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パネルディスカッション:経験交流会 – 教育界に進出した経験を語る教育界に進出した経験を語る

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7.1 博士教諭 へのチャレンジ」

瀬々将吏(秋田県立横手清陵学院高等学校)

7.1.1 はじめに

博士・ポスドクの就職状況の厳しさは,この研究会でもすでに取り上げられているとお りである.筆者が以前に在籍していた台湾の超ひも理論グループには7人もの日本人ポス ドクがいて,そのうち自分を含む3名が同期であった.海外のごく限られた場所,しかも 特定の分野内に自分と年の近いポスドクが集まっていたことに状況の厳しさを感じた.

2008年2月,台湾で次のポストへ向けた応募をしているころ,素粒子論グループのメー リングリスト(SG-L)に「秋田県で高校の教師を募集している」という情報が流れた.な んでも博士号所有者を対象に特別採用を行うという.締め切りまで一週間しかない中で,

自分なりにいろいろ考えた結果,応募することにした.その後,幸運にも選考に合格し て,2008年4月からは秋田県横手市の中高一貫校に勤務している.

本稿では,筆者がこの秋田県の「博士教諭」になるまでに至る動機や心境を,自身の経 歴をふまえて紹介する.教育業界への就職を考えておられる大学院生やポスドクの参考に なれば幸いである.

7.1.2 経歴

筆者は1972年生まれのいわゆる「団塊ジュニア」世代である.高校生までは阪神間で 過ごし,物理への道を志して広島大学理学部に進んだ.卒業後は大阪市立大学の修士課 程,博士課程にて,「超ひも理論」の研究で学位を取得した.大多数の同級生と同じく,研 究職への就職を目指してポスドク生活へと突入した.学位取得後に在籍した研究機関は

大阪市立(0.3)奈良女子(1)京大基研(1) 慶應日吉(1)国立台湾(2)

である.()内の数字はおおよその在籍期間(年単位)を示す.最初の2ヶ所,大阪市立大 学と奈良女子大学では無給だった.なお,大学院生時代から基研にいくまではいくつかの 学校で非常勤講師をしていた.高専,看護学校の非常勤講師,塾講師,さらには大学院在 籍中に教員免許(数学)を取得して,高校で非常勤講師をやったりもした.

7.1.3 秋田県の「博士教諭」とは

2008年3月,秋田県は公立学校における理数系学力のレベルアップをはかるために,博 士号所有者を対象とした高等学校教員の特別選考を行った.その内容は

教員免許不要

教員採用試験も不要(論文+面接からなる特別専攻)

通常の授業だけではなく,専門分野を生かして出前授業や課題研究の指導を行う

給与・待遇面では「教諭」扱い(他の先生と同じ).ただし職歴は加算される といったもので,他県では類を見ない先駆的な試みである.57名の受験者のうち6名(う ち非常勤1名)が採用された.常勤5名のうち2名は生物系,2名が物理系,1名が工学 系の博士である.この試みは世間の注目を多いに集め,メディアでも取り上げられた1

7.1.4 「博士教諭」を選んだ理由

大半のポスドクは(少なくともポスドク歴が短いうちは)筆者もそうであったように,

大学に常勤職を得て研究を続けることを望んでいるはずである.今回,大学ではなく高校 教諭への道を選んだ理由をまとめてみた.

理由1:常勤職に採用されたから

現在,就職活動をされているポスドクなら納得される方も多いのではないだろうか.筆 者は実に様々な大学の公募に応募してきたが,二次面接まで進んだのも,合格通知を受け たのも今回が初めてだった.これを断る理由はどこにも無かった.なので次の論点は,こ のポジションがどれだけ自分の希望に即しているか,ということが論点になる.

理由2:実は大学のポストと大差ない,むしろ良いのでは?

