1.はじめに この章の課題
第
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章において、長期雇用慣行が従業員の労働意欲に影響を与え、ひいては企 業の競争力にも関係することを検討した。日本企業が正社員を雇う場合、1‑2
年でやめさせるのではなく、1 0
年以上の長期にわたる雇用を前提としている。長 期で雇用するからこそ、企業は従業員の教育訓練に積極的に投資する。教育訓練 は、従業員の能力を向上させ、企業の生産性=競争力を高める効果をもっ。従業 員側も、その企業に長〈勤めるつもりで雇われるので、企業の成功と自分自身の 経済的充実を同一線上で考え、企業のために自分自身の時間を費やすことを厭わ ない。長期雇用慣行は、日本企業の競争力を支える重要な条件のひとつになって いるのである。企業側も従業員側も長期雇用を前提にしていても、さまざまな事情でその企業 内では雇用を維持できなくなることがある。そのょっなとき、企業グループで雇 用を維持することができれば、実質的に長期雇用慣行を守ることができる。企業 グループを形成している場合、中心となる企業には労働組合が組織されている。
第
1
章において、雇用削減に伴う不満が労働組合に向いていることを指摘した。企業グループを単位とした人事に対して、労働組合はどの程度発言しているのだ ろうか。事業所の縮小や閉鎖に対して労働組合は大きな発言力を持たないとして も、組合員が他企業に出向して行く場合には、少なくとも労働条件面で、不利にな らないような手当をしているはずである。この章では、企業グループを単位とし た雇用維持の実態と企業グループ人事における労働組合の役割を検討する。
労働組合に関わる
3
つの視点1 9 8 0
年代初め頃から、企業グループを単位として人の配置を考える企業が増加 してきた。一つの企業内だけではなく、資本や取引の上で密接な関係にある企業 群を単位として、人の配置を考えようとしている。経営資源の重要な一要素である「ヒトjが、従来の企業という枠を超えて移動する状況が一般的になってきた。
企業グループによる人の配置は、これまで以上に人材の有効活用を可能にする。
ある企業で必要なくなった技能や技術でも、グループ内の他の企業ではまだ十分 役立つといった場合が考えられるからである。企業グループ人事は、「雇用を守るj
という点で、企業にとっても労働者にとっても有効な方法である。
しかし、グループ内の異動によって、労働条件が異なる企業に配属される場合 がある。同一企業グループとはいえ、労働条件が同じであるとは限らない。所定 労働時間数や年間休日日数は企業ごとに少しずつ違7。労働条件が向上する場合 は問題ないが、低下する場合、その調整をどう行うかをはっきりさせておく必要 がある。ここで、労働組合の役割が重要になる。
労働組合の役割は、単に労働条件の低下に日を光らせるだけではない。個々の 労働者のキャリア形成を守るという視点も必要で、ある。関連企業に出向すること が、その労働者の生涯キャリアにとってどういう意味を持つのかという観点から、
企業グループ人事に取り組まなければならない。
そこで、この章では、企業グループ人事における労働組合の役割を次の
3
つの 視点から考える。(ア)労働条件の低下を労働組合はどのように守っているのか。
子会社に出向する場合、年間労働時間や休日日数といった基本的な労働条件 が低下する可能性がある。経営側の都合で異動させられるのであるから、組合 として何らかの措置を要求しなければならない。出向にともなう労働条件の低 下について、組合が経営側とどこまで交渉しているかを明らかにする。
(イ)企業グループとしての労働条件の向上
分社や新会社設立という形で組合員の一部が子会社に移っていったり、下請 けや関係会社に出向したりするケースが増えている。このような企業の枠を越 えた異動に対処する方法として、グループ企業全体の組織化という方法がある。
労働組合の組織率低下が著しい現在、グループ企業の組織化は重要で、ある。中 核となる企業の労働組合が、グループ企業の組織化にどう取り組んでいるかと
いう点を検討する。
(効キャリア形成の視点
教育訓練を目的として、子会社に出向させる場合がある。本社の巨大な組織 の中にいると、ある期間に経験できる仕事は、企業経営のごく一部でしかない。
しかし、規模の小さな会社だと、ひとりであらゆる業務に対応することを要求 きれる。これが、本人の人材形成になるというのである。
子会社で担当する仕事は多様であり、企業経営全体を経験するよい機会であ ることは事実だが、すべての出向が、その従業員自身の生涯キャリアにとって プラスになるとは限らない。本社で取り組んで、きた業務をあと数年続ける方が、
本人のキャリア形成上、より重要な場合もあり得る。労働組合は、組合員のキャ リア形成という視点から、出向の適切さをチェックする役割を担っていると考 えられる。この点について、組合はどこまで取り組んで、いるかを明らかにする。
この章の構成
企業グループ人事における労働組合の役割を検討する準備として、次節で企業 グループ人事に関するこれまでの研究を概観し、第
3
節で、いくつかの統計を使っ て企業グループ人事の現状を整理する。そして、第4
節において、ある電機メー カーの労働組合でのききとり調査をもとに、企業グループ人事における労働組合 の役割を考える。2 .
