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第 3 章 理論解析解と法線方向微分型境界要素法による膜鳴楽器の音響振動連成解析および設計 31

3.2 実測結果との比較

3.2.1 計算条件と測定方法

解析手法の妥当性を検証するため,計算結果と実測結果を比較する。解析対象は膜鳴楽器の一つである ティンパニとし,ティンパニのヘッドに衝撃性外力を与えたときの放射音の周波数応答関数を計算と実 測によって求めた。実測における具体的な測定方法は無響室内に設置したティンパニのヘッドをドラム スティックを使って単位インパルス関数的に加振し,放射音をマイクロホンにより収音,FFTアナライ ザーで周波数応答関数を測定した。測定に使用した機材は以下の通りである。

マイクロホン: SONY ECM-77B

マイクロホンアンプ: YAMAHA MLA7

FFTアナライザー: ONO SOKKI CF4220A

測定系のブロックダイアグラムを図3.4に,実際に測定に使用したティンパニと機材の写真を図3.5に示 す。FFTアナライザーのサンプリング周波数は1280 Hzとし,1024ポイントの信号を周波数分析した。

加振点1点と受音点1点の組み合わせにつき10回測定を行い,加算平均した。なお,実際のティンパニ ヘッドは曲げ剛性を有しているが,提案手法では曲げ剛性を考慮していない。数値計算と条件をそろえる ため,測定においては曲げ剛性の影響が張力よりも相対的に小さくなるよう,ペダルを最大まで踏んでで きるだけ張力が大きい状態にして測定を行った。

図3.5: 測定に使用したティンパニと機材

S1(0.1, 0, 0) S2(0.2, 0, 0)

R1(0, 0, 1)

R2(1, 0, 1)

0.29

0.46 Unit: [m]

図3.6: 計算と実測に用いたティンパニの形状と加振点および受音点

計算ではケトルの振動については考慮せず,音響的に剛であるものとして扱う。計算および実測に用 いたティンパニの形状,加振点,受音点は図3.6のとおりである。膜の半径は0.29m,ケトルの高さは 0.46m,膜の面密度は0.26kg/m2,張力は6200N/mとした。面密度は0.1[m]×0.1[m]だけ切り取った ティンパニヘッドの質量を測定し,算出した。張力については測定が困難なため,文献 [10]にならい,

(1, 1)次の固有周波数が実測値に合うような張力を計算に用いた。加振点については異なる点をたたいた

ときの変化についても検証するため,通常の演奏位置に限定せず,半径をおおよそ3分割する2点に設定 した。計算におけるケトルの形状は,図3.6z軸を含む平面で見たときに膜の直径を短軸,ケトルの高 さの2倍を長軸とする楕円を半分にしたものとした。境界要素には四角形一定要素を用い,840個の要素 に分割した。このとき,500Hzの膜振動場の波長0.31mに対する最大要素寸法比は約0.16であった。な お,このとき空気中の音波の波長は0.69mであり,その波長に対する最大要素寸法は1/10以下である。

楕円体であるケトルを形状関数が1次関数となる四角形要素で分割しているが,波長に対して十分小さい 要素を用いているため,楕円体を多面体で近似していることの音響的な影響は小さいものと判断した。膜 振動場の固有モードについては,半径方向,円周方向ともに10次までのモードを計算に使用した。

3.2.2 計算結果と考察

図3.7から3.10に提案手法による周波数応答関数の計算結果と実測結果を示す。1次の共振周波数に おける音圧レベルを0dBとして正規化して表示している。まず,共振周波数を示すピークの位置が計算 結果と実測結果においておおむね一致していることが分かる。ピーク間の細かいレベル差については,今 回の提案手法においては膜振動内部の減衰を考慮していないことや実測における加振圧力が実際には理想 的な単位インパルス関数になっていないことによるものだと考えられる。

受音点ごとの違いを見ると,中心軸上に受音点R1がある場合,図3.73.9において,(0, 1)モード

(177Hz)(0, 2)モード(360Hz)のような軸対称モードによるピークは,大きく観測されているのに対

して,(1, 1)モード(218Hz)(2, 1)モード(327Hz)(3, 1)モード(431Hz)といった非軸対称モードに 対応するピークは小さい。これは受音点R1が膜の中心のちょうど真上にあたり,双極子や四重極子から の放射効率が悪いためである。また,側方に受音点R2がある場合,図3.83.10を見ると,これらの非 軸対称モードの影響が大きく見られる。受音点R2は,加振点と膜の中心を結ぶ直線上にある。つまり,

膜のいずれのモードの節線上にも乗ることはないため,非軸対称モードからの寄与も大きく観測される。

計算結果,実測結果ともにこの傾向が確認できる。

次に加振点ごとの違いを見てみると,計算結果,実測結果のいずれからも,加振点がS2のときの(1, 1) モード(218Hz)(2, 1)モード(327Hz)(3, 1)モード(431Hz),および(0, 2)モード(360Hz)に対応す るピークが加振点がS1のときに比べて相対的に大きくなっていることが分かる(図3.8,3.10)。言い換

えると,(0, 1)モードは他のモードと比べて小さくなっている。これは(0, 1)モードは膜の中心が腹とな

るのに対して,(1, 1)(2, 1)(3, 1)モードについては膜の中心に節線が集まるため,中心に近いS1 りもS2を加振したときのほうが,これらのモードがより励起されるためである。また,(0, 2)モードに ついては,膜を支持している周辺に加えて,中心からの距離が0.127mの円が節となる。加振点S1はこ の節線に近いが,加振点S2は二つの節線からも遠いため,S2のほうがこのモードをより励起しやすいと いうことが言える。これらの傾向が実測結果とよく合致するため,構築した解析手法が膜鳴楽器の解析手

図3.7: ティンパニの周波数応答関数(加振点S1(0.1, 0, 0),受音点R1(0, 0, 1))

図3.8: ティンパニの周波数応答関数(加振点S1(0.1, 0, 0),受音点R2(1, 0, 1))

図3.9: ティンパニの周波数応答関数(加振点S2(0.2, 0, 0),受音点R1(0, 0, 1))

図3.10: ティンパニの周波数応答関数(加振点S2(0.2, 0, 0),受音点R2(1, 0, 1))

表3.1: ケトルの寸法と要素数

A B C D E

半径[m] 0.29

高さ[m] 0.46 0.23 0.30 0.15 0.30 容積[m3] 0.08 0.04 0.08 0.04 (0.08) 要素数 840 756 990 858 738

法として妥当であると判断した。