(注-60)フリーのプロデューサーを経て 1986年にセゾングループ㈱西友に入社、『帝 都 大 戦 』、『 ジ パ ン グ 』 他 プ ロ デ ュ ー ス 。 1991年、TBS中途入社。映画専門職として 40本以上の作品をプロデュース。担当作品 は『陰陽師』、『陰陽師Ⅱ』、『あずみ』、『木更 津キャッツアイ 日本シリーズ』、『半落ち』、
『世界の中心で、愛をさけぶ』、『いま、会い にゆきます』、『下妻物語』など
企画書を書くことの重要性
企画書は、若いプロデューサーにとって必ず通過しなければならないプ ロセス。映画というのは、「無から有を生じさせる」わけですから、少しで も相手に手がかりを知ってもらうためのものが企画書だということをよく 考えるべきでしょう。
企画書の成立の仕方というのは、本当に様々です。
極端な話、企画書という形で発揮できなくても、それ以外の形で相手に 伝えることができるなら、企画書がなくてもその企画は成立すると思いま す。例えば、原作の肝の部分をわかりやすく書いてあれば、それで十分と いう企画もあるのかもしれません。
企画提案書っていうのは、ある重みがないといけない。その重みがわか る人であればあるほど、実現化していく力を持った人だと思いますね。そ こに、紙が重要かどうかは関係ないんです。
「なぜ企画書が重要なのか」ということを考えてみれば、映画の企画を立 ち上げる時に必要な要素というのがあらためてわかるでしょう。
そういう意味で考えても、企画書というのは、映画化という目的のため の第一段階として必要なものなので、企画書の書き方について、一度は必 ず勉強しなければならないと思います。
企画書に入れる第一は「内容」
具体的なポイントについて、少しお話しましょう。
まず内容面。内容が一言、二言でシンプルに伝わるようなものになって いるか。原作ものに特化した場合、原作を読まなくても、どういう物語で あるかが企画書を見ればわかるというのは大前提。
その先にあるシノプシスも、長すぎると読み疲れてしまいます。「おもし ろそうだ、読んでみよう」という気にさせられるかどうかが重要。
作り手がシンプルに内容をまとめていて、どこが魅力であるかをちゃん と押さえている企画書は、本人がその企画の最も魅力的なポイントを把握 しているという証拠になります。そういう企画だったら、その後製作して いく際にも、シナリオや宣伝の詰めどころを理解しながら進行していける。
逆に、その都度議論を紛糾しながらやるものは、後々、問題も起こりがち ですね。そうは言っても、ポイントを正確に押さえるのって難しいんです よね。いくつもこなしてきた僕達でさえ、間違いはありますからね。
映画作りというのは共同作業です。プロデューサーである僕らの立場と 監督の立場の間で、感動のポイントがずれているだけでも、製作は進まな いものなんです。実際に、途中でストップしてしまった企画もあるんです。
ビジネス的な背景も必須事項
映画の企画については、その入り口(=内容についてのキャッチ的なこ と)がまず大事ですが、さらに、キャスティング、バジェット、ターゲッ トなどの情報も必要になってきます。
キャスティングについても、イメージ想定されているだけのものなのか、
もしくは決定しているものなのかは気になりますね。一つでも決まってい
れば、より具体性・現実性が増します。そういうプラスの情報をどれだけ 足していけるかが、企画書の重要なところではないでしょうか。
企画書において忘れていけないのは、ビジネス的な背景がちゃんと入っ ているかどうかということ。5W1Hは基本。どんないい企画でも、いつ、ど んなタイミングで、どういう費用でやるかによって、大きく変わってしま うものなんです。どんなにやりたくても、ラインナップ的に無理だと判断 すればやらないという判断になりますから。
ボードメンバーによる会議で選出
TBSに対する企画提案は、ほとんどが人脈的なつながりから来ますが、中 には、どこで連絡先を聞いたのか、突然私の携帯電話にかけてきて、話し に来る人もいます。
たいていの場合は、企画書が持ち込まれる時に本人と会います。そこに 書かれているポイントをあらためて本人の口からプレゼンテーションして もらいます。それが企画書とずれていたり、企画書はうまくまとめられて いても本人の話がまとまっていなかったりすると、「おや?」と思いますね。
