第 7 章 余暇によるメンタルヘルスの維持・向上要因の検討(研究 5)
3. 夏季休暇の記憶と満足感が主観的幸福感に及ぼす影響
夏季休暇中の記憶に関する6項目について,確証的因子分析(最尤法)を行った。3因 子構造を想定したモデルでの適合度指標はχ2(6) = 17.06, p < .01, GFI = .975,AGFI = .911,
RMSEA = .091であった。また,6項目全てを一つの1因子と仮定したモデル(χ2(6) = 254.06, p < .01, GFI = .767,AGFI = .455,RMSEA = .350)と,「リハーサル」の2項目と
10 11 12 13 14 15 16 17 18
休暇前 休暇後 一ヶ月後
主 観 的 幸 福 感 得 点
旅行群 対照群
*
* p< .05, **p< .01
** **
107
「写真の振り返り」に関する2項目とを統合した上で,全体を2因子構造と仮定したモデ ル(χ2(6) = 58.29, p < .01, GFI = .925,AGFI = .804,RMSEA = .168)の適合度を算出した が,適合度の基準を満たさなかった。それぞれの構造別の適合度指標を表7-2に示す。表
中のAIC(Akaike Information Criterion)は,異なる複数のモデル間の比較をするための指
標であり,値が小さいほど測定データへの適合が良いことを示しているとされている
(Akaike,1987)。
各適合度指標から,夏季休暇中の記憶に関する6項目については3因子構造が妥当であ ると判断し,2項目ごとの合計得点を算出した。外山他(2015)を元に各変数を「記憶の 鮮明さ」,「リハーサル」ならびに「写真の振り返り」と命名した。それぞれの項目内容を
Table 7-3に示す。また,Cronbachのα係数を算出し,十分な内的整合性を有していること
を確認した。
Table 7-2
夏季休暇中の記憶に関する6項目における構造別の適合度指標
モデル GFI AGFI RMSEA
1 因子構造 .767 .455 .350 278.06
2 因子構造 .925 .804 .168 84.29
3因子構造 .975 .911 .091 47.06
AIC
108 Table 7-3
夏季休暇中の記憶に関する項目の平均および標準偏差
次いで,各変数間の相関係数を群ごとに算出した(Table 7-4)。旅行グループと対照グル ープの両方で,両群において,全ての時点における調査協力者の主観的幸福感と余暇満足 感との間に有意差な相関が確認された(rs = .18 ~ .44, ps <.05)。一方,旅行群では,リハー サルは主観的幸福感と正の相関を示したが(rs = .19 ~ .30, ps <.10),対照群では有意ではな かった。
M SD
夏季休暇中の出来事を鮮やかに覚えている 2.36 1.33 夏季休暇中の出来事を強く覚えている 2.38 1.32
夏季休暇中の出来事をこの一ヶ月の間に人によく話した 1.99 1.21 夏季休暇中の出来事をこの一ヶ月の間によく思い返した 2.04 1.23
夏季休暇中に撮った写真をこの一ヶ月の間によく見た 1.95 1.24 夏季休暇中に撮った写真をこの一ヶ月の間に人によく見せた 1.70 1.07 写真の振り返り(α = .90)
項目 記憶の鮮明さ(α = .95)
リハーサル(α = .94)
52
Table 7-4 各変数間の相関係数
109
M SD M SD M SD
1 主観的幸福感(Time 1) 15.42 3.02 14.20 3.46 14.63 3.35 .72 ** .71 ** .19 † .06 .02 .26 * 2 主観的幸福感(Time 2) 15.25 3.22 13.82 3.46 14.33 3.44 .74 ** .75 ** .30 ** .13 .20 † .26 * 3 主観的幸福感(Time 3) 15.13 3.30 14.20 3.32 14.53 3.34 .73 ** .77 ** .30 ** .16 .18 .44 **
4 リハーサル 7.47 1.81 3.50 1.91 4.67 2.51 .03 .10 -.04 .67 ** .68 ** .48 **
5 記憶の鮮明さ 6.80 2.01 4.00 2.17 5.23 2.64 .05 .07 -.07 .72 ** .48 ** .30 **
6 写真の振り返り 6.13 2.27 3.36 1.89 4.34 2.42 .00 .07 ** -.03 .84 ** .69 * .39 **
7 余暇満足感 7.00 2.13 4.49 2.36 5.38 2.58 .20 * .18 * .20 * .21 ** .18 * .10
