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中高年の職業能力開発と転職

ドキュメント内 日本企業の人事管理改革 (ページ 121-135)

1.はじめに 一 職 業 能 力 と 仕 事 の 関 係

前章では、中高年層を最後まで戦力として使っていくために、企業はどのよう な能力開発を行うべきかを検討した。この章では、視点を従業員に移し、中高年 になっても第一線で働くために、個人はどのような能力を身につける必要がある かを考える。

仕事と能力のミスマッチ

人は自分の能力を発揮できる仕事をしているときには満足感を感じ、意欲を 持って職務に取り組むことができる。永年勤めてきた企業で、自らの能力を十分 活かせる仕事についていれば問題はないが、中高年になると、長期聞かかつて形 成してきた能力に見合わない仕事を与えられることが多くなる。最初は、「そのう ちにそれなりの仕事にかわれるだろう」と期待して、黙々と仕事に取り組む。し かし、能力を活かせるような仕事に配置される可能性が見えなくなってくると、

仕事に対する意欲を失い、転職を考えるようになる。

中高年は、家族やその他のしがらみをたくさん背負っている場合が多いので、

仕事がおもしろくないことが、直ちに転職行動にはつながらない。「世間体や生活 のことを考えると、いまの会社に我慢して勤めた方がいいかもしれない。でも、

いまのままでは、自分の人生の貴重な時間を浪費してしまうことになるo きて、

どうしたものか?

J

このように自問自答しで悩んでいる中高年は多い。

自分の能力が活かされていないと感じ、いまの会社では先行き希望が持てない 状況になったとき、給与面で大きな犠牲を払わずに転職することができれば、そ れに越したことはない。円滑に転職するには、他社に買ってもらえる能力を身に つけていることが条件になる。この章では、現代総合研究集団が実施した「役職 者の雇用についてのアンケート調査

J

(以下、「転職調査」と略称)1)の結果をもと に、中高年はどのようなときに転職を考え、どのような能力を身につけておくこ

とが重要だと感じているかを明らかにしこれからの中高年の能力開発のあり方 を検討する。

職業能力形成のしくみ

労働者が職業能力を身につける方法には、大きく分けて

2

つある。ひとつは、

雇用されている企業が主体となって行う訓練であり、他のひとつは、労働者本人 が自分の意志で行う学習である。前者は、さらに、実地訓練

( O ] T )

と座学

( O f f

‑]T)に分けられる。労働者個人が自分で行う訓練は、一般に自己啓発と呼ばれる ものであり、通常は個人が費用を負担する。ただ、企業によっては、仕事に直接 関係しない自己啓発でも、費用の一部を負担する制度を持っているところもあ

2)

職業能力形成の第一歩は、企業に雇用される前の学校教育である。どのような 仕事に就くにしても、最低限知っておかなければならないことがある。それを身 につける場が、学校教育である。企業の採用活動において学歴を考慮するのは、

入社後の教育訓練を効果的に行うためである。どのレベルの学校教育を受けたか によって、新入社員のおおよその基礎知識を知ることができる。最近では、高校、

短大、大学といった正規の学校教育を終わった後に、専門学校や各種学校に行く 人が増えている。彼らは、より実践的な知識を身につけることを目的にして、特 別な学校に通う。

どんなに立派な学校教育を受けたとしても、それだけでは実際の企業活動で力 を発揮することはできない。医師や弁護士などの国家資格を必要とする職業にお いても、資格を取っただけでは一人前とは言えない。医師であれば、実際に多く の症例にあたり、経験を積まなければならない。弁護士も同様でPある。学校を卒 業してすぐに企業に入った新入社員は、上司や先輩から実地に指導を受けながら、

少しずつ仕事を覚えていく。新入社員に対しては新入社員研修が行われるが、そ れは会社で働く基本マナーを教える場であって、職務遂行能力の養成に直接結び っくものではない。働くことこそが訓練であり、日々の仕事を通して職業能力が 養成きれていく。

