第2章 平和構築の過程における弱者の人権の保障
1 人権侵害の対象に着目した人権保障の枠組み
前章において、国連において「人権の保障」が重視されるのは、人種・宗 教を理由にした差別主義と迫害が第二次世界大戦の大きな原因の一つであっ たという教訓を踏まえ、「国際の平和及び安全の維持」の実現には「人権の 保障」が不可欠であるとの認識に基づいているからであるということを述べ た。
また、「国際の平和と安全の維持」の実現のために行われてきたPKOが 軍事部門のみで構成される伝統的PKOから人権担当や児童保護担当という 部署を有する複合型 PKO へと変遷し、「平和構築」において「人権の保障」
が重要視されていることについて述べてきた。
そして、こうした現実の「国際の平和と安全の維持」の活動とは別に、国 連憲章から世界人権宣言を経て、国際人権規約が成立し、規約の締約国は人 権を保障することが義務づけられ、人権保障の国内体制を整備するだけでな く、人権委員会への報告義務等が課されることにより、人権を保障すること になったということについて、前章で説明してきた。
しかしながら、国際人権規約は一般的・包括的な人権を保障するよう規定 したものであることから、規約を締約することだけでは、人権を十分に享受 できないという現実に直面することになった。
このため、この現実を変えるため、特定の種類の人権については、より具 体的な規範を創設して、締約国が行わなければならない具体的な義務を課す 必要があった。
一例を挙げると、国際人権規約(自由権規約)第3条では、「この締約国 は、この規約に定めるすべての市民的及び政治的権利の享有について男女に 設問
・国際人権規約により国連加盟国は「尊重すべき権利と自由」を保障するこ とを義務づけられたにもかかわらず、なぜ、女性、児童及び避難民等を対象 とした個別の条約等の規範が必要となったのか。
同等の平等を確保することを約束する」と規定するだけあり、どのような権 利をどのような形で実現しなければならないのか不明確である。しかし、女 性という特定の人権に関する規範である女子差別撤廃条約を設けることによ って、「締約国の差別撤廃義務」(2条)、「政治的・公的活動における平 等」(7条)、「教育における差別撤廃」(10条)、「雇用における差別撤 廃」(11条)、「保健における差別撤廃」(12条)、「経済的・社会的活 動における差別撤廃」(13条)、「農村女子に対する差別撤廃」(14条)
等の具体的な権利内容及び実現すべき事項が規定されることになり、女性の 権利の平等を保障するための国内体制がより整備しやすくなっている。
本章では、特に国際平和協力活動において、人権侵害の対象として問題と なることが多い女性、児童及び避難民の3つの客体をとりあげる。そして、
これら客体の特徴から何が人権侵害の問題点となっているのか、どのような 規範を規定することによって、その問題点の解決を図ろうとしているのかに ついて言及する。
図2-1 個別の人権条約の必要性
出典:筆者作成
主体
(加害者)
客体
(被害者)
人権侵害行為
自由権・社会権
国際人権規約 なぜ、個別の人権条約が必要なのか?
国際人権規約の権利が一般的・包括的な内容であるため、権利の保障が不十分
主体
(加害者)
客体
(被害者)
人権侵害行為
権利侵害の対象となる客体別に保障を強化
女 性 女子差別撤廃条約等
子ども 児童の権利に関する条約等
避難民 難民の地位に関する条約等