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1.本分析の概要

1993年に外国人研修制度として導入された現在の外国人技能実習制度(以下、「本制度」

という。)は、外国人単純労働者は受け入れないとする原則を維持しつつ、当時急増してい た不法就労者対策という点に配慮した結果、近隣国への技能移転を通じた国際貢献という 基本理念を掲げ、成立以来 25 年以上にわたって、この基本理念が強調されたまま現在に 至っている。この間に、日本では少子高齢化の進展や地域格差の拡大、また過疎地域はも ちろんのこと、都市部においても日本人の若年労働力不足が顕著となる中で、本制度は最 長2年から3年、そして5年へと延長され、当初は労働者として扱われなかった研修生が、

労働者である技能実習生と変更される等、その定義も変化してきた。また、2017年11月 の制度改正では、新たに受入人数枠の拡大44が条件付きで認められるなど、技能実習生や 技能実習実施者(以下「受入企業」という。)にとって規制が緩和された面がある一方で、

技能実習生への人権侵害行為に対する厳罰化や、技能検定試験による修得技能のレベルチ ェックの義務化等、規制がより強化された面もみられる。加えて、新たに外国人技能実習 機構という認可法人が設立されたことによって、在留資格取得のための審査手続きは複雑 化したうえ、依然として技能実習生の労働移動は原則認めら れていない等の問題が残った ままとなっている。

本分析では、帰国したベトナム人技能実習生の就業 に関する意思決定を明らかにするこ とを目的に、ベトナム・ホーチミン市の技能実習生送出機関C社を通じて来日し、3年間 の技能実習を満了した帰国した技能実習生(以下、帰国生)のうち、本国へ帰国後2年か ら 3年程度経過した 250名を対象者とした電話インタビュー調査45を 2017 年 11 月と 12 月に実施した。聴取した内容は、①現在の就業有無、②就業職種、③現在の居住地、④婚 姻状況、⑤現在の帰国生本人の月収、⑥日系企業勤務の有無、の 6項目のみである。すで に述べたとおり、技能実習生は来日に際して高額な手数料を送出機関に支払っているため、

送出機関の調査に対して非協力的な帰国生の存在を考慮して、質問項目は最小限とするよ う配慮した。また、帰国後に本国社会に適応するために要する期間を在日期間と同等の 3 年前後とし、2014年4月から 2015 年 10 月の間に帰国した帰国生を対象とした。この程 度の期間が経過していれば、帰国生がすでにキャリアパスを選択し、安定した生活を送っ ていると想定したことによる。実際に、帰国後半年までの実習生を対象として実施された 調査では、ベトナム人帰国生の78.5%が求職中と回答しており(国際研修協力機構、2018)、

44 優 良な 技 能実 習 実施 者( 受 入 企業 ) に認 定 され る こと に よ り、 技 能実 習 生の 受 入人 数 枠 はこ れ まで の2倍 に拡 大さ れ てい る 。

45 実 際に 架 電す る 際に 使用 し た 質問 用 紙を 本 稿の 最 後に 参 考 資料 と して 添 付し た 。尚 、 調 査に あ たっ て は事 前 に 学内 の 倫理 委 員会 の 審査 を 仰 いだ 。

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図表 24 電話インタビュー調査の概要

帰国生の就業状況の調査には、帰国後に、より長い時間的猶予が必要であることは明らか であろう。電話調査を通じて180名から有効な回答が得られ、C社が保有する帰国生の個 人データ、出国前教育における成績、日本の受入企業に関する情報等を紐付けして、180名 分のサンプルデータをセットした。

なお、今回調査の対象とした技能実習生の職種は、「機械・金属、電気・電子、プラスチ ック、印刷系職種」の製造業のみとしている。現在、技能実習の対象職種は一般製造業の みならず、建設業や農業など多岐に亘るが、C 社は技能実習生の送出を上記工業系職種に 限定していたため、今回の調査対象としている職種に偏りがある点には注意を要する。ま た、同様にC社の送出先は、関東一都六県、近畿二府四県、愛知県の国内三大都市圏に集 中しており、地方で技能実習した帰国生は含まれていない等、調査対象となる帰国生のデ ータに一定の制約があることを予め指摘しておく。

