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制御アルゴリズムの基本特性評価

3.1緒言

制御対象に自動車のエンジン騒音を考えた場合,制御アルゴリズムには,次のこと を満足させることが要求される.

(1)追従性に優れ,収束が速いこと.

(2)音響伝達系のモデル誤差に対しロバストであること.

(3)複数の次数成分の制御が容易であること.

第1の点については,運転中の自動車エンジンは回転数の変化が大きく,騒音次数 の周波数も絶えず変動する.その周波数変化に応じて騒音の位相や振幅も変化が激し いために,変化に追従して速やかに収束することが要求される.また,第2の点につ いては,車室内空間など実際の使用環境での音響伝達特性は,温度変化による特性変 化,騒音次数の周波数変化に対する位相の変化が存在する.特に,音響伝達系の共鳴 周波数付近では,周波数変化に対する位相の変化が大きいために同定時のモデル化誤 差が発生しやすい.したがって,実用的にはこのようなモデル化誤差に対してもでき

る限りロバスト性を確保しておく必要がある.

さらに,第3の点については,多くの次数ピーク成分に対して同時かつ十分に抑制 することが効果的な騒音低減を図るために要求される.複数の次数を制御したことに よって個々の次数に対する制御効果が減少するようでは実用性に欠ける.また,これ

ら3点を満たした上でなおかつ小演算量のアルゴリズムでなければならない.

本章では,以上の点を考慮しながら, 2章にて定式化した適応ノッチフィルタの基 本特性についてシミュレーション評価を行う.

まず, 3.2節では,アルゴリズムの収束の速さを,おもにフィルタ更新に用いる収 束係数の設定と制御パルス数の関係から評価する.制御出力式とフィルタ更新式につ いて導出した3タイプの演算方式について,収束性の比較,安定限界の理論式とシミ ュレーションでの安定限界結果の比較を行う.そして,最も収束性,安定性に優れ, 最小の演算量(制御パルス数)で制御できる演算方式を検討する.

次に, 3・3節では,同定した音響伝達ノッチフィルタ(c^., ∂l)に含まれるモデル化 誤差が,システムの安定性に与える影響について評価する.ここでは,その誤差の大

きさに対する評価方法として,位相誤差とゲイン誤差に分けて検討を行い,各誤差に 対するシステムの安定範囲を検討する.

次に, 3.4節では,同時に制御する次数成分を2個とした場合の,次数間の相互干 渉による収束係数の安定限界‑の影響等を評価し,複数次数の制御を行う際の知見を

得る.最後に, 3.5節で本章の結論を述べる.

3.2 収束性と安定限界の検討

3.2.1シミュレーション条件

シミュレーションには,制御時に図2.1のブロック図,同定時に図2.2のブロック 図を用いた.シミュレーションの順序は,最初に同定を行って音響伝達ノッチフィル タc^.,

∂lを求め,次に求められたら,

∂1を用いて制御を実行する.表3.1はシミュレ ーションの設定条件を示している.表に示すように,騒音と制御音の音響伝達系の伝 達関数〟, C及びD/A, 〟D変換器の伝達関数は,すべて1とおき簡単化した.

C‑1である'ので,音響伝達ノッチフィルタc^., c^1は,出力LPFを通過した出力信 号がエラー信号の入力用LPFを介してフィルタ更新式に戻るまでの一巡伝達系の同 定周波数での特性を表現することになる・コントローラ内では,周波数′の参照信号 s(A)から1周期4mパルス(サンプリング間隔T‑1/4mj)で基準信号x(n)を発生させ,サ

ンプリング間隔rで同定,制御を行っている.したがって,参照信号の周期が変われ ば基準信号のサンプリング間隔も変化する・ここでは,騒音:参照信号∫(〟)は100,

200, 300及び400【Hz]の余弦波信号とし,これに同期して, 1周期4〝!パルスの基準信 号x(n)を発生させてシミュレーションを行うこととした.

