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「排除相当性」と因果関係 1.因果関係の判断と主観的要素

ドキュメント内 博士論文要旨 (ページ 171-193)

⑴最高裁の「関連性」の基準と「同一目的・直接利用」の基準

わが国の最高裁は、排除法則の適否の要件として「当該証拠と違法行為との間の因 果関係」を考慮している。そして、最高裁はこの要素を「違法の重大性」で考慮して いると解する見解1も存在するが、最決平成15年 2月14 日(刑集57巻 2号121頁)

が「このように違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは、将来における違 法捜査抑制の見地からも相当でない」と判示していることから、最高裁はこの要素を

「排除相当性」で考慮していると解する見解2も主張されている。判例は判文を重視す べきであるとすれば、後者の見解が妥当であるといえよう。しかし、それだけではな く、前章において検討したように、「排除相当性」とは「有責性」であるところ、「有 責性」とは帰責性を問題とする概念であるということも、後者の見解の妥当性を裏付 けるのである。そこで、本章では、因果関係と「排除相当性」との関係について、と りわけ、捜査官の主観的要素に焦点をあてて考えてみたい。

前述のとおり、最高裁は直接の証拠収集手続(後行手続)の違法が重大であるかを 判断するに際し、その手続に先行する手続に違法が存在したかを認定し、先行手続と 後行手続の関係を明らかにした上で、先行手続の違法が当該証拠を排除するにたるか を判断している(いわゆる「違法の承継」。)。「同一目的・直接利用」の基準とは、

後行手続が違法とされる先行手続と「同一目的」で、その手続を「直接利用」したと いえる関係がある場合、後行手続が先行手続の違法性を承継するというものである。

この基準は、先行手続と後行手続の因果関係を判断するために、最高裁によって採用 されたものである。すなわち、最判昭和61 年4月25日(刑集40巻3号215 頁)は、

採尿手続が先行手続である任意同行の違法性を承継するかについて、「一連の手続に

1 石井一正「最新重要判例評釈(108)」現刑6巻4号(2004年)78頁。

2 川出敏裕「いわゆる『毒樹の果実論』の意義と妥当範囲」『松尾浩也先生古稀祝賀論文集

(下)』(1998年)532頁。

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引き続いて行われた採尿手続は、被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的 に向けられたものである上、一連の手続によりもたらされた状態を直接利用したもの であるから、違法性を帯びる」と判示し、この基準を採用した。続く最決昭和63年9 月16日(刑集 42巻7号1051頁)は、「同一目的」の語を用いず、「直接利用」とい う基準のみを用いたが、この事案は、先行手続である所持品検査と後行手続である採 尿手続が、いずれも覚せい剤事犯の捜査を目的としていたため、昭和 61年判決の基準 を踏襲したものと考えられていた。しかし、平成15年決定が、いわゆる「密接関連性」

という基準を用いて、後行手続が先行手続の違法性を承継するかを判断した。これは、

平成15年決定の事案が、当初の違法逮捕が窃盗罪を理由とするものであったことから、

目的の同一性が認められず、「先行手続の影響により採尿手続も違法性を帯びるとは 直ちに評価できな」かった事案であったことが挙げられる3。そして、続く最決平成 21 年9月28日(刑集63巻7号868頁)も、先行手続であるX線検査は、後行手続であ る採尿手続と同様に覚せい剤事犯の捜査が目的であり、同一目的を認定することが容 易であったにも関わらず、この基準を用いず、「関連性」という言い方をしているた め、「『同一目的』・・・は関連性判断における考慮要因にすぎず、それ自体が関連 性の存在(違法性の承継)を肯定するための要件ではないとする見方は、本決定によ り裏付けられた」4とみることができると思われる。

⑵「法潜脱の意図」と「利用意思」との関係

ところで、「直接利用」の基準について、判例は㋐「直接」性を重視しているとみ る見解と、㋑「利用」関係があれば足りるとしている見解との対立があり、それとは 別に「利用意思」が考慮されるかという対立もあった。ところが、前述のように、平 成15年決定は先行手続と後行手続の因果性について、「密接関連性」の基準によって 判断することを示し、窃盗罪での逮捕当日に採尿がなされた事実のみを理由にこれを 肯定したので、前者の対立については、㋑の見解が有力とされ、「利用意思」につい

3 中川孝博「違法な逮捕によって得られた資料の証拠能力」法セ 582号(2003年)119頁。

4 笹倉宏紀「宅配便荷物のエックス線検査と検証許可状の要否」ジュリ 1398号(平成21 年度重要判例解説、2010年)210頁。

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ては、「採尿についても、被告人が警察署に引致された後、それまでの言動等に異常 なところがあったことなどから上司の指示により、これが行われるに至ったもののよ うであり、問題とされている窃盗事案による令状逮捕がその後発覚した覚せい剤使用 等の証拠を取得するなど覚せい剤事犯の捜査に利用するために行われたものとは到底 考え難」いことから、考慮されていないとされた5

