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第 4 章 ヒト・ノイラミニダーゼ-2−シアル酸誘導体の複合体形成に伴う全自由エネルギー

4.1 序論

ノイラミニダーゼ (neuraminidase: NA, EC3.2.1.18)はexoglycohydrolaseに属し, 糖タンパ ク質, 糖ペプチド, ガングリオシド, オリゴ糖などの複合糖質の非還元末端に存在するシア ル酸を加水分解する酵素であり, このシアル酸の制御を介して様々な生物学的プロセスに 関与している. NAは, 前章で述べたウイルスをはじめ, 微生物 (細菌, 原虫, 真菌)やヒトを 含む高次の動物まで, 自然界に広く分布している [228]. これまでに, NA の構造・機能の 解明を目的とする多くの解析が報告されているが, その大部分はインフルエンザウイルス・

NAに関するものであり [145, 146], ヒト・ノイラミニダーゼ (human neuraminidase: hNEU)に ついての報告例は少ない [229, 230]. インフルエンザウイルス・NAおよびhNEUのいずれ においてもその基質はシアル酸であり, 特に前者に対する触媒反応機構の研究から [154–

156], シアル酸の遷移状態中間体を模倣した阻害剤 (transition-state analogues (mimetic) inhibitor)が 開 発 さ れ て い る. な か で も 2-deoxy-2,3-didehydro-N-acetyl-neuraminic acid (Neu5Ac2en, DANA) [231]は, 1960年の後半に開発された初期のNA阻害剤であるが (図 4.1), インフルエンザウイルス・NAのみならず, その他の様々なNAに対しても, 弱いながら も阻害効果を示す [232, 233]. このことは, インフルエンザウイルスやヒトを含め, 多くの生 物種由来のNAの活性部位のアミノ酸残基が高度に保存されていることを示唆している.

図4.1 シアル酸の遷移状態中間体を模倣した阻害剤 (DANA)の開発

Sialic acid (N-acetyl-neuraminic acid: Neu5Ac, NANA) R =Sugar

O

NH O CH3 O

O

OH OH HO

OR

OH

O

NH O CH3 O

O

OH OH HO

OH

DANA (2-deoxy-2,3-didehydro-N-acetyl-neuraminic acid, Neu5Ac2en) Transition-state

mimetic

91

hNEU は, 細胞内局在性, 酵素特性および基質特異性が異なる 4 種類が現在までに同 定・特徴づけられており [234], それらはリソソームに局在するヒト・ノイラミニダーゼ-1 (hNEU1) [235], 細胞質に局在するヒト・ノイラミニダーゼ-2 (hNEU2) [236], 細胞表層の形 質膜に局在するヒト・ノイラミニダーゼ-3 (hNEU3) [237]およびこれらとは大きく性質の異なる ヒト・ノイラミニダーゼ-4 (hNEU4) [238]に分類される. いずれも, 細胞増殖・分化およびアポ トーシスなどの様々な細胞機能に関与する (表4.1). 特に, hNEU1はシアル酸含有複合糖 質のリソソーム性の異化作用に必要不可欠であり, hNEU2 は筋・神経分化に関与, また,

hNEU3 はガングリオシドの制御を介して細胞表面機能を担う. 一方で, hNEU4 は広範な複

合糖質に対して活性を示し, また, 糖脂質の異化作用にも関与するとされるが, その詳細に ついては未だ明らかとなっていない. また, 構造的な観点については, hNEU2 は動物 NA においては初めて, またhNEU1–4のなかでは唯一その3次元立体構造が明らかとなってい る (図4.2 (a)) [239]. その構造的特徴として, 一般にNAが有する6個のβ-sheetから構成さ れるβ-propeller構造および活性部位のアミノ酸残基は高度に保存されている. hNEU2とイン フルエンザウイルス・ノイラミニダーゼ-1 (N1-NA, 図 4.2 (b))を比べた場合, 両者のアミノ酸 残基の配列相同性はそれほど高くないものの (identity: ∼16%, similarity: ∼25%), タンパク 質全体の構造的特徴やarginine triad (hNEU2: Arg21, Arg237, Arg304, N1-NA: Arg118,

Arg292, Arg371)などの活性部位のアミノ酸残基については比較的類似している.

