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ゴーイング・コンサーン情報が 経営、監査及び投資に与える影響

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(1)

早稲田大学

博士(商学) 学位申請論文

ゴーイング・コンサーン情報が 経営、監査及び投資に与える影響

2013 年

稲葉 喜子

(2)

2 目次

略語

第1章 本研究の目的・意義・構成 1.1 本研究の目的

1.1.1 日本における継続企業の前提に関する制度の概要

1.1.2 本研究の目的 1.2 本研究の意義

1.3 本研究の構成

第2章 制度的枠組の考察

2.1 米国におけるGC情報の制度

2.1.1 GC問題の起源-未確定事項とGC問題 2.1.2 SAS第34号の公表

2.1.3 SAS第59号の公表 2.1.4 公開草案(2008年)

2.1.5 公開草案(2013年)

2.2 IAS/IFRS及びISAにおけるGC情報の制度 2.2.1 経緯

2.2.2 開示の基準 2.2.3 監査の基準 2.2.4 課題

2.3 日本におけるGC情報の制度

2.3.1 日本におけるGC情報の制度の導入 2.3.2 2009年3月期における制度変更の概要

2.4 日本の制度と米国及びIAS/IFRS並びにISAにおける制度との相違 2.4.1 経営者の責任と監査人の責任

2.4.2 GCに疑義を生じさせる事象又は状況 2.4.3 対応策の検討

2.4.4 開示内容 2.4.5 監査報告

第3章 研究の展開

3.1 海外における先行研究 3.1.1 理論研究

(3)

3 3.1.2 実証研究

3.2 日本における先行研究 3.2.1 制度研究

3.2.2 理論研究 3.2.3 実証研究

3.3 海外と日本の実証研究の比較

3.3.1 GC情報が株式市場に与える影響 3.3.2 GC情報に関する監査人の判断 3.3.3 GC開示後の状況の分析 3.3.4 その他の研究

第4章 日本におけるゴーイング・コンサーン情報開示の実態 4.1 GC情報を新規に開示した企業の分析

4.1.1 新規開示年度別内訳 4.1.2 業種別内訳

4.1.3 上場市場別内訳 4.1.4 監査人の規模の状況 4.1.5 重要事象等の内訳 4.2 GC情報開示後の状況の分析

4.2.1 全体分析 4.2.2 時系列分析

第5章 ゴーイング・コンサーン情報と経営者の行動 5.1 経営者の再生行動に与える影響

5.1.1 はじめに

5.1.2 日本におけるGC情報の開示と監査 5.1.3 再生のための経営計画等

5.1.4 先行研究 5.1.5 仮説の構築

5.1.6 リサーチ・デザイン 5.1.7 実証結果

5.1.8 結論及び今後の課題 5.2 注記解消の判断

5.2.1 はじめに

5.2.2 GC情報開示の制度 5.2.3 先行研究

(4)

4 5.2.4 仮説

5.2.5 リサーチ・デザイン 5.2.6 実証結果

5.2.7 追加検証

5.2.8 結論及び今後の課題

第6章 ゴーイング・コンサーン情報と監査人の交代 6.1 はじめに

6.2 監査人の交代の要因

6.2.1 監査人からの監査契約解除

6.2.2 被監査企業からの監査契約解除

6.3 先行研究 6.4 仮説の構築

6.5 リサーチ・デザイン 6.5.1 データ

6.5.2 実証モデル 6.6 実証結果

6.6.1 GC情報注記と監査人交代(仮説1)

6.6.2 監査人交代と監査人の規模(仮説2)

6.6.3 GC情報注記解消と監査人の規模 6.7 結論及び今後の課題

第7章 ゴーイング・コンサーン情報が株式市場に与える影響 7.1 はじめに

7.2 GC情報の開示の制度

7.2.1 制度変更後のGC情報開示制度 7.2.2 法令等に基づくGC情報開示 7.3 先行研究

7.4 仮説の構築

7.5 リサーチ・デザイン 7.5.1 データ

7.5.2 実証モデル 7.6 実証結果

7.6.1 仮説1 7.6.2 仮説2 7.6.3 仮説3

(5)

5 7.7 追加検証

7.7.1 実証モデル 7.7.2 実証結果 7.8 結論及び今後の課題

第8章 重要な不確実性の判断 8.1 はじめに

8.2 GC情報の開示制度 8.2.1 制度変更の概要 8.2.2 重要な不確実性 8.3 金融機関による判断基準

8.4 先行研究

8.5 リサーチ・クエスチョン 8.6 リサーチ・デザイン

8.6.1 データ 8.6.2 分析内容 8.7 実証結果

8.7.1 個別企業分析 8.7.2 全体分析 8.8 追加検証

8.9 結論及び今後の課題

第9章 結論と今後の課題 9.1 本研究の要約

9.1.1 第2章の要約 9.1.2 第3章の要約 9.1.3 第4章の要約 9.1.4 第5章の要約 9.1.5 第6章の要約 9.1.6 第7章の要約 9.1.7 第8章の要約 9.2 本研究の発見事項と結論 9.3 今後の研究課題

参考文献

(6)

5 略語

AICPA 米国公認会計士協会 American Institute of Certified Public Accountants

ASC 会計基準成文化 Accounting Standards Codification ASU 会計基準アップデート Accounting Standards Update CF キャッシュ・フロー Cash Flow

CICA カナダ勅許会計士協会 Canadian Institute of Chartered

Accountants

EC 欧州委員会 European Commission

FASB 米国財務会計基準審議会 Financial Accounting Standards Board FRC 英国財務報告評議会 Financial Reporting Council

GAAP 一般に認められた会計原則 Generally Accepted Accounting

Principles

GAAS 一般に認められた監査基準 Generally Accepted Auditing Standards GC 継続企業(の前提)

ゴーイング・コンサーン

Going Concern

IAASB 国際監査・保証基準審議会 International Auditing and Assurance Standards Board

IAPC 国際監査実務委員会 International Auditing Practice

Committee

IAS 国際会計基準 International Accounting Standards

IASB 国際会計基準審議会 International Accounting Standards Board

IASC 国際会計基準委員会 International Accounting Standards Committee

IFAC 国際会計士連盟 International Federation of Accountants IFRIC 国際財務報告解釈指針委員会 International Financial Reporting

Interpretations Committee

IFRS 国際財務報告基準 International Financial Reporting

Standards

IOSCO 証券監督者国際機構 International Organization of Securities Commissions

ISA 国際監査基準 International Standards on Auditing

(7)

6

PCAOB 公開会社会計監督委員会 Public Company Accounting Oversight Board

POB 公共監視委員会 Public Oversight Board

SAP 米国監査手続書 Statement on Auditing Procedure SAS 米国監査基準書 Statement on Auditing Standards SEC 証券取引委員会 Securities and Exchange Commission

SFAS 米国財務会計基準書 Statement on Financial Accounting

Standards

SOP 見解表明書 Statement of Position SOX 企業改革法 Sarbanes-Oxley act

UEC ヨーロッパ会計士連合 Union Européenne des Experts Comtables Economiques et Financiers

(8)

