第6章 実験結果・検討
6.1 undoped GaSb
4.6節にて、Sb/Ga比10の場合において、アクセプタ準位及び密度について評価した。Sb/Ga 比が6、8についても同様に、アクセプタ準位及び密度について評価した結果を表6.1.1に示
す。Undoped GaSbバルク試料についても19 meVと91 meVのアクセプタ準位が検出され、
アクセプタ準位及び密度について評価した結果を同様に表6.1.1に示した。
表6.1.1に80 K以下でほとんどイオン化している最も浅いアクセプタ準位をAcceptor1に、
19〜40 meV のアクセプタ準位をAcceptor2に、66〜94 meV のアクセプタ準位をAcceptor3
に、143〜162 meV のアクセプタ準位を Acceptor4 に、278 meV のアクセプタ準位を
Acceptor5 に示す。Sb/Ga比が6の時はAcceptor4 に対応するアクセプタ準位が存在しない
こと、Sb/Ga 比が8 の時はAcceptor2、Acceptor4 に対応するアクセプタ準位が存在しない
こと、Sb/Ga 比が 10 の時は Acceptor4 に対応するアクセプタ準位が存在しない。また、
Acceptor2 のアクセプタ密度については、Sb/Ga 比の増加と共に減少傾向にあること、最も
浅いアクセプタ準位におけるアクセプタ密度はSb/Ga比が8の時に最小であることがわかる。
さらに、図6.1.3にSb/Ga比が6、8、10の時の値を用いて求めたシミュレーション曲線 をそれぞれ実線で示す。実験値とシミュレーション曲線が非常に良く一致していることから、
FCCS法で求めたアクセプタ準位及び密度は妥当であると考えられる。以下で、求めたアク セプタ準位及び密度について検討をおこなう。
Temperature [K]
Fermi Level [meV]
undoped GaSb
: Sb/Ga = 6 : Sb/Ga = 8 : Sb/Ga =10
100 200 300 400
50 100 150 200
図6.1.2 フェルミ準位の温度依存性
表6.1.1 FCCS法で求めたundoped GaSbにおけるアクセプタ密度及び準位 Flux ratio of Sb/Ga
6 8 10 Wafer
Acceptor 1 ∆NA [cm-3] 1.2×1016 4.9×1015 8.6×1015 9.7×1014
40 --- 21 19
Acceptor 2
] [cm
[meV]
3
- 1.3×1016 --- 4.6×1015 4.6×1017
94 74 66 91 Acceptor 3
] [cm
[meV]
3
- 1.8×1016 1.6×1016 1.4×1016 2.0×1016
--- 143 162 --- Acceptor 4
] [cm [meV]
3
- --- 1.9×1016 3.6×1016 --- 278 --- --- --- Acceptor 5
] [cm [meV]
3
- 2.5×1017 --- --- ---
Temperature [K]
H ole Co nc en tr at io n [ × 10
16cm
-3]
: Sb/Ga = 6 : Sb/Ga = 8 : Sb/Ga = 10
: Simulated result undoped GaSb
Experimental data
100 200 300 400
0 1 2 3 4
図6.1.3 実験値とシミュレーション曲線の比較
6.1.1 Double Acceptor Modelの妥当性について
PL(Photo Luminescence)法及びHall効果測定による方法で、Undoped GaSb中のアク セプタは二種類のエネルギー準位を持つと報告されている18)。ここで用いられているHall 効果測定による方法では、GaSb中の Sbの格子点にGaがはいることによりGaが2価のア クセプタになるというモデル(Double Acceptor Model)を用いている。このモデルでは、二種 類のアクセプタ準位の密度は等しいという仮定のもとで、p
( )
T からカーブフィッティング法 を適用し、二種類の密度とエネルギー準位を求めている。Double Acceptor Model では、Undoped GaSbのアクセプタはアクセプタ密度が等しく、イオン化エネルギーの異なる、2
価のアクセプタであると考えられている。Sbの蒸気圧が高いために、成長した膜中からSb が再蒸発する。そのSbが抜けた格子点に入ったGa(GaSb)または、Sbが抜けたvacancy
(VSb)が2価のアクセプタになる。この二つのアクセプタはイオン化エネルギーの異なる同 一起源のアクセプタであり、アクセプタ密度は等しい。これらの準位は浅い準位で20〜40 meV、深い準位で60〜100 meVと報告されている18)。今回FCCS法で求めたアクセプタ準
位で、Double Acceptorに相当する準位は表 1 より、浅い準位でAcceptor2、深い準位で
Acceptor3である。Sb/Ga比が6、10の場合において、Acceptor2とAcceptor3の密度が異 なることから、同一起源によるDouble Acceptorではないといえる。
6.1.2 Acceptor1及びAcceptor2の密度について
表6.1.1よりAcceptor1及びAcceptor2のアクセプタ密度はSb/Ga比に依存し、大きく変
化している。
Eltoukhyらによると、40 meVのアクセプタ密度がSb/Ga比の増加と共に減少することか
ら、少なくとも40 meVのアクセプタの起源はGaSbのSbが格子点を抜けた空孔(vacancy)
(VSb)であるとしている19)。ただし、この求められた密度は1 meV以下のアクセプタ及び、
40 meVと80 meVのアクセプタを仮定し、カーブフィッティング法を用いて各々のアクセ
プタ密度を求めている。
Acceptor2のアクセプタ準位は、Sb/Ga比が8のときに検出限界以下になっていることか
ら、単純にアクセプタ密度がSb/Ga比の増加と共にVSbが減少しているとは考えられない。
Acceptor1及びAcceptor2における密度がSb/Ga比が8の時に最小である。このことから、
不純物、欠陥の少ないUndoped GaSbの最適な成膜条件はSb/Ga比が8のときである。
6.1.3 Acceptor3のアクセプタ準位について
Eltoukhyらによると、80 meVのアクセプタ準位の起源は、アクセプタ密度がSb/Ga比に
依存しないことから、Undoped GaSbとGaAsの界面の格子不整合に起因する欠陥であると 報告している19)。しかし、今回Undoped GaSb Wafer試料について、19 meVと91 meVの アクセプタ準位が検出された。91 meVのアクセプタ準位に対応するAcceptor3のアクセプ タ密度については、Sb/Ga比の増加と共に減少傾向がみられ、Wafer試料についても検出さ れていることから、Undoped GaSbとGaAsの界面の格子不整合に起因する欠陥ではないと 考えられる。
6.1.4 Acceptor4及びAcceptor5のアクセプタ準位について
今回、Sb/Ga比が6の場合に278 meVのアクセプタ準位が求められ、Sb/Ga比が8およ
び10の場合には143〜162 meVのアクセプタ準位が求められた。Xuによるとundoped GaSb のアクセプタ準位は理論計算からGaのvacancyである可能性を示唆しており、2価のGa のvacancy(VGa2-)が171 meV、3価のGaのvacancy(VGa3-)が291 meVであると報告し ている20)。VGa2-がAcceptor4の164〜184 meVのアクセプタ準位、VGa3-がAcceptor5の259 meVのアクセプタ準位に対応すると考えると、VGa2-とVGa3-のアクセプタが同一起源の場合 には、同一試料では同じ密度だけ求められるはずである。従って、今回求められたアクセプ タ準位の起源はGaのvacancyではないと考えられる。