人が職業能力を身につける際に、最も大きな位置を占めているのが

O]T

であ る。企業が用意する

O f f ‑ ] T

は、昇進や昇格の節目に短期間行われるのが普通で、

あり、働いている時間に比べるとほんのわずかしかない。また、仕事が終わった 後や休日を使って取り組まれる自己啓発も、その実践性と投入時間は

O]T

と比 べられるようなものではない。

このように考えてくると、仕事をすることこそが最大の能力形成であり、毎日 どのような仕事をしているかが、その人の職業能力を決めることになる。

Off‑]T

や自己啓発も能力形成に影響を与えるが、その割合は微々たるものである。勤続 10年の人は、その10年間にどのような仕事に就いてきたのかで能力の内容が決ま

り、

2 0

年の人は

2 0

年間の仕事が職業能力を決める。どのような仕事をするかが、

職業能力形成において決定的に重要である。

職業能力と職務の関係

人は、職業能力の向上とともにより難しい仕事を担当するようになり、難しい 仕事を遂行すると職業能力が高まっていく。適度に難しい仕事を担当することは、

その人の能力形成に大きく貢献する。身につけた能力と担当職務との関係は、そ の人のやる気や仕事への満足感に影響を与える。それを、簡単にまとめたのが表

5‑1

である。

表5‑1 職業能力と担当職務の関係がもたらす影響

A.職業能力=担当職務→能力に見合った仕事に就いており、やりがいを感じている B.職業能力>担当職務→仕事に物足りなきを感じ、能力が活かされていないと感じる

c .

職業能カ<担当職務→1.差が大きくなければ、能力向上につながる

2.差が大きすぎると、健康に悪影響。職務を完遂できなければ、

Bタイプの仕事に異動になる可能性が高い。

能力に見合った仕事をしているとき (A) には充実感があり、仕事への満足感 も高い。また、能力よりも少しレベルの高い仕事をしているとき

( C

の1)も、

やる気は高まると考えられる。他方、能力よりも低い仕事を与えられると (B)、

物足りなきを感じ、仕事への不満が出てくる。能力よりもはるかにレベルの高い 仕事を与えられたとき

(C

2

)も、決していい結果は期待できない。その人の 体や精神に負担がかかりすぎたり、自信を失わせたりするので、能力向上にはつ ながらない場合が多い。また、与えられた仕事が完遂できないとなれば、別の仕 事に移きれることになるが、その場合、

B

タイプになる可能性が高い。従業員の 職業能力の向上を考えたとき、

A

タイプか

C‑1

タイプの仕事の与え方をするの

が「もっともよいことになる。

わが国の企業における職業能力と担当職務の対応関係を見ていると、従業員の 年齢層ごとに大まかな特徴を指摘することができる。若年層では

C‑l

タイプが 主流であり、中堅層では

A

タイプ、中高年になると

B

タイプの割合が多くなる。

C‑2

タイプはどの年代層にも発生し得るが、中堅層にやや多いと考えられる。

個人の職業能力の向上を考えたとき、最も理想的な形は、

A

タイプが主となって、

時々

C‑l

タイプが登場することであろう。現在のわが国企業では、若年層と中 堅層がこの組み合わせに近い形で仕事の配分を受けていると考えられる。彼らは、

日々の仕事を通してより高い能力を身につけていくため、中高年になったときの 能力は相当高いはずでRある。問題は、高い能力を持っている中高年者の数に比べ て、仕事の数が少ないことである。また、形成してきた能力の陳腐化も問題である。

高い能力を持ちながら、いまの企業ではそれを活かすことができないとなると、

転職を考えることになる。そのとき、能力の陳腐化が起こっていたのでは、話に ならない。一部の企業特殊的な能力を除いて、職業能力は、他社でも通じるとい う市場性を持って初めて価値が出てくる。どのような能力を身につけ、身につけ た能力をどう維持発展きせていくかが重要で、あるo

この章で利用する「転職調査」には、約350名の転職経験者が回答している。彼 らが転職にあたってどのようなことを考え、どのような能力が価値を持ったかを 知ることは、これからの中高年の職業能力開発を考えていく上で参考になる。以 下、転職者の職業意識、価値のある職業能力、これからの能力開発の方向につい て検討する。

2 .

転 職 者 の 職 業 意 識

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歳以降の転職者に注目

人は誰も、自分の能力を活かして仕事をしたいと考えている。いま勤めている 会社でこの希望が実現できれば問題ないが、時として、能力を十分に発揮できな い状態に陥ることがある。少し待てば自分にふさわしい仕事が回ってくるのなら 待っていればよいが、将来の見通しが立たなくなったとき、どうするか。能力発 揮の面では不満でも、その他の条件が良いので、その会社で働き続けるというの

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