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文脈依存型の確定値付与とその問題点

ドキュメント内 量子論における非局所性 (ページ 85-94)

定値にそれぞれの関数を適用するものだが,そういった測定における各物理量の測定値間 の関係が「文脈依存型の確定値付与」においては満たされないことになってしまう.

以上の二つの規則から,「文脈依存型の確定値付与」においても69頁と同じやり方で,

次の「文脈内の和の規則」を示すことができる.自己共役作用素YZ はともに極大自己 共役作用素X の関数であり,それらはともに文脈としてXをとりうるとする.

文脈内の和の規則 [Y +Z]<X> = [Y]<X>+ [Z]<X>である.

この規則を極大自己共役作用素X のスペクトル射影に繰り返し適用すると,次の規則が 得られる.

加法的真理値付与 射影作用素P は,極大自己共役作用素Xのスペクトル射影{PxX

i}i∈I

の一部(あるいは,すべて)の和である,すなわちP =∑

jJ(I)PxXj である,と する.そのとき,

[P]<X> = ∑

j∈J(⊆I)

[PxXj]<X>

である.

X の1次元スペクトル射影すべての和は単位作用素I であった.その和に「加法的真理 値付与」を適用すると,

[I]<X> = [PxX1]<X>+ [PxX2]<X>+· · · ·+ [PxXN]<X>

となる.スペクトル規則より,左辺は1,右辺の各項は0か1である.このことから,右 辺の項のうち,一つだけが1,残りすべてが0となる.そこで,1を「真」,0を「偽」と 解釈できる.

方において,AC の値を関連付ける制約はない.というよりむしろ,そのような制約 をなくすことで,コッヘン=シュペッカーのNO-GO定理を回避したのであった.そのよ うな制約が必要でないと考える根拠は,ベルが指摘した次の点であった.AC は非可 換でありそれらを同時測定できないので,値の一致,不一致を確かめることはできない.

しかし,まずAを測定し,引き続きC を測定してそれらの値を比較対照することなら できる.先に行われるA測定は対象系の状態を乱さない,いわゆる「擾乱なし」の測定 であるとする.「擾乱なし」の測定によって意味するのは,測定相互作用直前に対象系が Aの固有状態にあるときには測定相互作用が終了した時刻においても同一の固有状態にあ り対象系の状態は乱されない,ということである.A測定がこのような「擾乱なし」の測 定であるとき,これからみるように量子力学が与える確率的予測によると,Aの測定結果 がak であることと,C の測定結果がck であることとの間には完全相関があることがわ かる.

次のような,少々変則的なACの連続測定を考える.系Iは対象系,系IIは対象系 の物理量Aの測定装置(の一部)であり,そのメーター物理量をM とする.t=t0 から t=t1まで系Iと系IIは相互作用し,系I+IIの初期状態が,Aの固有状態|aiiと測定装 置の基底状態(測定相互作用直前の状態)|m0iの積状態であるときには,

|aii ⊗ |m0i 7→ |aii ⊗ |mii

のように時間発展するとしよう.系Iの初期状態が重ね合わせの状態∑

iαi|aiiであると きには,時間発展の線形性より

i

αi|aii ⊗ |m0i 7→

i

αi|aii ⊗ |mii のように時間変化する.

この段階で,系IのCと系 IIのM の同時測定を行うとしよう.t1 から系IIのM を 測定すると,t0 におけるAの測定値が得られる.これは間接測定であり,まず系I と系 IIが,系I の状態を系IIへと写すように相互作用し,続けて第三の系によって系IIを測 定するのである.t0 からはじまるこの一連のプロセスをA 測定と考えることができる.

すると,このようなM の測定とC の測定を同時に行うと,t0 におけるAt1 における Cの測定結果を比較対照できる.時刻t1 における系I+IIの状態から,「Aの測定値がak

である」確率P r(A= ak),「Cの測定値がckである」確率P r(C =ck),および「A の 測定値がakであり,かつC の測定値がckである」確率P r(A=ak, C =ck)について,

P r(A=ak, C =ck) =P r(A=ak) =P r(C =ck) =k|2

であることがわかる.そのとき,

P r(C =ck|A =ak) =P r(A=ak|C =ck) = 1

であり,「Aの測定値がakである」ことと「C の測定値がck である」こととの間に完全 相関がある.

もちろん,「文脈依存型の確定値付与」において考えられているのは同じ時刻における AC の値である.一方,前段落で述べた連続測定による議論で考えられているのは,

異なる時刻t0t1 における,それぞれ,ACの値である.そこで,異なる時刻におけ るAC の値の間には完全相関があるのだが,同じ時刻においてはそのような相関はな いと考えることも,少なくとも論理的には可能である.ただし,そのように考える場合に は,なぜ同時刻においてはみられなかった値の一致が,わざわざ時間差を設けることで得 られるのか,なんらかの説明をあたえる必要があるだろう.

問題点2:非局所性

続けて,結合系において「文脈依存型の確定値付与」を考えると局所性に関する興味深い 困難が生じるという議論を紹介する.はじめてそのような議論をしたのは科学哲学者のヘ イウッドとレッドヘッド [24]である.その後,同じ結論を別の仕方で与える議論をやは り科学哲学者であるステアーズ [43]が提示した*37.これから,ステアーズの議論を本章 のスタイルに合わせて再定式化したものを紹介する.

以下では,スピン1の「1重項状態」(65頁の(19)および(20)にあるスピン1の2粒 子からなる結合系における,それぞれの粒子のスピン成分を具体例に議論を進める.ま ず,4.1節で説明した次のことを再確認してほしい.