2.推定結果

図表 25 に本調査の記述統計量を示した。有効なサンプル数 180 名の男女比は男性 127 名、女性53名となった。これは、本調査で対象とした職種に比較的男性の技能実習生が多 いことが要因である。技能実習を修了して本国に帰国した 時点の平均年齢は25.4歳(男性 25.8歳、女性24.4歳)となっている。来日以前の最終学歴は高卒以下が90名(50.0%)、

短大46卒 22名(12.2%)、職業訓練校卒 53名(29.4%)、大卒 9名(0.5%)であった。現 在の就業状況は、就業者 135名、非就業者 45 名、就業者のうち製造業の職種に就いてい る者は72名で、非製造業職種に就く者も63名いた。また、就業者 135名のうち現地の日 系企業に勤務する者は44名であった。非就業者については、日本への再入国(留学、就労

46 ベ トナ ム にお け る短 期大 学 は 、機 械 、電 気 や縫 製 、IT技 術 、経 理 や幼 児 教育 の 学科 が 一 般的 で 、ど ち らか と い えば 職 業訓 練 校に 近 い性 格 を 持つ 学 校が 多 いと さ れる 。

調査対象者

調査時期 調査方法

への電話インタビュー調査

製造業関連職種において 3年間の技能実習を修了し、2014年 4月から2015年10月までに本国へ帰国した帰国生250名

2017年11月と12月

技能実習生送出機関 C社社員2名の架電による帰国生本人

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図表 25 記述統計量(帰国技能実習生)

47等)、結婚、求職中等の理由が聞かれた。また、全体の平均月収は 823万ベトナムドン(約 4万円強)、就業者に限定すると 1,099 万ベトナムドン(約 5.5 万円)、製造業就業者のみ に限定すれば1,211万ベトナムドン(約6万円)で、ホーチミン市の日系企業における中 堅エンジニアの平均月収48を上回る水準であり、収入面では帰国生が相応に評価されてい

47 技 能実 習 制度 へ の参 加は 原 則 とし て 一度 し か認 め られ て い ない が 、来 日 以前 に 大学 や 短 期大 学 を卒 業 して い た 帰国 生 の一 部 は、 技 術ビ ザ の 取得 に より 就 労者 と して 再 入 国す る 例が み られ た 。な お 、 本国 で 就業 し てい な いた め、 本 分析 で は再 来 日し て い る就 業 者を 非 就業 者 とし て 扱 って い る。

48 JETROウ ェ ブサ イ ト「 投 資 コス ト 比較 」 によ る と、 ホ ー チミ ン 市の 日 系企 業 にお け る 中堅 エ ンジ ニ ア( 経 験 5 年程 度 )の 平 均給 与 は989万 ベト ナ ムド ン ( 約5万 円 弱) とさ れ る。( 調査 時 期:201712月 か ら20181 月)

観測数 平均 標準偏差 最小 最大

180 0.750 0.434 0 1

135 0.533 0.501 0 1

180 8.239 7.598 0 40

180 0.706 0.457 0 1

180 3.230 0.102 3.045 3.555

180 0.250 0.434 0 1

180 0.133 0.341 0 1

高卒以下ダミー 180 0.500 0.501 0 1 職業訓練学校卒ダミー 180 0.294 0.457 0 1

短大卒ダミー 180 0.122 0.328 0 1

大卒ダミー 180 0.050 0.219 0 1

180 4.400 0.218 3.434 4.605

180 9.822 3.713 5 23

LN資本金(百万円) 180 3.281 0.956 1.099 6.087 LN従業員数(人) 180 3.920 1.178 0.693 6.480 従業員一人当たり資本金(百万円) 180 0.784 0.916 0.038 6.000

180 0.544 0.499 0 1

180 0.633 0.483 0 1

180 0.389 0.489 0 1

180 0.244 0.431 0 1

婚姻ダミー(既婚=1、未婚=0)