7

第 1 章 本研究の目的・意義・構成

1.1 本研究の目的

1.1.1 日本における継続企業の前提に関する制度の概要

日本における継続企業の前提(GC:Going Concern)に関する情報開示の制度は、2003 年3月1日以降終了する事業年度から導入されている。

導入当初の GC 情報開示制度の枠組の概要は以下の通りであった。まず経営者が財務諸 表の作成にあたりGCの前提が適切であるかどうかを評価する。経営者による評価の結果、

貸借対照表日現在に GC に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在し、その解消又は大 幅な改善に重要な不確実性が残ることにより、GCに重要な疑義が存在すると認識した場合 には、当該事象又は状況について財務諸表に注記する1。一方、監査人は、二重責任の原則 の下で、監査計画の策定及び監査の実施の過程において、GCに重要な疑義を抱かせる事象 又は状況の有無を確かめ、重要な疑義が認められる場合には、当該疑義に対する適切な開 示が行われているかどうか、GCの前提に基づき財務諸表を作成することが適切であるかを 検討する2

日本公認会計士協会[2002b]では、GCに重要な疑義を抱かせる事象又は状況を(a)財務指 標関係、(b)財務活動関係、(c)営業活動関係、(d)その他の 4 区分に分けて例示した。2009 年4月20日改正前財務諸表等規則ガイドラインにおいてもGC情報の注記を要する重要な 疑義を抱かせる事象又は状況として、同様の事象又は状況を具体的に規定していた。これ らの規定により、例示された一定の事象や状況が存在すれば直ちに GC 情報の注記を要す るとの理解がなされ、一定の事実により画一的に当該注記を行う実務がなされることとな った3

2009年4月9日に企業会計審議会[2009b]が公表され、2009年3月31日以後終了する 事業年度より、GC に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況(以下、「重要事象等」

という。)が存在する場合であって、かつ当該事象又は状況を解消し、または改善するため の対応をしてもなおGC に関する重要な不確実性が認められるときに限りGC に関する情 報 を 注 記 する こ と と され た4。 改 正の 背 景 に は、 国 際 会 計基 準 (IAS:International Accounting Standards)あるいは国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)との整合を図るという目的の他、2008 年下期以降の企業業績の急 激な悪化により四半期報告書における GC 情報の注記企業が急増したことも制度改正を後 押ししたと考えられる。

なお、改正後の監査基準において、GC情報の注記は要しない場合でも、重要事象等が生 じた場合には、有価証券報告書の「事業等のリスク」や「財政状態、経営成績及びキャッ シュ・フローの状況の分析」の箇所においてその内容を記載することが要求されている5

(9)

8 1.1.2 本研究の目的

本研究の目的は、日本における GC 情報開示制度に関して、①経営者の行動に与える影 響、②監査人の行動に与える影響、③投資家の行動に与える影響の 3 つを実証的に明らか にすることである。

まず、第 1の目的は、日本における GC 情報の注記が経営者の行動に与える影響を実証 的に明らかにすることである。経営者がGCの評価、及び GCに対する疑義を抱かせる事 象又は状況、並びにその事象又は状況に対する経営計画等の適切な開示の責任をもつとい う GC 情報の開示の枠組は、経営者の行動や規律づけに影響を及ぼす可能性があると考え られる。

GC情報の注記の解消と実施した対策との関連を分析した研究としてNogler [1995]、開 示した経営計画とGC情報の注記の解消を取り扱った研究として浦山[2009]があるが、日米 いずれも GC 情報の注記が再生行動に与える影響を直接分析した研究はほとんど見あたら ない。本研究では日本におけるGC情報の注記が、GCに疑義を与える事象又は状況を改善 ないし解消させるための再生行動を経営者に促し、そのことが GC に疑義を与える事象又 は状況を実際に改善ないし解消するのに役立っているかどうかを実証的に明らかにする。

併せて、経営者はどのような判断の下に GC 情報の注記を解消するのかについても分析す る。

第2の目的は、GC情報の注記が監査人の行動に与える影響を明らかにすることである。

企業が GC 情報を注記することは、監査人にとっては被監査企業の監査リスクが高まった ことを意味する。監査人は監査契約維持による将来のリスクを回避することを目的として 監査契約を解除すると考えられる6。また、財務困窮企業である被監査企業が、GC 情報の 注記をしなくても適正意見を出してくれる監査人を選別するために、監査契約を解除し新 たな監査人を選任する、いわゆるオピニオン・ショッピングの可能性も示唆されている。

GC情報の注記は、監査リスクの上昇を通じて、あるいは被監査企業のオピニオン・ショッ ピングの動機を通じて監査人の交代に影響を及ぼしている可能性がある。

海外の研究ではChow and Rice[1982b]、Schwartz and Menon[1985]、Smith[1986]等、

監査人の交代とオピニオン・ショッピングとの関係を実証的に分析した研究が多い。GC情 報と監査人交代との関係を直接分析している研究としては、Carey et al.[2008]等がある。

国内の研究では、町田[2003b] 、日本公認会計士協会[2004]等、アンケートやヒアリングに よって、監査人の交代について監査リスクとの関係から論じた研究が多い。GC情報と監査 人の交代を実証的に取り扱った研究には、町田[2011]等があるが、その数は海外に比べて少 ない。本研究では日本において、GC 情報の注記は監査リスクを上昇させることによって、

あるいは被監査会社のオピニオン・ショッピングの動機を通じて、監査人の交代を促して いるかどうかを実証的に分析する。また、併せてGC情報に基づく監査人の交代に関して、

監査人の規模との関係についても実証的に分析する。

(10)

9

第3の目的は、GC情報の注記が投資家の行動に与える影響を明らかにすることである。

国内、海外とも GC 情報と株価との関係を実証した先行研究の数は多いが、その分析結果 は一様ではない。例えば、Firth[1978]及びChow and Rice[1982a]は、それぞれ英国企業、

米国企業でGC情報が含まれる監査報告書に対して有意な超過リターンを報告しているが、

Elliott[1982]やDodd et al.[1984]では、監査人による限定意見(GC意見)は公表時点の株 価リターンに影響を与えないとしている。Ogneva and Subramanyam[2007]、Herbornet

al.[2007]でもGC意見に対するマーケットの過小反応を否定している。一方、GC情報が事

前の期待と反している場合に、株価反応に有意な負の影響を与えると報告している研究と してFleak and Wilson[1994]やJones[1996]がある。

GC情報と株価との関係を分析した国内の先行研究は、以下の通り報告している。高田他

[2004a]は、株価反応は観察されず、投資家はGCに関する追記情報に情報価値を認めてい

ないという結論を示しており、及川[2007]は、投資家は企業がGC情報の注記を行う時点で 企業の財務的困窮状態を認識しているという可能性を指摘し、倒産の危険性の高い企業で は GC 情報の注記前後で株価及び出来高に有意な変化は観察されないと報告している。浦 山[2006]は、期待外のGC情報注記に対して株価は有意な負の反応があるが、期待通りの注 記には反応しないことを報告している。及川・大橋[2010]は、投資家は利用可能な会計情報 によりGCが付されることを予測しており、GC情報は投資家の意思決定に影響を与えない 可能性が高いと結論づけている。ただし、財務困窮状態ではない企業に対し GC が付され た場合には株価に負の影響があると報告している。林・町田[2013]は、2003年3月期から 2011年3月期までの制度変更後を含むサンプルを用いてGC情報の開示又は解消に対する 市場の反応を検証し、全体としてみればGCの開示及び解消に対するリターンの分析では、

