季節調整法には様々な方法が存在し、系列すべてに当てはまる最適な方法は存在し ない。総務省統計局が作成する統計に適用する季節調整法についても、統計により、
系列により個々の特性を踏まえて最適と判断される方法が適用されているが、どの時 代においても技術的発展を踏まえた改善の余地が存在する。本章では、総務省統計局 が作成する統計の季節調整法の改善に向けた研究を示す。
47 1 X11-ARIMAの適用に向けた検討
総務省統計局では労働力調査、CPI、家計調査に対して米国センサス局法によって 季節調整を行っている。1980 年代にはこのうち X11 を適用していた。X11は移動平 均と割り算の繰り返しによって季節指数、季節調整値及び向こう1年間の推定季節指 数を算出するが、移動平均による欠項を最近年の同月値などで補項し、推定季節指数 の算出には固定された計算式を用いている。そのために、原数値の期間を変えるごと に季節指数が変化し、季節調整値を過去に遡って改訂しなければならないという問題 が生じていた。
カナダ統計局では、1975年に時系列分析における研究の成果を取り入れたARIMA モデルをX11に採用し、X11-ARIMAを開発した。この方法は原数値をARIMAモデ ルによって延長した後でX11を適用するものであり、これにより、原数値そのものは 移動平均による影響を受けにくくなると同時に、予測季節指数も原数値の性格を反映 したものとなる。実際、同局がこの方法をカナダ及び米国の主要経済及び労働力時系 列に適用してテストを重ねたところ、X11より安定性がある季節指数が得られること が明らかとなり、X11-ARIMAによる季節調整値を公表している。
ここで、原数値を𝑥𝑥𝑡𝑡、定数項をδ、
a
tをホワイトノイズ、𝜑𝜑𝑖𝑖を係数、𝑝𝑝を𝑖𝑖の最大値とすると、
𝑥𝑥𝑡𝑡=� 𝜑𝜑𝑖𝑖𝑥𝑥𝑡𝑡−𝑖𝑖
𝑝𝑝 𝑖𝑖=1
+𝛿𝛿+𝑎𝑎𝑡𝑡
を、𝑝𝑝次のARモデルと呼ぶ。また、𝜃𝜃𝑗𝑗を係数、𝑞𝑞を𝑗𝑗の最大値とすると、
𝑥𝑥𝑡𝑡=𝑎𝑎𝑡𝑡− � 𝜃𝜃𝑗𝑗
𝑞𝑞 𝑗𝑗=1
𝑎𝑎𝑡𝑡−𝑖𝑖
を𝑞𝑞次のMAモデルと呼ぶ。
作用素𝐵𝐵を 𝐵𝐵𝑥𝑥𝑡𝑡=𝑥𝑥𝑡𝑡−1
で定めると、
s
期前の値は、𝐵𝐵𝑠𝑠𝑥𝑥𝑡𝑡=𝑥𝑥𝑡𝑡−𝑠𝑠
となり、𝑑𝑑次の階差は (1− 𝐵𝐵)𝑑𝑑𝑥𝑥𝑡𝑡=�(−1)𝑘𝑘
𝑑𝑑
𝑘𝑘=0 �𝑑𝑑𝑘𝑘�𝑥𝑥𝑡𝑡−𝑘𝑘 (1− 𝐵𝐵s)𝑑𝑑𝑥𝑥𝑡𝑡=�(−1)𝑘𝑘
𝑑𝑑
𝑘𝑘=0 �𝑑𝑑𝑘𝑘�𝑥𝑥𝑡𝑡−𝑠𝑠𝑘𝑘 と表すことができる。
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上記の仮定のもとで、X11-ARIMA が想定する ARIMA モデルは、以下の式で表現 される。
(1− � 𝜑𝜑𝑖𝑖 𝑝𝑝 𝑖𝑖=1
𝐵𝐵𝑖𝑖)(1− 𝐵𝐵)𝑑𝑑(1− 𝐵𝐵𝑠𝑠)𝐷𝐷(1− � 𝛷𝛷𝐼𝐼 𝑃𝑃 𝐼𝐼=1
𝐵𝐵𝐼𝐼𝑠𝑠)𝑥𝑥𝑡𝑡=�1− � 𝜃𝜃𝑗𝑗 𝑞𝑞 𝑗𝑗=1
𝐵𝐵𝑗𝑗� �1− � 𝛩𝛩𝐽𝐽 𝑄𝑄 𝐽𝐽=1
𝐵𝐵𝐽𝐽𝑠𝑠� 𝑎𝑎𝑡𝑡
これを(𝑝𝑝,𝑑𝑑,𝑞𝑞)(𝑃𝑃,𝐷𝐷,𝑄𝑄)𝑠𝑠で表す。ここで𝜑𝜑𝑖𝑖、𝛷𝛷𝐼𝐼、𝜃𝜃𝑗𝑗、𝛩𝛩𝐽𝐽は定数、𝑝𝑝と𝑃𝑃は AR モデルの次 数 、 𝑞𝑞と 𝑄𝑄は MA モ デ ル の 次 数 、 𝑑𝑑 と 𝐷𝐷は 階 差 の 次 数 を 意 味 す る 。 sは階数であり、月次であれば、s=12、四半期であればs=4となる。
清水誠[17]では、総務庁統計局で季節調整している系列に対しても X11-ARIMA を 適用してテストを行い、X11を適用した結果と比較、検討した。評価の基準としては、
