第 6 章 学習システムの評価実験
6.1 実験計画
6.1.3 実験材料
実験材料として,学習した内容を実際の会話にどれだけ応用できるかどうか検証を行う ため,インタビュー形式の事前および事後テストを作成した.表6.1はインタビューの内 容である.事前事後両方に共通して,例えば「私は国語のテストを受けました」というよ うな「会話状況の説明」を行ったのち,例えば「あなたは私にテストの出来具合を聞いて ください」というような「被験者への指示」を行った.また,問題は事前事後ともに二つ で,共通問題を1問,非共通問題を1問の形式で行った.共通問題は学習システムで用い た事例の類似例であり,学習システムで取り扱った事例の類似例に応用できるか測定する ために用いた.ただし,学習システムで扱った事例の類似例にあたるのは実験群であり,
対照群は非類似例にあたり,条件が異なるため,対照群は参考データとしてインタビュー をとり,考察では対照群との比較はしないものとした.また,非共通問題は,学習システ ムで用いた事例の非類似例であり,異なる発話に応用できるか測定するために用いた.な お,非共通問題は両方とも予備実験の内容と同一のものを用いた.
表6.1: 学習システムの評価実験の事前事後インタビューの内容
出題場所 問題 模範解答
事前テスト1問目
・
事後テスト2問目
私はあなたにゲームを 借りて遊びました あなたは私にゲームの 感想を聞いてください
私があなたに貸した ゲーム面白かった?
事前テスト2問目
私は国語のテストを受けました あなたは私にテストの
出来具合を聞いてください
あなたが受けた国語の テスト難しかった?
事後テスト1問目
私は算数の宿題をやりました あなたは私に宿題の
出来具合を聞いてください
あなたがやった算数の 宿題難しかった?
また,実験材料として,学習した内容を知識的に理解しているかどうか検証を行うため,
ペーパーテスト形式の事前および事後テストを作成した.表6.2は事前および事後テスト の問題と解答であった.なお,事前テストおよび事後テストに共通して,これらの問題の 前に,「重度の語用障害をかかえる『めぐみ』と定型発達者の『ゆうき』の会話である」と いう趣旨を明記した.このように,会話状況を文章にて記述したあと,波線の発話に対し て「めぐみ」にも伝わりやすい話し方を5つの選択肢から選ばせる選択問題に統一した.
また,選択肢の中に「このままで問題ない」を入れ,波線が必ずしも間違いでない状態を 作ることで,ヒントを極力抑える工夫を施した.問題で用いた事例は,コミュニケーショ ン学習支援システムで用いた事例の類似例を,重度の語用障害をかかえる人の特徴を考慮
しながら考案した.また難易度の定義として,選択肢間に違いが少ない問題を「難しい」
とし,逆に違いが比較的明瞭な問題を「易しい」とした.そして,「難しい」問題は2問あ り,事前事後テストの両方で順序を変えて出題し,「易しい」問題は事前事後テスト間で異 なる問題を1題ずつ出題した.制限時間は,事前事後テストともに90秒であった.
また,実験材料として,教材全体の印象を測定するため,SD法によるアンケートを作 成した.表6.3はSD法の尺度の一覧とアンケート用紙上の位置であった.また,各尺度 におけるプラスの印象の項目を、網掛けを用いて記載した.各尺度に対する選択肢は,「非 常に」「かなり」「やや」「どちらでもない」「やや」「かなり」「非常に」の7段階評価を用 いた.
さらに,実験材料として,面白さ・もう一度使いたいか・学習しやすさ・自信はついた か・障碍者のことを理解できたかの5つの観点を評価するため,五段階評価によるアンケー トを作成した.表6.4はアンケートの各質問項目の原文と略称であった.なお,以後アン ケートの各質問項目は略称で表記するものとした.また,五段階評価の選択肢は,全質問 項目共通で「とても思う」「思う」「どちらでもない」「思わない」「まったく思わない」と した.
その他の実験材料として,コミュニケーション学習支援システム,Pepper,「本」の代わ りとして黒いB5サイズのメモ帳,テキストベースの資料,Pepperを操作するためのパソ コン,ディスプレイ,キーボード,マウス,LANケーブル,実験風景の撮影用にビデオカ メラと三脚,事前事後テストの時間の計測としてストップウォッチを用いた.