GC 情報が投資者にとって有用な情報であるという仮説は十分に支持されなかったと報告 している。

上記の通り国内・海外の研究とも分析結果は混在しているが、GC情報が事前の期待と反 している場合に、株価反応に有意な負の影響を与えると報告している研究が散見される(例 えばFleak and Wilson[1994]、Jones[1996]、浦山[2006]、及川[2007]等)。

日本におけるGC情報の注記と株価の関係を取り扱った先行研究は、林・町田[2013]を除 き2009年の制度変更前のサンプルを取り扱った研究である。「1.1.1 日本における継続企 業の前提に関する制度の概要」において記載した通り、日本における GC 情報の開示制度 は2009年3月31日以後終了する事業年度より変更され、重要事象等が存在し、かつ対応 策を実施してもなおGCに重要な不確実性が認められるときに限り、GC情報に関する注記 を行うこととなった。すなわち、制度変更前には、GCに重要な疑義を抱かせる事象又は状 況が存在すれば直ちにGC情報に関する注記を行うという実務が行われていた7が、制度変 更後はGC情報の注記を行うかどうかに関して、重要事象等の存在に加えて、「重要な不確 実性の有無」という判断基準が追加されることとなった。

(11)

10

このことから、GC情報制度変更後においては、GC情報の注記は重要事象等が存在する かどうかだけではなく、対応策の実施により重要な不確実性が払拭されるかどうかに関す る情報も併せて投資家に提供しているといえる。そして、この重要な不確実性に関する情 報は、投資家にとって重要な疑義の帰結を予測するための新たな情報であり、情報価値を 有すると考えられる。

本研究では、日本の2009年のGC情報制度変更後のサンプルに焦点を当てて、GC情報 の注記と株価リターンとの関係を実証的に明らかにする。

なお、重要な不確実性については、IAS第1号「財務諸表の表示(Presentation of Financial Statement)」(IASB[2011])など他の財務報告の枠組みにおいても、同様の状況において 用いられている8。しかし、重要な不確実性をどのように判断するかについては、個々具体 的な場合に応じて様々なものがありえること、また国際的な基準における対応と歩調を合 わせるために、監査の基準においてその内容が明瞭となるような定義は置かれていない。

本研究においては、重要な不確実性について客観的な基準がない中で、実務上重要な不確 実性の判断、すなわち GC 情報の注記を行うかどうかの判断は、実務上どのようになされ ているのかについても実証的に明らかにする。

さらに、その他の研究目的として、以下の2つを掲げる。第一に、日本における GC 情 報の制度について米国及びIAS/IFRS並びに国際監査基準(ISA:International Standards

on Auditing)と比較しその相違点について考察し、第二に、GCを取り扱った先行研究に

ついて研究テーマ毎に分類整理を行い、実証研究に関して海外の研究と日本の研究を比較 し、研究範囲及び実証結果の相違について分析する。

(12)

11 1.2 本研究の意義

本研究は、日本における GC 情報の開示制度に関して、経営者、監査人及び投資家とい う異なる立場の企業の利害関係者にとって、企業がGC情報の注記を行うということが各々 にとってどのような意味を持つのか、そして各々の行動にどのような影響を与えているの かを実証的な分析によって明らかにしている。

まず、GC情報と経営者の行動との関係については、本研究ではGC情報が経営者の再生 行動に与える影響と、経営者が GC 情報の注記を解消する判断基準という2つの分析を実 施した。

GC情報が経営者の再生行動に与える影響について、本研究では再生行動の実施とGC情 報の注記の有無の関係についてロジット・モデルにより推定を行い、併せて GC 情報注記 後の財務パフォーマンスを分析した。前述の通り、日本及び海外のいずれにも GC 情報の 開示が再生行動に与える影響を直接分析した研究はほとんど見当たらない。本研究の意義 は、日本における GC情報の注記がGC に疑義を与える事象又は状況を改善ないし解消さ せるための再生行動を経営者に促し、そのことが GC に疑義を与える事象又は状況を実際 に改善ないし解消するのに役立っているとの結論を導いたことである。

経営者が GC 情報の注記を解消する判断基準の分析については、本研究では実行した対 応策等とGC情報の注記の解消に関連があるとの仮説を構築し、2009年のGC情報開示制 度変更前までにGC情報を注記した企業をサンプル企業として、GC情報の注記の解消の有 無と対応策等との関連についてロジット・モデルによる推定を行い、併せて GC 情報の注 記の解消を促す財務指標も同様のモデルにより分析した。GC情報の注記の解消と実施した 対応策との関連を直接実証的に分析した研究として海外にはNogler [1995]があるが、国内 の研究は見当たらない。本研究の意義は、日本における GC 情報注記の解消に焦点を当て てその判断がどのようになされているかを実証的に明らかにしたことにある。

次に、GC情報の注記が監査人の行動に与える影響について、本研究ではGC情報の注記 と監査人の交代との関連をロジット・モデルにより推定し、監査人の規模と監査人の交代 の関係についても併せて同様のモデルにより推定した。国内の先行研究では、アンケート やヒアリングによって、監査人の交代について監査リスクとの関係から論じた研究が多い が、GC情報と監査人交代との関係を直接実証的に取り扱った研究は、町田[2011]等に限定 され極めて少ない。本研究の意義は、日本において、GC情報の注記は監査リスクを上昇さ せることによって、あるいは被監査会社のオピニオン・ショッピングの動機を通じて、監 査人の交代を促しているという結論を導き、さらに GC 情報と監査人交代との関係を、監 査人の規模との関係や交代のタイミングも含めて実証的に明らかにしたことにある。

また、GC情報の開示が投資家の行動に与える影響については、制度変更後にGC情報を 開示した企業の公表時の短期株価リターンが負であるかどうかを検証するため、サンプル 企業の短期株価リターンのイベント・スタディを実施した。日本における GC 情報の開示

(13)

12

と株価の関係を取り扱った先行研究は、林・町田[2013]を除き2009年の制度変更前のサン プルを取り扱った研究である。本研究の意義は、制度変更後のサンプルを用いて、GC情報 の開示が情報価値を有するという結論を導いたことにある。

さらに、GC情報の注記を行うかどうかの判断が実務上どのようになされているのかにつ いて、本研究では GC 情報開示制度変更後の重要な不確実性の状況についての開示内容を 個別に分析した。また、併せてGC情報注記企業グループとリスク情報開示企業(GC情報 の注記には至らないものの、重要事象等の開示を実施した企業)グループの財務指標につ いて業種別に平均を比較した。

GC情報の注記の要否に「重要な不確実性」という判断基準が追加されてから間もないこ ともあり、この判断基準に焦点を当てた先行研究はまだ見当たらない。本研究の意義は、

新たな判断基準である「重要な不確実性」に焦点を当てて、実務上の取扱いについて実証 的に分析を行ったことにある。

最後に、本研究では、日本におけるGC情報の制度的枠組について米国及びIAS/IFRS 並びに ISA との比較しその相違点を明らかにするとともに、GC に関する実証研究につい て、研究テーマ毎に海外の先行研究と日本の先行研究とを比較し、研究範囲及び実証結果 の相違を明らかにしている。

