第4章 周波数変化による動作変更量制御実験
第5節 提案手法による動作変更量制御の精度の検討
本節では,提案手法による肘関節動作変更量の精度の検討を行う.これまで人体への振動 刺激により人間の動作変更を制御する試みは行われていないため,従来手法との精度の比 較を行うことはできない.
そこで,本研究では,振動刺激が加えられていない条件下で,各被験者が自身の動作意図 に基づいて肘関節を動かす際の意図する関節角度と実際の関節角度との差を,提案手法に よる振動刺激が加えられている際の目標角度と実際の角度との差と比較することにより,
提案手法による動作変更量制御の精度の検討を行った.
まず,振動刺激なし条件下における被験者自身の意図する関節角度と実際の関節角度と の差を確認するために,振動刺激なしで肘関節伸展運動を行う実験を行った.
〇振動刺激なし条件下での肘関節伸展運動実験の実験条件および手順
動作変更量の制御実験と同様の実験装置を用いて実験を行った.被験者は振動刺激を与 えられない条件下で,肘関節伸展運動を生成した.このとき,制御実験と同様に,Reference arm(左腕)で生成した肘関節伸展運動と同様の肘関節伸展運動を右腕でも生成した.
Reference arm(左腕)の肘関節伸展運動は被験者の動作意図を示す.Reference arm(左腕)
の伸展角速度は3 [deg/s]であり,角度域は45-20 [deg]であった.以下に,実験手順を示す.
1. 両肘関節角度を0 [deg]にし,肘関節角度の記録を開始した
2. 実験者は被験者の左腕(Reference arm)の手首を把持し,45 [deg]まで屈曲させた.この とき,被験者は右腕において左腕(Reference arm)で知覚した肘関節角度と同様の肘関 節角度を生成した.
3. 実験者が左腕(Reference arm)を触れることで合図を伝え,被験者は肘関節伸展運動を 開始した.
4. 被験者は左腕(Reference arm)の肘関節角度が20 [deg]に達したと感じるまで肘関節伸 展運動を行い,被験者が肘関節伸展運動を停止した時点で肘関節角度の記録を停止し た.
各被験者につき,3回上記手順を繰り返し行った.
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〇振動刺激なし条件下における角度絶対偏差と制御実験における角度絶対偏差との比較 振動刺激なし条件下における肘関節伸展運動実験の結果を図 4-10 へ示す.式(3)により,
振動刺激なし条件下における両肘関節角度の絶対偏差を,肘関節伸展運動開始から終了ま での区間で求めた.その後伸展運動中絶対偏差の平均値を求め,3回の振動刺激なし条件下 での実験における絶対偏差平均値の平均を求めた.算出手順を図4-10に示す.また,3回そ れぞれの実験における絶対偏差平均値,さらに 3 回の絶対偏差平均値の平均および標準偏 差を表4-1へ示す.
この,振動刺激なし条件下での両肘関節間の絶対偏差平均値の平均を,動作変更量制御実 験における目標肘関節角度と実際の右腕(Vibrated arm)肘関節角度との差と比較する.以 下の式により,目標肘関節角度と実際の右腕(Vibrated arm)肘関節角度との差,すなわちコ ントロールエラーの量を求めた.
Control error = | target joint angle – right arm angle | (5)
Control error は,目標肘関節角度と右腕(Vibrated arm)とのコントロールエラーである.
target joint angleは,目標肘関節角度,Right arm angleは右腕(Vibrated arm)の肘関節角度 である.この式を用いて,振動刺激による動作変更量の制御の開始から終了までのコントロ ールエラーを求めた(図4-11).各目標軌道に対する右腕(Vibrated arm)のコントロールエ ラーを表4-2へ示す.各目標軌道に対して3回の動作変更量制御実験を行ったため,コント ロールエラーは3回の平均値である.
表4-1に示された各被験者の振動刺激なし条件下における絶対偏差平均値の平均と,表 4-2へ示された各被験者の各目標軌道に対するコントロールエラーを比較すると,すべての被 験者において,コントロールエラーの値のほうが振動刺激なし条件下における絶対偏差平 均値の平均よりも小さな値であることがわかる.振動刺激なし条件下での左腕(Reference arm)肘関節角度と右腕(Vibrated arm)肘関節角度との絶対偏差は,被験者が肘関節伸展運 動を行う際に意図する運動との間に生じうるエラーを意味する.この絶対偏差の値の比較 により,提案手法におけるコントロールエラーは,振動刺激がない条件下で被験者が肘関節 伸展運動を行う際に意図する運動との間に生じうるエラーよりも精度よく被験者の肘関節 動作変更量を制御することができていることが明らかとなった.
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図 4-10 振動刺激なし条件下での肘関節伸展運動,絶対偏差平均値の算出手順
表4-1 振動刺激なし条件下での両肘関節角度絶対偏差平均値,標準偏差
Participant
Absolute deviation of
natural elbow motion Average
(Standard deviation) Trial 1 Trial 2 Trial 3
1 0.5° 4.0° 3.7° 2.7° (1.6)
2 2.1° 1.9° 4.4° 2.8° (1.1)
3 4.1° 4.1° 3.0° 3.7° (0.5)
4 1.5° 1.4° 1.6° 1.5° (0.1)
5 2.2° 2.9° 1.6° 2.2° (0.5)
6 2.5° 4.4° 2.7° 3.2° (0.9)
7 1.8° 1.3° 1.2° 1.4° (0.3)
図 4-11 振動刺激による動作変更量制御時のコントロールエラーの算出
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表4-2 各目標軌道に対する右腕(Vibrated arm)肘関節角度のコントロールエラー
平均値,標準偏差
Participant Target trajectory 1 (S. D.)
Target trajectory 2 (S. D.)
Nonlinear target trajectory (S. D.)
1 1.9° (0.9) 1.1° (0.3) 1.1° (0.2)
2 2.2° (0.3) 1.5° (0.3) 2.2° (0.2)
3 2.6° (0.9) 1.5° (0.5) 1.5° (0.6)
4 1.4° (0.2) 1.0° (0.1) 1.1° (0.3)
5 1.4° (0.1) 1.2° (0.1) 1.4° (0.4)
6 1.7° (0.3) 1.4° (0.3) 1.4° (0.3)
7 0.5° (0.1) 0.5° (0.1) 1.2° (0.3)
第6節 結言
本章では,振動刺激周波数が増大すると,動作変更量変化率の値が高くなる性質を利用し,
動作変更量をP制御の要領で制御する手法について提案を行い,被験者7名で2種類の肘 関節角度線形目標軌道,1種類の肘関節角度非線形目標軌道に対して提案手法の有効性を確 認した.
提案手法の制御精度について,振動刺激を加えない条件下において被験者自身の意図す る動作と実際に生成された動作との間に生じうる絶対誤差(コントロールエラー)と,提案 手法において目標軌道と被験者の肘関節角度との間に生じた絶対誤差(コントロールエラ ー)を比較した結果,提案手法において生じたコントロールエラーは,振動刺激なし条件下 で生じるコントロールエラーよりも小さいことが明らかとなり,提案手法の有効性が確認 された.
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