本章では、日本におけるGC情報開示制度が導入されてから2012年3月期までの有価証 券報告書等に含まれる財務諸表等1に注記により開示されたGC情報の新規開示時の企業の 実態及びGC情報開示後の企業の状況の分析を行う。
4.1 GC情報を新規に開示した企業の分析
2003年3月期に日本にGC情報開示制度が導入され、その6年後の2009年3月期にお ける変更を経て2012年3月期までに9年間が経過している。この間に、新規にGC情報を 開示した企業について、開示年度別の発生状況、業種別の内訳、上場市場別の内訳、監査 人の状況、及び GC に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況(以下「重要事象等」
という。)2として開示した内容について分析する。
該当企業はeol社の企業情報データベースより、上記期間の有価証券報告書、半期報告書 及び四半期報告書に含まれる監査報告書、中間監査報告書及びレビュー報告書に GC に関 する追記情報が付された上場企業を検索することにより抽出した。元は上場企業であった ものの、GC情報を新規に開示した財務諸表等が含まれる有価証券報告書等が提出された時 期に、既に上場廃止となっている企業については対象から除外している。
4.1.1 新規開示年度別内訳
GC情報を開示した企業の新規開示年度別の内訳は、<図表4-1>の通りである。
105
<図表4-1>GC情報新規開示企業の開示年度別内訳3
(単位:社)
(出所:eol社の企業情報データベースより抽出したデータを加工して集計)
2009年3月期4の制度改正の前後を比較すると、該当期間の長さの相違はあるものの、全
体の 83.5%は制度改正前に開示したものであり、制度改正前に開示した会社が圧倒的に多
い。制度改正前においては一定の事象や状況が存在すれば直ちに GC に関する注記及び追 記情報の記載を要するとの規定となっている5との理解がなされ、一定の事実の存在により 画一的に当該注記を行う実務となっていたことが一つの要因と考えられる。さらに2008年 3月期以降新規開示企業は急増しており、「2.3.2 2009年3月期における制度変更の概要」
で記述したように制度改正を後押しすることとなった。制度改正後は、新規開示を行う会 社数は各年度で概ね同程度となっている。
制度改正後は GC 情報の注記をしないものの有価証券報告書等の「事業等のリスク」の 箇所に重要事象等を開示するという場合(以下、「リスク情報の開示」という。)が想定さ
3月決算 その他の決算 3月決算 その他 合計 3月決算 その他 合計
導入初年度 2003/3 2003/4~2004/2 64 28 92 18.2% 12.5% 16.0%
2年目・中間 2003/9 2003/10~2004/8 11 6 17 3.1% 2.7% 3.0%
2年目・年度 2004/3 2004/4~2005/2 15 6 21 4.3% 2.7% 3.6%
3年目・中間 2004/9 2004/10~2005/8 10 5 15 2.8% 2.2% 2.6%
3年目・年度 2005/3 2005/4~2006/2 19 6 25 5.4% 2.7% 4.3%
4年目・中間 2005/9 2005/10~2006/8 9 7 16 2.6% 3.1% 2.8%
4年目・年度 2006/3 2006/4~2007/2 17 19 36 4.8% 8.5% 6.3%
5年目・中間 2006/9 2006/10~2007/8 12 10 22 3.4% 4.5% 3.8%
5年目・年度 2007/3 2007/4~2008/2 29 27 56 8.2% 12.1% 9.7%
6年目・中間 2007/9 2007/10~2008/8 5 14 19 1.4% 6.3% 3.3%
6年目・年度 2008/3 2008/4~2009/2 52 43 95 14.8% 19.2% 16.5%
7年目・四半期 2008/6~2008/12 2008/7 1Q~2009/5 51 19 70 14.5% 8.5% 12.2%
計 294 190 484 83.5% 84.8% 84.0%
7年目・四半期 2009/6~2009/11 3Q 3 3 1.3% 0.5%
7年目・年度 2009/3 2009/4~2010/2 13 4 17 3.7% 1.8% 3.0%
8年目・四半期 2009/6~2009/12 2009/7 1Q~2010/11 3Q 9 5 14 2.6% 2.2% 2.4%
8年目・年度 2010/3 2010/4~2011/2 7 7 14 2.0% 3.1% 2.4%
9年目・四半期 2010/6~2010/12 2010/7 1Q~2010/11 3Q 5 8 13 1.4% 3.6% 2.3%
9年目・年度 2011/3 2011/4~2012/2 11 2 13 3.1% 0.9% 2.3%