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13 1.3 本研究の構成

本研究の構成は以下の通りである。

第1章 本論文の目的・意義・構成 第2章 制度的枠組の考察

第3章 研究の展開

第4章 日本におけるゴーイング・コンサーン情報開示の実態 第5章 ゴーイング・コンサーン情報と経営者の行動

5.1 経営者の再生行動に与える影響 5.2 注記解消の判断

第6章 ゴーイング・コンサーン情報と監査人の交代

第7章 ゴーイング・コンサーン情報が株式市場に与える影響 第8章 重要な不確実性の判断

第9章 結論と今後の課題

第2章から第4章においては、「1.1 本研究の目的」に示した主要な3つの目的、すな わち、日本における GC 情報の開示の制度に関して、①経営者の行動に与える影響、②監 査人の行動に与える影響、③投資家の行動に与える影響の 3 つを実証的に明らかにすると いう目的を達成する上での前提についての分析を行う。

まず、第2章の「制度的枠組の考察」においては、日本、米国及びIAS/IFRS並びにISA における GC 情報の制度に関して、各制度の導入及び改正の背景や経緯、各制度の内容を 分析し、その相違点を洗い出すと共に課題について考察する。

日本にGC情報開示制度が導入されるにあたって、また2009年に制度が変更されるに際 して、米国の制度及びIAS/IFRS並びにISAの枠組が検討され参照されている。米国にお いてGC情報開示制度が先行して導入されたが、GC情報に関して会計基準が存在せず監査 領域の問題として対処されており、二重責任の原則とは異なる枠組が採られている。第 2 章では、まず米国の制度について、米国監査基準書(SAS:Statement on Auditing Standards)第34 号(AICPA[1981])及びSAS第59号(AICPA[1988b])を中心に、そ の導入の経緯、制度の概観、制度の変更についての背景にある考え方及び課題について整 理する。また、米国の制度に関してはIFRSとのコンバージェンスに関連して,財務会計基 準審議会(FASB:Financial Accounting Standards Board)が2008年10月9日に継続 企業に関する公開草案(FASB[2008])を公表している。この公開草案では、経営者が財務 報告を行うに際してGCの能力を評価する責任を負うことが明記された。2008年の公開草 案の内容やその後の議論について整理することにより、現状の論点及び課題についての考 察も併せて実施する。また、2013年6月26日に公表された公開草案(FASB[2013b])に

(15)

14 ついてもその内容をレビューする。

次に、日本のGC情報開示制度の導入にあたっては、基本的にはISA570(IAASB[2009b])

の枠組を受け入れていることを踏まえ、IAS/IFRS及びISAにおける枠組、背景にある考 え方や課題についての分析を行う。なお、2013年7月25 日に国際監査・保証基準審議会

(IAASB:International Auditing and Assurance Standards Board)より公開草案「監査 報告書:国際監査基準書の新たな基準策定案及び改定案」(IAASB[2013])が公表されてい るが、その中にISA570の改訂公開草案も含まれている。公開草案公表の背景及びISA570 の改訂公開草案の内容について、分析を行う。

さらに、日本における GC 情報開示制度について導入時及び変更後の制度に区分して、

開示制度及び監査制度の枠組、背景にある考え方や課題を整理し、最後に、GC情報の開示 もしくはGC情報の監査に関して、米国、日本、IAS/IFRS及びISAの各制度における相 違点について論点毎に比較し、各々の制度における特徴を明らかにする。

第3章の「研究の展開」においては、GC情報に関する海外及び国内の先行研究について 研究のテーマ毎に区分し、どのような前提でどのような結果が検出されたかを整理し、ま だ明らかとなっていない部分は何かについて考察する。

海外の先行研究は、米国において GC 問題への制度対応が先行していたことから、米国 企業を対象とした研究の数が多い。まず主要な理論研究についてその内容を概観し、実証 研究については①GC情報開示の株式市場への影響、②GC情報の融資担当者に対する影響、

③GC情報に関する監査人の判断、④GC情報開示後の状況の分析、⑤その他に区分し、そ れぞれの主要な先行研究をレビューする。特に、上記① のGC情報の株式市場への影響を 取扱った研究と、③の GC 情報と監査人の判断との関係を取扱った研究は、時期や地域の 相違に関わらずその数が多い。前者については短期的な株価反応を対象とした研究から、

中長期の株価パフォーマンスを取り扱った研究まで多数存在するが、その結果については 一様ではない。主要な研究について、実証分析におけるサンプルやモデル、前提となる各 国の制度の相違等を踏まえて実証結果について整理し、その課題を明らかにする。後者の 領域は、前述の通り米国の制度が GC の問題を監査領域の問題として位置づけてきたこと に起因し、米国の研究が多くなっている。この領域の研究テーマはさらに細かい領域に区 分することができる。適切にグルーピングを行い、テーマ毎に各研究の実証結果を整理し、

研究対象となっていない領域や明らかとなっていない課題についての考察を行う。

日本における先行研究では、日本への GC 情報開示制度導入前には米国を中心とする海 外の制度を取り扱った研究が多く、制度導入後に徐々に日本のサンプルを用いた実証研究 がみられるようになったが、海外と比較するとその数は圧倒的に少ない。研究テーマ毎に 海外の研究領域との範囲の比較を行い、海外の先行研究での実証結果と比較することによ り、日本において研究対象となっていない領域や明らかとなっていない課題について分析 を行う。

第 4 章の「日本におけるゴーイング・コンサーン情報開示の実態」においては、日本に

(16)

15

おいて2003年3月期にGC情報開示制度が導入されてから2012年3月期までを対象期間 として、その期間にGC 情報を新規に開示した企業の開示時の状況及びGC 情報開示後の 状況について開示の実態を明らかにする。

GC情報の新規開示時の状況については、年度別に、業種別、上場市場別、監査人の規模 別の内訳を集計するとともに、開示した重要事象等の内訳を集計し、年度別にどのような 特徴があるのか、あるいは制度の変更前後でどのような変化があったのかについて、その 実態を分析する。

また、GC情報開示後の状況に関しては、注記の解消、法的破綻及び上場廃止に至った企 業数を集計し、その実態を明らかにするとともに、GC情報開示後の経過年数によって、注 記の解消、法的破綻及び上場廃止へ至る企業数は、どのように変化したのかについての分 析を行う。

第 5章の「ゴーイング・コンサーン情報と経営者の行動」において、第1の研究の目的 である、日本における GC 情報の開示が経営者の行動に与える影響を実証的に明らかにし ている。第 5 章はさらに、GC 情報が経営者の再生行動に与える影響の分析と、経営者が GC情報の注記を解消する判断基準の分析とに区分される。

第5章のうち、「5.1 経営者の再生行動に与える影響」においては、GC情報を注記によ り開示した企業をサンプル企業、サンプル企業と同等に財務状態の悪化している企業をコ ントロール企業とし、再生行動の実施と GC 情報の注記の有無の関係についてロジット・

モデルにより推定を行うと共に、サンプル企業とコントロール企業で注記 3 年後の財務パ フォーマンスに有意な差があるかどうかの検定を行っている。そして、同業他社や株主に 平等に支援を仰ぐ場合を除き、GC情報の注記は経営者の再生行動を促し、3年後の財務パ フォーマンスに関しては,サンプル企業がコントロール企業を上回っているという結果を 得た。

