第 4 章 建物高さが周辺住宅の賃料に及ぼす影響の実証分析
4.4 実証分析の結果と考察
図 23 敷地周囲に空地を伴う高層ビルの開発によるプラスの効果(イメージ)
実際に、東京都建物現況
GIS
データを用いて、東京23
区全体における階数区分別・建物から の距離帯別空地率を計測したところ、 図 24に示すように、特に20F
以上建物の周囲10~50m
では、他の階数帯よりも空地率が5-10%程度高い結果となっている。
図 24 階数区分別・建物からの距離帯別空地率(東京23区全域)(%)
分析②(区による違い)の結果及び考察
分析①において、7階以上の建物が
10m
以内に存在すると有意に賃料が下落する結果となっ たことから、区ごとの影響の程度の違いを交差項の導入により分析した。分析の結果を表 9 に示 す。表 9 分析②の結果
効果(7-14F) 95%信頼区間 効果(15F-) 95%信頼区間
港区 -12,210 *** -16,463 -7,956 -23,942 -94,189 46,305
中央区 -7,477 ** -12,831 -2,124 -61,462 ** -114,219 -8,704
墨田区 4,278 -2,168 10,725 47,366 -288,295 383,028
品川区 8,124 *** 3,780 12,468 -29,212 * -62,786 4,361
江東区 -5,659 ** -9,177 -2,141 3,435 -30,705 37,575
大田区 -6,343 ** -12,027 -658 データなし
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。
50㎡の住戸の周囲に1,000㎡の建物が建った場合の周辺建物の賃料に与える効果(円/月)を示している。
空地
80.9
72.3
68.7 65.8 65.0
91.7
82.8
76.4
72.1 70.1
60 65 70 75 80 85 90 95 100
0-10 -20 -30 -40 -50 -60 -70 -80
10-14F 15-19F
20F-中央区を除くと、15F以上の建物が
10m
以内に存在する場合は有意な結果が得られなかった。これは、15F以上の建物が
10m
以内に近接している件数が少ないためと考えられる。7-14F
の結果からは、港区、中央区、江東区、大田区では10m
以内に7-14F
の建物が存在した場合に賃料が有意に低下するが、墨田区、品川区では有意な賃料低下が起こらない結果となっ た。表 10 に示すように、港区や中央区に居住する住民は、他の対象4区に比べ所得階層が高い 者が多く、通勤利便性だけでなく住環境も求めて居住地選択を行う傾向があるのではないかと考 えられる。一方で、墨田区、品川区のような、都心からは近いが下町的な文化のあるエリアに居住 する住民は、通勤利便性を重視する住民が多いのではないかと考えられる。一方で、大田区のよう に都心からは少し離れたエリアにおいては、通勤利便性よりも住環境を重視する住民が多いので はないかと考えられる。
なお、品川区においては
7-14
階の建物が10m
以内に存在する場合にプラスの効果が有意に 出ている。これについては、品川区において、高層ビルが立地するエリアの周辺が特に賃料が高く なっているなど、地域特性を十分にコントロールしきれなかった結果であると解釈できる。以上を踏まえると、10m 以内に高層建物が建った場合の負の外部性の程度については、区に よって異なり、地域性が存在するといえる。
表 10 東京23区の納税義務者1人あたりの平均課税所得(平成
23
年、単位:万円)港区 815 大田区 382
千代田区 708 江東区 380
渋谷区 609 中野区 374
中央区 525 台東区 370
文京区 519 板橋区 344
目黒区 501 墨田区 340
世田谷区 478 江戸川区 340
新宿区 458 荒川区 337
杉並区 420 北区 336
品川区 411 葛飾区 324
豊島区 393 足立区 316
練馬区 384
分析③-1(用途地域による違い)の結果及び解釈
分析①において、7階以上の建物が
10m
以内に存在すると有意に賃料が下落する結果となっ た。住環境が守られにくい用途地域においては、賃料が下落しにくいのではないかと考え、商業地 域ダミー及び近隣商業地域ダミーとの交差項の導入により分析した。分析の結果を表 11に示す。分析の結果、住環境が守られにくいと考えられる商業地域、近隣商業地域であっても、他の用 途地域と比べて、賃料が低下することを示す有意な結果は得られなかった。
表 11 分析③-1の結果
トリートメント変数 効果 (95%信頼区間)
7F以上の建物から10m以内 -4,330 *** -6,935 -1,725 7F以上の建物から10m以内×商業地域 929 -2,981 4,838 7F以上の建物から10m以内×近隣商業地域 -1,454 -10,305 7,397
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。
50㎡の住戸の周囲に1,000㎡の建物が建った場合の周辺建物の賃料に与える効果(円/月)を示している。
分析③-2(区、用途地域による違い)の結果及び解釈
分析③-1において、住環境が守られにくいと考えられる商業地域及び近隣商業地域において も、対象とした6区の全体では、他の用途地域と比べて、7F以上の建物が
10m
以内に存在した場 合に賃料が有意に低下することはないという結果となった。一方で、分析②では、区ごとに負の外 部性の程度が異なることが明らかになった。そこで、特に負の外部性が発生しにくいとされた品川区、墨田区のダミー変数及び用途地域ダミ ーとの交差項の作成により、品川区、墨田区の中でも用途地域による違いがあるかを分析した。分 析の結果を表 12に示す。
表 12 分析③-2の結果(区、用途地域との交差項)
トリートメント変数 効果 (95%信頼区間)
7F以上の建物から10m以内 -7,854 *** -10,066 -5,642 7F以上の建物から10m以内×墨田区 4,667 -9,168 18,501 7F以上の建物から10m以内×品川区 17,491 *** 10,285 24,698 7F以上の建物から10m以内×墨田区×商業地域 9,104 -6,176 24,384 7F以上の建物から10m以内×墨田区×近隣商業地域 10,642 -10,534 31,818 7F以上の建物から10m以内×品川区×商業地域 -5,315 -14,010 3,379 7F以上の建物から10m以内×品川区×近隣商業地域 36,214 ** 13,009 59,420
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。
50㎡の住戸の周囲に1,000㎡の建物が建った場合の周辺建物の賃料に与える効果(円/月)を示している。
品川区の場合は、特に近隣商業地域においては、7F以上の建物が
10m
以内にあった場合に、他の用途地域よりも賃料が有意に上がることが確認された。墨田区では、用途地域による差がある ことを有意に示す結果は得られなかった。この結果から、負の外部性の発生の程度は、区によって 異なるため、少なくとも用途地域のみで負の外部性が生じにくいかを判断することはできないと言う ことができる。