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第 9 章 音響振動連成解析と計算知能による楽器の設計と創生への応用 159

9.3 まとめ

計算知能を応用した設計のメリットは,実際に楽器を試作せずとも所望の特性を実現するために最適な 形状や材質を計算機上で探索することが可能であるということである。人間による従来の設計では,実際 に楽器を作り,試奏して初めてその楽器の音色が分かった。つまり,楽器の形状や材質が音色に先行する ものであったとも言える。本章で提案した設計プロセスによる楽器の設計が可能になれば,人間は純粋に 音色だけを評価し,計算知能が形状や材質を最適化していくことになる。その結果完成した楽器はこれま で想像できなかったような形状や材質になっていたり,さらには既成概念にとらわれない全く新しい楽器 の創生にもつながると考えられる。

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総括

楽器の音響振動場解析は,楽器のメカニズムの解明という音響学的研究,それを活かした設計,また電 子音楽などに用いられる音響合成といったシーンにおいて重要な技術であり,解析手法の高精度化,効率 化はそれらの発展に大きく寄与するものである。本論文は膜鳴楽器を対象とし,その厳密,高精度かつ効 率的な解析手法の提案,そして提案手法による膜鳴楽器の設計を目的とし,それらの有効性について論じ てきた。最後にそれらの成果についてまとめ,今後の課題および展望について述べる。

10.1 本論文のまとめ

各章の成果について以下にまとめる。

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第3章では膜振動場の理論解析解と音場の法線方向微分型境界要素法(BEM)を用いた解析手法を提案 した。膜鳴楽器は薄い構造体から構成されるため,法線方向微分型BEMを用いることで要素数を大きく 削減することができ,外部音場についても多くの先行研究のように近似することなく厳密に取り扱うこと ができる。膜振動場については理論解析解を用いることによって,BEMのマトリクス方程式に新たに未 知数を加えることなく膜振動場と音場の連成解析を可能にした。提案手法によって計算したティンパニ の周波数応答関数は実測した周波数応答関数とよく一致し,膜鳴楽器の解析手法としての妥当性を確認 した。

また,提案手法によるティンパニの設計例を示した。固有周波数比と整数比の誤差を評価関数として定 義し,それを小さくするヘッドの張力,面密度,ケトルの形状,容積について調べた。その結果,それら のパラメータは独立に最適値があるわけではなく,相互依存性があると考えられるという重要な知見をは じめとして,いくつかの設計指針を得ることができた。このことより,音響振動連成解析に基づく楽器設 計の可能性を示すことができたとも言える。

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第3章で提案した解析手法はヘッドの曲げ剛性を考慮しておらず,しなやかな膜として扱ったが,膜鳴 楽器に実際に張られているヘッドは曲げに対する剛性を有している。しかし,曲げ剛性を有する円形膜,

もしくは張力を有する円形薄板は,第3章で用いたような理論解析解を導出することができない。そこで 第4章では高精度な数値解析手法であるスペクトル法による張力を有する円形薄板振動場の解析手法を提 案した。円周方向については周期性を利用し,フーリエ級数展開することで離散化することなく解析する ことを可能にした。円形薄板振動場の支配方程式は4階微分方程式であるため,境界の節点において二つ の境界条件を同時に満たすように内挿関数の形を工夫した。このとき,フーリエ級数展開の次数によって 内挿関数の形に注意を要することについても述べた。

固有値問題や強制振動問題を解いて提案手法の妥当性を示すとともに,有限要素法(FEM)よりも少な い自由度で高精度の数値解を得られることを示した。また,円周方向にも離散化する従来のスペクトル法 に対しても,提案手法が演算量で優れていることを示した。

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第5章ではドラムに見られるような円筒シェル振動場の解析手法を提案した。用いた解析手法としては 第4章と同じくスペクトル法とフーリエ級数展開である。シェル振動場の支配方程式も薄板振動場と同 じく4階微分方程式であるため,境界において二つの境界条件が必要となる。第4章で用いた方法では 解くことができる境界条件が限られてしまうため,第5章では汎用的な方法としてHermite補間型微分 マトリクスを用いる方法を提案した。また,スペクトル法の種類としてはSpectral Collocation Method (SCM) と併せてSpectral Nodal Galerkin Method (NGM) についても定式化した。NGMの利点とし ては係数マトリクスが対称となることや自然境界条件を複雑な操作なく与えられるといった点があげら れる。