10年目・四半期 2011/6~2011/12 2011/7 1Q~2012/3 8 5 13 2.3% 2.2% 2.3%
10年目・年度 2012/3 5 5 1.4% 0.9%
計 58 34 92 16.5% 15.2% 16.0%
352 224 576 100.0% 100.0% 100.0%
制 度 改 正 前
該当年月
制 度 改 正 後
合計
開示年度 会社数 比率
会社数 割合
3月決算会社 352 61.1%
上記以外の会社 224 38.9%
合計 576 100.0%
年度決算 374 64.9%
中間決算 89 15.5%
四半期決算 113 19.6%
合計 576 100.0%
106
れるが、前四半期が制度改正後となるGC情報開示企業76社のうち、53.9%に該当する41 社については、最初にGC情報を開示する直前四半期に重要事象等の開示を行っていた。
決算月別内訳では、3月期決算会社が61.1%を占めており、決算種別内訳では年度決算か らの開示が64.9%を占めている。
4.1.2 業種別内訳
新規にGC情報を開示した企業の業種別6の内訳は、<図表4-2>の通りである。
<図表4-2>GC情報開示企業の業種別内訳
(単位:社)
(出所:eol社の企業情報データベースより抽出したデータを加工して集計)
全期間を通じて開示会社数が多い業種は、情報通信・サービス業、卸売業の順であり、
建設、不動産、小売、電機が同数で追っている。その他製造業には複数の業種が含まれて いるが、その中で最も開示社数の多い業種は機械であり、全期間で33社が開示している。
制度改正前後とも情報通信・サービス業が最も開示社数が多くなっているが、二番目は、
制度改正前は建設であり、制度改正後は電機となっている。建設は、制度導入 3 年目まで GC開示社数が多かったが、制度改正後は1社のみとなっている。淘汰が進み、既に市場か ら退出すべき企業は退出し終わっている可能性がある。電機の制度改正後の GC 開示社数 の増加は円高による輸出への影響や、中国等海外との競争の激化による影響が考えられる。
また、2008年度は不動産業のGC開示社数が他の年度に比べて多くなっており、当時の 不動産不況及び資金繰り悪化の影響が表れていると考えられる。
導入初年度 12 4 10 6 7 33 17 1 2 92
2年目・中間 3 0 0 2 1 6 5 0 0 17
2年目・年度 6 0 1 1 3 7 3 0 0 21
3年目・中間 1 2 1 4 2 2 1 1 1 15
3年目・年度 11 0 1 1 3 3 5 0 1 25
4年目・中間 1 1 0 4 2 5 2 0 1 16
4年目・年度 0 0 6 8 1 11 9 1 0 36
5年目・中間 2 1 2 2 5 1 7 1 1 22
5年目・年度 4 2 9 6 2 18 10 4 1 56
6年目・中間 3 4 2 3 0 3 3 1 0 19
6年目・年度 7 18 9 8 6 16 25 6 0 95
7年目・四半期 3 12 7 3 8 18 13 3 3 70
計 53 44 48 48 40 123 100 18 10 484
比率 11.0% 9.1% 9.9% 9.9% 8.3% 25.4% 20.7% 3.7% 2.1% 100.0%
7年目・四半期 0 0 0 2 0 1 0 0 0 3
7年目・年度 1 4 1 0 1 6 4 0 0 17
8年目・四半期 0 0 3 1 2 1 4 2 1 14
8年目・年度 0 3 3 0 2 2 3 1 0 14
9年目・四半期 0 0 0 1 1 5 5 1 0 13
9年目・年度 0 1 2 1 2 5 0 1 1 13
10年目・四半期 0 2 1 0 5 2 0 2 1 13
10年目・年度 0 0 0 1 1 2 1 0 0 5
計 1 10 10 6 14 24 17 7 3 92
比率 1.1% 10.9% 10.9% 6.5% 15.2% 26.1% 18.5% 7.6% 3.3% 100.0%
54 54 58 54 54 147 117 25 13 576
9.4% 9.4% 10.1% 9.4% 9.4% 25.5% 20.3% 4.3% 2.3% 100.0%
小売 電機 その他
製造
情報通信・
サービス 金融 その他 合計
比率 制
度 改 正 前
制 度 改 正 後
開示年度
合計
建設 不動産 卸売
107 4.1.3 上場市場別内訳
新規にGC情報を開示した企業の開示時の上場市場別の内訳は、<図表4-3>の通りであ る7。
<図表4-3>GC情報開示企業の上場市場別内訳8
(単位:社)
(出所:eol社の企業情報データベースより抽出したデータを加工として集計)
GC情報新規開示時の上場市場はジャスダックが最も多く全体の32.5%を占めており、以 下東証1部、東証 2部と続いている。新興市場(ジャスダック、マザーズ、ヘラクレス、