第5章のうち、「5.2 注記解消の判断」においては、Nogler [1995]及び浦山[2009]の先 行研究から、実行した対応策等と GC 情報の注記の解消に関連があるとの仮説を構築し、

2009年のGC情報開示制度変更前までにGC情報を注記した企業をサンプル企業として、

GC情報の注記の解消の有無と対応策等との関連についてロジット・モデルによる推定を行 っている。この結果、減資及び銀行による支援が GC 情報の注記の解消に有効となってい るが、期間別にみると2009年のGC情報開示制度の変更前後で有効な対応策等が異なって いるという結果を導いている。

また、併せてGC情報の注記の解消を促す財務指標も同様のモデルにより分析し、GC情 報の注記の解消は、純利益の連続赤字の解消及び純資産の増加により判断されているが、

2009年3月期のGC情報開示制度の変更後は財務指標の改善とGC情報の注記の解消との 関連は低下しているという結果を導いている。

第 6章の「ゴーイング・コンサーン情報と監査人の交代」において、第2の目的として 掲げた、日本における GC 情報の注記が監査人の行動、より具体的には監査人の交代に与

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16 える影響を実証的に分析している。

すなわち、Carey et al.[2008]と同様に、GC情報を注記した企業をサンプルとし、同等に 財務が困窮している企業をコントロール企業として、GC情報の注記と監査人の交代との関 連をロジット・モデルにより推定している。また、監査人の規模と監査人の交代の関係に ついても併せて同様のモデルにより推定している。この結果、GC情報を注記すると、注記 の翌年度に監査人交代が行われており、監査人の規模と監査人の交代の関係においては、

大手監査法人は注記翌年度に GC 情報を注記した企業の監査人を交代し、それ以外の監査 人は GC 情報を注記することとなる企業の監査を新たに引き受けているという実態が明ら かとなった。さらに、GC情報の注記を解消した企業については、大手監査法人は監査人を 交代しないことが実証された。

第 7章の「ゴーイング・コンサーン情報が株式市場に与える影響」において、第3の目 的として掲げた GC 情報の開示が投資家の行動に与える影響を実証的に分析している。具 体的には、制度変更後にGC情報を注記した企業は、GC情報公表時の短期株価リターンが 負であるかどうかを検証するため、GC情報注記企業の短期株価リターンのイベント・スタ ディを行うとともに、GC情報の注記には至らないものの、決算短信等や有価証券報告書等 で重要事象等の開示を行った企業(以下、「リスク情報開示企業」という。)の短期株価リ ターンと比較した。また、併せてMenon and Williams[2010]の結論と同様にGC情報注記 企業の公表時の短期株価リターンは、重要事象等が資金繰りに関連する場合により低くな るかどうかを検証するためのイベント・スタディも実施した。

この結果、2009年の制度変更後にGC情報を開示した企業の公表時の短期株価リターン は有意に負となり、また、リスク情報開示企業の短期株価リターンを下回っていることが 明らかになった。制度変更後の新たな判断基準である重要な不確実性の有無に関しては、

GC情報あるいは重要事象等の公表時まで予測が困難であり、変更後のGC情報注記は、公 表時に GC に関する重要な不確実性に関するネガティブな情報を投資家に新たに提供する ためであると考えられる。

なお、GC情報注記企業の公表時の短期株価リターンは、重要事象等が資金繰りであるか どうかにより有意な差異があるという結果は検出されず、日米で投資家の判断には差異が あることが明らかとなった。

第 8章の「重要な不確実性の判断基準」においては、上記3つの研究目的に関連して、

2009年のGC情報開示制度変更後に新たに判断基準となった「重要な不確実性」について 焦点を当て、実務上の重要な不確実性の判断、すなわち GC 情報の注記を行うかどうかの 判断はどのようになされているのかについて実証的に明らかにしている。

具体的には、2009年のGC情報開示制度変更後にGC情報の注記と、GC情報の注記に は至らないものの、重要事象等の開示(リスク情報の開示)の双方を経験した企業をサン プル企業として、GC情報注記からリスク情報開示へと変更された四半期(すなわち「重要 な不確実性」が解消したと思われる期)及びその逆の変更がなされた四半期(すなわち「重

(18)

17

要な不確実性」が生じたと思われる期)において、重要な不確実性の状況についての開示 内容に、直前期と比してどのような変化があったのかを個別に分析している。

この結果、重要事象等の内容によって、重要な不確実性の判断が異なる傾向がみられ、

重要事象等が債務超過の場合には資本増強など債務超過解消の確実性、資金繰り等の場合 には債権者の合意及び具体的な資金手当の目処、損益や営業キャッシュ・フローの赤字の 場合には対応策実施による業績回復見込や回復実績によって不確実性があるかどうかが判 断されている傾向にあることを明らかにした。

また、併せて GC 情報注記企業グループとリスク情報開示企業グループの財務指標につ いて業種別に平均を比較し、GC情報注記企業の方がリスク情報開示企業よりも倒産可能性 の指標を含む全ての財務指標について悪化しており、財務指標の悪化の程度が不確実性の 判断に直接影響を与えている可能性があるという結論を導いている。

第 9 章では、本研究の各章の内容を要約するとともに、各章に示した分析結果から得ら れた発見事項及び結論を要約して述べる。また、第 9 章の最後において、本研究における 分析上の問題点において言及するとともに、今後の研究課題について触れる。

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18

(注)

1 日本公認会計士協会[2002b]第3項

2 日本公認会計士協会[2002a]第7項

3 企業会計審議会[2009b] 一経緯

4 企業会計審議会[2009b] 二主な改訂点とその考え方

5 企業内容等の開示に関する内閣府令 第三号様式(記載上の注意)(13)(16)において、第 二号様式(記載上の注意)(33)b,(36)bを準用している。

6 町田[2003b]p698

7 企業会計審議会[2009b] 一経緯

8 日本公認会計士協会[2011]A18項。しかし、林[2009]では、ISA570(IAASB[2009b])で は「組織体が継続事業として存続する能力について重大な疑念を引き起こす事象及び状況 に関連する重要な不確実性」(a material uncertainty related to events or conditions that may cast significant doubt on the entity’s ability to continue as a going concern)という 表現が用いられており、両者の意味は異なるように思われる、との記述がある。

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19

第 2 章 制度的枠組の考察

近代の企業会計においては、会計公準の一つとして継続企業(GC:Going Concern)の 公準があり、企業が将来にわたり企業活動を継続する前提をおいて会計処理を規定してい る。この公準は、存続が危ぶまれる企業においても同様であり、清算に至らない限りにお いてはGCを前提として財務諸表は作成される。そのため、GCを前提として財務諸表が作 成され、監査人により無限定適正意見を表明された企業が、短期間のうちに倒産するよう な事態が発生すると、その批判は監査人に向けられることとなる。このような企業存続の 不確実性をめぐる社会の期待と監査人との間のギャップの存在が明らかとなり、一般的に GC問題として認識されるようになった。

本章においては、日本、米国及び国際会計基準(IAS:International Accounting Standards)

あるいは国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)並び に国際監査基準(ISA:International Standards on Auditing)におけるGC問題への制度 対応に関して、各制度の導入及び改正の背景や経緯、各制度の内容を分析し、その相違点 を洗い出すと共に課題について考察する1

