一般的に,試行運用期においては,ある程度までは担当部門の裁量で,システム構築や 登録試行,ハーベスト等の実験を様々に身軽に実行することが出来る。図書館の自主事業 の一環として,学内調整や制度・組織の整備を保留したままプロジェクトを進めても大き な問題はないだろう。
しかし,「〇〇大学機関リポジトリ」という名のもと,正式に学術機関リポジトリを立ち 上げ,学内外に周知し,維持するには,機関そのもの(例えば大学当局)により承認され た事業であるという保証が不可欠である。
いいかえると,本番運用開始を目指すのであれば,「図書館の自主事業」を脱し,機関公 認の 1 事業としての地位を獲得せねばならない。そのためには,少なくとも,大学自体へ の働きかけにより事業実施の合意を得,ゴーサインを取り付けること,運用のためのルー ルを整備すること,運用のための組織を整備すること,の 3 点をクリアすることにより,
事業としての体を為す必要があるだろう。
1.1 学内合意形成
学内合意形成とは,機関自体がこの事業を認知し,賛同し,後押しするような状況を作 り出すことである。学内要所への説明やプレゼンテーション,しかるべき委員会での審議 を通じ,運営当事者以外に学術機関リポジトリを理解してもらうための努力,と言える。
1.1.1 合意形成のプロセス
機関の風土や文化,または規模にも応じて合意形成のプロセスは多様であり,それぞれ に最適な方法で合意形成を得ることが望ましい。
キーパーソンへの説明 経営陣,研究担当,
etc.
事務局・WG プロジェクトチーム
部門内意思決定機関
(叩き台作成)
(原案策定)
(承認) 意思決定機関
理事会等
(承認)
(承認)
情報,システム,
研 究 等 の 学 内 委 員会
関連部局への 説明・調整
知財担当,システム担当 etc.
学術機関リポジトリ 運営部門
管理部門
例えば,一般的なボトムアップ式のモデルによれば,まず,自部門内(千葉大学の場合 は附属図書館運営委員会)で事業実施をオーソライズし,関係他部局(知財本部等)との 調整を行い,上位部門(情報企画委員会,理事会)への提案を行うという手順を踏むこと になる。
1.1.2 合意を得る内容 -「なぜ学術機関リポジトリなのか」-
プロセスや掛ける時間は各機関の事情次第であるにしても,合意を得るべき内容は共通 している。「なぜ学術機関リポジトリを立ち上げるか」ということであり,その了解がとれ れば「事業実施へのゴーサイン」が出たことになる。
図書館等を除けば,大学や研究者間における学術機関リポジトリの認知度はまだまだ低 いのが実情である。このため,学術機関リポジトリ導入を目指すにあたっては,学術機関 リポジトリとは何か,何の役に立つのか,なぜ自機関に導入するのか,といった「学術機 関リポジトリ構築の意義・背景」,つまり「なぜほかでもなく学術機関リポジトリなのか」
を適切に説明し,意識を共有しておく必要がある。
学術機関リポジトリの持つ意義や歴史的背景については,一般的に図書館の分野では,
学術誌の高騰による雑誌購読中止(いわゆる「シリアルズクライシス」)が研究成果の入手・
発信を妨げてきたことに対して,研究者側(機関)主体の研究成果流通基盤を新たに構築 することで一石を投じてみよう,というオープンアクセス(OA)運動の試みであると理解 される。しかしながら,この歴史を説明するだけでは,おそらく「図書館寄り」という印 象を払拭することはできないため,OA以外の文脈,例えば,自機関で生産されたデジタル 情報資源の蓄積・保存を行う,といった意義も同時に見出だしておく必要があるだろう。
さらに例えば,各出版社におけるセルフアーカイブ許諾率の上昇や英米議会におけるセ ルフアーカイブをめぐる近年の動向も,プラスの要素として盛り込んでおくべきである。
1.1.3 合意形成の補強材料 -メリットの強調,試行運用の実績提示―
理念的には賛同できるとしても,例えば,登録者の負担増,著作権に対する不安,先行 例不足,効果測定のしにくさ,といった不安が合意の足かせとなる可能性がある。
そこで,学術機関リポジトリを通じ,大学はその研究教育活動を社会に説明することが でき,研究者は,自身の研究業績の可視性を高め研究インパクトの向上につながる,といっ た大学や研究者がいかに恩恵をこうむるか,という文脈によるメリットの強調こそが,合 意を得る際の補強材料として必要不可欠である。
また,プロトタイプシステムなど学術機関リポジトリのシステムを実感できるものがあ れば,説得材料として積極的にプレゼンテーションすることが望まれる。試行運用システ ムの提示によって検索や登録,ブラウジングの具体的なイメージをつかむことができるし,