移動ダミー(来日前居住地より移動有り=1、無し=0)

ホーチミン市居住ダミー(ホーチミン市居住=1、以外=0)

日系企業就業ダミー(日系企業就業=1、無し=0)

24歳未満ダミー(24歳以上=1、未満=0)

29歳以上ダミー(29歳以上=1、以下=0)

最終学歴

LN日本語テスト(点)

待機期間(月)

受入れ企業

LN帰国時年齢(歳)

性別ダミー(男性=1、女性=0)

変数

就労選択ダミー(就労=1、非就労=0)

製造業就業ダミー(製造業就業=1、非製造業就業=0)

月収(百万ベトナムドン)

65 るという可能性が示された。

これらの調査結果をもとに、帰国生が製造業での就業を継続するかどうかの職業選択や 帰国生の収入に与えている要因を、櫻木(2006)や佐野・大竹(2007)で示された職務満 足度や幸福度のモデルを参考に、「個人の属性」「来日前と在日中の環境」「帰国後の 環境」

に関する変数を設定して分析してみる。具体的な説明変数は以下のとお りである。

① 個人の属性

帰国生の属性を表す変数として、性別ダミー、帰国時の年齢、および本制度に参加した 年齢による傾向を分析するために満24歳未満と満29歳以上のダミー変数を設定した。ま た来日前の最終学歴として、職業訓練校卒、 短大卒、大卒のダミー変数を設定した。

職業選択や収入が性別や年齢、学歴等の影響を受けることはこれまでの先行研究からも明 らかであろう。

② 来日前と在日中の環境

ここでは、技能実習生の来日以前の環境に関する変数と在日中の受入 企業の規模に関す る変数を設定する。前者では、C 社が実施した来日前日本語教育中の最後のテスト点数49 と技能実習生がC 社に登録してから実際の出国までの待機期間50の変数を投入した。この うちテスト点数については、対数変換を施している。また、在日中の技能実習環境を示す 変数として、受入企業の資本金額と従業員数を使い、いずれも対数変 換を施した。加えて、

技能実習職種の労働集約性を検証するために受入企業の従業員一人当たり資本金も投入し ている。これらの変数は、来日時の日本語能力や面接で選抜されやすい人材が、その後の 技能実習で成果を上げやすいのではないかと考えたことによる。また 、在日中の技能実習 生の職場環境についても、帰国後の職業選択や収入 に影響を与えているのではないかと考 えたことによる。

③ 帰国後の環境

帰国生本人の月収、結婚の有無、来日以前の居住地からの移動の有無を示すダミー、大 都市ホーチミン市に居住するダミー、日系企業での就労の有無を表すダミー変数を設 定し た。これらの帰国後の生活環境や条件が、帰国生の職業選択や収入 に影響を与えている可 能性は大きいと思われる。

49 来 日以 前 では な く、 帰国 時 の 日本 語 能力 を 投入 す るの が よ り適 切 であ ろ うが 、 村橋 (2010) で は留 学 生で は 初 期の 日 本語 能 力が 後 の理 解 度 を高 め ると 指 摘さ れ てお り 、 デー タ 収集 の 問題 か ら、 や む なく 来 日以 前 の日 本 語テ スト 成 績を 使 用し て いる 。

50 送 り出 し 機関 に 登録 した 技 能 実習 希 望者 は 、受 け 入れ 企 業 や監 理 団体 に よる 選 抜面 接 を 受け 、 合格 し た者 か ら 順に 日 本語 教 育を 受 けて 来 日 する 。 した が って 、 技能 実 習 生候 補 者に は 早期 に 面接 に 合 格し て 来日 す る候 補 者 と、 な かな か 面接 に 合格 で き ない 候 補者 が おり 、 両者 の 待 機期 間 には 相 当の 開 きが あ る 。一 般 に、 よ り優 秀 とさ れる 候 補者 か ら合 格 して い く と考 え られ る 。