第 4 章 児童期の学力変化を規定する諸要因の検討
4.2 性格と学力の関連性の分析
4.2.1 目的
日本において,小学生を対象に性格と学力の関連を実証的に検討した研究は僅かである。
性格を構成する特性のうち,向性(外向性-内向性)が学力に影響し,外向性の児童の方が 内向性の児童よりも学業成績が高いことが示唆されている(鈎・倉智,1975)。しかしなが ら,それ以外の特性については検討されていない。
ところで,近年,性格の基本特性が5因子であることが確立した理論として安定した位 置を占めている(曽我,1999)。そこで,本研究では,新たな試みとして,5因子性格尺度 を利用して性格と学力の関連性について探索する。
4.2.2 方法
質問紙調査の手続き 質問紙調査は,2007年度~2011 年度入学者を対象に,2013 年~
2015年の各3月に実施された。クラスごとに担任が質問紙を配布,回収した。
性格の尺度 小学生用5因子性格検査(FFPC)(曽我,1999)を使用した(付録1の① のⅠ参照)。「協調性」「統制性」「情緒性」「開放性」「外向性」の5因子それぞれ8項目,
計40項目からなる。回答は,「はい」(3点),「どちらともいえない」(2点),「いいえ」(1 点)の3件法であった。各因子は次のように概念づけられている。
①協調性:人間関係を重視する。他人の気持ちを思いやり,共感や信頼を強く感じる傾 向。
②統制性:ある一定の価値基準に従って自己を統制する。責任感が強く,物事に積極的 に取り組もうとする傾向。
③情緒性:ストレスや脅威,あるいは他人の思惑に敏感で,緊張や不安が強い。何事に も自信がなく,落ち込みやすい傾向。
④開放性:現実にとらわれることなく,発想がユニークで,好奇心や探究心が強い。常 識の枠から解放された自由な思考を行う一方,現実回避の傾向も示す。
⑤外向性:活動的で自己顕示傾向が強い。怒りなどの感情を抑えるのが苦手で,外に表 しやすい傾向。
学力の尺度 4.1と同じ。
分析対象 表2.2-3に示した通り,性格の尺度に対しては,2007年度入学者は6年生時,
2008年入学者は5年生時,2009年以降の入学者は4年生時に回答した。回答に不備のなか った397名(男子174名,女子222名)が分析対象となった。
88 4.2.3 結果
(1)FFPC の信頼性
5 つの因子ごとに I-T(項目-全体)相関を求めたところ,いずれの因子にも著しく相関 の低い項目は見られなかった(付録4参照)。また,Cronbachのα係数も.66~.77であり,
原典(曽我,1999)での.64~.72と同様であった。尺度の信頼性には問題がないと判断し,
各因子を構成する項目の合計値を尺度得点とした。
(2)FFPC の記述統計量
表4.2-1は,全体及び男女別の各尺度得点の平均値と標準偏差,t検定による性差の結果 を示したものである。全体及び男女別ともに原典における平均値と著しい差は見られなか った。性差については,原典では協調性,統制性,外向性で見られたが,本研究では,統 制性でのみ有意で,原典と同様に女子の方が男子よりも高かった。有意差は見られなかっ たが,原典と同様に協調性では女子が,外向性では男子が平均値は高かった。以上から,
本サンプルの性格特性が,標準から著しく偏ってはいないことが確認された。
表4.2-1 全体及び男女別の各尺度得点の平均値(M)と標準偏差(SD),t検定の結果 全体 男子 女子 性差(t値)
協調性 N 389 170 219
M 19.37 19.08 19.59 1.42 SD 3.52 3.86 3.22
統制性 N 391 174 217
M 17.65 17.13 18.08 2.78**
SD 3.39 3.40 3.32
情緒性 N 391 172 219
M 15.94 15.89 15.99 0.23 SD 4.09 3.83 4.29
開放性 N 390 172 218
M 17.47 17.07 17.79 1.73 SD 4.09 4.19 4.00
外向性 N 392 173 219
M 16.83 17.16 16.58 1.68 SD 3.45 3.35 3.51
**p<.01
(3)性格と学力との相関
FPPC の各尺度得点と,各学年時の算数偏差値,国語偏差値との相関係数を求めた。そ の結果,表4.2-2に示す通り,統制性と,2,3年時の算数偏差値,3,4年時の国語偏差値 との間に有意な正の相関が見られた。また,情緒性と,6 年時以外の算数偏差値,全学年 時の国語偏差値との間に有意な負の相関が見られた。
男女別にみると,男子では,情緒性と3 年時の算数偏差値,4年時の国語偏差値との間 で有意な負の相関が見られた。女子では,統制性と2~5年時の算数偏差値,3~5年時の 国語偏差値との間で有意な正の相関が見られた。また,情緒性と2~5年時の算数偏差値,
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2年~6年時の国語偏差値との間で有意な負の相関が見られた。
表4.2-2 FPPCの各尺度得点と各学年の算数偏差値,国語偏差値の相関 協調性 統制性 情緒性 開放性 外向性
全体
算数
1年 -.004** .035** -.111** .098** .018**
2年 -.016** .129** -.129** .033** .069**
3年 .028** .113** -.179** -.034** -.013**
4年 .011** .080** -.149** -.017** .020**
5年 .070** .096** -.143** -.016** .036**
6年 .052** .104** -.119** -.054** -.006**
国語
1年 -.013** .048** -.135** .051** -.026**