2.1 米国におけるGC情報の制度

米国において GC 問題への制度対応が先行してなされたが、現在まで米国の会計基準に GC情報に関する規定はなく、監査領域の問題として対処されている。米国の制度は企業の 存続能力に重要な疑念をもたらす状態・事象を識別・評価する第一義的な責任が監査人に あり、経営者は監査人が重大な疑念ありと判断した場合に当該状態・事象に関する情報を 注記するという枠組となっており、後述するIAS/IFRS及びISAとは異なる枠組が採られ ている。以下では、米国の制度について、その導入までの経緯、制度の概観、その後の制 度の変更についての背景にある考え方及び課題について考察する。

2.1.1 GC問題の起源-未確定事項とGC問題

米国におけるGC問題は、未確定事項(uncertainties)の監査問題が起源となっている。

米国公認会計士協会(AICPA:American Institute of Certified Public Accountants)は1962 年に監査手続書(SAP:Statement on Auditing Procedure) 第32号(AICPA[1962])を 公表し、未確定事項に関する監査報告指針の明文化を行った。SAP第32号においては、未 確定事項を①訴訟、税務上の問題のように経営者以外の判断にかかる未確定事項と、②資 産の評価や実現可能性のように経営者の判断にかかる未確定事項とに区分し、未確定事項 を理由として意見を限定する場合には「~を条件として(subject to)」という文言の使用が 適切であるとして、条件付限定意見の表明を要求している2。米国において、未確定事項に 対する条件付限定意見の表明という報告基準はこの後 1988 年まで堅持されている。また、

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20

未確定事項が著しく重要である場合には、監査報告書の中間区分に事実の開示を行い、意 見を差控えることを指示している3

GC問題は当初未確定事項の一つとして取り扱われ、1970年頃より、GC問題に関する監 査基準は存在しないものの、監査実践における GC 問題が識別されることとなり、未確定 事項に起因する限定意見または意見差控の例示にGC問題を理由とする例が出現している4

そして、この頃から GC 問題について条件付限定意見を廃止すべきか否かという議論が なされている。会計士業界では条件付限定意見はその内容が不明確であるとしてその廃止 を主張してきたが、財務諸表の利用者はその主張に対し強く反対した。条件付限定意見の 廃止に賛成の者は、監査人の役割を未確定事項の開示の妥当性の判断責任であると考えて おり、廃止に反対の者は、監査人の役割を企業の存続に関する警告情報の提供まで及ぶも のととらえていた5と考えられる。

未 確 定 事 項の 監 査 問 題の 中 で GC 問 題 を 最初 に 識 別 した 研 究 と して 、1972 年 に D.R.Carmichael に よ り AICPA 監 査 研 究 モ ノ グ ラ フ 第 1 号 「 監 査 人 の 報 告 義 務 」

(Carmichael[1972])が公表された。CarmichaelはGC問題を波及的未確定事項(pervasive uncertainties)として識別し、企業存続能力の評価の結果、清算が差し迫っていると思わ れる場合には、監査人は意見差控もしくは不適正意見を表明すべきであるとして、条件付 限定意見の廃止を主張した。すなわち、Carmichaelの見解は、企業の存続が、例えば深刻 な資金不足を解消するのに十分な融資の獲得等、それを困難にする問題の解消に依存して おり、その問題の解消が不確実であると判断された場合には、監査人はまず意見を差し控 える。その後時の経過と共に、そのような解消は期待できないと確信され、財務諸表に表 示された資産価値が正味実現可能価額に比べて著しく過大評価されていたり、重大な損失 発生予想額が適切に計上されていない場合には不適正意見を表明する。また、現実には稀 であるとしながら、資産が正味実現可能価額によって適切に計上され、予想される重大な 損失についても正しく認識・計上され、かつ企業存続に関する未確定事項が開示されてい れば、無限定意見を表明することができるとしている6

1974年10月にAICPAがGC問題に初めて言及した監査基準書(SAS:Statement on Auditing Standards)第2号(AICPA[1974])を公表した。ここでは、未確定事項が財務 諸表に及ぼす影響に応じて特定項目に関する未確定事項と複合的未確定事項を区別し、い ずれかの区分に属する未確定事項の好ましくない結果が、企業の継続的存続(continued

existence)を脅かしかねない場合もあるとしている7。また、未確定事項が存在する場合に

は、当該事項が財務諸表に影響を及ぼす程度とその影響額を考慮し、重要な場合には条件 付限定意見を表明することを要求している8

当時は企業倒産に関する監査の失敗が訴訟事件を通じて明らかとなり、財務諸表監査に 対する利用者の期待と監査人が実際に認識している役割とのギャップである、いわゆる監 査の期待ギャップの問題が議論されるようになっていた。そのためAICPAは監査の期待ギ ャップ問題を包括的に調査・研究して財務諸表監査制度全体を改革するため、まず1974年

(22)

21

10月に監査人の責任委員会(Commission on Auditor’s Responsibilities)、いわゆるコーエ ン(Cohen)委員会を設置した。コーエン委員会は1978年11月に最終報告書(Commission on Auditor’s Responsibilities[1978])を提出した。

コーエン委員会は報告書において、未確定事項ないし GC 問題について、当時の会計及 び監査基準を監査人の役割及び責任区分の立場から批判し、未確定事項が存在する場合に 条件付限定意見を表明することは経営者の財務諸表の作成の一環に関与するという懸念が 想定されるとして、条件付限定意見の廃止と財務会計基準審議会(FASB:Financial Accounting Standards Board)が1975年3月に公表した財務会計基準書(SFAS:Statement on Financial Accounting Standards)第5号(FASB[1975])に規定されている偶発事象を、

会計方針の開示と同じように単一箇所で注記開示すべきことを勧告している。また、GC問 題にかかわる未確定事項は、監査報告書よりも財務諸表での開示、あるいは財務諸表の修 正によって効果的に達成できること、及び未確定事項が財務諸表に適切に開示されていれ ば、監査意見で未確定事項に言及すべきではないことを主張している。コーエン委員会の 条件付限定意見の廃止勧告は、その後のGC問題の議論に大きく影響している9

なお、この時期には、未確定事項の一つである偶発事象の会計処理に関する指針が整備 され、また未確定事項に関する監査上の指針が整備・充実されている。まず、1975年にSFAS 第5号によって偶発事象の定義、分類及び開示方法が詳細に規定され、AICPAがこれを受 けてSAS第 2号の解釈指針を公表し(AICPA[1982])、未確定事項が存在する状況におい て①条件付限定意見を表明すべき場合、②条件付限定意見を表明してはならない場合、及 び③除外事項付限定意見を表明すべき場合のそれぞれについて、当該未確定事項が財務諸 表に影響を及ぼす可能性に関する主観的確率区分や、その重要性の考慮による明確な指針 を提供した。

2.1.2 SAS第34号の公表

SAS 第2号は一般的な条件付限定意見を対象としていたが、企業倒産件数の増加という 背景の中、1981年3月に初めてGC問題そのものをテーマとする監査の実施及び報告につ いての体系的な基準であるSAS第34号(AICPA[1981])が公表された。SAS第34号は、

企業の存続能力に疑問がある場合、帳簿上の資産の回収可能性と分類及び負債の金額と分 類を検討し、これらに問題がある場合にのみ、条件付限定意見を表明するように要求して いる。その具体的な内容は以下の通りである。

