第 6 章 スペクトル法による軸対称空洞内の音場解析 97
7.1 提案解析手法
第 7 章
スペクトル法による軸対称形状・開領域音 場解析
本章では膜鳴楽器の外部音場の解析手法を構築する。室内音場の特性を含まない,楽器のみの音響特性 を計算する場合,楽器の周りの音場は開領域音場として扱う必要がある。スペクトル法はFEMやFDM と同じ領域型の解法であるため,開領域音場を解析する場合,有限な領域で打ち切り,何らかの境界条件 を適用しなければならない。このとき,ρc近似などの単純な方法では,本来存在しないはずの疑似反射 が生じてしまい,厳密に解析できないという問題がある。
そこで,スペクトル法で開領域音場を厳密に解析するために,Dirichlet-to-Neumann (DtN)写像 [48]
を応用する。DtN写像はFEMで開領域問題を解く際に用いられる方法である。球面から放射される音 場は理論解析解を求められる。そのことを利用して,開領域内に球面状の仮想的な境界を設け,その外側 の理論解析解と連成することで開領域を厳密に扱うという手法である。この方法は仮想境界の形状が理論 解析解の得られる球面に限定されてしまうという欠点があるが,整形に近い領域の解析に適しているスペ クトル法の場合には,むしろ整合性が高い。
前章で導入した一般曲線座標系により,容易に球状の境界を設けることができる。その境界において球 面からの放射音場の理論解析解と連成する。具体的なスペクトル法の種類としては,境界条件の取り扱 いが容易なSpectral nodal Galerkin method (NGM) を採用することとする。その結果,前章で導いた NGMのマトリクス方程式に,DtN写像を取り入れた新たなマトリクスが加わる。円周方向についてはこ れまで同様,フーリエ級数展開を用いて準理論的に解析する。
理論解析解は無限次の級数展開の形で表されるため,実際の計算においては有限の次数で打ち切る必要 がある。この打ち切り次数と計算精度の関係について検証する。
図7.1: 軸対称形状・開領域音場と仮想境界
し,その内部については数値解析手法で解き,境界において外部の理論解析解と連成するというのがDtN 写像の基本的な考え方である。
まず,図7.1のような軸対称形状・開領域音場を考える。球面の仮想境界を扱うため,座標系には球座
標系(r, θ, φ)を用いる。球面から放射される音場の理論解析解は次のように書くことができる[47]。
ϕ(r, θ, φ) =
∑∞ n=0
∑n m=−n
(2n+ 1)(n− |m|)!
4πR2d(n+|m|)!
h(2)n (kr) h(2)n (kRd)
×
∫
Γdtn
Pn|m|(cosθ)ejmφPn|m|(cosθ′)e−jmφ′ϕ(Rd, θ′, φ′)dΓ′ (7.1) ここで,Rdは仮想境界の半径,h(2)n は第2種球Hankel関数,Pn|m|はLegendre陪関数である。また,
dΓ′=R2dsinθ′dθ′dφ′ (7.2)
である。DtN写像は式(7.1)を法線方向微分し,受音点(r, θ, φ)を境界上(Rd, θ′, φ′)にもってくること で得られる。
∂ϕ
∂n(Rd, θ′, φ′) =
∑∞ n=0
∑n m=−n
(2n+ 1)(n− |m|)!
4πR2d(n+|m|)!
kh(2)n
′(kRd)
h(2)n (kRd) Pn|m|(cosθ′)ejmφ′
×
∫
Γdtn
Pn|m|(cosθ′)e−jmφ′ϕ(Rd, θ′, φ′)dΓ′ (7.3) ここで,速度ポテンシャルϕをφ方向にフーリエ級数展開する。
ϕ(Rd, θ, φ) =
∑∞ m=−∞
ϕm(Rd, θ)ejmφ (7.4)
図7.2: 一般曲線座標系で定義された四つの境界
これを式(7.3)に代入し,三角関数の直交性を利用すると,
∂ϕm
∂n (Rd, θ′) =
∑∞ n=0
(2n+ 1)(n− |m|)!
2R2d(n+|m|)!
kh(2)n
′(kRd) h(2)n (kRd)
Pn|m|(cosθ′)
×
∫ π 0
Pn|m|(cosθ′)ϕm(Rd, θ′)R2dsinθ′dθ′ (7.5) となる。
次に一般曲線座標系で計算するため,解析領域を図7.2に示すような四つの境界Γ1,Γ2,Γ3,Γ4で定 義する。図7.2は円筒座標系(˜r, φ, z)のrz˜ 平面を表しており,r˜は図7.1に示す球座標系(r, θ, φ)の動径 rではなく,xy 平面内を動く円筒座標系の動径であることに注意する。DtN写像を適用するため,仮想 境界に相当するΓ3は半円でなければならない。また,今解析対象は軸対称形状なので,Γ2とΓ4はz軸 上になければならない。振動体や散乱体の形状を規定するΓ1は任意の曲線でよい。このように一般曲線 座標系(ξ, η)を用いて解析領域を定義すると,半径Rdの球面上,つまり図7.2における境界Γ3上では,
θ′=θ(ξ,1) = ξ+ 1
2 π, θ′∈[0, π], ξ∈[−1,1] (7.6)
r′= ˜r(ξ,1) =Rdsinθ′ (7.7)
z′=z(ξ,1) =Rdcosθ′ (7.8)
という関係が成り立つ。なお,ここで用いているr′も球座標系ではなく,円筒座標系で仮想境界の座標 を表したときの動径である。これより式(7.5)の積分における微小線要素は,
R2dsinθ′dθ′=Rdr′π
2dξ′ (7.9)
となるから,式(7.5)を一般曲線座標系で表すと,
∂ϕm
∂ˆn3(ξ,1) =
∑∞ n=0
(2n+ 1)(n− |m|)!
