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7名中5名の被験者が,ARI試行およびSRI試行のCrushed ice摂取の安静中に頭痛を訴えた.しかし,

運動開始以降に頭痛を訴えた被験者はいなかった.一方,胃腸の不快感を訴えた被験者は1人もいなか った.

R a tin g o f p e rce ive d e xe rt io n �

Time (min)�

Exercise�

COOL�

SRI�

§ ARI�

§

§

§

§

§

76

4) 心拍数

図6-8に心拍数の経時変化を示した.心拍数は,測定開始から疲労困憊時まで3試行間で有意な差は 認められなかった.

6-8. 3 試行における運動前 (A) および運動中の (B) の心拍数の経時変化

Heart rate (bpm)

Time (min)

COOL�

SRI�

ARI�

Heart rate (bpm)

Time (min) Exercise�

A�

B�

5) 蓄熱量

ARI試行における運動前の蓄熱量 (-9.03 ± 4.61 W/m2) はSRI試行 (-4.98 ± 2.50 W/m2, p < 0.05) や COOL試行 (2.86 ± 4.44 W/m2, p < 0.05) よりも有意に低い値を示した.運動中の蓄熱量はCrushed ice摂

取 (SRI or ARI試行) において冷水摂取 (COOL試行) よりも有意に低い値を示したが,Crushed ice摂取

の試行 (SRI: 77.58 ± 13.28 W/m2 vs. ARI: 82.45 ± 11.52 W/m2) 間で有意な差は認められなかった.

4.3.4 考察

研究Ⅳから得られた主な知見は以下の通りである.

1) 間欠的に5分間隔で6回に分けてCrushed iceを摂取した場合に,ARI試行の直腸温は氷飲料摂取

完了後20分まで有意に低下し,SRI試行よりも有意に低い値を示した.

2) 運動開始45分前からのCrushed ice摂取は運動開始30分前の摂取に比べ,サイクリング時間を延

長させた.

7.5 g/kgBMのIce slurry摂取は,冷水摂取よりも持久的パフォーマンスの低下を抑制する (Siegel et al.,

2010; Yeo et al., 2012).本研究のCrushed ice摂取 (ARIやSRI試行) は,上記の先行研究と同様に冷水摂 取よりも運動開始時の直腸温を有意に低下させ,運動時間を延長させた.また,Onitsukaら (2015) は,

10分間隔の7.5 g/kgBMを3回に分けたIce slurry摂取は直腸温を摂取完了20分後まで低下 (p < 0.05) さ

せたことを報告した.これに加え,研究Ⅲの結果において5分間隔での6回の 1.25 g/kgBMのCrushed ice 摂取も直腸温を摂取完了20分後まで低下させた.したがって,1.25 g/kgBMの氷飲料の間欠的な摂取は 深部体温の指標である直腸温を摂取完了後20分間低下させる冷却効果を持っていることが示唆された.

体内冷却の持久的パフォーマンス低下の抑制への冷却効果を最大限発揮するために,運動前の氷飲料

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摂取開始のタイミングも検討すべきであるとされている (Siegel et al., 2012; Stanley et al., 2010).その中で,

様々な氷飲料開始の摂取のタイミングが検討されている.Siegel ら (2010) は運動開始 30 分前の 1.25 g/kgBMの間欠的な6回のIce slurry摂取は,運動開始時の直腸温を0.66 ± 0.14℃ (p < 0.05) 低下させ,ラ

ンニング時間を9.5分 (p < 0.05) 延長させたと報告した.加えて,運動開始40分前の1.25 g/kgBMの間

欠的な6回のIce slurry摂取を行った研究においては,摂取完了10分後の運動開始時まで直腸温を低下 (p

< 0.05) させ続け,ランニング時間を13% (p < 0.05) 延長させたと報告した (Siegel et al., 2012).しかし,

これらは気温や湿度等の環境が異なるため,持久的パフォーマンスや体温調節応答を評価することは難

しい.研究Ⅲの結果から6回の5分毎の 1.25 g/kgBMのCrushed ice摂取は,直腸温を摂取完了20分後 まで有意に低下させた.ARI試行における直腸温は運動開始直前まで有意に低下し (-0.55 ± 0.07℃),そ

の値はSRI試行 (0.36 ± 0.16℃) やCOOL試行 (0.11 ± 0.14℃) に比べ有意に低かった.加えて,ARI試行

における運動前の蓄熱量もSRI試行やCOOL試行よりも有意に低かった.したがって,運動開始45分 前から間欠的にCrushed iceを摂取し,その後の20分間の安静を伴う方略 (ARI試行) は,運動開始30 分前からの摂取を開始する方略 (SRI 試行) よりも運動開始時の直腸温の低下や蓄熱容量の増大をもた

らし,持久的パフォーマンスの低下を抑制させるのにより良い方略であることが示唆された.