大学の教員には学部生や院生の授業やゼミなどの教育の義務がある.「教育者」である という点では高校教諭と同じである.大学と高校の教育が大きく違うのは,(1)授業時間 数(2)学生の意欲(3)生徒指導,クラブ指導など授業以外の仕事の量,などで,一般に大 学の教員のほうが時間に余裕があると考えられている.しかし,大学が大衆化して学生に 対する教育がより重視されている昨今,両者の差は以前よりはるかに縮まっているのでは ないかと感じる.実際,筆者が接してきた大学のスタッフの方々は授業,会議,学校運営 と研究以外の面で多忙であった.もちろん,高校教諭も多忙である.多い人で週20時間 以上の授業に加えて,多量の学校業務を担当しなくてはならない.しかしながら,今回の ように特別な立場で採用され,ある程度の自由が与えられるのであれば,大学教員との差 はほとんどないのではないかと考えたのである.生徒と近い距離で教育が行えて,魅力的

1「博士教諭」でweb 検索するとたくさんヒットする.例えば,http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news2/

20080303wm01.htm

な授業のノウハウが蓄積されている高校において,実践的な教育の力をつけられるのは,

むしろ大学にはないメリットである.

高校と大学とで大きく異なるのは形式的な面である.世間での地位は大学教員のほうが 高い.勤務日は必ず学校にいなくてはいけないし,旅費や研究費もずっと少ない.しか し,これらの面は少なくとも理論物理の研究の大きな妨げにはならない.ほとんどの論文

はarxivや論文サイトで手に入るし,いまや各国にちらばった研究者仲間ともskypeで議

論ができる.

理由3: 科学者としての「健康」

これは筆者に特有な事情かもしれない.「超ひも理論」の研究は素粒子物理学,宇宙物理 学に多大な影響を与えているものの,いまだに実験・観測で検証できる見通しが立ってい ない.この分野の研究者は驚くべきイマジネーションと数学・物理学の力を発揮してこの 分野を進展させているが,「科学的主張は実験・観測で検証される」というガリレオ以来 の方法論からは当面離れざるを得ない.一方,教育の場面では,理論系の教員でも学生実 験を担当する場合がある.自分で手を動かして行う手軽な物理実験は実に楽しい.複雑な で気まぐれな自然から物理法則を見いだしてきた先人の偉大さや科学の原点をを再認識 できる.そんな手軽な実験を楽しめる場所で,自分は科学者として,そして人間として健 康に過ごせるのではないかと考えるようになった.

こう考えるようになったきっかけは,慶応義塾大学日吉キャンパスで関わらせていただ いた学生実験2 である.すべてのスタッフが文系学生を対象とした実験を担当している.

実験室はある種,高校の教室にも似た賑やかさである.スタッフの方々が新しい学生実験 や教育プログラムを次々に導入し,心から楽しんでおられる様子を目にして,自分もこう いう環境にいられればと思うようになった.

理由その4:科学の話をしたい,伝えたい

読者のみなさんは,ご自身の研究内容をご両親や家族,研究者以外の親しい友人に理解 させることがきるだろうか.筆者はこれがうまくできずに,いつもフラストレーションを 感じている.話を理解してもらうには,話し手と聞き手の双方からの歩み寄りが必要で ある.まず,話し手である研究者は,難解な概念をわかりやすく説明するスキルを磨かな くてはならない.しかし,それだけでは限界がある.例えば,超ひも理論を研究すること の必然性を伝えるには,この理論に至るまでの物理学の膨大な蓄積について語る必要が あり,たいていの聞き手は途中でギブアップしてしまう.しかし,聞き手が高等学校で物 理(もしくは「総合理科」における物理分野)をしっかり学習していれば,話をすること ははるかに容易になる.つまり,地道な教育によって全ての人々に科学力が定着していれ ば,自分の研究の話は理解してもらうのは難しくないはずなのだ.「博士教員」の立場は,

自身の説明能力の向上と生徒の科学力向上の両方をバランスよく行い,科学の話ができる 社会をつくるのに貢献できると信じている.

