第 6 章 余暇における短期旅行とメンタルヘルスとの関連
第 2 節 余暇がメンタルヘルスに及ぼす心理的影響(研究 4-1 )
1. 方法
1) 調査参加者
東京都内に本社がある一部上場企業のA社の管理部門に勤務する25歳から60歳までの 男女50名(女性31名,男性19名)が参加した。A社は建設業を主とする企業である。調
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査参加者の平均年齢は40.9歳(女性41.5歳,男性40.0歳;SD = 10.88歳)であった。本 研究のサンプルサイズは,中程度の効果量(Cohen, 1992)を想定した場合,適切な検出力
(1-β = .90)を持っていることを確認した。
2) 調査時期
調査は2014年6月から9月にかけて実施した。
3) 手続き
調査参加者を余暇・旅行群(n = 17),研修群(n = 16),対照群(n = 17)に無作為に割 り当てた。なお,各参加者は無報酬で本研究に参加したが,余暇・旅行群の設定のために 発生した宿泊費の一部は,調査者が負担した。
余暇・旅行群は,2014年7月から8月にかけての週末に,都内もしくはその近郊から山 梨県内の宿泊施設に移動し,宿泊型余暇を体験した。当該施設はメンタルヘルスの疾患に 罹患していない,いわゆる健常者のメンタルヘルスの向上を目的に設置された新しい形態 の施設である。従来の保養を目的とした温泉施設とは異なり,睡眠リズムの形成,運動,
食餌療法,農園を活用した作業療法,禅やヨガなどを取り入れたリラクセーションプログ ラムを提供している点が特徴である。
余暇・旅行群の参加者は,施設に到着後,事前に用意されたプログラムに参加した。プ ログラムは2日に分けて実施され,セルフケアに関する講習,森林浴ならびにヨガエクセ サイズによって構成されていた。森林浴(Park, Tsunetsugu, Kasetani, Kagawa & Miyazaki, 2010)とヨガエクセサイズ(Ross & Thomas, 2010)は,どちらもメンタルヘルス向上の効 果があることが確かめられている。プログラムの提供者は,従業員支援プログラムを専門 とする40代の当該施設の専門スタッフが務めた。2日間にわたるプログラムはおよそ6時 間であった。
研修群は,2014年7月に都内にて,教育研修を集団で受講した。研修内容は効果的なス トレス対処方法に関するものであった。参加者は,余暇・旅行群と同様のセルフケアに関 する講習とマインドフルネスに基づくストレス対処法を体験した。同様にストレスに関す
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る講習が,ストレス低減をもたらすかを検証した小坂(2010)の研究では,1時間の研修 を2回に渡り実施しているが,本研究においては,研修は1回のみの実施であるため,研 修時間は,およそ1時間半とした。研修の講師は,上述したスタッフが務めた。
対照群は,2014年7月に都内にて調査の趣旨説明のみを受けた。かかった時間はおよそ 30分であった。
効果の検証に用いる指標の測定は,後述する尺度で構成される質問紙を使用した。質問 紙の測定は,それぞれの事前と直後ならびに一週間後の3回行った。ただし,抑うつと睡 眠の質を測定するCES-DとPittsburgh Sleep Quality Index(以下,PSQIとする)は,一定期
間(e.g., 一週間)の抑うつと睡眠の質の程度を測定する尺度であるため,この2尺度につ
いては事前と一週間後の2時点のみで測定した。本研究で使用した心理尺度と測定時期 は,Table 6-1の通りである。
Table 6-1 使用尺度と測定時期
4) 調査票の構成
調査票は,年齢・性別を尋ねるフェイス・シートと以下の尺度によって構成された。
Positive and Negative Affect Schedule(PANAS) PANASは,感情ならびに気分を簡便 事前 直後 一週間後
1 PANAS ○ ○ ○
2 SHS ○ ○ ○
3 職業性ストレス簡易調査票 ○ ○ ○
4 CES-D ○ ○
5 PSQI ○ ○
測定時期
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に評定可能な尺度である。ポジティブ情動(PA:Positive Affect)とネガティブ情動
(NA:Negative Affect)をそれぞれ測定する(佐藤・安田,2001)。“現在のあなたの気分 について伺います” という教示文と,“わくわくした”,“活気のある”,“びくびくした”,
“心配した” などの12項目から構成されている。“全く当てはまらない”から“非常によく当
てはまる”までの7件法で回答を求めた。
Subjective Happiness Scale(SHS) SHSは,Lyubomirsky & Lepper(1999)によって作 成された主観的幸福感を測定する尺度である。“全般的にみて,非常に幸福な人たちがいま す。この人たちは,どんな状況のなかでも,そこで最良のものをみつけて,人生を楽しむ 人たちです。あなたは,どの程度,そのような特徴をもっていますか?” などの4項目か ら成る。7件法で回答を求めた。主観的幸福感が高い人は健康であり,特に抑うつと負の 相関関係にあることが示されている(島井・大竹・宇津木・池見,2004)。本研究では,
彼らが作成した日本語版を使用した。
職業性ストレス簡易調査票 平成7年度から11年度に労働省「作業関連疾患の予防に関す る研究班」ストレス測定研究グループが,既存の多くのストレスに関する質問票を検討 し,職場で簡便に測定・評価することを目的に開発したものである。また,第2章で述べ たストレスチェック制度において,今後の使用が推奨されている。この調査表から“ひどく 疲れた”,“ゆううつだ”などの「疲労」や「不安」に関する9項目を抜粋して使用した。具 体的には,“今日のあなたの状態についてうかがいます”と尋ね,“ほとんどなかった” から
“ほとんどいつもそうだった” の4件法で回答を求めた。
CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression) “普段はなんでもないこと で困る”,“物事に集中することができない” などの過去一週間の抑うつ状態に関係する身 体的および精神的症状の程度を問う,一般人口中の抑うつ状態の程度の測定する尺度であ る(島他,1985)。全20項目に対して,4件法で回答を求めた。
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Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI) 睡眠には,身体的疲労を回復させる役割があ ると同時に,睡眠時間の長期的な障害はさまざまな疾患を引き起こす可能性があることが 知られている(e.g., 松田他, 2012)。うつ病は,そのような疾患の代表的なものであるとさ れ,うつ病患者のおよそ9割が,睡眠に関する問題を抱えているという(Tsuno, Besset &
Ritchie, 2005)。また,DSM-Vによるうつ病の診断基準にも睡眠の変化が含まれている
(Table 1-1参照)。そこで,本研究では調査参加者の睡眠の質を測定するため,Buysse, Reynolds, Monk, Berman & Kupfer(1989)が作成したPSQIの日本語版(土井・蓑輪・中 山・大川,1998)を使用した。
この尺度は,就寝時刻,入眠時間等の項目を通じて,睡眠習慣や睡眠の質を測定する。
回答者は,就寝時刻,入眠時間,起床時刻や睡眠時間に関する質問項目について該当する 数字を記入し,それ以外の項目については,4件法の中から該当する選択肢を選択する。
全18項目の質問を用いて,睡眠の質に関する7つの要素をそれぞれ得点化する。睡眠に 問題がないとされるのは6点未満であり,得点が高いほど睡眠の質が低下していることを 意味する。