一方,制御システ中の外側の物理系の計算のサンプリングについては,物理系の計

算モデルの量子化誤差が制御系の応答に影響しないように十分大きい周波数に設定し ているので(m‑7,200とし1周期28,800パルスに設定),演算精度については問題はな いと思われる.

3.2.2 更新方式のタイプ比較

シミュレーションでは,図中の制御出力yとフィルタwの更新伊ilter update)に用 いた演算式の組み合わせを変えて次の3タイプ:

Type I :毎回出力+毎回更新

Type Ⅱ :ノッチ型出力+90度位相差更新

TypeⅢ :ノッチ型出力+毎回更新

について比較を行った.表3.2及び表3.3に制御及び同定に用いた演算式のタイプを 比較して示す・ここで, Type Iの毎回出力とは式(2.8)でl=1とおいた場合であり,毎 回更新は式(2・16)を用いる場合である・また, Type Ⅱのノッチ型出力は式(2.15)に従

い, 90度位相差更新は式(2.17)従う場合であり,エラー検出からフィルタ更新まで90

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度遅らせている.また, TypeⅢはType IとTypeⅡのハイブリッド方式である.

3.2.3 収束性に関するシミュレーション評価

図3.1(a)‑(c)は,騒音周波数f‑200[Hz]での3タイプの演算方式の収束性の比較を行 ったもので, 1周期の制御パルス数をパラメータとして,評価関数.I(n)の収束までの 時間変化を示している.ここで,収束係数αの値は各パラメータの条件での最適値を 試行錯誤的に求めた値を用いている・図に示されるように,

tJ(n)の収束特性は(a):Type Iではパルス数が多いほど収束に時間がかかるが,仲) :Type Ⅱ, (c) :TypeⅢの場合 ではパルス数に関係なく高速に収束する.

図3.1(a),仲)及び(りの場合での収束性の差異は,ひとつには基準信号のサンプリン グごとの変化量に影響されていることが考えられる.図3.2は,横軸を制御パルス数 とした1パルス分の変化量のA x(n)‑

l

x(n)‑x(n‑I)

Fの1周期分の平均値,

AVE[Ax(n)]

‑去=Ix(n)

x(n

I)I

を示している・

AVE[Ax(n)]は,図より1周期中の制御パルス数が少ないときに大きく

なることが示されている.これが毎回出力でのパルス数が少ないとき及び適応ノッチ フィルタの場合に収束が早くなることに影響していると思われる.

次に,図3.3(a)‑(c)‑Ej:,騒音周波数f:100[Hz]の場合での収束性の比較を示している.

まず(a) :Type Iでは, 200[Hz]の場合と同様にパルス数が多いと収束特性が悪化する ことがわかる・ただし, 1周期のサンプルを4パルス(m‑1)としたときは,評価関数

A(n)は完全には収束せずあるレベルで更新が停止する現象が認められた.さらに, 0) :

Type Ⅲの場合, 4パルス以外ではすべて発散する結果となった.また4パルスの場合

も(a):Type I同様,フィルタ更新が途中で停止し,ある一定レベル以下にはならな

かった・一方, (c): Type IIIの場合については, 200[Hz】同様に良好な収束特性が得ら れたが, 100【Hz】の4パルス制御の場合については他の方式と同様に収束は進まなくな

った.

ところで,ディジタルの制御出力は基本的には方形波出力の重ね合わせであり,制 御周期を基本次数とした奇数次の高調波成分を有している.これらはローパスフィル

タにより減衰されるが・今回のシミュレーションではカットオフ周波数400【比】とし たため,例えば100[Hz】の制御では3次成分が300[Hz】で残るため減衰されない.そし て,この高調波の発生の程度は制御パルス数に依存していると考えられる.