X11-ARIMA が季節調整値の改訂の問題を少しでも解決する手法となり得るかどうか、
すなわち、その適用によって季節指数及び季節調整値の安定性が増加するかどうかに 着眼した。結果は、X11と比較してX11-ARIMAを適用するほうが推定及び最新季節 指数の改訂幅が小さく、季節調整値に安定性があるということになった。本節では、
この検討結果の概要を示す。
1.1 推定値と改定値の確定値からの差による分析
まず、原数値を𝑙𝑙年1月から𝑚𝑚年 12 月までとし、X11と X11-ARIMA を用いて季節 調整して、(𝑙𝑙+7)年1月から(𝑚𝑚 −1)年 12 月までの季節指数を確定値とする操作を 行った。次に、原数値を8年間ずつの期間に分け、それぞれ季節調整して向こう1年 間の季節指数を推定値として確定値との差の絶対値を比べた。同様に、それぞれ最新 年の季節指数を改定値として確定値との差を比べた。これらの結果は清水誠[17]に記 載しているが、総平均のみ表1にまとめた。なお、X11-ARIMAのモデルは𝑙𝑙年1月か ら𝑚𝑚年12月までに適用したときの自動選択モデルとした。
(1)労働力調査完全失業率への適用
原数値を1959年から1987年までの労働力調査完全失業率にした場合、推定値と改 定値のどちらに対しても確定値との差の絶対値の総平均はX11よりもX11-ARIMAの ほうで小さい。また、月平均で見たときに、推定値と改定値のどちらに対してもX11 のほうが小さくなるのは5月と6月だけである。5月と6月の季節指数は緩やかでほ とんど単調に増加しているのでX11による予測が適合しやすい。
(2)CPI総合への適用
原数値を 1970 年から1987年までの CPI 総合にした場合、推定値に関する結果を 総平均すると、X11よりも X11-ARIMAのほうで誤差が小さかった。年平均に関して は1979年と1984年以外はすべてX11-ARIMAのほうで誤差が小さく、月平均に関し
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ても、7月と10月以外は同じであった。推定値と改定値の両方に対してX11-ARIMA のほうで誤差が大きくなる月は7月だけだが、7月は他の月と比べて季節指数が安定 している。
改定値に関しても総平均で比較すると X11-ARIMAのほうで誤差が小さかった。
(3)家計調査勤労者世帯消費支出に対する適用
原数値を 1970年から1987年までの家計調査勤労者世帯消費支出にした場合には、
総平均に関しては推定値、改定値のどちらもX11よりも X11-ARIMAのほうで誤差が 小さかった。12月の季節指数は他の月と比較して著しく大きく、激しい減少傾向を示 しているが、X11で大きな誤差が生じている。特に、推定値に対しては 2.0を超える 値が3つも存在し、平均値はかなり大きくなり、X11-ARIMA の2倍近くになってい る。
表1 確定値との差の絶対値の平均
1.2 SSAPによる適用結果の比較
次に、SSAP(Sliding Span Analysis Program)におけるMaximum % Difference を利用した。Maximum % Differenceは、ある期間の𝑖𝑖年𝑗𝑗月の季節調整値を𝐴𝐴𝑖𝑖,𝑗𝑗(1)、期 間を𝑘𝑘-1年ずらしたときの季節調整値を𝐴𝐴𝑖𝑖,𝑗𝑗(𝑘𝑘)、𝑁𝑁𝑖𝑖,𝑗𝑗 =�𝑘𝑘:𝑖𝑖年𝑗𝑗月の𝐴𝐴𝑖𝑖,𝑗𝑗(𝑘𝑘)が存在する� としたときに、以下の式で定義される。