物理空間(3次元実空間)における任意の直交系(x, y, z)での各スピン成分jxjyjz は3次元ヒルベルト空間上の極大自己共役作用素によって表される.

各スピン成分の固有値0の固有状態|jx = 0i|jy = 0i|jz = 0iは相互に直交 する.

これら三つの状態は,極大自己共役作用素

K[x,y,z] (jx)2 (jy)2 の,それぞれ固有値1,+1,0をもつ固有状態である.

*37ヘイウッドとレッドヘッドの議論はレッドヘッドの教科書[40]に再録されている.また,ステアーズの 議論は[11]で厳密かつ簡潔に再定式化された.

物理空間(3次元実-空間)における直交系をどのようにとろうとも,「1重項状態」

の式の形は不変である.

さて,前節で述べた「文脈依存型の確定値付与」の考え方は,主として1粒子からなる 系を念頭においていた.これからの議論のために,2粒子系における表記の仕方を確認し ておきたい.まず2粒子系における「文脈」の指定についてだが,粒子1と粒子2それぞ れのヒルベルト空間上の極大自己共役作用素からなるペアによって2粒子系の文脈が指定 されると考える.例えば,粒子1については文脈jx を,粒子2については文脈jy を考え る場合,それらの結合系の文脈を< jx, jy >と表記する.文脈< jx, jy >において,結 合系のヒルベルト空間上の射影作用素(例えばP0jx ⊗P0jy)に付与される0,1は,すな わち[P0jx ⊗P0jy]<jx,jy> の値0,1は,文脈< jx, jy >における「粒子1のjx の値は0 であり,かつ,粒子2のjy の値は0である」という命題の真理値である.

もう一つ具体例を挙げよう.以下の議論では,[I⊗P0jy]<jx,jy>のように,個別の粒子 のヒルベルト空間上の単位作用素を用いた形式が頻繁に登場する.このような場合,付与 される0,1は,文脈< jx, jy >における,「粒子1のjx の値はその固有値のどれか一つ であり,粒子2のjy の値は0である」という命題の真理値である.粒子1について与え られる情報は自明なものなので(単に固有値に属するどれかの値をとるといっているにす ぎない),この命題を,文脈< jx, jy >における「粒子2のjy の値は0である」のように 粒子1についての情報を省略して解釈してよい.

次に,2粒子系における付値が,満たすべきと考えられる二つの条件をみていこう.

局所性 P は粒子1のヒルベルト空間(H1)上の任意の射影作用素であるとする.また,

XH1 上の極大自己共役作用素であり,その1次元スペクトル射影すべての和,

あるいは一部の和としてP を表すことができるとする.(よって,XP の文脈 でありうる.)そのとき,粒子2のヒルベルト空間(H2)上の任意の極大自己共役 作用素YY0 それぞれを用いて指定される文脈について,

[P ⊗I]<X,Y > = [P ⊗I]<X,Y0>

である.

この条件によって,粒子1についていかなる事態が成立しているのかは,粒子2の文脈に 依存しないということが要請される.この条件を課す動機は,ファン・フラーセンの回避 策よりもベルの回避策で考えるほうが理解しやすいだろう.ベルの考えでは,ある物理量 をそれ以外のいかなる物理量の関数として測定するのかに応じて文脈は指定されるのだっ た.粒子2について,測定直前までY 測定をする設定であったが,突然Y0 測定をする設

定に変えたとしよう.粒子2の文脈を突然変更するのである.そのとき,もし「局所性」

が成立しないならば,粒子2の設定を変更したことによって,粒子1のあらかじめ決まっ ていた測定値は変わることになってしまう.さて,上述の条件では,粒子1の設定を変更 したときの粒子2の値についてはなにも述べていない.もちろんこの場合にも同様の条件 が成立すべきである.この条件もあわせて以下では「局所性」と呼ぶ.

続けて,二つ目の条件をみていこう.

同時付値の規則 PQは,それぞれ,H1H2 上の射影作用素であるとする.また,XH1上の極大自己共役作用素であり,その1次元スペクトル射影すべての和,あ るいは一部の和としてP を表せるとする.同様に,YH2 上の極大自己共役作 用素であり,その1次元スペクトル射影すべての和,あるいは一部の和としてQ を表せるとする.(よって,XY はそれぞれPQの文脈でありうる.)量子論 的状態|Φiによって,PQに同時に付与される確率が0であるならば,すなわ ちhΦ|P ⊗Q|Φi= 0であるならば,

[P ⊗I]<X,Y > = 0あるいは[I⊗Q]<X,Y > = 0 である.

この条件を課す動機は次の通り.この規則が述べている状況では,文脈を考える以前にそ もそも「P かつQ」に付与される確率は0である.そこで,任意の文脈において「P かつ Q」が真である確率は0であると考えてよい.そのうえで,任意の文脈において,

P かつQ」に付与される確率は0 P かつQ」は偽

P は偽,あるいはQは偽 であると解釈しているのである.

さて,以上の準備のもとで,次の命題を示すことができる.

命題 5. (Stairs, Heywood=Redhead)

スピン1の2粒子からなる結合系のスピン状態が「1重項状態」|Ψiであるとする.その とき,「文脈依存型の確定値付与」において,加法的真理値付与,局所性および同時付値 の規則が同時に成り立つとすると矛盾が生じる.

以下でこの命題がどのように示されるかを概観する.

[I ⊗P0jx]<K[x,y,z],jx> = 1と仮定する.「1重項状態」について hΨ|P0jy ⊗P0jx|Ψi = 0 であり,それに「同時付値の規則」を適用すると,[P0jy ⊗I]<K[x,y,z],jx> = 0 か [I

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