企画書に美辞麗句が並んでいても、実態は違っていたり、質問してみると リアリティがないということも多分にあるんです。例えば、あたかもキャ スティングが「内定」とか「決定」と明言されていても実際は違うなんて こともある。怪しいと思った時は、失礼かとは思いますが、裏をとること もありますよ。
何しろ大きなお金が動く話なので、その辺は僕らも慎重になります。
ですから、プロジェクトの持つ問題点や課題を明確に理解していて、提 案書の中で語られていると安心できたりしますね。
プロデュース活動というのは、はじめはプラスのモチベーションから入 りますが、それ以降は無数の障害があり、ネガティブなものをどう乗り越 えていくかということになっていくもの。全く問題がないプロジェクトな んてない。なので、マイナスの部分に全く言及していない企画は、逆に心 配です。
基本的には、提案を受けたものは10人のボードメンバーによる会議にか けます。
そこで成立するものというのは、自動発生的に皆がおもしろいと思うも のであることが多いですね。そういう企画は、課題についても、建設的な 意見が積極的に出てきたりするものなんですよ。
よく、多数決で全員一致の時はかえって危険だとか、たった一人の情熱 的な人が、猛反対にあっても押していたら、その情熱は買うべきだという 意見を聞きます。それは一つの正論だとは思うのですが、僕が知る限り、
1:9ほどの少数派では、やはりつらい。映画はいろんな人を巻き込んでい かないといけないビジネスなので、1:9で共感してもらえないようなもの は、問題があると思いますね。
この会議でほぼ決まり、最終ジャッジをすると、後は個々の担当プロデ ューサーの責任において進めることになります。よほどのことがない限り 後戻りはしませんから、最初にGOを出すかどうかの判断はすごく重要だと 考えています。
ちなみに、プレゼンの技法について、僕が重要だと思うのは、自分のパ
ーソナリティをどう把握しているか。ハッタリ性がなく実直さが魅力の場 合もあれば、劇的なパフォーマンスとトークで魅了するキャラクター勝負 の方もいる。自分自身を生かせるスタイルを見つけることが大切でしょう ね。
インディペンデントプロデューサーの強み
では、いったいどういう持ち込まれ方をすると成立に結び付くかという ことですが、まず、最も大きな要素は、企画そのもの、素材自体の重要性 だと思います。
原作があるなら原作の権利とか、オリジナルならオリジナルの何かをつ かんでいるとかであれば企画は成立する。つまり素材をどうつかんでいる かということなんです。
僕自身の経験で言うと、おもしろいと思った素材は、個人の立場のプロ デューサーであっても、映画化権を取得した方がいいでしょう。口頭でも
「君に任せるよ」という言葉をもらってから、外に提案を始めるべきです。
インディペンデントのプロデューサーが、素材と共に自らも起用してもら うためには、そういう 根幹の鍵 を握っていないと、アイディアだけ持 っていかれてしまうケースだってあるんですよ。
一般の映画会社やテレビ局などの企業が「素材」に対してアプローチす るのと比べると、個人で動くのは自由で融通が利く点があります。例えば、
何かしらの人脈を辿って、原作者に辿り着けることもあるでしょう。一般 の企業では行けないルートからアプローチするのは、インディペンデント の方法論であり、強みだと考えていいのではないでしょうか。
私の知っている某プロデューサーは、原作の権利こそ持っていなかった けれど、見つけた素材の料理の仕方まで提案することで、皆を巻き込むこ とに成功しました。彼が見つけた素材は、なんと「詩集」でした。そこか らインスパイアされ、彼は自らストーリーを組み立て、シナリオまで作っ て提案してくれたんです。そこには、下手な 能書き などは必要ありま せんでした。
何が「鍵」であるかを見極め、その「鍵」をいかに握るかが、インディ ペンデントの勝負どころだと思います。その人独自の切り込み方、料理の 仕方があってこそ、その人に原作がついていくだろうし、その人自身のク リエイティビティにもなります。
「鍵を握れ」と言うことは簡単だけど、実際はスピードも必要だし、誰に も注目されてないうちから原石を見極める力も必要です。でも、まさにそ れこそが突破口なのではないでしょうか。
こういった積み重ねをしていくと、自分が仕掛けているものだけじゃな く、次第に声がかかるようにもなってくるものです。
㈱博報堂DYメディアパートナーズ エンタテインメント・文化事業局 局長 安永義郎(やすなが・よしろう)(注-61)