2R2d(n+|m|)!
kh(2)n
′(kRd) h(2)n (kRd) Pn|m|
( z′ Rd
)
×
∫ 1
−1
Pn|m| ( z′
Rd
)
ϕm(ξ′,1)Rdr′π
2dξ′ (7.10)
となる。
7.1.2 Spectral Nodal Galerkin Method における特性マトリクス
一般曲線座標系におけるDtN写像が得られたので,これをスペクトル法に組み込んでいく。DtN写像 を境界条件として与えることは,インピーダンス境界を与えることに近い。そこで,インピーダンス境界 の導入が容易であるSpectral Nodal Galerkin Method (NGM) を解析手法として採用することとする。
境界Γ3において,DtN写像を用いてnˆ3方向粒子速度−∂ϕ/∂nˆ3が与えられるので,前章の式(6.49) より,
Φ3m(ξ,1) = J
|J|
√
R2(Zξ2+R2ξ) ∂ϕ
∂nˆ3
= J
|J|
√
R2(Zξ2+R2ξ)
∑∞ n=0
anm(k, Rd)Pn|m| ( z′
Rd
) ∫ 1
−1
Pn|m| ( z′
Rd
)
ϕm(ξ′,1)Rdr′π 2dξ′
= J
|J|r(ξ,˜ 1)Rd
π 2
∑∞ n=0
anm(k, Rd)Pn|m| (z′
Rd
) ∫ 1
−1
Pn|m| ( z′
Rd
)
ϕm(ξ′,1)Rdr′π 2dξ′
= J
|J|
∑∞ n=0
anm(k, Rd)Pn|m| ( z′
Rd
)
˜
r(ξ,1)πRd
2
∫ 1
−1
Pn|m| ( z′
Rd
) r′πRd
2 ϕm(ξ′,1)dξ′ (7.11) となる。ここで,
anm(k, Rd) = (2n+ 1)(n− |m|)!
2R2d(n+|m|)!
kh(2)n
′(kRd)
h(2)n (kRd) (7.12)
とおいた。さらに,
ψ(ξ,1) =Pn|m| ( z′
Rd
)
˜
r(ξ,1)πRd
2 (7.13)
とおくと,式(7.11)は
Φ3m(ξ,1) = J
|J|
∑∞ n=0
anm(k, Rd)ψ(ξ,1)
∫ 1
−1
ψ(ξ′,1)ϕm(ξ′,1)dξ′ (7.14) と書くことができる。ξとη方向を(M + 1)点に離散化し,上式の積分を数値積分で処理すると,
Φ3m(ξi,1) = Ji,M
|Ji,M|
∑∞ n=0
anm(k, Rd)ψ(ξi,1)
∑M l=0
ψ(ξl,1)ϕm(ξl,1)wl (7.15)
となる。Γ3以外の境界条件は粒子速度が0であるとすると,式(6.66)は,
−
∑M l=0
Dil(ξ)TwlwjΦ1m(ξl, ηj) +mwiwjΦ2m(ξi, ηj)−
∑M l=0
Djl(η)TwiwlΦ3m(ξi, ηl) +k2Ji,jwiwjϕm(ξi, ηj)
+ℓj(1) Ji,M
|Ji,M|
∑∞ n=0
anm(k, Rd)ψ(ξi,1)wi
∑M l=0
ψ(ξl,1)ϕm(ξl,1)wl =−Ji,jwiwjqm(ξi, ηj) (7.16) と書き換えることができる。上式をi= 0,1, . . . , M, j = 0,1, . . . , M について書き並べると,最終的に次 のようなマトリクス方程式を立てることができる。
[
K1+K2+K3−B−ω2
c2diag (J)W ]
ϕn= diag (J)W qn (7.17) 新しく導入したマトリクスBがDtN写像を表しており,その成分は
BM(M+1)+i,M(M+1)+j = Ji,M
|Ji,M|
∑∞ n=0
anm(k, Rd)ψ(ξi,1)wiψ(ξj,1)wj, i, j= 0,1, . . . , M
BM(M+1)+i,M(M+1)+j = 0, otherwise (7.18)
と表される。なお,上式はLegendre陪関数の無限級数であるが,実際の数値計算においては有限の次数 で打ち切る必要がある。その他のマトリクスについては前章で導出したものである。