第一節 先行研究にみる調整機関の特徴
1)「要保護児童対策地域協議会運営・設置指針」にみる調整機関の役割
次章以降では、多機関・多職種連携において違うタイプの性質をあるがままに受け入れ、
それを活かすための「調整」が、どのように実践され得るものなのかを明らかにすること を試みようとしている。そのため、本章では子ども虐待対応において「調整」を担当する 調整機関の概要について確認し、検証課題について明らかにしたい。厚生労働省は2005年 に「要保護児童対策地域協議会運営・設置指針」(以下、「要対協指針」)および「市町村児 童家庭相談援助指針」について、2004年児童福祉法改正によりあらたに努力設置義務化さ れた要対協とその調整機関として期待される市町村の機能強化の道標となるよう示した。
この二つの指針は、2007年には改定されている。なお、「市町村児童家庭相談援助指針」
については、平成28年の児童福祉法改正に伴い、新たに「市町村子ども家庭支援指針」(ガ イドライン)が発出されたことにより、廃止された(平成29年3月31日付雇児発0331第47 号「『市町村子ども家庭支援指針』(ガイドライン)について」)。
その内、要対協指針の第4章には「要保護児童対策調整機関」の項目が設けられた。 そ の趣旨として、多くの関係機関等から構成される地域協議会が効果的に機能するためには、
その運営の中核となって関係機関の役割分担や連携に関する調整を行う機関を明確にする といった責任体制の明確化が重要であるとし、要対協にはこうした業務を担う調整機関を 置くこととしたとある(厚生労働省2007a)。
調整機関の業務内容は、①要対協に関する事務を総括するとともに、②要保護児童等に 対する支援が適切に実施されるよう、要保護児童等に対する支援の実施状況を的確に把握 し、③必要に応じて、児童相談所その他の関係機関等との連絡調整を行うこととされてい る(児童福祉法第 25条の 2第 5項)。「要対協指針」には、具体的な業務例も示されて いる。①要対協に関する事務の総括としては、協議事項や参加機関の決定等の要対協開催 に向けた準備、要対協の議事運営、要対協の議事録の作成、個別ケースの記録の管理、資 料の保管、等が想定されている。また、②支援の実施状況の進行管理としては、関係機関 等による支援の実施状況の把握、市町村内における全ての虐待ケースについて進行管理台 帳を作成し、実務者会議等の場において、定期的に状況確認、主担当機関の確認、援助方 針の見直し等を行う、と示された。また、③関係機関との連絡調整については、個々のケ ースに関する関係機関等との連絡調整(個別ケース検討会議におけるケースの再検討を含
む。) が挙げられている。
「市町村子ども家庭支援指針」にも、要対協に関する項目があり(同指針第1章第5節)、
関係機関との連携に関する留意事項がまとめられた項目も ある(同指針第2章第5節)。こ の市町村の児童福祉主管課や母子保健主管課が 調整機関としては望ましいとされている
(厚生労働省2007a)。2016年4月1日時点では、調整機関の担当については「児童福祉主
管課」が1,021か所(59.1%)で最も多く、次いで、「児童福祉・母子保健統合主管課」が
408か所(23.6%)と報告されている(厚生労働省2017)。また、調整機関のうち、「家
庭児童相談室を担っているもの」は842か所(48.8%)、「子育て世代包括支援センター を担っているもの」は122か所(7.1%)であった(厚生労働省2017)。こうした傾向を参
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照する限り、要対協の調整機関は、個別の相談を受ける窓口でありつつ、多機関・多職種 連携の「調整」も担うことが期待されている。
また、市町村には児童相談所が行う立入調査や措置の実施に関して意見する機能も有し ている。市町村からの送致により児童相談所に主担当機関が移っても、児童相談所による 出頭要求や立入調査、もしくは一時保護が適当であると市 町村が考える場合には、児童虐 待防止法第8条第1項第2号に規定されている「通知」を行い、児童相談所の機能が活用さ れるように図る必要がある(厚生労働省2013b:52)。ここでいう「通知」とは、「当該 児童のうち次条第1項の規定による出頭の求め及び調査若しくは質問、第9条第1項の規定 による立入り及び調査若しくは質問又は児童福祉法第33条第1項 若しくは第2項の規定に よる一時保護の実施が適当であると認めるものを都道府県知事又は児童相談所長へ通知す ること」(児童虐待防止法第8条第1項第2号)である。そして、児童虐待防止法施行規則
第7条では、市町村からの通知があった場合には、児童相談所は通知に係る措置の実施状
況を児童福祉審議会に報告しなければならない とされている(厚生労働省2013b:52)。
児童福祉審議会とは、児童福祉法第8条により規定された、児童、妊産婦及び知的障害 者の福祉に関する事項を調査審議することができる、都道府県に児童福祉に関する審議会 その他の合議制の機関である。児童相談所による児童福祉審議会への諮問の手続は、児童 相談所における援助方針の客観性の確保と専門性の向上を図るためのもの とされる(厚生
労働省2013b:183)。とかく外部から見えにくい児童相談所の援助決定プロセスについて、
外部の目を導入することによりその客観化を目指す ことが意図されている(厚生労働省 2013b:183)。つまり、市町村は「通知」という制度を活 用することで、児童福祉審議会 という諮問機関を動かし、児童相談所の措置権の発動に一定の範囲で異議を申し立てる役 割も担っている。