これまでの研究 (1)雇用職業総合研究所の調査企業グループがどうして形成されるのか、企業グループ内の人材配置はどのよ うに行われているのかといった点については、すでにいくつかの研究がなされて いる。前者は、わが国の財閥に関する研究に端を発し、あらためて紹介する必要
もないほど数多くの蓄積がある。
他方、後者の企業グループ内人事については、雇用職業総合研究所(以下、「職 研」と略称)が
1 9 8 0
年代半ばにおこなった3
つの実態調査1)と、それを分析した永 野の一連の研究2)がある。これらの調査や研究は、企業グループ人事の実態を明ら かにした初めての業績であり、豊富な情報を提供してくれる。ただ、グループ人 事における労働組合の役割については、後に詳しく述べるように、ほとんどふれ られていない。ここでは、後の考察との関連で、親会社と系列会社聞の人事交流の現状を端的にまとめてある図
2‑1
を紹介するにとどめる。この図は、移動元企業を対象に
1 9 8 6
年1 0
月に実施した調査3)をもとに描かれて いる。図2‑1
から読み取れる点を簡単にまとめると、次のようになる。(ア)親会社は、平均従業員数
8
,3 0 3
人の大企業で、関係会社を2 2
社持っている。(イ)親会社の従業員のうち出向している者の割合は、全体では
7%
、管理職に限ると17%
である。(効関係会社には平均
2 3 0
人が働き、そのうち親会社からの出向者の割合は10.5%
、 転籍者の割合は4.8%
である。この調査に回答した企業は、従業員数
8
,0 0 0
人を越す巨大企業であり、2 0
以上の 関連会社と人事交流をおこなっていることがわかる。この図は、すでに述べたよ うに、1 9 8 0
年代半ばの状況を表すものであり、この調査からすでに1 0
年が経過し ている。この間、企業グループを単位とした人材配置の傾向は、確実に強まって図2‑1 親会社と系列会社聞の人事交流の現状
親会社からの 親会社からの転職者 出向者10.5% 4.8%
[
・管理職の・50役
才未満が…
27%J
I I│・r
・管理職の50才未満が…
13%│
I │70% J I 65% I
主~丑
(8,303人 平 均 年 齢36才) 従業員総数対1980年比4.6%増
盟盛会主主(22社) (230人 平 均 年 齢37才)
対1980年比6.7%増 関係会社から外部 への出向者6 %
(孫会社への 出向者は4%) ( 親 会 … の lに
直盤童会埜金.2.(平均2.5社)
延370人雇用 (i主)①:在籍役員に占める出向中の役員の割合である。管理職も同じ。
②:在籍プロパ一役員に占める出向役員の割合である。管理職も同じ。
[出所]雇用職業総合研究所 [1986] p.19。
いる。最近の状況は、この図にあらわされた以上にグループ企業聞の結びつきが 強くなっていると予想されるo
(2)労働組合の役割
職研の
3
つの調査は、企業グループ人事に労働組合がどうかかわっているかを まったく調べていない。企業グループ人事と労働組合の役割について論じている の は 、 永 野 口989Jと関西経営者協会 [1991Jくらいである。永野 [1989Jの中心となる内容は、先に紹介した職研の3つの調査から、企業 グループ人事を詳細に分析することである。その中に一部、労働組合の取り組み 事例が報告されている。これは、永野自身が新聞社と都市yゲス会社の労働組合で おこなったききとり調査に基づいている。
それによると、新聞社の労働組合は出向に対してほとんど発言していないが、
都市ガス会社の組合は、出向によって組合員が不利益を被らないように、新会社 の設立に当たって会社側と次の項目について話し合うという。①事業内容、②そ の業界における同業他社の状況、③売上計画・要員計画、④出向者の業務内容・
労働環境、労働条件、福利構成等、⑤プロパ一社員の就業規則、給与規則。また、
出向組合員を専門に扱う支部を設け、出向社員のニーズにあった活動が展開でき るように配慮している。労働組合によって、取り組みに大きな差があることがわ かる4)
。
もうひとつの資料、関西経営者協会の調査は、会員企業約1990社に対して出向 の実態と制度的な対応を調べたものである。調査は1990年秋に実施きれ、回答企 業は280社であった。この調査の中で、出向発令の手続きに際して労働組合との関 係はどのようになっているかをたずねている。その結果は、次の2点にまとめる
ことができるo
(ア)組合との関係は、通知するだけ (36.4%)、事前に協議する (30.7%)、同意を 得る (20.0%)の順で、「組合とは協議せず、通知もしない」という会社は8.6%
のみだった。
(イ)規模別では、 1000人以上の大企業で「通知のみおこなう」割合が高<(50.8%)、 300人未満の企業では「事前に協議する」割合が高くなっている (4