初期構築用のコンテンツが多少なりとも入っていれば,「既にここまで蓄積した」ことを実 績として示すことができる。さらに,先行事例調査,教官向けアンケート,著作権調査等 の実績があれば,適宜説明に加えることにより,補強材料となりうる。
内容 補強材料
学術機関リポ ジトリ構築の 意義・背景
【共通する内容】
・ 学術機関リポジトリとは何か
・ 何の役に立つのか
・ なぜ学術機関リポジトリである必要が あるか
・ どんなメリットがあるのか,
【各機関固有の内容】
・ なぜ本学に導入するのか
・ 本学にとってのメリットは何か
・ 本学研究者にとってのメリットは何か
・ 学外(社会,企業等)にとってのメリッ トは何か,
【メリットの強調】
(大学)
・ 社会に対する研究教育活動内容の説明責任の 履行
・ 中期計画・中期目標の具体的方策研究業績集約 の事務合理化
(研究者)
・ 論文の可視性向上
・ 研究インパクト向上
(学外)
・ 産学連携のヒントとなり得る
・ 表面的なPRではなく,具体的な研究教育活動 を知ることができる
【試行運用等の実績提示】
・ 登録/検索インタフェースのイメージ
・ 雑誌掲載論文,紀要論文の先行登録
・ 教官向けのアンケート実施結果 表1 学内合意形成を得るべき内容
1.2 運用ルールの整備 ―運用指針-
1.1に述べた学内合意形成においては事業実施の了解を得ることに主眼を置いたが,運用 の原則となるルール-運用指針-についても,事業開始前に策定し,承認を得るなり,機
関の公的な規定や裁定として位置づけるなり,各機関の必要に応じてオーソライズしてお く必要がある。
下記は運用方針をWebで公開している先行事例の一部である。運用主体の部局はどこか,
検討組織はどこに設けるのか,誰が何をどのように登録できるのか,一旦登録したデータ の削除は可能なのか,著作権の扱いはどうするのか等,事業を切り盛りする上で根幹とな る原則はおおよそ共通して含まれている。さらに,「意義や目的」,参加申請,著作権方針 及び利用許諾書,などを含むケースもある。
なお,国内外とも,学術機関リポジトリへの登録は登録者側の希望に基づくケースが一 般的であるが,クイーンズランド工科大学は,研究成果の可視性及びインパクト向上のた め,研究成果の学術機関リポジトリ登録を原則として義務化するという,非常に先進的な 制度を持っている。
表2 国内外の学術機関リポジトリの運用指針例 学術機関
リポジトリ 運用部門 登録者 コンテンツ登
録対象 コンテンツ削
除方針 著作権規定 図 書 館 は 全
体の統括。加 盟 し た 研 究 組 織 は 指 針 策 定 な ど の 裁 量 が 与 え られる
DSpace に 加 盟した研究組 織所属の研究 者(要参加申 請)。
研究教育利用 目的で作成し たもの
申請により可 能だが,メタ データは残す
含む(原則とし て著者が全権利 を保有し,学術 機関リポジトリ での非排他的利 用を認める)
DSpace
@MIT
「Policies and Guidelines」に Community & Collection Policies(運用体制),
Content Guideline(登録対象),Deposit License(著作権),等の6方針が示される URL http://libraries.mit.edu/dspace-mit/mit/policies/
図 書 館 は 全 体 の 統 括 。 Unit単位に加 盟する
加 盟 組 織 が 登 録 可 と 判 断 す れ ば 学 内 外 の 者 を 問 わ ず 可
(要参加申請)
特に規定なし
Unit に削除申 請すれば可能 だがメタデー タは残る。改 版可
含む(原則とし て著者が全権利 を保有し,学術 機関リポジトリ での非排他的利 用を認める)
eScholars hip (UCLA)
「Repository Policies 」に登録対象,削除方針,登録申請書へのリンク,著作権 方針へのリンク,等の基本方針が簡潔に1枚のWebページに収まっている。
URL http://repositories.cdlib.org/escholarship/policies.html
図書館 図 書 館 関 係 者
(アーカイブ毎
に異なる) 特に規定なし 改版以外の削除は認めない
含む(原則と して著者が全 権 利 を 保 有 し,学術機関 リポジトリで の非排他的利 用を認める)
CODA
( カ リ フ ォ ル ア工科大)
ニ
LibrarySy stem digital Collections の例
Caltechの学術機関リポジトリ登録コンテンツの一つとして公開している。
URL http://caltechlib.library.caltech.edu/19/
URL http://caltechlib.library.caltech.edu/6/