Maximum % Difference =𝑘𝑘∈𝑁𝑁max
𝑖𝑖,𝑗𝑗𝐴𝐴𝑖𝑖,𝑗𝑗(𝑘𝑘)−𝑘𝑘∈𝑁𝑁min
𝑖𝑖,𝑗𝑗𝐴𝐴𝑖𝑖,𝑗𝑗(𝑘𝑘)
𝑘𝑘∈𝑁𝑁min𝑖𝑖,𝑗𝑗𝐴𝐴𝑖𝑖,𝑗𝑗(𝑘𝑘) × 100
1979年から1983年までのCPI総合の指数、前月比、前年同月比の季節調整値につ い て X11、X11-ARIMA の う ち 自 動 選 択 モ デ ル を 適 用 、(0,2,2)(0,1,1)12を 適 用 、 (0,1,1)(0,1,1)12を適用、(2,1,2)(0,1,0)12を適用の間でMaximum % Differenceの和及び 二乗和を比較すると、(0,1,1)(0,1,1)12を適用、(2,1,2)(0,1,0)12を適用の前月比以外はX11 を適用した場合よりX11-ARIMAを適用した場合のほうが小さくなった。
X11 2.2235 0.1492 0.7288
X11-ARIMA 1.9685 0.1266 0.5818
X11 1.5702 0.1029 0.4956
X11-ARIMA 1.3793 0.0969 0.3896
推定値 改定値
労働力調査 CPI 完全失業率
家計調査 勤労者世帯
消費支出
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1.3 CPI総合の季節指数の変化の比較
さらに、1981 年から 1986 年までの CPI 総合指数の季節指数の変化を比較した。
X11を適用してもX11-ARIMAを適用しても各月の年による季節指数の変化の方向は 同じだが、その大きさは後者のほうが大きかった。したがって、X11-ARIMA を適用 した場合のほうがX11を適用した場合より季節性の変化が大きく現れたことになる。
これに1年間のデータを加え、1981年から1987年までのCPI 総合の季節指数の変化 を比較すると、X11-ARIMA を適用した場合にはどの月も転換点が高々1つであるの に対し、X11を適用した場合には、わずか8年の間に転換点が3つ以上ある月がほと んどである。センサス局法は、季節性は徐々にゆっくりと確率論的に変化するという 仮定に基づいているので、X11を適用した場合のような激しい季節性の変化は結果と して望ましくない。
2 総務省統計局における時系列データの季節性を踏まえた検討
総務省統計局では、労働力調査、CPI、家計調査について季節調整値を毎月公表し ていたが、木村武[18] 、経済指標部会季節調整法検討小委員会[19]、上田聖[20]、奥
本佳伸[21]が、ARIMAモデルを適用すると、ほとんどの場合に安定性が高まるとした
清水誠[17]の結論を追認した。
他方、清水誠[17]以降も、様々な季節調整法が開発され、季節調整に利用するデー タの期間の変更に伴う結果の安定性と与えられた情報を最大限利用する最適性を中心 とする観点から実証分析が蓄積されていた。しかし、季節調整法を適用するに当たっ ては、適用されるデータの特徴を踏まえた当該データに基づく検討が必要である。清 水誠[22]では、主要系列の季節性の特徴を把握し、それを踏まえて季節調整法の適合 状況を検討した。検討に際しては、計算プログラムとしての季節調整法にとどまらず、
各指標の原数値の期間、季節調整値の利用状況、公表のタイミング、他の指標との関 係など実務的な事情にも配慮した。清水誠[22]の結論の概要は以下のとおりである。
総務省統計局が公表している時系列データのうち、完全失業率は 1990 年代に季節 性は小さかったが、2000年代に入り僅かではあるが季節性が大きくなりつつある。他 方、CPI及び家計調査の結果については、2000年代になっても季節性は小さくなる傾 向にある。