―
―
―
―
―
†p < .10, *p < .05, **p < .01
Note. 表内の相関係数について,右上は旅行群、左下は対照群の相関係数を表す
4 5 6 7
―
3
― n = 77 n = 144 N = 221
1 2
旅行群 対照群 合計
110
調査協力者における主観的幸福感と各変数間の関係をより理解するために,主観的幸福 間の時系列変化を表すモデルを作成した。なお,モデルの検証にあたり,「記憶の鮮明 さ」,「リハーサル」と「写真の振り返り」の3つの測定変数間の相関が高かったため(r
= .74 - .85),これらの変数に影響を及ぼす「記憶の振り返り」という高次の因子を仮定し
た。検証したモデルとその適合度をFigure 7-3に示す。当該モデルの適合度はχ2 (11) = 16.57, ns., GFI = .968, AGFI = .917, CFI = .969, RMSEA= .048であったことから,データに対 して十分な適合を示していると判断した。
Figure 7-3. 主観的幸福感と余暇の記憶および満足感の関係
分析の結果,影響は比較的弱いものの,記憶の振り返りは主観的幸福感(Time3)に有 意な負の影響を及ぼし(β = -.12, p < .05),余暇満足感は主観的幸福感(Time3)に有意な 正の影響を及ぼしていることが確認された(β = .15, p < .01)。
余暇満足感
記憶の 振り返り
記憶の 鮮明さ リハーサル
写真の 振り返り
*p < .05, **p <.01 χ2(11) = 16.57, ns., GFI = .968, AGFI = .917, CFI = .969, RMSEA= .048
.53** .15**
.88**
.97**
.85** .27** .50**
.36**
-.12*
.73**
主観的幸福感 (Time 1) 主観的幸福感
(Time 2)
主観的幸福感 (Time 3)
111
次いで,グループ間で異なる相関関係が確認されたことを踏まえて,群別に多母集団同 時分析を行い,各因子から観測変数への影響パターンが等価であるかを検討した(Figure 7-4)。その結果,十分に高い適合度が得られた(χ2 (22) = 23.99, ns., GFI = .982, AGFI = .934, CFI = .988, RMSEA= .020)。
Figure 7-4. 郡別の主観的幸福感と余暇の記憶および満足感の関係
群にかかわらず,主観的幸福感(Time 1)から主観的幸福感(Time 2)(旅行群ではβ
= .72, p < .01; 統制群ではβ = .72, p < .01),主観的幸福感(Time 1)から主観的幸福感
(Time 3)(旅行群ではβ = .31, p < .01; 統制群ではβ = .37, p < .01),主観的幸福感(Time 2)から主観的幸福感(Time 3)(旅行群ではβ = .48, p < .01; 統制群ではβ = .50, p < .01), ならびに記憶の振り返りから余暇満足感への正のパス(旅行群ではβ = .53, p < .01; 統制群
余暇満足感
記憶の 振り返り
記憶の 鮮明さ リハーサル
写真の 振り返り
主観的幸福感 (Time 1) 主観的幸福感
(Time 2)
主観的幸福感 (Time 3)
*p < .05, **p <.01 χ2(22) =23.99, ns., GFI = .982, AGFI = .934, CFI = .988, RMSEA= .020
Note. 左の数値は旅行群、右の数値は統制群の標準化推定値を表す
.53**/.22*
.25**/.10
.96**/.94**
.70**/.78** .32**/.10
.48**/.50**
.31**/.37**
-.02/-.13*
.72**/.73**
.73**/.91**
112 ではβ = .22, p < .05)が有意であった。
一方,主観的幸福感(Time 2)から記憶の振り返り(β = .32, p < .01),記憶の振り返りか ら余暇満足感(β = .53, p < .01),ならびに余暇満足感から主観的幸福感(Time 3)(β = .25, p < .01)への有意な正のパスが確認されたのは旅行群のみであった。なお,これらのパス について,パラメータ間の差の検定を行ったところ,群間のパス係数が有意に異なってい ることが認められた(ps < .05)。すなわち,余暇の記憶が,満足感を介してその後の主観 的幸福感にポジティブな影響を及ぼしていたのは,旅行群のみであった。