第一節 多機関・多職種連携による援助の拡大 1)多機関・多職種連携の制度化による質の安定
小林(2015)は、日本の子ども虐待対応は、介入のための地域ネットワークを、支 援の
ための地域ネットワークに発展させる時期がきていると主張する。児童虐待防止法成立以 前からも多機関・多職種連携は行われてきたのだが、その質を担保するために、 制度化が 進められてきた。制度は枠組みを規定することができるため、対人援助を構造面から支え ることで質的に安定させることが可能となる。その多機関・多職種連携の制度的基盤にあ たるのが、要対協である。
要対協という地域を基盤に子どもやその家族を援助するための協議体は、各自治体にそ の設置が努力義務とされている(児童福祉法第 25条の2)。先述の通り、要保護児童とは、
児童福祉法第6条の3が規定する虐待を受けている子どもをはじめとする援助の必要な子 どもであり、養育者のいない子どもや非行児童なども含まれる。基本的には地域住民に身 近な市町村が設置主体となるが、地域の実情に応じて複数の市(区)町村が共同 で設置す ることも想定されている(厚生労働省 2007a)。援助が必要な状況を早期に発見し、適切 な援助を展開するために、関係機関がその子ども等に関する情報や考え方を共有し、適切 な連携の下で対応することを意図し、責任体制の明確化と援助に必要となる個人情報の保 護 と 共 有 を 両 立 さ せ る 体 制 を 担 保 す る た め の 組 織 と し て の 性 格 を 有 す る ( 厚 生 労 働 省 2007a)。
簡単にではあるが、要対協の制度化の過程を確認する。1996年度に北海道、栃木県、神 奈川県、愛知県、大阪府、山口県、香川県、北九州市の八道府県市において、実施された
「児童虐待ケースマネージメントモデル事 業」(「児童虐待ケースマネージメントモデル 事業の実施について」平成8年5月15日厚生省児童家庭局長通知児発第516号)では、子ど も虐待対応で児童相談所を中心に関係機関等とネットワークをつくり、地域における児童 虐待防止と早期発見に努めることを目的とし、児童虐待事例検討委員会の設置等を内容と するモデル事業が実施された(子どもの虹情報センター2006)。このモデル事業では、子 ども虐待対応における機関連携を推進すること も示されており、地域を拠点とした協議体 の構築にも取り組まれた(厚生労働省2013b:331)。
そして、翌 1997年には児童虐待防止市町村ネットワーク事業(子どもの心の健康づく り対策事業)が創設された(厚生労働省 2013b:332)。これは、厚生労働省雇用均等・
児童家庭局長通知である「子どもの心の健康づくり対策事業について」(平成 9年9月29 日付児発第 610号)として示され、その別紙「子どもの心の健康づくり対策事業実施要綱」
により具体化されたものである。その趣旨には、「少子化、核家族化、社会連帯意識の希 薄化による地域の養育機能の低下など、子どもや家庭を取り巻く環境が著しく変化する状 況の中で、子どもが豊かな心を持ち、希望に満ちた有意義な人生を送ることができるよう、
社会的機能を活性化することが求められている」とあり、地域社会の養育機能の充実・強 化をはかり、虐待防止のための関係機関のネットワークを整備することにより、総合的な 子どもの心の健康づくり対策を推進すると示された。こうした趣旨を具体化したものが「児 童虐待防止市町村ネットワーク事業」であり、市町村は、地域における子ども虐待の防止
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と早期発見に努めるため、地域における保健・医療・福祉の行政機関、教育委員会、警察、
弁護士、ボランティア団体等の関係機関・団体等から 構成する児童虐待防止協議会を設置 し、子ども虐待にかかわる案件について定期的に検討するとともに、具体的な虐待事例の 検討を随時に行うものとすると示された。これにより、市町村においても子ども虐待対策 の取り組みを行う方向付けがなされた(厚生労働省 2013b:332)。このネットワーク事 業が要対協の前身となった。
2002年から児童虐待防止法改正に向けて検討を重ねてきた社会保障審議会児童部会「児 童虐待の防止などに関する専門委員会」が提出した報告書では、改正の論点の一つとして、
