• 検索結果がありません。

第 4 章 建物高さが周辺住宅の賃料に及ぼす影響の実証分析

4.2 実証分析の方法

分析方法

建物高さによる負の外部性は、日照や採光、眺望が価格や賃料に大きく影響すると考えられる 住宅において、最も大きな負の外部性が発生するものと考えられるため、本章においては、住宅を 対象に負の外部性を分析することとする。

なお、特例容積率適用地区の指定は東京駅前の1地区しかないことから、容積移転が行われた 建物における住宅賃料への影響を実証することはできない。そのため、容積移転が行われた事例 とはならないが、高層の建物が周辺住戸の賃料に与える負の外部性を計測することとする。

次に、売買成約価格は、契約後数十年の将来の住環境悪化や利便性向上を織り込んだ上での 価格となることに比べ、成約賃料は、成約から2年程度(一般的な賃貸契約の更新期間)の環境や 利便性の評価で賃料が形成されることから、成約賃料の方がより契約時点の環境を反映した指標 になると考えられる。そのため、成約賃料単価を被説明変数として扱うこととする。

同じ高さなら近い方が影響大 同じ距離なら高い方が影響大

※同じ距離、高さなら建築面積が大きい方が影響大

なお、賃貸住宅の住戸ごとに、建物内位置と賃料のデータが揃っていれば、隣接建物の位置及 び高さと照らし合わせ、天空率の測定などにより、隣接建物による影響を評価することが可能であ るが、住戸の建物内位置のデータは入手が困難である。また、高層建物の周囲の住戸の賃料を、

距離ごとに単純に比較しても、その他の条件の違いが影響している可能性があり、高層建物による 負の外部性を測定することはできない。

そこで、今回の推定モデルにおいては、住宅賃料に大きな影響を与える物件の建築物属性、地 域特性等をコントロールした上で、近隣に高層建物がある場合の成約賃料単価への影響について、

近接高層建物からの距離帯別、当該高層建物の階数階層別に分析した(分析①)。

分析①の結果、7 階建て以上の建物が

10m以内にあると負の外部性がもたらされることが確認

されたため、その影響が、区別(分析②)、用途地域別(分析③)で異なるかどうかを、追加で分析 した。

使用するデータ

使用するデータは、公益財団法人東日本不動産流通機構より提供を受けたレインズデータ(マ ンション31の成約賃料データ)、国土数値情報(鉄道駅)、東京都が公表する地域別地震危険度、

東京都の都市計画地理情報システム都市計画レイヤー、東京都の区部土地利用現況調査建物

GIS

データ、商業統計

500m

メッシュデータ、経済センサス

500m

メッシュデータとする。

(1)対象区域の設定

都心からの距離及び用途地域による違いを把握するため、区部の南東側、南西側それぞれに 中心から3つの特別区を選定した(南東側:中央区、墨田区、江東区、南西側:港区、品川区、大 田区)(図 21)。

図 21 分析対象とした6特別区

レインズデータの区分によるもの。賃貸土地、賃貸戸建住宅は含まないが、アパート、タウンハウスなどは含む。

墨田区

江東区 中央区 港区

品川区

大田区

(2)データの対象時点

周辺建物の高さのデータは、2011年に作成された建物

GIS

データを使用した。成約賃料デー タについては、時点によって同じ住戸でも周辺の高層建物の状況が変化することから、2011 年の 成約賃料データのみを対象とした。

(3)その他データの限定方法について

成約賃料データについては、被説明変数、説明変数として使用するデータに欠落があるものを 取り除いた。また、成約賃料については、明らかに誤記入と思われるものや、面積が小さすぎて他 の物件と公平に成約賃料単価を比較できないものについて、以下の要領で取り除いている。

①月額賃料が300万円を超えるもの32

②㎡あたり月額賃料単価が1万円を超えるもの

③10㎡未満のもの33

④定期借家契約によるもの

また、レインズデータの所在地データからアドレスマッチングを行った際に、建物レベルの精度と ならなかったものについては除外した34。その結果、サンプルサイズは

12,095

となった。

(4)トリートメント変数

<分析①>

「周辺建物からの距離が近いほど」「周辺建物の高さが高いほど」「周辺建物の建築面積が大 きいほど」負の外部性が大きいという仮説を実証するため、トリートメント変数として、「成約賃料デ ータからの距離帯別・階数帯別の中高層建物の建築面積」を用いる。これにより、距離帯別、階数 帯別の推定された係数の違いによって、距離帯ごと、階数帯ごとの負の外部性の大きさを捉えるこ とが可能となる。なお、成約賃料データから同一の距離帯に同一階数帯の建物が建っていることも 考えられるが、その場合は建築面積を合算することによって処理されることとなる。

距離帯、階数帯としては、表 5 に示す区分を採用している。なお、ここで、4階建て以上の建物 に絞ったのは、各区で制定している「中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」

の対象建物が4階以上となっているためである。また、4-6階の建物については、少なくとも100m 離れれば建物高さとしての影響は及ばないと考えられることから、100m 超については説明変数と して採用していない。

表 5 トリートメント変数とした階数・距離帯

成約賃料データから周辺建物までの距離帯

0-10m 10-20m 20-50m 50-100m 100-150m 150-200m 200-300m

4-6F ○ ○ ○ ○

7-14F ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

15F- ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

32 主に、売買物件の価格を成約賃貸価格として記載していると考えられるものが見受けられた。

33 10㎡未満の物件について所在地をもとにインターネット上で確認すると、シェアハウスなど、専有面積は1部屋分(10㎡未満)