セントレックス、アンビシャス、Q-Board)上場合計では、制度改正前は54.8%であったが、
制度改正後は 65.2%に増加している。この要因の一つとして、改正前は重要事象等の該当 の有無で GC 開示が判断される実務であり、新興市場上場企業とそれ以外とに大差はなか ったが、改正後に対応策の実施による重要な不確実性の有無という判断基準が追加される
導入初年度 17 20 2 7 3 0 0 31 5 7 0 0 0 92
2年目・中間 6 2 0 1 0 0 0 6 0 2 0 0 0 17
2年目・年度 5 2 0 2 1 1 0 6 2 2 0 0 0 21
3年目・中間 3 4 0 1 0 0 0 7 0 0 0 0 0 15
3年目・年度 4 4 0 2 1 1 1 7 0 4 0 0 1 25
4年目・中間 1 5 0 0 0 0 0 7 0 3 0 0 0 16
4年目・年度 7 3 0 2 0 1 0 13 5 4 1 0 0 36
5年目・中間 5 1 0 1 1 0 1 5 5 2 1 0 0 22
5年目・年度 14 8 0 6 2 1 0 14 4 4 3 0 0 56
6年目・中間 6 1 0 3 0 0 0 5 1 2 1 0 0 19
6年目・年度 15 12 0 5 1 0 0 31 17 9 2 2 1 95
7年目・四半期 13 9 0 3 2 0 0 22 11 6 3 1 0 70
計 96 71 2 33 11 4 2 154 50 45 11 3 2 484
比率 19.8% 14.7% 0.4% 6.8% 2.3% 0.8% 0.4% 31.8% 10.3% 9.3% 2.3% 0.6% 0.4% 100.0%
7年目・四半期 0 1 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0 3
7年目・年度 4 2 0 0 0 0 0 8 3 0 0 0 0 17
8年目・四半期 4 2 0 0 0 1 0 1 3 2 1 0 0 14
8年目・年度 2 1 0 0 1 0 0 5 3 0 1 1 0 14
9年目・四半期 2 1 0 0 0 0 0 3 6 0 0 1 0 13
9年目・年度 2 2 0 1 0 0 1 6 1 0 0 0 0 13
10年目・四半期 1 2 0 0 0 0 0 7 3 0 0 0 0 13
10年目・年度 1 0 0 0 0 0 0 2 2 0 0 0 0 5
計 16 11 0 2 1 1 1 33 21 2 2 2 0 92
比率 17.4% 12.0% 0.0% 2.2% 1.1% 1.1% 1.1% 35.9% 22.8% 2.2% 2.2% 2.2% 0.0% 100.0%
112 82 2 35 12 5 3 187 71 47 13 5 2 576
19.4% 14.2% 0.3% 6.1% 2.1% 0.9% 0.5% 32.5% 12.3% 8.2% 2.3% 0.9% 0.3% 100.0%
開示年度
制 度 改 正 前
制 度 改 正 後
合計 比率
セント レックス
アンビ シャス
Q-Boad 合計
福岡 札幌 ジャス
ダック マザーズ ヘラクレ 東証1部 東証2部 大証1部 大証2部 名証2部 ス
会社数 割合
制度改正前 265 54.8%
制度改正後 60 65.2%
全期間 325 56.4%
新興市場
108
こととなり、この判断基準によると新興市場上場企業の方がより不確実性があると判断さ れているケースが多い可能性があると考えられる。
4.1.4 監査人の規模の状況
新規にGC情報を開示した企業の開示時の監査人の規模の状況は、<図表4-4>の通りで ある9。
<図表4-4> 監査法人の規模
(単位:社)
(出所:eol社の企業情報データベースより抽出したデータを加工して集計)
全期間では GC 情報開示時の監査人は大手監査法人が 58.5%であり、その他より多い。
しかし、上場企業全体での大手監査法人の顧客会社数のシェアは、2005年3月期は82.2%、
2006年3月期は 82.8%、2007年にみすず監査法人の解散の影響で77.5%に低下している が10、制度改正前のGC情報開示企業に占める大手監査法人の比率は61.2%であり、上場会 社全体のシェアに比べ低いものとなっている。そして制度改正後の2009年3月期には、上 場企業全体に占める大手監査法人のシェアは74.8%に低下し11、2012年3月期にはさらに
73.5%にまで低下しているが12、GC情報開示企業に占める大手監査法人の比率は 44.6%で
あり、一層低い水準となっている。これは、大手監査法人が契約を辞退した被監査企業の 大手監査
法人 その他 合計 大手監査
法人 その他
導入初年度 59 33 92 64.1% 35.9%
2年目・中間 9 8 17 52.9% 47.1%
2年目・年度 18 3 21 85.7% 14.3%
