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教員免許更新に関わるキャリアパス提案

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(パネルディスカッション)

6.1 「サイエンス映像の可能性」

保田充彦(株式会社ズームス代表/サイエンス映像学会理事/ サイエンスメディアクリエーター)

私は,現在,科学や技術,サイエンスやテクノロジーに関係する映像や,インタラク ティブなコンテンツを制作しています.本日は,「サイエンス映像(サイエンス・メディ ア)」の作り手の立場から,サイエンス映像が,教育や,教育以外の実用的分野でどのよ うに活用され得るか,そして,サイエンス映像にはどんな課題があるかをご紹介したい と考えています.あくまでもサイエンス映像の話なのですが,もし,教育に携わっている 方々,また,これから携わろうとしている方々に,少しでもご参考になることがあれば幸 いです.

6.1.1 サイエンス映像とは?

そもそも「サイエンス映像」とは何でしょうか.

実は「サイエンス映像」も「サイエンス・メディア」も,まだ一般に定着した言葉では ありません.それぞれの立場で様々な考え方やアプローチがあるのが現状です.しかし,

それはそれで良いと思っています.多様性の中からこそ,新しいものが生まれるのです から! 

イリノイ大学シカゴ校Computer Visualization Laboratoryのジェイソン・リー博士は,

サイエンス分野での「視覚化」の目的について,次のように述べています.

1)複雑な現象を理解する方法 (例,解剖学)

2)結果を検証する手段 (例,コンピュータ・シミュレーション)

3)科学教育の教材・科学の啓蒙(例,科学ドキュメンタリー)

1)と2)は,研究活動を支援するツールとして,研究者にとって有用な活用分野です.

複雑な科学現象をうまく視覚化できれば,認識を容易にしたり,新しい発見に結びつく可 能性があることは,ご理解いただけると思います.そもそも,現象を文字や記号で表すこ とが困難な分野もあります.例えば養老孟司氏は,「解剖学とは非常に視覚的で,『絵(画 像・映像)』で伝えるしか方法がない.文字では伝えることは不可能だ.」と言われてい ます.

一方,3)は,研究には直接携わっていない一般の方々の科学リテラシーの向上,また,

これから研究に携わろうとしている人々のモチベーションの向上に貢献するものです.広 い意味での,教育ツールとしての映像と言えるでしょう.教育分野がサイエンス映像活用 の重要な場所であることは間違いありません.実際に,授業や講義を補完する手段とし て,すでに映像を使われている方々も,多数いらっしゃると思います.直接的に科学の知 識を与えるだけでなく,自然の持つ神秘や科学の持つ面白さ・不思議さをイメージで伝え ることによって,科学リテラシーの向上や,理科科目に対するモチベーションを高めるこ とにも,映像は大きな力を発揮すると期待されています.

6.1.2 サイエンス映像の活用事例

次に,サイエンス映像が実際にどのように活用されているのか,いくつか事例をご紹介 したいと思います.

1)一般教育,高等教育ツール

サイエンス映像の活用が期待される分野のひとつは,やはり教育分野です.例えば,「未 来の学校」と言う大阪府のプロジェクトがあります.このプロジェクトの中は,大学や研 究機関の研究者の方々を小学校に呼んで,特別授業とワークショップを行う試みが行われ ました.その際,各研究をわかりやすく紹介する短い映像を作って,授業の前に子供たち に見てもらいました.親しみやすい映像から授業に入ることによって,授業のテーマを理 解してもらい,その後の講義やワークショップへスムーズにつなげていくことができたと 思います. 先生の生の授業,実体験をするワークショップ,そして,映像と言う三者の コラボレーションで行った実験的な授業でしたが,映像の持つメリットを教育に生かすこ とができた,ひとつの事例です.

また,大学レベルでの専門教育でも,映像は活用されています.例えば,認定NPO法人

「千里アーカイブスステーション(SAS)」は,大学や研究機関の研究を映像で記録し,イ ンターネットで配信する活動を行ってきた組織です. 弊社も,この活動の中でいくつか 映像番組を制作してきました.(残念ながら,SASは2006年度に解散してしまいました.)

SASの映像は大学教育でも活用されています.例えば,関西学院大学理工学部生命科 学科の藤原伸介教授に出演いただいた番組で,生命の誕生から進化を解説したC.G.映像 を作成しました.藤原教授はこのCG映像を大学教養課程での教材として使っておられ ます.生命科学の講義を補完する教材として,学生の方々の理解が深まったとの感想を もらっています.(この映像は,関西学院大学のサイトでも観ることができます.http:

//www.kwansei.ac.jp/Contents 5649 0 14 0 4.html) 2)一般社会と研究をつなぐツール,異分野の研究をつなぐツール

次に,教育以外の観点から2つの活用分野を紹介します.