そこで,図3・4(a)‑(c)は, TypeⅢ,周波数100[Hz]での,制御パルス数4の,より

詳細な解析結果を示し七いる.図3.4(a)に示されるように,エラー信号の時間応答波

形は,制御開始後め時間が進むに従って高調波成分による歪みが発生する.図3.4(b)

は2, 6, 12周期目のエラー信号の次数比分析を行った結果であり,制御が進むにつれ, 基本次数の1次は収束するが, 3次高調波成分が増大し, 1次成分と同程度の大きさ になって安定する・安定後の時間波形を拡大したのが図3.4(c)である.図に示される ように1次成分と3次成分の干渉により90度ごとの更新ポイントにおいてエラーがo になり不可観測状態となっている.このためフィルタの更新は止まる.これを1周期 8パルスで検出した場合は45度ごととなり,エラー信号がoでないポイントの値がフ ィードバックされるために,さらにフィルタ更新が進み,結果として制御効果が向上 することがわかる.

また, Type Ⅱの90度遅れ更新の場合,エラー検出からフィルタ更新まで90度遅ら せたために,この遅れによる高調波成分の成長が著しく制御不能となり発散に至った

と考えられる・これに対して200[Hz]の場合でも高調波成分は発生するが, 3次は 600[Hz]であり,カットオフ周波数400[Hz]のローパスフィルタにより減衰され影響さ

れない.

以上の検討により,演算方式としては, TypeⅢのノッチ型出力+毎回更新の方式が 安定性,応答性の両面で優れている.また各周波数での1周期中の制御パルス数は, 制御出力の有する奇数次高調波成分の大きさとローバスフィルタの対周波数の減衰率

との関係で決定される・高調波次数が十分減衰できる最小の制御パルス数が望ましく, 特に, 3次高調波次数の発生が抑圧できる制御周波数においては, 90度ごとの1周期

4パルスにできることが示された.

3.2.4 安定限界の検討

次に,優れた制御方式であると結論されたType Ⅲの方式について,制御パルス数 と安定限界の関係を100, 200, 300及び400[fk]で評価した.式(2.28)から,収束係数 αの安定限界式は制御パルス数に反比例することが予想されている・図3.5(a)‑(d)に 各周波数での理論式から求めた安定限界値とシミュレーションによって確認された安 定限界値を比較して示した.

図より(c):300[Hz]及び(d):400[Hz]では,収束係数αの限界値は図中に記した反比例 の線上にあり,かつ理論値にきわめて近い値となっていることが示された.

一方, (a):100[Hz]及び0):200[Hz]では,パルス数が少なくなると安走限界の値が, 理論式とシミュレーションで違っており, (a):100[Hz]の場合において特に顕著である

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が,.理論値に比べシミュレーション結果の方が大きくなっている.これは,前述した 3次以上の高調波次数成分の影響によるフィルタの更新抑制効果が原因と思われる.

しかしながら,このことは,基本的に安定化の方向に向かう現象であり問題にはなら ないと考える.

3.3 モデル化誤差の検討

前述したように,制御に先立ち同定された音響伝達ノッチフィルタには,その後の 音響伝達系の特性変化などにより,制御時には常にある程度のモデル化誤差が含まれ ている.この誤差の大きさに対してどの程度ロバストであるか,評価しておくことが 必要である・ここでは,誤差の与え方として,ゲイン誤差のみ存在する場合と位相誤 差のみ存在する場合に分けて評価することを試みる.

3.3.1モデル化誤差の与え方と影響特性

今,音響伝達ノッチフィルタの真値∂(∂。,∂l)に対し,誤差∂(∂。,∂l)を含む c^6(c^6.,66.)を考える・適応ノッチフィルタ更新式(2・16)に,

∂6。=∂.+6. ,

′ヽ ′ヽ

c∂l ‑Cl+∂lを代入し変形すると次式が得られる.

wo(n・1)‑

wo(n)‑a,・e(n)・(

w.(n・1)‑

wl(n)‑a,・e(n)・(

ただし,

α/=α・

E=

‑tanー1

∂l+∂1

′ヽ

c。 +∂。

・co(言芸・ i))

・sin(言芸・ i))

(αは収束係数)

′ヽ

(真の位相島‑‑tan‑1阜)

Co

ここで,評価としてモデル化誤差の与え方として, (a)ゲインのみ誤差

(b)位相のみ誤差

の2つの場合に分けて考えることにする.

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