であるものの、共用部分が充実しているものが多く発見されたことから、10㎡未満の物件を取り除くこととした。

34 所在地データに号まで記入されていないものが多いため、アドレスマッチングが号レベルに至らないものが多かった。

なお、成約賃料データはアドレスマッチングにより緯度経度を持つポイントデータとして与えられ

35、成約賃料データから周辺建物ポリゴンデータまでの最短距離を

ArcGIS Pro

によって計測した 距離をもとに、上記距離帯を分類している。そのため、0-10m 帯にも、10-20m 帯にも存在する建 物の建築面積については、「0-10m 帯」の説明変数のみに全ての建築面積が入っていることに留 意が必要である。

また、成約賃料データはポイントデータ、周辺建物データはポリゴンデータであることから、図

22

のように、本データに基づく距離よりも、実際の最短距離の方が近いことに留意が必要である36

図 22 本データにおける距離の算出方法

<分析②:区による影響の違いの分析>

分析①によって、7 階以上の建物が

10m

以内に存在する場合に有意に賃料が下落することが 示されたため、区ごとに影響の程度が異なるかを分析した。

そのため、分析①のトリートメント変数のうち、「周辺

10m

以内の

7-14F

建物面積」及び「周辺

10m

以内の

15F

以上建物面積」について、区ダミーとの交差項を作成した。

<分析③-1:用途地域による影響の違いの分析>

分析②と同様、用途地域による影響の違いを分析することとした。「周辺

10m

以内の

7-14F

建 物面積」と「周辺

10m

以内の

15F

以上建物面積」を合計することにより作成される「周辺

10m

以 内の

7F

以上建物面積」について、用途地域ダミーのうち、商業地域ダミー及び近隣商業地域ダミ ーとの交差項を作成した。

<分析③-2:区及び用途地域による影響の違いの分析>

分析②において、品川区及び墨田区においては、7 階以上の建物が

10m

以内に存在する場 合であっても有意に賃料が下落しないことが示された。また分析③-1において、商業地域、近隣 商業地域においても有意に賃料が下落しないことが示された。そこで、品川区及び墨田区の商業

35 アドレスマッチングの精度が建物レベルとされていても、当該建物のGISデータと重ならないケースも確認された。成約賃料ポ イントデータから20m以内と判定された15F以上の建物については、当該建物自身ではないかをインターネット検索等により確 認し、当該建物自身であった場合は距離帯データから取り除いている。

36 本来は成約賃料データの建物と建物データが整合しているかを確認の上、ポリゴンデータ同士で距離を測る方が正確性は高 いと考えられるが、データの制約上、全ての建物データの整合性をチェックすることは困難であるため、このような距離の算出方 法とした。

成約賃料データ

実際の最短距離

本データにおける距離

地域、近隣商業地域における影響を調べることとし、分析③-1で使用した「周辺

10m

以内の

7F

以上建物面積」と「品川区ダミー、墨田区ダミー」と「近隣商業地域ダミー、商業地域ダミー」の交差 項を作成した。

(5)建築物属性のコントロール

当該住戸の所在する階によって、日照、採光、眺望等の環境が変化すると考えられることから、

「ln(所在階)」をコントロール変数に加えた。

また、建物の全体階数が高いほど賃料単価が上がると考えられることから、「建物全体階数」をコ ントロール変数に加えた。さらに、超高層マンションの場合はさらに

20

階以上の場合は1をとり、19 階以下の場合は

0

をとる「超高層ダミー」を加えた。

その他、「使用部分面積(㎡)」「成約時築年数」「新築ダミー」「構造ダミー」「角部屋ダミー」によ り、建築物属性のコントロールを行った。

(6)地域属性のコントロール

最寄り駅までの距離や、都心部までの距離、用途地域など、地域特性が家賃・価格に与える影 響が大きいと思われることから、「都心4駅からの距離(m)」、「最寄り駅からの距離(m)」、「区ダミ ー」、「用途地域ダミー」、「指定容積率(%)」、「周辺の売り場面積(千㎡)」、「周辺の全産業従業 者数(千人)」、「地震危険度ダミー」をコントロール変数に加えた。

また、床面積の需要が大きく、賃料も高いエリアについては、低層建物ではなく中高層建物が多 くなると考えられることから、「成約賃料データから

300m

以内の

4-6F

建物面積」についてもコント ロール変数に加えた。

表 6 被説明変数、説明変数の一覧

変数 内容 出典

成約賃料単価 成約賃料を使用部分面積で割ったもの(円/㎡・月) A 成約賃料データからの

距離帯別・階数帯別の 中高層建物の建築面積

成約賃料データ の位置から周辺建物までの最短距離別、

周辺建物の階数帯別の建築面積(㎡)

(表 5参照)

ln

所在階 住戸の所在階の階数の自然対数をとったもの(階) A

建物全体階数 住戸を含む建築物の全体階数 A

超高層ダミー 建物全体階数が

20

を超える場合1、そうでない場合は0をとる

ダミー変数 A

使用部分面積 住戸の使用部分面積(㎡) A

成約時築年数 成約時の築年数(年) A

新築ダミー 従前居住者がない場合に1、あった場合は0を取るダミー変数 A 構造ダミー 建築物の構造(木造、鉄骨、RC、SRC、PC、HPC、計量鉄

骨)ごとのダミー変数 A

角部屋ダミー 角部屋の場合1、それ以外の場合は0をとるダミー変数 A 都心4駅からの距離 都心主要4駅(新宿、東京、池袋、渋谷)からの距離(m) B

最寄り駅からの距離 最寄り駅からの距離(m) B

区ダミー 住戸の所在する区に応じたダミー変数 A

用途地域ダミー 用途地域に応じたダミー変数 C

指定容積率 当該建築物の所在地における指定容積率(%) C

関連したドキュメント