数値実験を通して,提案したSCMNGMともにFEMよりも高精度,高速,省メモリであることを 確認した。また,SCMNGMを比較すると,SCMは自由度が大きくなると正しい解が得られなくな るが,NGMのほうはより安定して正しい解を得ることができた。

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膜鳴楽器の内部音場に相当する軸対称空洞内の音場解析手法を提案した。スペクトル法を軸対称空洞の 解析に適用した場合,そのままでは整形な円筒形空洞しか解析できないが,ティンパニの内部音場のよう なより一般的な軸対称空洞についても解析できるよう,一般曲線座標系を導入した。四つの境界を一般曲 線座標系を用いて定義し,領域内の物理座標や解析に必要なメトリックについてはTransfinite補間によ り求めた。

提案手法はFEMよりも自由度を少なくすることはできた。しかし,第4章,第5章と違い,二次元の 問題であるため,連立一次方程式の解法に直接法を用いた場合,係数マトリクスを格納するのに必要なメ モリ容量は疎行列を係数マトリクスとするFEMよりも多くなってしまった。この問題に対する解決策は

連立一次方程式の解法に反復法を用いることである。スペクトル法の係数マトリクスは疎行列に分解する ことができ,マトリクスとベクトルの積を繰り返して解を求める反復法は,スペクトル法のこの特性を活 かすことができる。反復法で直接法と同等の精度の解を得られると仮定した場合のメモリ容量は,FEM よりも少なくできることを示した。スペクトル法に反復法を適用した場合の各種アルゴリズムの収束性や 安定性については今後検証が必要である。

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膜鳴楽器の外部音場である軸対称形状・開領域音場の解析手法を提案した。スペクトル法は領域型の解 法であるため,開領域に適用する場合,有限な領域で打ち切って何らかの境界条件を与えなければならな い。このとき不適当な境界条件を与えてしまうと,仮想境界からの疑似反射を生じてしまう。そこで球面 からの放射音場の理論解析解と連成するDtN写像を境界条件として適用することで,開領域を厳密に解 析できるようにした。

DtN写像は無限級数の形で表されるが,数値計算上は有限な次数で打ち切らなければならない。この 打ち切り次数と精度について検証したところ,打ち切り次数を大きくしていくと誤差はいったん収束する が,大きくしすぎると精度が悪化するということが分かった。これは数値積分の誤差に起因するものであ り,節点数を大きくすることで改善できた。このことから打ち切り次数は節点数を考慮した上で決める必 要がある。最適な打ち切り次数の算出が今後の課題である。

開領域音場解析を得意とするBEMと比較したところ,マトリクスの自由度については境界のみの離散 化でよいBEMに及ばなかった。しかし,係数マトリクスの格納に必要なメモリ容量については,反復法 を用いることで密行列を係数マトリクスとするBEMとほぼ同等に削減することができることを示した。

また,BEMでは特定の周波数において解の非一意性の問題を生じるが,提案手法ではそれが生じないこ とを確認した。

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第4章から第7章で提案してきた各振動場および音場の連成解析手法を提案した。連成の過程で円形薄 板振動場および円筒シェル振動場と外部音場の間で節点を共有できるように,外部音場に領域分割を導入 した。構成要素間に速度と力に関する連成条件を立て,音響振動連成場としてのマトリクス方程式を導出 した。

新たに提案した連成解析手法は,第3章で提案した膜振動場の理論解析解と音場の法線方向微分型境界 要素法を用いた連成解析手法よりも少ないメモリと計算時間で高精度の計算が可能であることを示した。

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楽器の音響振動連成解析の応用として,進化計算などに代表される計算知能と組み合わせた設計および 創生への展望について述べた。現状の楽器設計はまだトライアンドエラーによるところが大きい。一方で 計算知能を用いた楽器の最適設計も試みられてきているが,その設計指針に人間の主観評価は含まれてい ない。そこで対話型進化計算を用いた楽器の最適設計フレームワークを提案した。対話型進化計算により