第 6 章 スペクトル法による軸対称空洞内の音場解析 97
7.2 数値計算例
7.2.2 一般的な軸対称形状を有する振動体からの放射音場
0 10 20 30 40 50 60
Truncation number
10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100 101 102
L2
re lat ive er ror
63 Hz 125 Hz 250 Hz 500 Hz
図7.8: Legendre陪関数の打ち切り次数と誤差(仮想境界の半径3 m,節点数7396)
結果から,提案手法におけるLegendre陪関数の打ち切り次数は,単純に大きくすれば精度が上がるわけ ではなく,境界上の節点数についても考慮する必要があるということが言える。
アドミッタンス終端との比較
領域型の解法で開領域音場を解く最も単純な方法はアドミッタンス終端 [50]と呼ばれる方法である。
この方法は無限領域を有限領域で打ち切り,境界条件として媒質の特性インピーダンスρcを与えるもの であり,無限遠におけるSommerfeldの放射条件を近似的に与えることに相当する。ここでは境界条件と してアドミッタンス終端を適用した場合と提案手法により計算した散乱音場の音圧分布を比較する。
図7.9と7.10に各手法で求めた250 Hzと500 Hzの音圧分布を示す。NGMの節点数は7396(500 Hz で1波長あたりの格子数4),DtN写像の打ち切り次数は30とした。アドミッタンス終端では疑似反射の 影響によると思われる誤差が生じている。アドミッタンス終端は波面が仮想境界近傍で平面波に近くなる 場合に有効な方法である。そのため,仮想境界を音源や散乱体から遠くに設定すれば精度を改善できると 予想されるが,NGMによる有限領域を広くすることになり,それに応じて節点数も多くする必要がある。
それに対して提案手法では理論解析解に近い音圧分布が得られており,アドミッタンス終端に対する優位 性を確認できる。提案手法は境界で厳密解である理論解析解と連成しているため,原理的には仮想境界の 半径に制約はない。そのため,有限領域を小さく設定することにより,節点数を削減することができる。
0 1 2 3
x
[m]
−3
−2
−1 0 1 2 3
z
[m ]
0 20 40 60 80 100
Re lat ive SP L [ dB ]
(a)理論解析解
0 1 2 3
x
[m]
−3
−2
−1 0 1 2 3
z
[m ]
0 20 40 60 80 100
Re lat ive SP L [ dB ]
(b) NGM(DtN写像)
0 1 2 3
x
[m]
−3
−2
−1 0 1 2 3
z
[m ]
0 20 40 60 80 100
Re lat ive SP L [ dB ]
(c) NGM(アドミッタンス終端)
図7.9: 250 Hzの音圧分布
0 1 2 3
x
[m]
−3
−2
−1 0 1 2 3
z
[m ]
0 20 40 60 80 100
Re lat ive SP L [ dB ]
(a)理論解析解
0 1 2 3
x
[m]
−3
−2
−1 0 1 2 3
z
[m ]
0 20 40 60 80 100
Re lat ive SP L [ dB ]
(b) NGM(DtN写像)
0 1 2 3
x
[m]
−3
−2
−1 0 1 2 3
z
[m ]
0 20 40 60 80 100
Re lat ive SP L [ dB ]
(c) NGM(アドミッタンス終端)
図7.10: 500 Hzの音圧分布
0.3m
0.45m
0.225m
Receiving point (0.5, 0, 0) Velocity boundary
Rigid
図7.11: 軸対称形状を有する音源の形状と受音点の配置
境界形状を定義する節点の配置
まず,Transifinite補間を使って解析領域を定義するために必要な四つの境界のうちの一つを,ティン
パニの形状に沿って定義する。このとき,境界が角点を有することになり,注意が必要である。境界の形
状Γは(ξ, η)の多項式で表されなければならず,この多項式は,所望の境界上に配置した節点の座標から
内挿して求められる。そこで,節点を角点に配置しなかった場合と配置した場合で,それによって内挿さ れた多項式が表す境界の形状および計算精度に与える影響について調べた。
角点に節点を配置しなかった場合と配置した場合に内挿された境界の形状を図7.12に示す。Nodes 1 は角点に節点を配置しなかった場合(境界上の節点数21),Nodes 2は角点に節点を配置した場合(境界上 の節点数22)を表している。角点に節点を配置した場合,境界の形状はその角を通っているがその前後で 不自然な振動が見られる。一方,角点に節点を配置しなかった場合,角は通らないものの,角点に節点を 配置した場合よりも自然な形状の境界が得られている。
節点配置が計算精度に与える影響について調べるため,0.5 mの仮想境界上の181点の誤差を求めた。
なお,図7.11の放射音場の理論解析解を求めることはできないため,1000 Hzの波長に対する寸法比が 約0.05,要素数358の軸対称一定要素を用いたBEM [51] により求めた解を参照解としてL2相対誤差 を算出した。図7.13に横軸を未知数の数,図7.14に横軸を反復法に必要なメモリ容量としたL2相対誤 差の変化を示す。これらの結果を見ても,わずかではあるが角点に節点を配置しないほうが精度が良いこ とが分かる。
また,同図には軸対称一定要素を用いたBEMの誤差の変化も示している。BEMは境界のみを離散化 するため,必要な未知数の数は領域型の解法であるスペクトル法よりも少なくなっている。しかし,係数 行列は密行列であり,スペクトル法のように複数の疎行列に分解することもできない。そのため,連立方 程式の求解に必要なメモリ容量で比較すると,提案手法とほぼ同等になっている。
図7.12: 内挿された境界の形状
開領域音場の周波数応答関数
ここでは図7.11の放射音場の周波数応答関数を計算する。提案手法における仮想境界は半径0.5 mの 球面上に設置し,仮想境界上の点(x, y, z) = (0.5,0,0)を受音点とした。1 kHzの波長に少なくとも4つ の格子が含まれるように,有限領域内を174点に離散化した。このときの格子を図7.15に示す。また,
DtN写像におけるLegendre陪関数の打ち切り次数は10とした。
提案手法により求めた周波数応答関数を図7.16に示す。参考のために,連立方程式の解法に反復法を 用いた場合の提案手法とほぼ同等のメモリ容量33 kBを要する要素数45の軸対称BEMにより求めた 周波数応答関数も示している。どちらの手法も同じような周波数応答関数が得られているが,BEMで
は670 Hzあたりと990 Hzあたりに提案手法には見られないピークが生じている。これは開領域問題
において特定の周波数で解の一意性が保証されないという,BEM特有の問題である。この問題を解消 するためには特別な処理が必要であり,CHIEF(Combined Helmholtz Integral Equation Formulation) 法 [52]やBurton-Miller法 [53]がよく利用されている。CHIEF法は物体内部に複数の仮想的な点を付 加し,その点に関する方程式と連立して階数不足を補うという方法である。この方法は計算量を比較的小 さく抑えられるが,付加する点の位置や個数に任意性があり,必ずしも解が保証されるというものではな
い。Burton-Miller法は基本型と法線方向微分型の積分方程式を線形結合させた連立方程式を解く方法で
ある。CHIEF法のように特別な注意は必要ないが,連立方程式の規模が倍増することになる。
それに対して提案手法は特別な処理を施さずとも,BEMのような現象は生じておらず,滑らかな周波
数応答関数を得られている。