2)要保護児童対策地域協議会に関する先行研究
続いて、先行研究を整理する。まずは、要対協に関する先行研究を概観する。総務省(2012)
が政策評価のために行った 36都道府県等の要対協設置済みの 1,004 市町村を対象にした 調査では、虐待対応件数が把握できた 264 市町村中 4.2%(11市町村)では子ども虐待に 該当するケースが発生しているにもかかわらず、個別ケース会議が一度も開催さ れておら ず、実務者会議と個別ケース会議共に開催されていない市町村が 4.9%(13 市町村)存在 していたことが分かった。そのため、2012年に出された政策評価書では改善勧告として要 対協の活性化が挙げられており、これに呼応して厚生労働省は同年 2月に各自治体の児童 福祉・母子保健主管部(局)長宛に「個別ケース検討会議及び実務者会議について、管内 市町村における好事例を収集し、管内市町村に対して、収集した好事例を情報提供するな どして、個別ケース検討会議及び実務者会議の活性化を図ることを要請するようお願いす る。」(厚生労働省 2012d)との通達を出し、同年 12 月には『「要保護児童対策地域協議 会(子どもを守る地域ネットワーク)」の実践事例集~効果的な取り組みをしている地方 自治体の事例を全国へ紹介~』を公表した。
加藤(2010)は、要対協制度化前から個別ケース検討会議を毎月一定回数行っている20
都市を対象に個別ケース検討会議の「調整」担当者と参加者への質問紙調査を行い、個別 ケース検討会議への出席経験が多いほど、役割分担を理解しやすい傾向が あることを明ら
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かにした。また虐待対応の知識の有無や個別ケース会議の内容に関する知識、子ども 虐待 に関する研修の受講歴などがケースの問題理解に影響を及ぼす可能性が示唆されている
(加藤2010)。この他にも加藤(2013)は、死亡事例検証の報告内容を分析し、要対協の
課題を整理した。その結果、個別ケース検討会議が機能していなかった、 加えて実務者会 議が機能していなかった、と示した(加藤2013)。個別ケース検討会議については、会議 の目的や意義、進行方法が構成メンバーに理解されていなかった、あるいは継続的、効果 的な支援方法についてのフィードバックが為されていなかった(加藤2013)。その上で加
藤(2013)は、調整機関が機能していなかった点を問題点として示した。
菊池(2009)は、幾つかの先行研究を基にネットワーク活動成立には「意欲」、「力量」、
「チームワーク」が必要であるとの仮説を立て、この 3つのカテゴリーを分析枠組みとし て要対協構成メンバーを対象にインタビュー調査を行った。主観的評価を数値化する視覚 アナログ評価(VAS)を用いた分析では、ネットワーク活動の経験が長く、専任のコーデ ィネーターが存在する要対協に所属するメンバーは、ネットワークに対する自己評価が高 い傾向にあった(菊池 2009)。またインタビュー内容の分析によると、阻害要因では 3つ のカテゴリーに重複する概念として「認識の差」と「対応の困難性」が抽出されたとし、
その他では個人や組織の「力量」に関する概念(形式主義、専門的対応能力の不足、個人 の活動の限界など)が多かったとしている(菊池 2009)。また促進要因としては、調整機 関の必要性、専門性の確保、児童相談所の機能充実が挙げられている(菊池 2009)。
また、松宮(2011)は、北海道浦河町を題材として、精神障害のある親とその子どもを 援助する上でのチームマネジメントの意義と援助者の問題認識の重要性を 明らかにするこ とを試みた。その分析結果によると、援助職は当事者(親)を「苦労を抱えた生活者」と して捉え、メンタルヘルス問題を特別視していないことが報告されていた(松宮 2011)。
北海道浦河町は「べてるの家」という精神障害者のための地域活動拠点があることで知ら れる、古くから精神障害者へのコミュニティ・ケアを実践してきた地域でもある。メンタ ルヘルス問題や虐待に対する社会的なスティグマ等により外部環境から「不安感や無力感 を刺激され易い環境」(松宮 2011:49)に置かれているものの、「ネットワークの場を通 じて率直にそれを表現し、具体的にサポートし合うことやメンタルヘルス問題のある人の ストレングスを重視してきた地域特性」(松宮 2011:49)が活かされていたと報告した。
松宮(2011)は、このチームマネジメントの特性は、エンパワメントの視点が同心円的に
援助職と当事者(親)に向けられている点 を特徴とし、「ポジション」、「メンバーとの関係 性」、「虐待者への価値観」はチームマネジメントの有効な要素であると結論付けている。
馬場(2017)は、要対協に関する複数の先行研究の結果を内容分析にかけた上で、これ
までに、①要対協構成員や構成機関の<役割認識>に関する課題、②要対協構成員や構成 機関の<協働の意識と実践>に関する課題、③要対協の調整機関を担う人材や部門の<専 門性の育成と維持>の課題、④③を下支えする<専門性を発揮できる基盤づくり>の課題、
⑤<地域のネットワークと社会資源の充実>の課題、⑥<対人支援技術の向上>の課題、
といった6つの課題が明らかにされてきたと報告した。
調査研究以外にも、要対協の概説を行った論文(才村2012;2017:加藤2009;山田2015 等)や、各地域の実践内容を報告した論文(八木ら2016)なども散見された。