第5章 文民の保護-信頼性確保に直結する重要な課題-
4 文民に加えられる脅威
武装集団は国際法に著しく違反する手段により、自分たちの軍事的劣勢を 補おうすることがあり、この手段は、性的暴行を含んだ市民に対する計画 的・戦略的な攻撃から、学校のような民間の目標物単体に対する攻撃、誘拐、
強制徴用、文民を利用しての軍事目標の遮蔽にまでいたっているため、暴力 による市民への被害は甚大となってきている。特に文民との識別が懸案にな っている敵との戦闘の中において、軍事的に優れた勢力による文民に対する 脅威の程度は増加の一途をたどっており、文民の犠牲者が増加している。こ うしたことから、軍民の区別や均衡性の原則を遵守しない戦闘行為の手段と 方法へ対処しなければならない。
lxxvii International Non-Governmental Organization
設問
・PKO 派遣部隊の指揮官として、派遣地域において、頻発している「強 姦」に対して対処する場合、この「強姦」という暴力行為についてどのよ うな分析をしなければならないか。
・「文民の保護」の計画を作成するために検討すべき、文民に加えられる 脅威の種類と具体例は何か。
(1)意図による暴力の区分
文民に向けられる暴力は、「機に便乗して行われる暴力」と「戦略的な 意図に基づいて行われる暴力」の2つの暴力に分けられる。
この2つの暴力は、暴力の種類による差異ではなく、その背後にある意 図によって区分されるという点に注意する必要がある。例えば、強姦を例 にとって言うと、強姦が単純に起こるのは犯人が人気のないところで女性 に遭遇して、犯罪を犯す機会に気づくことによって行われるものである。
これが「機に便乗して行われる暴力」である。しかしながら、同じ強姦で も、コミュニティに対する屈辱、民族浄化という戦略の一部として周到な 計画の結果によってもたらされるものは「戦略的な意図に基づいて行われ る暴力」に区分され、効果的な対策も異なる。
「(特定の)暴力行為」というひとつの脅威を評価する場合においても、
その背後にある意図を的確に分析しなければ、効果的な対策がとれないこ とを認識する必要がある。
図5-2 暴力の背後にある意図の分析による対策の相違の一例
出典:筆者作成
強姦
背後にある意図による暴力の区分
「戦略的な意図に基づいて行われる暴力」
「機に便乗して行われる暴力」
犯人が人気のないところで女性に遭遇して 犯罪を犯す機会に気づいて行為を実施
害、屈辱、コミュニティに対する民族浄化と いう戦略の一部として周到な計画の結果に よってもたらされるもの
犯意を誘発する環境の改善 計画・実行者の逮捕
対策 対策
背後にある意図に より対策が異なる
(2)脅威の対象による区分
実際に文民が直面する脅威の主なものを、脅威の対象によって区分した ものは、次のとおりである。
表5-1 脅威の対象による区分
脅威の種類 例
生命に対する脅威
・恣意的、即決、裁判なしの死刑
・殺人(犯罪による個人的殺人から組織的暴力やジェノサイド によるもの)
身体に対する脅威
・拷問、残虐な、冷酷な、屈辱的な行為
・紛争に起因する性的暴力(強姦やその他の性的暴力の形態
(機に便乗したものから、計画的で広範囲で組織的に利用さ れた強姦を含む))
・誘拐
・児童の徴用や利用(戦闘員だけではなく、兵士、料理人、荷 物運搬人、スパイや性的目的の対象となるものも含む。)
・威嚇・暴行
・計画的略奪(食べ物、水、その他の物品や生活に必要なサー ビス)
自由に対する脅威
・強制失踪lxxviii
・恣意的、不当逮捕又は監禁
・脅迫
・移動の自由の制限(強制移動を含む)
・強制労働、強制徴用
財産に対する脅威 ・窃盗、強奪(例 不当課税)、略奪
(3)PKOへの要求
前述したとおり、こうした暴力的行為からの文民の保護の責任は受入国 政府及び受入国の安全機関が負うべきものである。そして、PKOはあら ゆる暴力行為に対処できるだけのリソースを有していない。しかしながら、
文民の保護マンデートを与えられたPKOは、その能力の許す限りにおい て、性的暴力を含む大・小規模の攻撃から文民を保護する権限を与えられ ている。したがって、脅威の種類とその背後にある意図を十分に分析して、
効果的に文民の保護を行うことが求められている。
lxxviii 「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(略称:強制失踪
条約、日本は平成19年に署名、22年発効)」によると、「国の機関等が,
人の自由をはく奪する行為であって,失踪者の所在を隠蔽すること等を伴い,
かつ,法の保護の外に置くこと」をいう。