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実測データを用いたシミュレーション検討

4.1緒言

本章では,実際のエンジン騒音‑適用する際の事前検討として,実測データを用い

たシミュレーションを通じて,制御アルゴリズムの性能評価を試みる. 3章での検討 庸果によれば, 2個の次数成分を同時制御した場合,収束係数の安定限界値が単一周 波数の制御の場合と比べておおむね低下することが明らかになった.一方,主な適用 対象となるディーゼルエンジン騒音は,多数の高調波の次数成分を含んでおり,複数 の次数成分の同時制御が前提になる.そこで,本章では,複数次数制御時の次数成分 間の干渉による制御効果‑の影響を明らかにするとともに,相互干渉を抑制して制御 効果を向上させる,より効果的な修正アルゴリズムについて提案を行う.

まず, 4.2節では,シミュレーションに用いる実測データを示し,シミュレ‑ショ

ンを行う条件を明らかにする.次に, 4.3節では,データに含まれる次数成分のうち 1個だけ制御した場合,さらに, 4.4節では制御次数を5個に拡張した場合のシミュ レーションを行う.ここでは,おもに各制御次数と他の次数成分との相互干渉の影響 について考察する.そして, 4.5節では,バンドパスフィルタ@PF)を用いた「スペ クトル整形法」 (Spectrum shapingmethod)により,次数成分間の相互干渉の抑制を 試みる.そして,シミュレーションにより,スペクトル整形をしない場合に比べて各

次数成分の性能向上に寄与できることを示す.最後に, 4.6節にて本章の結論を述べ る.

4. 2 シミュレーション条件

図4.1は,車室内騒音スペクトルの一例として, 4気筒ディーゼルエンジン搭載の 国産RV車のエンジン回転数2600[rpm]付近での騒音スペクトルを示している.横軸

はエンジン1回転を基準とした回転次数,縦軸はある騒音レベルを最大として基準化 したパワースペクトルであり,騒音データにはA特性などの聴感補正は加えていない.

また, 10次以上の高調波次数成分はローバスフィルタにより減衰されている.

1章で述べたように4気筒ディーゼルエンジン騒音の特性は,回転数や運転条件に より変動する.励起される次数成分は運転条件によって異なるが,基本的にはエンジ ン回転数の2倍の周波数の回転2次成分とその高調波成分が常時大きい特徴を有し ている.この他に, 0.5次系列のハーフ次数成分とその高調波成分も存在し,図4.1 の場合では2.5次成分が大きく現れている.シミュレーションでは,この実測データ

において大きなピーク成分である回転2次とその高次成分の4次, 6次, 8次及び10 次の計5個の次数成分を, 5個の適応ノッチフィルタにより並列に同時制御する場合

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について検討した・したがって,シミュレーション評価に用いたブロック図は,図

2・3において並列動作させる適応ノッチフィルタをk‑2,4,6,8,10の5個に設定した場 合である.

また,実際の制御ではスピーカとマイクロフォン間の音響伝達関数Cの影響が重要 な問題であるが,今回のシミュレーションでは理想的な状態を仮定しC‑1としてい る・また, 1周期中の制御パルス数は,演算量低減の観点から最小の4パルスを基本

とし, 2次のみ8パルスとした・ 2次は,エンジン回転数2600[rpm]では約87[Hz]で あり,その3倍高調波(6次)は260[Hz]となる.これは, LPFのカットオフ周波数 400【Hz]以下になるためで, 3章での結論によるものである.

また,スペクトル整形法において用いたBPFの仕様については, 4.5節で示す.

4.3 制御次数1個の場合の検討

最初に,各制御次数に対して個別に制御した場合のシミュレーション結果を示す.

表4.1は,このときの2‑10次の制御次数に対する各次数の影響を示す表である.こ

こで,収束係数値αkは2‑8次についてはαk‑0.3(k‑2,4,68), 10次についてのみ αk‑1.5(k‑10)に設定した.

本来,適応ノッチフィルタによる制御は基準信号に余弦波を用いた単一周波数に対 する制御であり,対象次数に対して効果があるのは当然である.しかしながら,表

4・1に明らかなように,ある次数,例えば6次では, 4次など他の次数に影響を及ぼ

し, 1次音(primary・ sound)に比べて増音していることがわかる.図4.2(a),仲)は,そ れぞれ4次及び10次の周波数を単独に制御した場合のフィルタ出力O,.(n)J'1.(n))の周 波数スペクトルを示している・図より,出力スペクトルには本来の制御次数に加え, 他のレベルの大きい騒音次数成分が含まれているのがわかる・これは,エラー信号e(n) を介して,対象次数以外の次数騒音が適応ノッチフィルタの係数更新に影響を与えた ためであると考えられる.

例えば,図4・2(a)の4次成分では, 2, 6, 8, 10次及び3次高調波である12次, 図4・2(b)の10次成分では, 2, 4, 6, 8次,及び14次のスペクトルが大きくなっ ている・本来4次の適応ノッチフィルタは, 4次騒音のみを減少させるように設計さ れている・したがって, 4次のフィルタ出力の中に含まれる他次数のスペクトル成分

は余計な成分である・表4.1の結果では、他の次数成分を増音させるまでに至ってい ないが、この影響によって本来の次数成分の制御効果が干渉のない場合に比べて低下 している可能性もある・なお,図4・2(a)の12次成分,図4.2(b)の14次成分は,周波

数が出力LPFのカットオフ周波数(400[Hz])よりも高い周波数であるために、 LPFに

フィルタの更新に影響することはない.

