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シーベルトとは何か

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第 4 章 放射線の被曝と健康への影響 43

4.2 シーベルトとは何か

原子力発電所の事故以来よく目にするようになった「シーベルト」とは、「被 曝による体へのダメージ」を表わすための単位だ。やはりよく目にする「ベ クレル」は「放射性物質の量」を表わす単位だったことを思い出しておこう

(2.3 節)。ここでは、シーベルトに関わる重要なことがらを順を追って見て いく。

■実効線量とシーベルト じっこうせんりょう実 効 線 量とは、被曝によって体が全体としてつうさん通算 でどれだけのダメージを受けた(可能性がある)かを表わす量だ。実効線量に は、外部被曝の実効線量と内部被曝の実効線量の二つがあり、単に実効線量と

*6といっても、もちろん、体内でのセシウムのふるまいが完璧に理解されているというわけで はない。少し先の脚注*1454 ページ)を見よ。

4.2 シーベルトとは何か 49 いうときには、これら二つの合計のことを言う。つまり、

(実効線量) = (外部被曝の実効線量) + (内部被曝の実効線量) ということ。

また、実効線量は、年間とか、一生涯とか、一定時間で通算した量を考える。

正式には実効線量と言うべきところを線量、被曝量、被曝線量などと言うこと も多い。

シーベルトは実効線量の単位で、記号はSvだ。 だから、「○○シーベルト の被曝」というときには、「○○」という数字に応じたダメージを体が受けた

(かもしれない)という風に考えればよい。

ここでは実効線量やシーベルトのげんみつ厳密な定義にはていぎ 踏み 込まないが *7、十分に 正確な説明をしようと思う。先走って一言で書いておけば、外部被曝の実効線 量は線量計で測る空間線量率をもとにして求め*8、内部被曝の実効線量は取り 込んだ放射性物質の量に実効線量係数(表 4.1, 4.2)をかけて求める。それぞ れについての詳しい説明に入る前に、単位についての注意をしておこう。

■シーベルトに関連する単位 すぐに4.3 節で見るように、1 Sv(1シーベル ト)というのは、かなり大きな被曝量だ。これほど被曝する人は普通はそれほ どいないので、もっと小さな被曝量を表わす単位があると便利だ。長さについ ても基本の単位のメートル (m) 以外に、短い長さを測るためのミリメートル (mm) という単位を使うのと同じことだ。

千分の1シーベルト、つまり0.001 Svを1ミリシーベルト(1 mSv)と呼ぶ。

基本単位の Sv(シーベルト)の前にm(ミリ)をくっつけた単位がmSv(ミ リシーベルト)ということだ。単位の換算は(これは特に意味のない例だが)、

0.034 Sv = 34 mSv, 1250 mSv = 1.25 Sv

といった具合になる。「Svで表わしたときの数値を1000倍すると、mSvで表 わしたときの数値になる」あるいは「mSvで表わしたときの数値を1000で割

*7詳しい定義は、付録B.2で解説する。

*8理系読者向けの注意: 空間線量率を時間で積分する。

50 第4章 放射線の被曝と健康への影響 ると、Svで表わしたときの数値になる」と覚えていればいいだろう。「シーベ ルトとミリシーベルトの換算」は、お馴染みの「メートルとミリメートルの換 算」と完全に同じ計算だ。

さら に小 さな被曝 量を表 わす ため に、百 万 分の 1 シーベ ルト、つ まり 0.000001 Svを1マイクロシーベルト(1 µSv)と呼ぶ。シーベルト (Sv)とマ イクロシーベルト(µSv)を変換するということはそれほどないだろう。ミリ シーベルト(mSv) とマイクロシーベルト (µSv) の変換は、上と同じように

(これも特に意味のない例だが)、

0.027 mSv = 27 µSv, 6780 µSv = 6.78 mSv

という風になる。「mSvで表わしたときの数値を1000倍すると、µSv で表わ したときの数値になる」あるいは「µSv で表わしたときの数値を1000で割る と、mSvで表わしたときの数値になる」ということだ。

■外部被曝の実効線量 何らかの原因で作られたガン マ線の流れに人がさら曝されているとしよう*9。この人は 外部被曝している。

外部被曝している人が放射線から受ける(かもしれ ない)ダメージ、つまり、実効線量は、大ざっぱには、

(放射線の強さ)×(放射線を浴びていた時間)

で決まると考えられる。確かに、同じ強さの放射線でも2倍の時間浴びていれ ばダメージは2倍になりそうだ。また、浴びる時間が同じでも、放射線の強さ が2 倍ならダメージは2倍というのが自然だ。外部被曝による実効線量を定 義するときには、この考えを前提にする*10

*94.1節で見たように、外部被曝の場合は(少なくとも今の日本では)ガンマ線のことだけを 考えればよい。

*10理系読者向けの注意: つまり、「ダメージは線量(線量率の時間積分)に比例する」とい う線形性を仮定するということ。もちろん、生物学的影響が線形であるとはかぎらないの で、これは自明とはほど遠い仮定だ。4.5節での「

せんけいしきいち

線 形 閾 値 なし仮説」についての議論を 見よ。

4.2 シーベルトとは何か 51 2.4 節で触れたように、「放射線の強さ」を空間線量率(略して、線量率、空 間線量、線量とも呼ぶ)という量で表わす。空間線量率は、シンチレーション カウンターやガイガーカウンターのような線量計で測れる量で、標準的な単 位はマイクロシーベルト毎時(µSv/h)である(ここに出てきたhはhourの 頭文字で「時間」を表わす)。 今までの話の流れからおわかりだと思うが、1 µSv/h という強さの放射線を1時間のあいだ浴びていると、実効線量で言っ て、ちょうど 1 µSv の外部被曝をすることになる*11