2年 -.052** .059** -.148** .095** .031**
3年 .011** .123** -.187** .025** -.023**
4年 .026** .113** -.170** .053** -.035**
5年 -.008** .097** -.148** .045** .045**
6年 .070** .028** -.149** .044** -.029**
男子
算数
1年 .015** .069** -.132** .046** .012**
2年 .016** .098** -.035** -.015** .003**
3年 .112** .080** -.162** -.087** -.048**
4年 .087** .076** -.128** -.073** -.029**
5年 .117** .025** -.112** -.032** -.011**
6年 .163** .109** -.134** -.029** -.062**
国語
1年 -.036** -.017** -.152** .011** -.019**
2年 .007** -.018** -.139** .053** .047**
3年 .012** .053** -.128** .013** -.004**
4年 .090** .033** -.192** -.028** -.018**
5年 -.048** -.060** -.104** .030** .036**
6年 .140** -.031** -.087** .075** -.030**
女子
算数
1年 -.013** .018** -.096** .150** .017**
2年 -.036** .177** -.197** .083** .113**
3年 -.039** .170** -.192** .027** .001**
4年 -.035** .138** -.166** .065** .033**
5年 .044** .213** -.176** .028** .051**
6年 -.046** .143** -.125** -.036** .019**
国語
1年 -.001** .087** -.124** .076** -.021**
2年 -.130** .120** -.157** .127** .026**
3年 .006** .185** -.241** .030** -.033**
4年 -.035** .187** -.153** .126** -.049**
5年 .028** .223** -.186** .047** .068**
6年 -.010** .074** -.204** -.005** -.015**
**p<.01 *p<.05
90 4.2.4 考察
本研究では,5因子性格尺度を利用して性格と学力の関連性について探索した。
先行研究(Eysenck& Cookson , 1969;鈎・倉智,1975)では,性格特性のうち外向性‐
内向性と学力に関連性が見られたが,本研究では全体でも,男女別でも有意な相関は見ら れなかった。同じ名称の次元ではあるが,FPPCの外向性の項目には,「目だちたがりやで ある」「じっとしているのがきらいだ」「おとなしい方だ(逆転項目)」といった活動に関連 した項目だけでなく,「気が短い」「いたずらされるとだまっておれない」「あまりかっとな らない(逆転項目)」といった攻撃に関連した項目も混在したためと考えられる。この点に ついて,開発者の曽我(1999)は,性格形成途上にある児童の場合,複数の性格要素が部 分的に重なり互いに影響しあいながら,1つの次元を形づくっていると述べている。
さて,本研究では,新しい知見として,2 年生以降の算数,国語の両学力と,統制性と の間には正の相関があること,情緒性との間には負の相関があることを見出した。統制性 の内容は,中村(1964)が明らかにしたオーバーアチーバーの特徴のうち,共同の活動に 対してより責任を自覚すること,自己を内省し,統制しようとする傾向が強いとことと整 合し,同様に,情緒性の内容は,オーバーアチーバーが情緒的に安定し,抑うつ性や神経 衰弱に苦しむことが少ないことと整合する。また,現在,学業に主体的に取り組む過程を 記述したモデルとして自己制御学習(Zimmerman, 2004)が注目されているが,そのモデル において自己統制が重要な要因として位置づけられており,今回の統制性と学力の間の正 の相関は妥当と考えられる。
ただし,統制性については女子のみで有意であり,また,情緒性については男子では算 数,国語ともに1学年でのみ有意であった。こうした男女差については,Eysenck&Cookson
(1969)や鈎・倉智(1975)においても,外向性-内向性と学力との関連性が女子の方が 強いという報告がなされている。このことを踏まえると,児童期においては女子の方が男 子よりも,性格特性が学力に反映されやすい可能性が考えられる。
以上から,女子のみに限定されるかもしれないが,性格特性のうち,統制性と情緒性は 学力と関連する可能性が示唆された。
しかしここで留意すべきことは相関の強さである。相関係数は 0.2 前後あり,弱い相関 である。相良・都築・宮本・家近(2014)によれば,学習コンピテンスと統制性の間には 正の相関,情緒性との間には負の相関が見られたが,中程度の強さであった。このことか ら,性格特性は,学力と直接的に関連するのではなく,学力を促進させる何らかの行動あ るいはそうした行動を喚起する心的特性を媒介にして関連することも予想される。統制性,
情緒性と学力との相関に見られた性差は,そうした媒介過程の違いによるためかもしれな い。
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