(1) 監査人の評価責任

SAS第34号においては、GCの前提は財務会計の一般的な前提であり、GCの監査は通 常の監査手続の適用によって、GCに疑いが生じた情報(否定的情報:contrary information) を収集し得た場合にのみ開始され、反対の証拠がなければその前提に関して監査証拠の入 手を要求しない。SAS第34号では企業の継続的存続(entity’s continued existence)とい

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22

う用語を用い、それが疑われる場合を対象としている。従って、GCが保証できる場合には、

SAS第34号は適用されない。すなわち、監査人はGCに反する情報に気づいた場合のみに 評価すればよく、その責任は消極的責任であるといえる。そして、否定的情報に影響する 具体的な要素として、SAS第 34号は支払能力(solvency)とその他の要因をあげている。

支払能力とは、負債の再構築、外圧による強制的な営業活動の修正を行うことなく、満期 日に負債を支払うことができることを意味する。

通常の監査手続の適用の結果、重要な否定的情報が把握された場合には、否定的情報を もたらした状態が把握され、次いでその状態を解消しうる要因(mitigating factor)が探し 求められ、経営計画やその他の関連情報が検討される。この検討にあたって否定的情報、

解消要因及び経営計画を考慮する際の留意事項を例示し、GC に対する疑問が解決したか、

それとも重要な疑念が残るかが判断される。すなわち、財務諸表に対する意見の形成にお いては、どのような否定的情報もこれを解消しうる要素や経営計画のすべてとともに考慮 に入れるとする10。その評定責任は財務諸表作成日後1年間に限定される。

しかし、疑いが確定した場合でも、監査人は必ずしも 1 年以内に疑いが実現することを 保証するものではない。事象の将来の結末を示すのは監査人の機能ではなく、財務諸表に ついての無限定意見は企業実体が監査意見表明の日以後の何らか特定期間存続する能力を 持っているとの監査人による保証や確信をあらわすものではないとする11。監査人が疑義が 解消されたと結論した場合には、当該疑義をもたらした状況、その状況が財務諸表に及ぼ す可能性がある影響、それに対する解消要因や状況についての経営者の認識の開示を検討 することを要求している12

(2) 監査意見の表明

SAS第34号におけるGCの監査に関する意見表明に関する特徴は、GCそのものに対す る判断は回避されているという点にある。GCの疑いが確定した場合、監査人はその未確定 事項が資産額の回収可能性及びその分類、負債額及びその分類に与える影響を検討する。

そして影響が確実化した場合には、注記開示が十分であっても、監査人は説明区分におい て注記開示の未確定事項に関する警告情報に言及し、条件付限定意見を表明するか、ある いは意見差控をする必要がある。

本来 GC がもはや妥当しないと監査人が判断した場合、意見形成の論理の上では不適正 意見が表明されるべきであるが、SAS第34号ではこの種の不適正意見について言及してお らず、その必要性を否認しているため、このような場合には意見差控がなされるほかはな いと考えられる。これは、GCがもはや妥当しないという判断に基づく不適正意見によって 生じる監査人の責任の過重化を避けるためであり、また、むしろこの状態に追い込まれる 以前に GC に関するリスクを伝達する方が利害関係者の保護につながり、そのような状態 になってから報告したところでさほどの意味はないと考えられるからである13

従って、GCについて重要な疑念が残る場合、これによって生じた財務諸表の適正性に関

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23

する判断の不確実性の故に、限定意見の表明ないしは意見差控がなされる14。しかし、継続 性に関する疑念が解決した場合でも、問題となった状態、それが及ぼしうる影響、問題の 状態及び解消要因に関する経営者の評価などが適切に開示されているかどうかが検討され

15、もし開示が適切でないと判断されれば限定意見あるいは不適切意見が表明されることに なる。

SAS第34号をフローチャートで示すと<図表2-1>の通りとなる。

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<図表2-1>SAS第34号のフローチャート

(出所:盛田[1990] p.72を一部修正)

財務諸表について監査意見を表明 するために監査手続を実施

SAS34号を適用しない

企業存続の前提と矛盾する否定的 情報を検討

支払問題に関係しない情報

・内部問題→経営者の喪失、労働 争議等

・外部問題→訴訟事件、重大な得 意先の喪失、天災等

支払問題を示す情報

・消極的態勢→営業損失の反復、

運転資本の不足等

・その他→借入契約の不履行、配 当支払遅延等

企業存続能力に疑いが あるか

支払能力に関係しない問題の解消 要因

代替案

副次的検討事項=否定的情報を解 消するために経営者の計画、将来 情報を検討(para.8)

基本的検討事項=解消要因が否定 的情報の重要性を解消するか検討

(para.7)

支払能力に対する解消要因

・資産要因・費用要因

・負債要因・自己資本要因

監査人は否定的情報の重要性を和 らげる解消的要因情報を検討

資産額の回収可能性及び分類、負債 額及びその分類に影響があるか

解消要因が否定的情報を解消せず 企業の存続能力に疑義が残るか

否定的情報

para.4

解消要因

(para.6)

SAS 2 号 の 不 適 切 開 示

para.17 )、 未 確 定 事 項

para.21-26)を適用

財務諸表への情報開示の 検討(para.10 監査報告書の修正は不要 はい

いいえ

はい はい

いいえ いいえ

・資産処分計画

・資金借入・負債再構築計画

・支出削減・延期計画

・自己資本増加計画

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25 (3) 課題

「2.1.1 GC問題の起源-未確定事項とGC問題」で記述した通り、SAS第34号が公表 された時点では、すでに監査実務において被監査会社の存続に関する未確定事項の監査報 告事例が数多く存在しており、SAS第34号は当時既に実践されていた内容をまとめたに過 ぎず、監査人に対して何らの新しい指針を与えていない16。また、従来の監査人の責任を変 更することなく条件付限定意見の表明を認めており、GCに反する情報に気づいた時のみ条 件付限定意見を表明することにより早期警戒情報を提供してきた。この枠組には多くの問 題点が指摘されあるいは批判されてきた17

まず第 1 の問題として、監査は伝統的に情報を検証することによりその情報に信頼性を 与えることを目的とするものであるが、GC問題はこのような監査の伝統的機能を超えるも のであり、監査人が行うことができない性質のものである。投資家や金融機関が必要とす る情報自体を提供するのは経営者の責任であり、監査人は投資家や金融機関に提供される 情報をアテストするものである。監査人の財務諸表の利用者に対する情報伝達は、会社か ら利用者に対する財務諸表の提供による基本的な情報伝達に付随する第 2 次的な情報伝達 である。

財務諸表の利用者に対する情報提供の責任は基本的には経営者にあり、GC問題について の早期警戒情報を提供する責任も経営者にあると考えるべきであって、監査人にこのよう な責任を課すのは適当ではないという批判もある。早期警戒情報は財務諸表の注記あるい は財務諸表とは別の文章に経営者の責任において開示されるのが適当であり、そのような 開示のために一般に認められた会計基準の設定が必要と考えられる。このような会計基準 が設定されればその開示の十分性を監査人が監査できるようになる。このような監査は監 査人の伝統的な機能の延長として合理的である。