以上のシミュレーション結果が示唆することは,騒音の中に対象次数以外の大きな 次数騒音が存在すると,相互干渉の影響により,制御効果の低下あるいは他次数での 増音発生が発生する可能性があるということである.そこで,図4.1の主要な5個の 次数成分を同時に制御する場合についてシミュレーションし,個別次数ごとの制御効 果との比較を行うことにする.

4.4 制御次数5個の場合の検討

表4.2は,各次数の収束係数の設定値の組み合わせを変えたときの,制御が十分に 安定した状態での騒音低減効果を示している.表から,収束係数の設定値によって各 次数の騒音低減効果に差が生じることが認められる.例えば,同一のcLkであっても,

Case lとCase5では2次については低減効果に7.3【dB】の差があり, 4次については 12.1【dB】の差が生じる.表には,式(2.28)を用いて求めた一つの次数成分のみを制御す る場合の収束係数の安定限界値も合わせて記した.表4.2では, Case5の収束係数値 の組み合わせが最も高い制御効果が得られている.

一方,図4.3は,各Caseの収束係数の設定値を式(2.28)で求めた安定限界値で割っ た比で示している.図から高次数に対する収束係数の比を小さく設定した場合,より 好結果が得られる傾向が認められる.これは高次数ほど,単位時間当たりの更新回数 が多いので,収束係数を小さくすることによって高次と低次での単位時間の更新量を 同程度にできるためと考えられる.また, Case5では2, 4, 8, 10次の4本につ いては単一周波数のみの制御時とほぼ同程度の低減効果が得られたが, 6次成分のみ 最大で9.6【dB]の低減に留まり,十分な低減効果が得られているとは言い難い.

また,図4.4(a),a))は, Case5での5個の次数制御のうち4次及び10次の次数成分 を制御する適応ノッチフィルタの出力スペクトルを示している.図に示されているよ

うに, 4次, 10次のフィルタ出力にも6次成分が含まれている.そして,これらの干 渉が6次の制御に影響し,騒音に対して有効な位相制御が行えないことが考えられる.

したがって,単に収束係数設定値のパラメータ変更のみでは,次数間の相互干渉を十 分抑制することは難しく,制御性能向上には限界があることがわかる.

4.5 スペクトル整形による性能向上

4.5.1バンドパスフィルタを用いた制御ブロックの修正

4.3, 4.4節での検討から,各次数のフィルタ更新は,本来の騒音,あるいは制御出 力に含まれる他の周波数の次数成分が入力エラー信号を介して影響し,制御効果を低

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下させることが判明した.そこで,エラー信号中の他の次数成分の影響を回避する方 法として,他の次数成分の存在する周波数帯域を減衰させ,所望の制御次数成分の存 在する周波数帯域のみを通過させる方法を検討する.これは,エラー信号の周波数ス ペクトルをいくつかの帯域に分割して各帯域ごとに整形する,.V、わば「スペクトル整 形(Spectmm shaping)」を行う方法である.

図4.5は,このような帯域分割の考え方に基づき,図2.3の制御系を修正したブ占 ツク図を示している.これは,従来の入力のLPFを,各制御次数ごとにパスバンド のエッジ周波数の異なる別々のバンドパスフィルタ@PF)に置き換えたことが特徴で ある.各々のBPFは,そのノッチフィルタの制御対象次数の周波数領域近傍のみを 通過させ,離れた周波数帯域にある次数成分は減衰されるように設定する.各次数成 分に対する適応ノッチフィルタは,対応するBPFによりスペクトル整形されたエラ ー信号を用いて,各次数近傍の周波数成分の影響を強く受けて適応修正される.基本 的には,各次数制御ごとに最適なBPFの設定を行うことが望ましいが,コントロー

ラの設計が複雑化する問題点がある.このため,最小の帯域分割数により性能向上が 図れるようにすることも重要な検討課題である.

4.5.2 スペクトル整形を用いたシミュレーション

シミュレーションでは,BPFのパスバンドのエッジ周波数の設定条件を3パターン に変えて検討した・設定条件を表4.3に示す.ここで, Typel,2は高域・低域の2分 割方式で,高域側にBPFを用いた. BPFの設定条件は, Typelがパスバンド200‑

400[Hz], Type2がパスバンド300‑400[Hz]である.また,低域側は,いずれもLPF を用いており,カットオフ周波数は,それぞれ200[Hz](Typel)と300[Hz】(Type2)とな っている.また, Type3は低域・中城・高域の3分割方式であり,低域はカットオフ 周波数200【Hz]のLPF,中城はパスバンド200‑300[Hz】,高域はパスバンド300‑400【Hz]

のBPFに設定されている.また,表中には各設定BPFと対応する制御次数を合わせ て示した.ここで,収束係数の設定については,いずれも表4.2におけるCase5の値

を用いている.

このような条件のもとで,シミュレーションを行い,得られた消音結果を表4.4に 示す.帯域分割を行った3タイプのいずれにおいても, 6次成分の消音効果を大幅に 向上させることができた.また,他の成分については, 4次, 8次は現状維持もしく は若干の性能向上に留まったが, 2次成分が約10[dB]近く向上できていることがわか

る. 10次成分は若干の制御効果の低下が認められるが,全体としての制御効果に比較 して特に問題となるレベルではないと考えられる.また, 2分割と3分割での効果の 差異は認められず, 2分割で十分と考えられる.

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