また、2000年代の季節指数の変化幅が小さいことから、これらの最近の系列に季節 調整法を適用する場合、米国センサス局法のうち、例えば、X11 と、ARIMA モデル のようなあらかじめ原数値にモデルを導入する方法とで結果の安定性に大差がないこ とが想定される。仮に、ARIMA モデルを導入するにしても、完全失業率、CPI 及び 実収入については、12か月階差を2回とるか、又は1か月階差と組み合わせることに
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より、原系列全体がほぼ定常になることから、可能な限り階差回数の少ない単純なモ デルを選択すべきであると結論付けた。これに対して、消費支出については、原数値 の期間の短縮、他のオプションの導入などの工夫が必要であることがわかった。
今後、これらの系列の季節性に変化が現れる場合には、季節調整法により結果が大 きく異なることもあり得るので、引き続き各公表系列の季節性を注視する必要がある。
また、季節性の検討に当たっては、安定性や最適性を包括的に評価するのみならず、
まず、原数値における各月の推移や相対的位置関係に注意するとともに、これらに影 響を及ぼす自然、社会・経済現象を踏まえる必要がある。さらに、それらの公表系列 は社会・経済に大きな影響を及ぼすことから、データの蓄積に伴い過去の季節調整値 が改定されるという実務的な問題に対する対応策も併せて講じる必要がある。
3 個人企業経済調査への季節調整法の適用に向けた検討
清水誠[22]以降、労働力調査、CPI 及び家計調査の季節調整法には X11-ARIMA の 改訂版であるX12-ARIMAが適用された。
他方、個人企業経済調査の結果は四半期ごとに公表されているが、結果を前期と比 較することがある。その際、前期差又は前期比の要因として、季節的なものとそうで ないものとの区別が重要になる。同調査の結果の中には、系列により、又は産業によ りほとんど季節性が見られないものも存在しているが、多くの場合、各期特有の季節 性が含まれている。同調査は 2002 年度に大規模な見直しが行われたことから、調査 結果の時系列的な比較が可能なのは 2002 年4-6月期からであるが、2010 年におい て8年近くが経過してデータの蓄積が進んだために、季節調整法の比較・検証ができ るようになった。
そこで、個人企業経済調査については初めての試みとして、清水誠[23]で、同調査 の代表的な系列の結果について標準的な季節調整法を適用し、調査結果の季節性と傾 向を抽出するとともに、同調査の結果への適用という観点から各種季節調整法の評価 を行い、今後同調査結果の参考系列を検討する際の基礎資料を提供することを目指し た。
個人企業経済調査のような公的統計調査の場合には、公表値への影響という意味で 安定性の喪失が最も致命的である。清水誠[23]は、多くの系列、産業である程度の安 定性を保ち、しかも適切性や AIC で劣った結果を示すことが少ない X12-ARIMA の (0,1,1)(0,1,1)が季節調整法の候補となると結論付けた。しかし、2008 年1-3月期に おける卸売業、小売業の売上高の場合のように、データの動きによっては他の季節調 整法と比べて安定性が低くなる場合があるので注意が必要であるとした。しかし、清 水誠[23]の時点では、データとして利用可能な期間がわずか7年、四半期単位では28