 と 時 間 の 主 人 公 づ く り 一
1.はじめに 人 の 使 い 方 は こ の ま ま で い い の か ?
いま、企業の人事担当者の聞から、これまでの人事管理方式に対する疑問の声 があがっている。「現在の方式のままで、従業員のやる気を維持し続けることは可 能だろうか」、「従業員の能力をフルに活用し、会社の発展につなげていくにはこ れまでの方式を見直す必要があるのではないか」など、人事担当者の自信喪失が 起こっている。第田部では、日本企業がこれから取るべき人事管理制度について 考える。まず、第
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章で、日本企業の人事管理制度が抱える問題点を整理し、そ の解決の方向性を考える。人事管理改革の基本は、自己選択・自己責任の貫徹に ある。それは、個人の意志の尊重と表現することもできる。第7章では、個人が 自らの価値基準に従って判断できるようになるためには、仕事・家庭・地域社会 のバランスを取り戻す必要があることを論じる。そして、第8
章で、時間の主人 公をつくるためには人事評価制度の改革が不可欠であることを検討する。評価制 度は、すべての人事管理制度の基本である。第田部の結びとして、評価制度のあ るべき姿を考える。これまでの人事管理
これまでの人事管理とは、少なくともある一定年齢
( 4 0
歳くらい)までは、勤 続年数や学歴、性といった外から観察可能な属性によって管理する方式であった。もちろん、毎年行われる人事考課によって個人の能力や業績の差を見る努力はな されてきた。しかし、人事考課の結果だけで昇進昇格を決めることはまずなかっ た。常に、年齢や勤続年数によるバランスを考慮して人事が行われてきた。
これまでの人事管理のもうひとつの特徴は、「管理職トーナメントによる動機づ
け」であった。大卒で入社したからにはせめて課長、できれば部長、運が良けれ ば取締役まで昇進したい、という「管理職志向j をうまく利用して、従業員のや る気を引き出してきた。昇進競争で管理職になれば勝者、なれなければ敗者と色 分けし、人々を競争に駆り立てた。
企業の業績が良〈、組織が順調に拡大していたときは、敗者よりも勝者が圧倒 的に多かったので問題は起こらなかった。まじめに働けば誰でも勝者になれたか らである。敗者になるのは、誰がみても能力のない人か、よほど運の悪い例外的 な人たちだった。しかし、オイルショック以降、企業の成長が止まり管理職ポス トが増えなくなると、普通の人も「敗者」にならざるを得なくなった。こんなに 一生懸命働いても課長にさえなれないのか一人々は昇進競争に疲れを覚えるよう になった。
この事態を憂慮した経営者は、「専門職制度」を作って、人々の注意を管理職トー ナメントからそらそうとした
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管理職になれなかったからといってやる気を失わ ないで、下さい。会社はあなたの持っている多様な能力を活かす場です。管理職以 外の仕事であなたの能力を発揮して下さい」。このような経営者の呼びかけは、従 業員の耳に空虚な響きしか残さなかった。昇進競争に敗れた者が専門職になると いう意識がある以上、専門職制度がうまく機能しないのは当然であった。人事担当者の構成力回復のために
管理職への昇進が仕事へのモティベーションを高める有効な手段足り得なく なったいま、従業員のやる気を引き出すにはどうすればよいのか? 人事担当者 が求めているのは、この間いに対する答えである。
いま、日本全国でさまざまな「新しい人事制度」が生まれている。賃金管理で は年俸制、労働時間ではフリータイム制(コアタイムなしのフレックスタイム) やリフレッシュ休暇制度、働く場所ではリゾートオフィスやサテライト・オフィ
スなど数え上げればきりがない。人事管理関係の雑誌には、これでもかこれでも かと、「新しい制度」が紹介きれる。それらはすべて、仕事へのモティベーション をいかに高めるかという点と深〈関わっている。人事担当者のまわりには、やる 気を出させるためのノウハウがあふれでいる。にもかかわらず彼らは、どうした
らよいかわからないと言う。それはなぜか。
ひとことでいえば、自分の会社に最もふさわしい制度の組み合わせが見えてこ ないからである。複数の仕掛けを用意しなければならないことはわかっていても、
どの仕掛けをどの層にどう使うかという点になると明確な方針が打ち出せない。
身の回りに氾濫する材料を取捨選択して、人事管理体系として組み立てていく構 成力にいまひとつ自信が持てないのである。何が問題の核心で、今後はどの方向 に進んでいくかを見きわめられないでいるとも言えよう。
そこで、この章では、これからの人事管理が進むべき方向を私なりに提示し、
人事担当者の構成力回復の一助としたい。そのために、まず、人材をとりまく状 況を分析する。以前と比べて何が変わったのか、そして今後は何が変わろうとし ているのかを、個人、社会、企業の
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つの側面から考える。次にその分析をふま えて、現在とられている諸施策を評価する。いま持てはやされている制度も、長 期の視点に立つと時代の流れに逆行しているかもしれない。何が本当に必要なの かを見きわめる。そして最後に、これからの人事管理方式の処方筆を提示する。2 .