これらの影響に加えて,ARI試行は脳温を低下させた可能性も考えられる.氷飲料摂取が中枢性の疲

労を抑制しているのであれば,脳温の低下が暑熱環境下における運動パフォーマンスの低下を抑制する

可能性が示されている (Hasegawa & Cheung, 2013).氷飲料摂取による運動前の体内冷却は経口摂取によ

って行われるため,顔面や脳へ伝導性の冷却をもたらす可能性が考えられている (Siegel et al., 2012).ま た,氷飲料摂取は頸部冷却と同様に脳へ供給する血液を冷却し,それによって脳自体を冷却する (Tyler et

al., 2010) かもしれない.さらにOnitsukaら (2015) は,Ice slurry摂取は摂取完了10分後まで前額部皮膚

温を有意に低下させることを報告した.彼ら (2015) は,Ice slurry 摂取は前額部から伝導性の冷却によ

って脳温を低下させるかもしれないと結論づけた.これらの結果から,本実験のARI試行における脳温

はSRI試行よりも低下していた可能性が考えられ,それがサイクリング時間の延長に寄与した可能性も 考えられる.

約40℃という高体温は運動継続困難な温度であるCLTと考えられ,持久的パフォーマンスの主な制

限要因と報告されてきた (Gonzalez-Alonso et al., 1999).本研究における疲労困憊時の直腸温は,先行研 究で報告されている約40℃に達していなかった.CLTは被験者の有気的体力や測定部位の温度に影響さ

れる (Cheung & McLellan, 1998; Hasegawa et al.,2006) 可能性がある.

暑熱環境下におけるRTS低下の抑制は,持久的パフォーマンスの発揮において重要である.本実験に

おけるCrushed ice摂取 (ARI or SRI試行) のRTSは,冷水摂取よりも運動前および運動中に上昇を抑制

した.この結果は,先行研究の知見 (Siegel et al., 2010) と一致していた.氷飲料摂取によるRTSの低下

は,求心性情報の変化が考えられる.氷飲料の摂取は胃を冷却し,その部位にある温度受容器からの求

心性情報により RTS 等の主観的な感覚が低減される可能性が示されていることから (Villanova et al.,

1997),Burdonら (2013) は胃腸領域への冷却や刺激はRTSの低下をもたらすことを示唆している.一方,

本実験においてCrushed ice摂取後の安静時間の差によってRTSには差が認められなかった.McArthur とFeldman (1989) は360 mLの冷たいコーヒー (4℃) の胃への滴下は胃腸内温度を2.8分間低下 (p <

0.05) させた後,その後胃腸内温度を急速に上昇させると報告した.したがって,本実験で Crushed ice

摂取後の安静時間の差によってRTSに差が認められなかった要因は,胃腸内温度が2試行で差がなかっ たことによる可能性が考えられる.

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4.4 本章のまとめ

第3章の結果から,運動前の摂取によっていかに深部体温を低下させるかが重要であり,運動前の氷

飲料摂取の方法に関してより詳細に検討する必要性が伺われた.その中で,運動前の氷飲料摂取による

体内冷却は,氷飲料摂取の間隔や摂取開始のタイミングが冷却効果を最大限発揮するために検討すべき

であると報告されている.そこで本章では,運動前氷飲料摂取間隔や摂取開始のタイミングの持久的パ

フォーマンスおよび体温調節応答に及ぼす影響を検討した.本章で得られた知見を以下にまとめる.

1) 先行研究で用いられている運動開始30分前を基準とした氷飲料摂取間隔の差は,5分毎に運動開

始直前まで摂取する方が運動中の主観的感覚を低減できる可能性はあるが,同量を1回で摂取して

もまた15分毎に2度にわたって摂取しても,5分毎に6回に分けて摂取しても運動持続時間およ び体温に影響しない可能性が伺われた.

2) 間欠的な氷飲料摂取は1回の摂取よりも直腸温やRTSを低下させ,摂取完了約20分後まで直腸温

を低下させ続けた.

3) 運動前の氷飲料摂取開始のタイミングに関しては,直腸温が最も低下した後に運動を開始させる試

行,すなわち運動開始45分前から間欠的に氷飲料を摂取し,氷飲料摂取完了後20分間安静を行っ

た後運動を開始する方略は,先行研究で発表されていた運動開始30分前からの摂取よりもサイク リング時間を延長させた.

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