もうちょっと計算が必要な例をとって、0.5 µSv/hの強さの放射線を 24 時 間浴びるとすると、

0.5 µSv/h×24 h = (0.5×24) µSv = 12 µSv

となって、通算で12 µSv の被曝とわかる。あるいは、6 µSv/hの強さの放射 線を2時間浴びると、

6 µSv/h×2 h = (6×2) µSv = 12 µSv

となり、この場合も通算で12 µSv の被曝とわかる。つまり、体へのダメージ は上の例と同じと考えられる。もっと「実用的」な計算を(かなり先になるが)

5.3 節で見よう。

■内部被曝の実効線量 次に内部被曝の実効線量について説明しよう。 実は、

内部被曝の扱いは、外部被曝に比べるとずっとややこしい。要点だけを言え ば、内部被曝のふくざつ複雑な影響をじょうず上手にまとめて、実効線量というたった一つの量 で表わすということだ。この際、実効線量が等しければ、内部被曝であっても 外部被曝であっても、体が受ける(かもしれない)ダメージはだいたい等し くなるように工夫するのである。だから、たとえば、0.6 mSv の内部被曝と

0.6 mSvの外部被曝では、体は(大ざっぱには)同程度のダメージを受ける

(少なくとも、そういうことになっている)と考えてよい(図 4.2)。

*11厳密に言うと、こうやって求まるのは、実効線量ではなく、線量当量という量なのだが、そ の違いを気にする必要はほとんどない。くわ詳 しくは、付録B.2を参照。

52 第4章 放射線の被曝と健康への影響

0.6 mSv 0.6 mSv

4.2 実効線量(単位は、たとえば、ミリシーベルト)が等しければ、内 部被曝でも外部被曝でも、体全体として被曝から受けるダメージはだいたい 同じとされている。そもそも、内部被曝の実効線量は、そうなるように決め た量なのだ。

内部被曝の影響を「上手にまとめた」結果は、実効線量係数という形で表わ されている。実効線量係数については次の項目でくわ詳しく見ることにして、ここ では内部被曝を取り扱うための基本的な考えを見ておこう。

ある人が、ある量の放射性物質を、たとえば水といっしょにせっしゅ摂取したとしよ う。口から体内に入った放射性物質は、胃や腸から体に吸収されるだろう。そ して、体内での物質の流れに乗り、血管を通って体のいろいろな部分に送られ ていく。

体内での物質の動きは物質の種類によって大きく異なっていることに注意 しよう。体にはほとんど蓄積されずどんどん外に出て行ってしまう物質もあ れば、(ヨウ素が甲状腺にちくせき蓄積されるように)何らかの臓器に蓄積されるものぞうき もある。物質はそれぞれの性質にしたがって体内を動き、いずれは、体の外に

はいしゅつ

排 出 されていく。このような物質の動きをどうたい動態と呼ぶ。

放射性物質は、口から入って外に出て行くまでのあいだ、ずっと放射線を出 し続けている。血管を通るあいだも、臓器に留まっているあいだも、筋肉の中 にあるあいだも、ずっと(普通はごく少しずつだけれど)放射線を出し続けて、

まわりの組織にダメージを与え続ける。外部被曝ならば、大ざっぱには、体全 体がほぼいちよう一様に放射線からダメージを受けると考えられるが、内部被曝の場合 には、体のダメージの受け方はずっとずっとややこしいことがわかるだろう。

4.2 シーベルトとは何か 53

ある量の 放射性物質

を摂取

放射性物質は体内で どう動きどう分布する

か(動態モデル)

放射性物質は、なくなる(排出、崩壊)

までにどれだけの影響を体に与えるか(放 射線の種類、組織の敏感さを考慮)

実効線量

4.3 内部被曝の実効線量を評価するための基本的な考え方。体内での移 動の様子は単なるイメージで、具体的な放射性物質や臓器を想定しているわ けではない。

内部被曝の実効線量を計算するときには、上で説明したプロセスをなるべく 正確に再現することを目指す(図4.3)。

各々の放射性物質について、それをどのように(飲み食いか、呼吸か)せっしゅ摂取 したとき、体の中の様々な部分をどのように動いていくかを表わした数学的な モデル(これをどうたい動態モデルと呼ぶ)が用意されている。動態モデルは、物質の 種類だけでなく、人間の年齢や男女差も考慮にいれた、かなり複雑なモデルだ。

一定量の放射性物質を摂取したと仮定し、それが体の中をどのように動き、

いずれははいせつ排泄されていくかを、動態モデルにもとづいて計算する。その間、放 射性物質がどの程度の放射線を出すかは、物理の法則を使って正確に計算でき る。すると、体の中の各々の臓器・ぞうき 組織が(放射性物質を吸入してから、それそしき が排泄されるまでのあいだに)どの程度の被曝をするかも計算で求めることが できる*12。最後は、各々の臓器・組織の放射線へのびんかん敏感さも考慮しながら、す べての臓器・組織のダメージを合計して、体全体へのダメージを表わす一つの 量、つまり実効線量を計算するのだ。

なお、こうして求めた実効線量は、放射性物質の影響がなくなるずっと先ま

*12ここで求めた各々の臓器の被曝量を等価線量という。この節の最後と付録とうか B.2を参照。

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