人材をとりまく3
つ の 変 化 (1)個人の意識が変わった!仕事以外の生活を大切にしたい
1990年から91年にかけての「超売り手市場
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の中で、企業の採用担当者は、面 接に来た学生たちの質問攻撃にさらされた。彼らの質問は、以前では考えられな いような点にまで及んだ。労働時間関係では、年間総実労働時間や年間休日日数、場合によっては有給休暇の消化率までたずねてきた。賃金関係では、初任給だけ でなく、 30歳、 40歳のモデル賃金はいくらかとい7質問まで飛ぴ出した。福利厚 生関係では、保養所の場所と数、独身寮や社宅の状況まで質問された。
採用担当者にとっては「前代未聞
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の経験でも、仕事を探すという原点に立っ て考えれば、学生たちの質問はきわめてまっとうなものであった。彼らは、長期 に勤めることを前提として会社を探す。若者の転職が増加したとはいえ、すぐに やめるつもりで就職する学生はほとんどいない。自分がこれから10年、 20年、 ひょっとしたら30年以上勤めるかもしれない会社を選ぶとき、さまざまな条件に 関心を示すのは当然である。むしろ、詳しい労働条件をたずねることなく就職先を決めてきたことの方が異常だったと言えよう。
学生たちの行動は、仕事以外の生活を大切にしたいという、個人の意識の変化 を端的に表している。人に与えられた時間は有限である。各人が持っている
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年 の総時聞は8
,7 6 0
時間であり、そこから生活必要時間を引くと、残りは約5
,0 0 0
時 間になる。これを仕事と個人生活にどフ配分するかという議論が、普通に受け入 れられるようになった。以前は、会社が繁栄して初めて個人生活が豊かになるの だから、何にもまして仕事を優先すべきだときれ、時間配分などという議論が成 立する余地はなかった。会社を選択する場合、会社がどこにあるかという点も重要な要素になっている。
通勤に往復3時間も 4時間もかかるようでは、たとえ年間労働時聞が短くても考 慮の対象外であるo また、自分の趣味に都合のよい場所にあるからこの会社を選 んだという人も増えている。たとえば、滋賀県の琵琶湖周辺に本社を置く企業に は、マリンスポーツを愛好する他府県出身者が集まってくる。まず自分か望む個 人生活の形があり、それを実現できる労働条件を提示する企業に就職しようとす るのである。
会社プランドよりも仕事内容
もうひとつの個人の意識の変化として、会社の名前ではなく仕事内容で就職先 を決める傾向が強まっていることがあげられる。「いい会社だと思って就職したけ れど、いつまでたっても自分が希望する仕事を担当させてもらえない。こんなこ となら友人から話のあった
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社に移ることを真剣に考えようか。A
社は、いまの 会社に比べると知名度は低いが、自分が本当にやりたい仕事を任せてもらえそうだし…
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。こうして、彼はA
社へ移っていく。会社ブランドは、人を集めるには絶大な効果を持つが、人を引き留める力はあ まりない。この会社にいてもダメだと判断すれば、最近の若年層はさっさと別の 会社へ移っていく。優秀な人材ほどこの傾向が強い。彼らの定着率を高めるには、
会社がどれだけおもしろい仕事を提供できるかである。
このような意識変化が起こった理由として、次の