日本映画エンジェル大賞運営事務局 株式会社プロデューサーズアカデミア 上住曜子(うえずみ・ようこ)
プロデューサー自身と直接会話し、
市場性と作品の質を両立させられる企画を選ぶ
新しい才能を持った映画プロデューサーの発掘と育成を目的に、2002年 に創設された「日本映画エンジェル大賞」。完成した作品や脚本に対して与 える賞やコンテストは多数存在するが、同賞は、まだこの世に生まれていな い映画の「企画」に賞を与えるというもの。しかも、大賞受賞者には賞金 100万円の他、企画を推し進めるためのビジネスプラン開発費として500万 円、さらには劇場公開を目指し最大3億円(総製作費の50%)の製作費の出 資も受けられる。「企画」段階で、どう作品を選別していくのか、気になる ところだ。以下、事務局の上住曜子氏の話を参考にしてほしい。
日本映画エンジェル大賞が求める人材
日本には優れたクリエイターはいても、マーケットと作品を結び付けられ るプロデューサーが不足しているということから、角川歴彦会長の強いご意 向もあり、角川出版事業振興基金信託にて、プロデューサーマインドとスキ ルを持った人材を発掘・育成しようと、「日本映画エンジェル大賞」が生ま れました。
2002年9月に1回目の募集を行って以来、2005年の第5回にいたるまで、
業界紙に広報したり、時には業界外に対しても宣伝するなど、毎回、試行錯
誤をしてきました。
その中で、我々が求めている人材についてのイメージが見えてきました。
同賞では新人のためにチャンスを開きたいと思ってはいますが、映画業界に 関する知識が全くない人に対して資金提供し、製作を支援するというのは現 実的ではありません。
プロデューサーというのは、もともとビジネスマンでなければならない。
思いつきのアイディアや企画ではなく、きちんと映画というビジネスに展開 できる人材を求めていることを再確認したわけです。
選考されていく企画とは
同賞は「企画」に授賞するものですが、企画段階のものを審査するという のはかなり難しい。大賞に選ばれる企画は、「市場性と作品の質が両立され ているもの」と言うことができるでしょう。
プロデューサーである限り、「常にものを作って、それを当てる」という ことに向かっていかなければなりません。ですから、そのポテンシャルがあ る人を選ぶようにしています。
「作りたい」という気持ちばかりが先行している企画は、ある程度の選考 まで進んでも、限界があります。同賞が発足して最初の頃は、プロデューサ ーの「作りたい」という気持ちが強いものに授賞したこともありました。確 かに熱意は必要なのですが、ビジネスとして回していける人でないと、授賞 後に映画化に進んでいくことは、かなり難しいです。
最終的に「映画化し、ヒットさせる」ことが目標の賞ですから、我々は
「実現性」も重視しています。
例えば、今年3月に上映されることになった第2回受賞作品『カナリア』
は、監督とのパートナーシップが良くて、実現性も高いだろう、作品も良さ そうだし、ビジネスとしての手腕も発揮できるだろうと判断して授賞が決ま りました。結果として、素晴らしい作品が完成し、上映までいたることにな りました。
授賞作品の中には、映画化の期待が高かった企画でも、頓挫してしまった ものもあります。我々が作りたいと思っているものと、現実にはギャップが あるので、授賞企画を選ぶのは本当に難しいですね。
大賞を複数選んでいるのは、選んだもの全てが映画になるわけではないた め。理想的には全て映画化したいのですが、実際には、企画内容が時代に合 わなくなることや、開発途中でプロデューサーと監督の意見がわかれること もあるものですから。
審査の過程
応募にあたっては、アンケート形式で記入してもらう応募票と、自由形式 の企画書、あらすじ(1万字以内)、そして、脚本は任意で送っていただい ています。
審査は書類と面接で行います。「1次審査・面接」、「2次審査」、「最終面接」
という流れです。「1次審査・面接」では、企画の現実性をポイントに作品 の絞り込みを行い、「2次審査」では、評論的、ジャーナリスティックな視 点を取り込み、最終面接で大賞が決まります。
【1次審査】
1次審査の審査員は、「匿名審査員」として、業界で活躍中の現役の方々 にお願いしています。映画会社の宣伝担当、テレビ局の編成の方、配給会 社の方々など、最低でも10人程度います。
全作品それぞれに、複数の匿名審査員が必ず目を通すように割り振って います。それぞれの匿名審査員が応募企画に目を通してから、審査会議が 開かれて議論が繰り返され、選考に入ります。この審査会議で、作品はほ ぼ3分の1に絞られます。
この時、審査員の方には「今の自分の立場だったら、この作品を買いま すか? 興味がありますか? 取り組んでみたいですか?」というような 感じでお聞きして、 企画の実現性 をポイントに審査していただくように しています。