3年目・中間 14 1 15 93.3% 6.7%
3年目・年度 20 5 25 80.0% 20.0%
4年目・中間 9 7 16 56.3% 43.8%
4年目・年度 28 8 36 77.8% 22.2%
5年目・中間 14 8 22 63.6% 36.4%
5年目・年度 37 19 56 66.1% 33.9%
6年目・中間 8 11 19 42.1% 57.9%
6年目・年度 50 45 95 52.6% 47.4%
7年目・四半期 30 40 70 42.9% 57.1%
計 296 188 484 61.2% 38.8%
7年目・四半期 2 1 3 66.7% 33.3%
7年目・年度 12 5 17 70.6% 29.4%
8年目・四半期 7 7 14 50.0% 50.0%
8年目・年度 4 10 14 28.6% 71.4%
9年目・四半期 4 9 13 30.8% 69.2%
9年目・年度 6 7 13 46.2% 53.8%
10年目・四半期 2 11 13 15.4% 84.6%
10年目・年度 4 1 5 80.0% 20.0%
計 41 51 92 44.6% 55.4%
337 239 576 58.5% 41.5%
開示年度
制 度 改 正 前
制 度 改 正 後
合計
比率 会社数
109
監査を中小/個人の事務所が引き受けていること(町田[2011])に起因している可能性があ る。また、大規模監査法人は財務困窮企業の監査から降りて事前の保守主義をとっている 一方、他の監査法人は財務困窮企業に対して GC 意見の表明を増加させて事後的な保守主 義をとっており(Kaplan and Williams[2012])、その傾向が特に制度改正後に顕著になっ ている可能性があると考えられる。
4.1.5 重要事象等の内訳
GC情報を開示した企業の重要事象等を、「債務超過や利益剰余金のマイナス等(以下「債 務超過等」という。)」「営業赤字・純損失などの重要な損失の計上または継続」(以下「損 益」という。)「営業キャッシュ・フローのマイナスの計上・継続」(以下「営業CF」という。)
「その他」に区分した場合の内訳は、<図表4-5>の通りである。なお、表中の比率は新規 開示社数に対するものであり、複数開示している企業が存在するため、その合計は100%を 超えている。
<図表4-5>GC情報開示企業の重要事象等の内訳
(単位:社)
(出所:eol社の企業情報データベースより抽出したデータを加工して集計)
全期間では、GC情報を開示した企業のうち78.5%が損益要因を重要事象として開示して
債務超過
等 損益 営業CF その他 債務超過
等 損益 営業CF その他
導入初年度 23 71 29 27 25.0% 77.2% 31.5% 29.3%
2年目・中間 7 9 7 3 41.2% 52.9% 41.2% 17.6%
2年目・年度 5 16 7 4 23.8% 76.2% 33.3% 19.0%
3年目・中間 6 8 2 6 40.0% 53.3% 13.3% 40.0%
3年目・年度 4 16 9 8 16.0% 64.0% 36.0% 32.0%
4年目・中間 4 14 6 2 25.0% 87.5% 37.5% 12.5%
4年目・年度 4 32 13 13 11.1% 88.9% 36.1% 36.1%
5年目・中間 3 18 8 4 13.6% 81.8% 36.4% 18.2%
5年目・年度 8 46 22 18 14.3% 82.1% 39.3% 32.1%
6年目・中間 2 16 6 5 10.5% 84.2% 31.6% 26.3%
6年目・年度 11 82 33 34 11.6% 86.3% 34.7% 35.8%
7年目・四半期 5 50 15 38 7.1% 71.4% 21.4% 54.3%
計 82 378 157 162 16.9% 78.1% 32.4% 33.5%
7年目・四半期 3 2 0 0 100.0% 66.7% 0.0% 0.0%
7年目・年度 1 15 3 8 5.9% 88.2% 17.6% 47.1%
8年目・四半期 2 9 2 8 14.3% 64.3% 14.3% 57.1%
8年目・年度 5 11 1 5 35.7% 78.6% 7.1% 35.7%
9年目・四半期 5 11 6 4 38.5% 84.6% 46.2% 30.8%
9年目・年度 4 10 6 7 30.8% 76.9% 46.2% 53.8%
10年目・四半期 4 12 2 4 30.8% 92.3% 15.4% 30.8%
10年目・年度 1 4 2 1 20.0% 80.0% 40.0% 20.0%
計 25 74 22 37 27.2% 80.4% 23.9% 40.2%
107 452 179 199 18.6% 78.5% 31.1% 34.5%
比率
合計 開示年度
制 度 改 正 前
制 度 改 正 後
会社数