表4.1 hNEU1–4の比較 [229, 230]

hNEU1 hNEU2 hNEU3 hNEU4 subcellular

localization Lysosomes Cytosol Plasma membrane Lysosomes, mitochondria and

ER

substrates Oligosaccharides and glycopeptides

Oligosaccharides, glycoproteins, and gangliosides

Gangliosides

Oligosaccharides, glycoproteins, and

gangliosides optimal pH

(in vitro) 4.4–4.6 5.6–6.5 4.6–4.8 3.2–4.5

total amino

acid residues 415 380 428 496 (484)a

function Lysosomal catabolism and immune responses

Muscle cell and neuronal differentiation

Neuronal differentiation, apoptosis, and cell

signaling

Cell apoptosis or neural differentiation

a hNEU4 exists as two isoforms.

(a) hNEU [189]). α それぞれ

前述 際に抗イ structur な抗イン 治療に広 事象が報 て, hNE いる [2 害するこ フルエン 用の少な

本章 て, 非経 分 子 科 expressi 伴う全自 アル酸誘 とした. エンザウ 解析結果

上記

4.2 ヒトお

U2−DANA

α-helixおよび CPKモデ

したように, インフルエ re based dru ンフルエンザ

広く使用され 報告されて

EUへの影響

41–248]. 実 ことが報告さ ンザウイルス ない新規N では, hNE 経験的フラグ 科 学 計 算 な

ion by repr 自由エネル 誘導体の各

また, 抗イン ウイルス (N

果に基づき の検討の結

(a)

およびインフ の複合体 (P β-sheet

ルおよびsti

DANAはイ

ンザ剤とし ug design (S ザ剤として, れている. し ており [240],

響が指摘さ 実際に, zan されている ス・NA に対

NA阻害剤の

U2 と抗イン

グメント分子 な ら び に そ の

resentative e ルギー変化の

各部分構造の ンフルエンザ N1-NA)に対 き議論する. 結果, シアル

フルエンザウ PDB code: 1 は, それぞれ赤

ickモデルで

インフルエン て使用する SBDD)やDA

4つのNA しかしながら

, NA阻害剤 れ, NA阻害 namivirやo

[242, 244, 対する結合選

の開発につ ンフルエンザ 子軌道 (ab

の 結 果 に 基 energy term の変動を支

の寄与を原 ザ剤のなか 対する結合選

ル酸誘導体

92

ウイルス・ノ VCU [239]) 赤色および黄 で表す.

ンザウイルス るには小さい

ANA誘導体

A阻害剤 (図 ら, 特にose 剤のヒトへの

害剤のhNE oseltamivir

245, 247].

選択性の違 つながると考

ザ剤を含む initio fragm 基 づ く 自 由 ms: LERE-Q 配する相互 原子・電子レ かでも特にo 選択性の違 とhNEU2

イラミニダー , (b) N1-NA 黄色で表す.

ス・NA全般 い. そのため 体のQSAR3.4 (d))が eltamivir服用 の影響が懸念

EUに対する

, その程 したがって 違いを理解す 考えられる.

む一連のシア ment molec 由 エ ネ ル ギ QSAR)解析 互作用様式 レベルで定量

seltamivirの 違いについて

の複合体形 (b)

ーゼの3次元

−oseltamivir リガンドおよ

般を阻害する め, NA の R解析から, が開発され,

用後の精神 念される. そ る阻害効果 程度は小さい

, NA阻害 することは,

アル酸誘導体 ular orbital ギ ー 変 化 の 析 [16–21]

ならびにそ 量的に明らか

のヒト (hNE ても, 前章に 形成において

元立体構造 rの複合体 よびarginine

るが, その強 構造情報に 現在までに , インフルエ 神・神経症状

その原因の一 果の検討が行

いもののhNE 害剤のヒトお

高い選択性

体の複合体 l: FMO)法等

線 形 表 現 から, 複合体 その変動に対

かにすること EU2)およびイ における N1

, (1) 実測 造

(2HU4, e triadは,

強度は実 に基づく に代表的 エンザの 状の有害 一つとし 行われて EUを阻 よびイン 性と副作

体につい 等による 現 (linear

体形成に 対するシ とを目的 インフル 1-NA の 測の阻害

93

活性値より求まる全自由エネルギー変化の変動をLERE-QSAR解析から定量的に説明でき たこと, (2) その変動を支配する特定のエネルギー成分を明らかにしたこと, (3) oseltamivir の結合選択性を担う相互作用様式を定量的に明らかにしたのでそれらを中心に以下に述 べる [18, 21, 249].

4.2 解析方法