他方で、平成15年決定が採尿手続を「重大な違法」と判断した理由として、捜査官 に「法潜脱の意図」が認められたためであるとする見解6がある7。この見解の前提にあ る「法潜脱の意図」について、ⓐ違法行為を行う故意であるとみる見解と、ⓑ悪質な 目的がある場合に限るとみる見解があるところ、ⓑ説が妥当であることは既に第四章 において説明した。そして、ⓑ説のように考えた場合、「法潜脱の意図」がある場合 とは、「当初から違法に証拠を収集するという悪質な目的」がある場合をいうことに なり、そこには当然に、先行手続の結果を利用する意思が含まれるのではなかろうか。

上記のような目的がある者であれば、利用できるものは何でも利用して証拠を発見し ようとするからである。

⑶主観的要素と介在事情との関係

平成15年決定は、派生証拠の因果性についても「密接関連性」の基準によって判断 することを示した上で、覚せい剤の捜索差押許可状が司法審査を経て発付された事実、

窃盗事件の捜索令状も併せて執行された事実を理由に、「密接関連性」を否定した。

前者の事実が「密接関連性」を否定する事実たる所以について、たとえば、石井教授 は、「捜査官が令状主義にのっとり、疎明資料を提出して司法審査を受け、裁判官が 適切に司法審査をした上令状が発付された事実は、排除法則の適用を考える上で大き なウェイトをもつというべきである。」とされる8。しかし、本決定が、捜査官に「法

5 河村博「違法収集証拠をめぐって」『河上和雄先生古稀祝賀論文集』(2003年)368頁。

6 たとえば、朝山芳史「最高裁判所判例解説」曹時56巻12号(2004年)244頁。

7 これに対して、本決定は「排除相当性」の見地から証拠排除したとみる見解( たとえば、

佐藤文哉「判例クローズアップ 違法収集証拠排除の新局面」法教275号(2003年)42 頁。)もあるが、「排除相当性」は排除否定の方向でしか考慮できないと考えられるので、

この見解は採り得ない。詳細は本稿第六章参照。

8 石井前掲注(1)78頁。

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潜脱の意図」、すなわち悪質な目的が存在したことを理由に「違法の重大性」を認定 したと解した場合、主観的要素が異なる手続を結び付ける要素であることを考慮すれ ば9、派生証拠の採取手続(本件においては覚せい剤の捜索。)時においても、捜査官 は当然その目的を有していることになるはずであろう。そして、もし捜査官に法潜脱 の意図が存在したのであれば、派生証拠の採取手続だけ令状主義にかなった方法を採 ることはないはずである。にもかかわらず、あえて表面上令状主義にかなった方法を とったのは、当初の違法が発覚することはないと考え、証拠獲得のため令状を悪用し ようとしたからではなかろうか10

とすると、かかる事実が「密接関連性」を否定する別の理由を検討しなければなら ない。この点について、たとえば、渥美教授は、本決定は「覚せい剤差押えが、司法 審査という介在事由を経て発せられた捜索差押許可状によっているとの(米国での稀 釈ルールと似た)理由で、違法逮捕と覚せい剤差押えの関連は密接なものでなくなっ たとの理由づけ」をしているとされる11。稀釈法理とは、違法行為と当該証拠との間に、

被疑者または第三者の行為が介在することによって、当該違法行為を利用して証拠を 獲得したといえなくなった場合に、毒樹の果実の法理の適用を否定するものである。

上述のとおり、捜査官に当初から悪質な目的が存在する場合には、仮にその後形式的 には令状に基づいた適法行為を行ったとしても、令状を悪用したと評価されることに なってしまう以上、「密接関連性」を否定する理由としては、捜査機関以外の者の介 在を理由とするほかないのである。

稀釈法理は毒樹の果実の理論を採るアメリカにおいて、その例外法理として採用さ

9 山田耕司「尿の任意提出における『同一目的・直接利用』基準」判タ 779号(1992年)

53頁。

10 下級審裁判例の間でも、違法に獲得された資料に基づいて発付された令状の執行をどの ように評価するかについて争いがある。表面上適法な令状を執行していることを排除否 定の方向で考慮した裁判例として、大阪地判平成4年3月24日(判タ823号252頁)、

東京地判平成4年9月3日(判時1453号173頁)等がある。他方で、違法な資料に基 づいて発付されたことを排除肯定の方向で考慮した裁判例として、浦和地判平成 4年2 月5日(判時 1418号138頁)、大阪高判平成4年2月5日(高刑集45巻1号115頁)、

東京地判平成4年9月11日(判時1460号158頁)等がある。そのように評価が分か れる理由について、これまであまり検討されてこなかったが、その理由は、捜査官の主 観的要素の有無にあると思われる。主観的要素が異なる手続を結び付ける要素であるこ とを前提に、前者の裁判例は捜査官に「法潜脱の意図」がなかったことを認定している こと、後者の裁判例は「法潜脱の意図」の存在を明示的に認定していないものの、客観 的違法の重大性からその存在が推定されることからである。

11 渥美東洋「排除法則を支える原理―最(2小)判平15・2・14大津覚せい剤事件に即し て―」現刑5巻11号(2003年)27頁。

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