ひとつは,研究者と政策決定者を結ぶツールとしての映像です.生命・医療,ナノテク,

ITなど,科学技術が高度化するにつれて,その内容はますますブラックボックス化してい

ます.一方で,エネルギー問題,地球環境問題など,正しい判断をしなければ取り返しが つかなくなる地球規模の問題に直面しています.政策決定者は科学技術を正しく理解し,

今,どの研究を推進すべきなのか,最良の選択をすることが求められています.この判断 を支援するツールとして,数多くの研究を効率的に,わかりやすく伝える映像を活用する ことも積極的に行っていく必要があります.

また,技術紛争の解決手段として映像が使われた事例もあります.有名な青色発光ダイ オード訴訟です.この訴訟は,専門家以外には(専門家でさえ!)わかりにくい最先端技 術に関する訴訟だったため,被告の日亜化学株式会社は,青色ダイオードに関する技術を 裁判官にわかりやすく説明する,と言う戦略をとりました.この時使われたのが映像です.

青色ダイオードのしくみや製造工程,開発の歴史などをまとめた映像は,裁判の資料とし て提出され,訴訟の結果にも大きな影響を与えたと言われています.このように,高度な 技術と一般社会をつなぐ手段として,映像の活用は広がっていくものと考えられます.

もうひとつは,研究者同士をむすぶ映像です.各分野が高度化・専門化するにつれて,

研究分野は細分化し,異なる分野間のコミュニケーションが難しくなっています.「異分 野融合」が叫ばれる一方で,なかなか融合が進んでいないのが現状です.この状況を打破 するひとつの手段として,研究を映像化し,専門分野が異なる研究者にも,「見える」形 にすることが有用だと考えられます.気軽に他の研究に接することで,新しい物の見方や 発見があるかもしれない.その手段として,映像やメディアに期待する研究者の方々もい ます.

3)研究支援ツール

最後は,研究活動を支援するツールとしての映像です.このひとつが,冒頭,Jason Leigh 博士の提言にある,「データの視覚化」です.

データの視覚化の事例として,独立行政法人・放射線医学総合研究所のJISCARD プ ロジェクトをご紹介したいと思います.(http://www.nirs.go.jp/research/jiscard/

index.shtml) この研究プロジェクトは,宇宙線による航空機搭乗者への被ばくを防護

することを目標としたものです.その一環として,地球に降り注ぐ宇宙線の強度を準リア ルタイムに視覚化するシステムを開発しました. このシステムは,世界数箇所で計測・

公開されている中性子のデータをインターネットを通じて取得し,それらを元に全緯度・

経度の宇宙線強度を推測計算し,GoogleEarth上で視覚的に表示できる画像として配信す る,と言うものです.インターネットを活用すれば,データの取得から配信までの一連の 流れを全て自動化することが非常に容易になります.映像とコンピュータ・ネットワーク を融合した,データ視覚化のサイエンス映像は,科学の様々な分野で研究活動を支援する ツールとして活用が広がるでしょう.

海外の事例として,例えば,MITのメディアラボで“Processing”と言うビジュアライ ゼーションに特化したプログラミング言語を開発したBen Fry氏は,インターネットと プログラムを使った,数々のデータ視覚化の先駆的な試みを行っています.(Ben Fry: http://benfry.com/)

6.1.3 サイエンス映像の課題と期待

このように,さまざまな形で,教育や社会活動,研究活動を支援することが期待される サイエンス映像ですが,課題もあります.

ひとつは,サイエンス映像の認知度の向上です.冒頭に書いたとおり,サイエンス映像 はまだ広く認知された分野ではありません.まずは多くの人々に,サイエンス映像やサイ エンス映像制作の姿勢を広く知ってもらうことが,大事だと感じています.これを後押し する動きとしては,今年4月に発足したサイエンス映像学会(http://svsnet.jp/)が あります.サイエンス映像学会では,研究者・放送関係者・映像クリエーター,科学を学 ぶ親子やシニアまで誰でも参加できる開かれた学会です.学会の活動を通じて,科学と映 像,そして社会の接点を探って行けるものと期待しています.

もうひとつの重要な課題は,サイエンス映像を作るためのリソースです.「正しく,わ かりやすく,効率的に」科学技術を伝えるサイエンス映像を制作するには,情報の整理や ストーリーの組み立て等のコンテンツ制作の知識と,映像やコンピュータに関するメディ アの知識に加え,対象となる科学技術研究への深い理解が必要です.このためには,その 分野を専門的に学んでいることが大きなメリットになります.研究の本質を理解しなけれ ば,その研究をわかりやすく伝えることはできません.時には,研究者と議論し,より正 しく,わかりやすく伝える方法を研究者とともに考えていくのが,理想的なサイエンス映 像のアプローチだと思います.サイエンス映像の作り手は,単なるメッセンジャーではな く,「サイエンス映像」と言うひとつの分野の研究者でなければならない,と私は考えて います.

このような課題を解決し,サイエンス映像のレベルを向上していくためにも,各分野の 専門教育を学ばれた方々の中から,サイエンス映像の作り手が一人でも多く現れることを 切に願っています.そして,教育と研究者,そして,一般社会をつなぐミッションを果た すために活躍していただきたい,と思います.

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