2慶應義塾大学日吉キャンパス 特色GP 「文系学生への実験を重視した自然科学教育」,http://sylph.fbc.hc.

keio.ac.jp/gp/

7.1.5 最後に

今回は,肝心の採用後の仕事の様子について報告することができなかった.別の機会に 必ず発表したいと思う.筆者のwebサイト3 に情報があるので参考にしていただければ幸 いである.最後に,この研究会を企画してくださった実行委員の方々に感謝します.

3http://allnatural.ddo.jp/syojizeze/wiki/

7.2 「私のキャリアパスと高校物理カリキュラムの研究」

古結尚(同志社高等学校)

今回のシンポジウムで述べた点は大きく2点である.1点目はどのように現在の職に就 いたのかという点であり,2点目は現在取り組んでいる研究についてである.

私が高等学校の教員になった経歴について説明する.2006年3月に京都大学大学院理 学研究科博士課程を修了した.専攻は素粒子論である.1年間2つの高等学校で物理と数 学の非常勤講師を担当した後,2007年4月から同志社高等学校で物理・化学の専任教員 の職に就いた.高校教員を目指すようになった理由は,博士課程の段階で研究者として職 を得ることが難しいと思ったことと,そういった状況の中で物理教育の分野で研究を行い たいと思ったからである.高等学校の免許は,博士課程の最後の年に取得した.同志社高 等学校の教員に就職してから,もう一人の物理の専任教員が中心的に活動している「アド バンシング物理研究会」に参加して教育研究を行っている.

「アドバンシング物理研究会」は,京都を中心に大学教員と高等学校教員で構成される 研究会である.大学と高等学校の教員が共同で行う研究会は珍しく,価値のあるものだと 思っている.研究会では,イギリス物理学会IOPが開発に参加したテキスト「アドバンシ ング物理」と,アメリカの「物理教育研究」が開発したテキスト「リアルタイム物理」を 研究している.テキストの特長は,アクティブ・ラーニングという手法を用いている点で ある.アクティブ・ラーニングは生徒の認知段階に合った内容を,対話形式で教えるとい う手法である.この手法は,通常行われている一斉で系統的な授業形態と大きく異なる.

これらのテキストについて月一回の定例会で内容を検討し,毎年夏休みに行う公開講座 で有効性を評価している.公開講座の期間は2-3日間であり,テキストのカリキュラムを 再構成して公開講座の内容を作成している.この公開講座でテキストの有効性を評価し,

日本の授業で導入可能なカリキュラムを開発している.研究会で行った公開講座のうち,

2007年,2008年のものについて解説する.

2007年8月に行った公開講座「高校生・大学生のためのアクティブ・ラーニングによ る力学入門」は,「リアルタイム物理Module1:Mechanics」の内容を再構成して作成した.

リアルタイム物理の特長は,パソコンに接続したセンサを用いて実験のデータ解析を容 易にしている点と,生徒が陥りやすい誤概念を研究し,それを克服するための実験をカリ キュラムの中に取り入れている点である.さらに生徒の概念理解の評価を行うテストを開 発しており,リアルタイム物理が正しい概念の構築に実際に役立つことを示している.公 開講座は2日間にわたり,参加者は高校生が21名,大学生が12名であった.参加した生 徒は3人で1班を構成し,各班に1人ずつ講師がサポートに入った.実験の進め方は,班 でまずグラフを予想,討論し,結果を実験で確かめるという形式で行った.公開講座の前 後でどの程度理解が深まったかを知るために,「物理教育研究」が開発した「運動と力学 についての概念評価」テストを行った.公開講座では6つの実験を行った.実験1では,

センサを用いた距離,速度計測に慣れるために,テキストに描かれた速度グラフと同じ ように,自分がセンサの前で歩くことを行った.実験2では,速度と加速度の関係を見る ために,等速運動,扇風機つき台車を用いた等加速度運動,ボールの落下運動について,

グラフを各自予想し,予想を班で討論し,結果を実験で確かめることを行った.実験3で

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