【1次面接】
第1次の書類審査で残った企画については、次に面接を行います。審査員 は、引き続き、1次書類審査の時と同じ匿名審査員です。
面接と言っても、審査員は「匿名」なので、プロデューサーズアカデミ アのスタッフが審査員の代わりに質問をして、その様子をビデオに収め、
それを審査会議の場で流して、議論をしていくことになります。この面接 を経て、企画は10作品程度に絞り込まれていきます。
【2次審査】
2次審査の審査員は、1次審査員とは違う方にお願いしていますが、こち らもやはり匿名。2次審査員は、最終審査員である角川歴彦氏(基金委託 者・角川書店会長)、羽佐間重彰氏(基金運営委員会委員長・産経新聞社取 締役相談役)、原正人氏(プロデューサーズアカデミア会長・アスミック・
エース エンタテインメント会長)の3人の指名により依頼された、プロの評 論家やジャーナリストの方々によって構成されます。
ここでは、作品の絞り込みを行うわけではなく、1次面接を通った約10作 品程度について、評論家やジャーナリストの視点からの評価をお聞きする 場となります。
【最終面接】
最終面接の審査員は、角川歴彦氏、羽佐間重彰氏、原正人氏の3人。対象 者に対して、かなり厳しい率直な質問がなされます。ここで、大賞4作品が 決定されます。
書類で企画を判断する
最終的にどんな商品として見せたいのか、ということがプレゼンできて いる企画書であれば、表現の仕方は自由です。
結果として、「なぜ今この時代に、この作品を作りたいと思っているのか」
といったことから、「ターゲットは誰か」、「お金をどう集めたいのか」、「作 品はどこで上映したいのか」、「製作にはどれくらいの予算が必要か」、「資 金の回収方法は」といった収支のプランまで、しっかり考えられているも のが選考に残る傾向にあります。「実現性のある予算計画か」という視点で
も判断しますが、これは、小さい規模の作品を安く作れればいいというこ とではありません。作りたい作品の規模に見合った、適正な予算を組んで いるかどうかが重要なのです。
このあたりについては、応募の時に送っていただく応募票が重要な判断 材料となります。応募票には、任意のアンケート項目として、配給会社や 劇場のイメージ、宣伝費の予算などを書き込む欄があります。任意ではあ りますが、ここは審査員が必ずチェックする項目となっていますね。
こう見てくると、日本にはどんな興行形態、どんな配給会社、どんな劇 場があるのかということは最低限知っていて、その中から自分の作りたい 映画のケースをイメージできていることが好ましい。ここまで考えられて いれば、どんなターゲットを想定しているかがわかるので、たいへん重要 なポイントとなるのです。
また、プロデューサーとしては、良い企画を見る目があるかどうかが大 前提ですから、企画のおもしろさが伝わる企画書でなければなりません。
さらに無視できないのがプロデューサーとしてのマインド。こういったこ とも、企画書に出てくるものです。我々は、漠然と映画を作ってみたい人 ではなく、本当に映画を作りたい人、本当に映画を当てたいと思っている 人を選びたい。そういう人の企画書にはリアリティや説得力があるもので す。
ちなみに、審査においては、多くの審査員が関わっているので、簡単に 意見は一致しません。だからといって、多数決をとって、全員が納得でき るような中間的なものを選ぶのではなく、審査員の誰かが強く押した企画、
その企画を押す理由にこそ耳を傾けるべきだと考えて、審査にあたってい ます。
面接で企画を判断する
我々は、面接も非常に重視しています。プロデューサーという役割を考 えると、人柄を重視するのは当然のこと。
プロデューサーは、クリエイターである監督や脚本家と、しっかりした パートナーシップを組まなければいけない。一方で、出資してくれる人に 対して、ただお金を集めるだけでなくて、それを回収させなければならな い。それには、時には客観的に映画そのものを判断する力も必要だし、同 時にお金の計算もできなければならない。それができる人、そういった可 能性を持った人は、書類からだけでは判断できないのです。
さらに言うと、我々はかなりの金額の資金提供をするわけですから、出 資する相手がどんな方なのか知りたいという思いもあります。実際に、
我々は受賞者をインキュベートし、一緒に取り組んでいくことになります。
なので、企画書だけでは見えないことについてもっと意見交換したいと考 えているのです。
映画を作りたい人にチャンスを
この賞は、賞金を与えて終わり、という賞ではありません。「映画を作り たいと思っていても資金的に難しい」という人に資金を提供することで、
日本の映画界を活性化する優れた映画を生むチャンスを与えたいと思って