表6.2: 事前および事後テストの問題と正解 出題場所 事前テスト1問目・事後テスト3問目
難易度 難しい
問題
めぐみは、ゆうきの家に遊びに行きました。そして、
めぐみはゆうきが飼っているペットをなでてあげまし た。このとき、ゆうきはめぐみにペットがかわいいか 聞きました。「めぐみがなでてるそのペットかわいい
?」
「めぐみがなでてるそのペットかわいい?」
この部分を「めぐみ」にも伝わりやすい話し方を以下 の選択肢から選んでください
ア. 「その私が飼ってるペットかわいい?」
イ. 「めぐみがなでてるペットかわいい?」
ウ. 「私が飼ってるそのペットかわいい?」
エ. 「そのめぐみがなでてるペットかわいい?」
オ. このままで問題ない
正解 イ. 「めぐみがなでてるペットかわいい?」
出題場所 事前テスト3問目・事後テスト1問目 難易度 難しい
問題
ゆうきは、カフェでパフェをたのみました。そして、
めぐみはゆうきのパフェ少しもらいました。このとき、
ゆうきはめぐみにパフェがおいしかったか聞ききまし た。「私がたのんだパフェおいしいかな?」
「私がたのんだパフェおいしいかな?」
この部分を「めぐみ」にも伝わりやすい話し方を以下 の選択肢から選んでください
ア. 「この私がたのんだパフェとかおいしいかな?」
イ. 「この私がたのんだパフェおいしいかな?」
ウ. 「私がたのんだパフェとかおいしいかな?」
エ. 「私がたのんだこのパフェおいしいかな?」
オ. このままで問題ない 正解 オ. このままで問題ない
出題場所 事前テスト2問目 難易度 易しい
問題
ゆうきは、習い事の帰り道に、塾から帰える途中のめ ぐみに会いました。このとき、ゆうきはめぐみに塾の 勉強が難しかったか聞きました。「塾ってどうなの?」
「塾ってどうなの?」
この部分を「めぐみ」にも伝わりやすい話し方を以下 の選択肢から選んでください
ア. 「めぐみが通ってる塾の勉強って難しいの?」
イ. 「塾の勉強って難しいの?」
ウ. 「めぐみが通ってる塾の勉強ってどうなの?」
エ. 「どうなの?」
オ. このままで問題ない
正解 ア. 「めぐみが通ってる塾の勉強って難しいの?」
出題場所 事後テスト2問目 難易度 易しい
問題
めぐみは、自転車が壊れてしまったので、自転車屋さ んに行きました。そして、めぐみはそのことをゆうき に話しました。このとき、ゆうきはめぐみに自転車が 直りそうか聞きました。「直りそう?」
「直りそう?」
この部分を「めぐみ」にも伝わりやすい話し方を以下 の選択肢から選んでください
ア. 「めぐみの自転車ってどうだった?」
イ. 「自転車って直りそう?」
ウ. 「めぐみの自転車って直りそう?」
エ. 「どうだった?」
オ. このままで問題ない
正解 ウ. 「めぐみの自転車って直りそう?」
表6.3: SD法の尺度の一覧とアンケート用紙上の位置
SD法の尺度
アンケート用紙上で左側 アンケート用紙上で右側
良い 悪い
重い 軽い
嫌いな 好きな
温かい 冷たい
楽しい つまらない
硬い 柔らかい
難しい 易しい
積極的な 消極的な
親しみやすい よそよそしい
暗い 明るい
表6.4: アンケートの各質問項目の原文と略称
群 質問項目の原文 質問項目の略称
実験群
Pepperとのお話を通して、言葉をそのまま理解する人(障
(しょう)がいをかかえる人)にも伝わりやすい話し方を
学んだことは、おもしろかったと思いますか? 全体の面白さ 対照群
配ったプリントを使って言葉をそのまま理解する人(障
(しょう)がいをかかえる人)にも伝わりやすい話し方 を学んだことは、おもしろかったと思いますか?
実験群
もう一度、Pepperとのお話を通して、言葉をそのまま理解 する人(障(しょう)がいをかかえる人)にも伝わりやす い話し方を、学んでみたいと思いますか?
もう一度 やりたいか 対照群
もう一度、配ったプリントを使って、言葉をそのまま理解 する人(障(しょう)がいをかかえる人)にも伝わりやす い話し方を、学んでみたいと思いますか?
実験群
Pepperとのお話を通して、言葉をそのまま理解する人(障
(しょう)がいをかかえる人)にも伝わりやすい話し方は 学びやすかったと思いますか?
全体の 学びやすさ 対照群
配ったプリントを使って、言葉をそのまま理解する人(障
(しょう)がいをかかえる人)にも伝わりやすい話し方は 学びやすかったと思いますか?
実験群
Pepperとのお話を通して、言葉をそのまま理解する人(障
(しょう)がいをかかえる人)にも伝わりやすい話し方が できる自信はついたと思いますか?
自信が ついたか 対照群
配ったプリントを使って、言葉をそのまま理解する人(障
(しょう)がいをかかえる人)にも伝わりやすい話し方が できる自信はついたと思いますか?
実験群
Pepperとのお話を通して、言葉をそのまま理解する人(障
(しょう)がいをかかえる人)のことを理解することがで きたと思いますか?
障碍者を 理解できたか 対照群
配ったプリントを使って、言葉をそのまま理解する人(障
(しょう)がいをかかえる人)のことを理解することがで きたと思いますか?
6.1.4 実験手続き
実験手続きの骨子は以下の通りであった.また,被験者一人当たりの実験時間は約15 分であった.