3. 大手石炭会社の世界戦略と寡占化による影響調査
3.1 寡占化による価格への影響
豪州ではコンスタントな物価上昇が続いており、また平均賃金も上昇しているため、サ プライヤー側には石炭価格の上昇も物価上昇の一環であるとの意見
16がある。一般炭、原料 炭ともに、豪州における
FOB価格は
1990年代より緩やかに上昇しているが、物価上昇率
(豪州では
CPI: Consumer Price Indexと呼ぶ)を考慮した実質値を算出すると(図
3-1の破線)、確かに原料炭で
2005年まで、一般炭で
2007年ごろまでは概ね現在価値に割り戻 した際の実質値は横ばいになる。従って、この時期までの緩やかな価格上昇については、
自然な物価上昇の一環とみることができる。他方、原料炭の
2005年以降の急騰、ならびに 一般炭の
2007年以降の急騰については、物価上昇率では説明できない。
0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0 400.0 450.0
1988 1989
1990 1991
1992 1993
1994 1995
1996 1997
1998 1999
2000 2001
2002 2003
2004 2005
2006 2007
2008 2009
[AUD/t]
原料炭価格(名目値)
一般炭価格(名目値)
原料炭価格(実質値=物価上昇率で補正)
一般炭価格(実質値=物価上昇率で補正)
図
3-1豪州における一般炭/原料炭の
FOB価格と物価上昇率での補正値 出所)三菱総合研究所
豪州におけるメジャー4 社による寡占化が進んだのは、Anglo American, Xstrata の参入 があった
2001年ごろからである。この時期に急速な買収が実施されたため、メジャー4 社 の豪州における石炭生産シェアが急増したが、その後は緩やかな増加に留まっている。寡 占化の進展以降、石炭価格の上昇は幾度かあったが、石炭価格の上昇は、メジャー4 社によ る寡占化が進展した時期よりも数年遅れている(図
3-2)。
16 某メジャー社員への非公式ヒアリングによる
0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0 400.0 450.0
1990 1991
1992 1993
1994 1995
1996 1997
1998 1999
2000 2001
2002 2003
2004 2005
2006 2007
2008 2009
[AUD/t]
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
メジャー4社シェア[%]
原料炭価格(名目値) 一般炭価格(名目値)
メジャー4社シェア
図
3-2メジャー4 社のシェアと豪州の石炭
FOB価格 出所)三菱総合研究所
ここで、発電事業向けの一般炭については、他エネルギー資源とスイッチャブルである ため、他エネルギー資源との価格リンケージがあると考えられる。図
3-3は、我が国の一 般炭の熱量ベースの
CIF価格と、LNG の熱量ベースの
CIF価格、ならびにその比率の推 移である。まず、ほぼ両者の価格トレンドには相関性が見受けられ、2000 年頃より価格差 が一旦広がる傾向を見せたが、その後緩やかに価格差を縮めながらも、熱量ベースの
LNG価格を石炭価格がフォローするトレンドが明確になっている。
以上より、一般炭については、メジャーの寡占化によるカルテルの形成は認められない
一方、他エネルギー価格(とりわけ
LNG)との一定の熱量単価比の範囲内で一般炭の価格が推移している。LNG など他エネルギーはシェル、シェブロンなどの国際石油資本、もし
くはサウジアラムコなどの国営石油会社などが主要な供給者であり、一般炭の主要供給者
とは異なる。以上より、一般炭市場はやや石炭価格が相対的に上昇する傾向が見受けられ
るものの、概ね競争環境は整っていると考えられ、石炭メジャーによる寡占化により価格
形成力が高くなっているとはいえない。
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0
1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
熱量単価[円/kcal]
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
LNG/一般炭熱量単価比
LNG [円/kcal] 一般炭 [円/kcal] LNG/一般炭 [熱量単価比]
図
3-3我が国の一般炭・LNG の
CIF価格(熱量換算)と
LNG/一般炭価格比一方、原料炭については、必ずしも各種エネルギー価格と連動しているわけではない。
とりわけ、ガス価格が上昇する前の
2005年頃より原料炭価格が上昇していることから、エ ネルギー価格をフォローしているわけではなく、独自の価格形成がなされていることが伺 える。
図
3-4はアジア地域主要国の原料炭輸入量の推移と原料炭価格を、図
3-5はアジア主要 国の粗鋼生産量と原料炭価格を示したものである。中国が粗鋼生産を急速に伸ばしており、
原料炭輸入が増え始めた
2004年以降、原料炭価格も上昇している。
0 50 100 150 200 250 300
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
原料炭価格[AUD/ton]
0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000
原料炭輸入量[000ton]
日本 中国
インド 台湾
韓国 豪州の原料炭価格(名目)
図
3-4アジア地域主要国の原料炭輸入量の推移と原料炭価格
0 50 100 150 200 250 300
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
原料炭価格[AUD/ton]
0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 800,000
粗鋼生産量[000ton]
日本 韓国
インド 中国
豪州の原料炭価格(名目)
図
3-5アジア主要国の粗鋼生産量と原料炭価格
一方、輸出マーケットに流れる原料炭の産出国は、むしろ豪州に偏る傾向が生じている
(図
3-6)。これは、
90年代は原料炭の輸出国であった米国に加え、欧州、旧ソ連、アフリ カが軒並み輸出量を減らしているのに対し、大幅な輸出増を果たせているのが豪州に限ら れるためである。
0 50 100 150 200 250 300
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
原料炭価格[AUD/ton]
0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000
原料炭輸出量[000ton]
欧州 旧ソ連
北米 南米
アジア 豪州及びニュージーランド
アフリカ 豪州の原料炭価格(名目)
図
3-6原料炭の国別輸出量の推移と原料炭価格 出所)ABARE, OECD
従って、原料炭を輸出できる国が減少し、豪州の輸出国としての重要性が高まる中で、
既に述べたとおり豪州の原料炭サプライヤーは寡占化が進んでおり、ライセンスの未割り 当て鉱区もほとんどない状況で、供給側の競争環境が緩和の方向に進むトレンドが確認さ れる。
一方、これまでアジア地域の輸出マーケットに流れる原料炭の大部分を我が国が引き受 けていたが、2004 年頃より中国が原料炭の輸入を本格化し、他アジア諸国も軒並み輸入量 を増やす中で、我が国の原料炭太平洋市場における引き受けシェアは急速に低下している。
従って、伝統的な原料炭輸出国の多くで原料炭資源が目減りに加え、
M&Aによるサプラ
イヤー数の減少が相まってサプライヤー側の寡占化が進んでいる一方で、輸入国数が増え
ている。従って、需要家の
purchasing powerは急速に低下しており、かつ中国・インドの
粗鋼生産量はコンスタントに伸びているため、原料炭価格は構造的に上がりやすくなって
いる。
3.2 石炭価格に関する影響分析