第2の問題は、監査人が企業の倒産を予測することに伴う問題である。GC問題について の条件付限定意見の実態調査18の結果、GC問題について条件付限定意見を表明した会社が 実際には倒産しなかったり、無限定意見を表明した会社がその直後に倒産したりすること は,倒産予測が困難であることを表しているといえる。

また、監査人が監査報告書において、GC 問題について早期警戒情報を適用することは、

利害関係者の意思決定に重要な影響を与えるため、そのこと自体が倒産の主要要因になる かもしれない。このため、会社は早期警戒情報を記載しない意見を表明する監査人を求め るという動機が生じる。また、監査人の側でもクライアントを失う可能性があるため、早 期警戒情報を記載することを好まないと考えられる。すなわち、監査人に早期警戒情報を 義務づけることによりオピニオン・ショッピング問題を誘発するという批判がある19

さらに第 3 の問題として、条件付限定意見はその伝達する情報内容が不明確であるとい うことが従来から指摘されてきた。財務諸表利用者にとって、条件付限定意見は財務諸表 が間違っていることも開示が不十分であることも意味するわけではなく、また重大な未確 定事項や偶発事象は後に修正を必要とするものではない。一方監査人の側においても、GC

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26

問題について条件的限定意見を表明する場合に、企業の GC としての存続能力に高度に否 定的な可能性があるということなのか、あるいは財務諸表における資産の回収可能性と分 類及び負債の金額と分類に問題があることが原因になるのか、という問題がある。後者で あれば、財務諸表の適正性に対する意見の問題であり、早期警戒情報としての問題ではな いといえる。

しかし従来から条件付限定意見を廃止しようとする動きに対して、財務諸表の利用者の 側からの強い反対があり、財務諸表の利用者は条件付限定意見が未確定事項または偶発事 象についての危険信号として役立つと信じていた。

2.1.3 SAS第59号の公表 (1) 経緯

企業の倒産の多発により、財務諸表の利用者は企業の倒産は監査の失敗であると考えて、

監査人が監査報告書において早期警戒情報をもっと有効に提供するようにすべきであると 社会的期待を高めるようになった。これに対して、会計士業界は、監査は企業の存続能力 を保証するものではないと主張し、社会的期待と監査人との間に期待ギャップが存在する ことが認識された。そこでこの期待ギャップをうめるべく、1988年4月にSAS第34号を 大幅に改訂するSAS第59号(AICPA[1988b])が公表されることとなったのである。SAS 第59号は、GC問題が基本的に経営者の責任であることを明らかにし、監査人は基本的に 伝統的な財務諸表監査の枠内にとどまりながら GC 問題を処理しようとしたところに特徴 がある。関連規程の整備による改訂などが行われたが、SAS 第 59 号によって導入された GC問題への対応の基本的な枠組は現在まで変わっていない20。その具体的な内容は以下の 通りである。

(2) 監査人の評価責任

SAS第59号は、GC問題を財務諸表の監査において常に検討しなければならない監査人 の直接的責任の問題であるとして監査人の責任を拡張するとともに、監査人に期待できな いことを明らかにした。

まず、SAS第59号では、被監査財務諸表の日付から1年を超えない合理的期間の企業の GCとしての存続能力を評価しなければならないとして、GCに反する情報に気づいた場合 のみではなく、すべての場合に評価しなければならないことを明らかにした21。このことは、

監査人の責任が消極的責任から積極的責任に変更されたということを意味する22。 次に、SAS第59号は将来の状態又は事象を予測することは監査人の責任ではないことを 明らかにした。監査人は将来の事象を予測するのではなく、現存の状態のみを取り扱うこ とを期待されることを明らかにするため、企業の GC としての存続能力の評価のための合 理的期間を設定した。そして、監査報告書に相当の疑問が記載されなかった場合に一年以 内に企業が GC でなくなったとしても、そのことが監査の実施が不十分であったことを意

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味しないとした。このことにより、監査報告書に相当の疑問が記載されていないことが、

企業のGCとしての存続能力を保証するものではないことを明らかにした。

さらに、SAS第59号は、企業のGCとしての存続能力の評価のための特別な手続の設定 を必要とせず23、企業のGCとしての存続能力の評価を伝統的な財務諸表監査の枠内にとど めようとした。監査人は他の目的のために実施された監査手続の結果を利用して企業のGC としての存続能力に相当の疑問があるかどうかを評価し、そのような事象を認識した場合 には、その疑問を解消するのに適した監査証拠や状態及び事象についての追加的情報の収 集を行う。この際には相当の疑問を示す状態及び事象の解消のための経営者の計画の検討 を要求する。企業の存続に対する困難な問題の解消は経営者の責任であるため、監査人が 直接的に解消的要素を検討するのではなく、経営者が立案し実行する計画を検討すること としたのである。この点において、SAS第59号の手続はSAS第34号の手続よりも限定さ れている。

(3) 監査意見の表明

SAS第34号ではGC問題は監査人にとって第二義的であり、監査人が企業のGCとして の存続能力に相当の疑問があると結論した場合には、記録された資産の回収可能性と分類、

及び負債の金額と分類とを検討し、これらに問題がある場合に限り監査報告書に説明の中 間区分をつけて条件付限定意見の表明が要求されていた。これに対してSAS第59号では、

GCとしての存続能力に相当の疑問があり、かつこれが解消されなかった場合には、監査人 は①合理的期間に企業が GC として存続できない可能性の開示の十分性を検討し、かつ② 監査人の結論を表明するために、監査報告書において意見区分の後の説明区分として GC 問題を記載することとされた。

すなわち、従来は GC 問題の記載が意見区分に条件付限定意見として表明されていたも のを、説明区分のみで継承することとされた。このことにより、GC問題は経営者の財務諸 表における開示によることを基本として、監査人にその開示の十分性を検討させ、説明区 分により早期警戒情報を提供させることにしたのである。

SAS第59号をフローチャートで示すと<図表2-2>の通りとなる。

(29)

28

<図表2-2>SAS第59号のフローチャート

(出所:盛田[1990] p.80を一部修正)

財務諸表について監査意見を表明 するために監査手続を実施

SAS59号を適用しない

上記の疑いを生じる状態や事象を 明確化(para.6)

・内部問題→経営者の喪失、労働 争議等

・外部問題→訴訟事件、重大な得 意先の喪失、天災等

・消極的態勢→営業損失の反復、

運転資本の不足等

・その他→借入契約の不履行、配 当支払遅延等

継続企業としての企業存 続能力に疑いがあるか

上記の影響を解消させる経営者の 計画に関する情報を入手し、当該 計画が効果的に実施できるか検討

(para.7)

財務諸表には解消し得 なかったすべての重要 な状態や事象の開示を 含むか(para.10)

説明区分付適正意見か 意見差控(para.12・13)

はい

いいえ

はい はい

いいえ はい

・資産処分計画

・資金借入・負債再構築計画

・支出削減・延期計画

・自己資本増加計画 具体的監査手続(para.5)

・分析的手続

・後発事象のレビュー

・負債・借入契約条件への準 拠性のレビュー

・各種議事録の閲覧 等

十分な監査証拠を入手し、

それにより最初の疑いを 解消したか

いいえ

最初の疑いを生じた状 態や事象は財務諸表に 開 示 さ れ て い る か

(para.11)

GAAP 違反のため限定意見 か不適正意見(para.14)

適正意見 いいえ

参照

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