「連携による支援体制の確保」が示された。その中では、取り組みの方向性として、地域 の実情に応じた支援体制の強化をはかるためには、関係機関それぞれの役割 の明確化や、
民間の相談機関も含めた機動力のある連携体制を組むことが必要と示された。また、関係 機関を幅広く法律上に明記することが必要であると提言されていた。加えて、特に住民に 最も身近な市町村においては、子どもに関する一義的な相談に積極的に関わるなど、虐待 の予防についての役割を強化することが必要である と示されていた。
こうした過程を経て、2004年改正の児童福祉法で要対協が法定化されるに至った。そし て、要対協の設置とセットで進められたのが、市町村の役割強化である。2005年には『要 保護児童対策地域協議会設置・運営指針』と『市町村児童家庭相談援助指針』が示される に至る(いずれも 2007年に改訂)。『要保護児童対策地域協議会設置・運営指針』の冒頭 では、多数の関係機関の円滑な連携・協力を確保するためには 、①運営の中核となって関 係機関相互の連携や役割分担の調整を行う機関を明確にするなどの責任体制の明確化 、お よび②関係機関からの円滑な情報の提供を図るための個人情報保護の要請と関係機関にお ける情報共有の関係の明確化、が必要であると提示された。これらの条件を満たすための 制度的基盤として、要対協は運営されている。要対協の法定後、その設置率は上昇するが、
「具体的な運営方法がわからない」との声を受けて、2007年には『要保護児童対策地域協 議会(子どもを守る地域ネットワーク)スタートアップマニュアル』が公表された。2016 年度時点での設置率は、99.2%である(厚生労働省2017a)。そして、①の調整を行う機 関のことを、序章で述べた通り、子ども虐待対応では調整機関と呼ぶ。調整機関の概要に ついては次章に譲り、まずは、要対協の概要について整理したい。
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H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H27 H28
市 町 村 数 111 598 1,193 1,532 1,663 1,673 1,587 1,714 1,722 1,726 1,727
% 4.6% 32.4% 65.3% 84.6% 92.5% 95.6% 98.0% 98.4% 98.0% 99.1% 99.2%
図 14 要対協の設置状況の推移 厚生労働省(2017)をもとに論 者作成
2)要保護児童対策地域協議会のしくみとはたらき
要対協の構成メンバーには守秘義務が課せられるため(児童福祉法第 25条の5)、NPO 法人や民間団体等のような法律上の守秘義務が課せられていなかった関係機関等の積極的 な参加と情報交換が期待されるようになった (厚生労働省 2007a)。なお、 この義務に違 反した場合には、1年以下の懲役又は 50万円以下の罰金に処される(児童福祉法第 61条
の 3)。『要保護児童対策地域協議会設置・運営指針』では、要対協の意義が以下のように
まとめられている。
① 要保護児童等を早期に発見することができる。
② 要保護児童等に対し、迅速に支援を開始することができる。
③ 各関係機関等が連携を取り合うことで情報の共有化が図られる。
④ 情報の共有化を通じて、それぞれの関係機関等の間で、それぞれの役割分担につ いて共通の理解を得ることができる。
⑤ 関係機関等の役割分担を通じて、それぞれの機関が責任をもって関わることので きる体制づくりができる。
⑥ 情報の共有化を通じて、関係機関等が同一の認識の下に、役割分担しながら支援 を行うため、支援を受ける家庭にとってより良い支 援が受けられやすくなる。
⑦ 関係機関等が分担をしあって個別の事例に関わることで、それぞれの機関の限界 や大変さを分かち合うことができる。
こうした効用の創出を意図した要対協の構造は、通常、代表者会議、実務者会議、個別 ケース検討会議の三層構造をもつ。代表者会議は、各機関の代表者により構成され、要対 協に参加する組織の代表者による会議であり、実際の担当者で構成される実務者会議が円 滑に運営されるための環境整備を目的として、年に 1~2 回程度開催される(厚生労働省
0.00%
20.00%
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0 500 1000 1500 2000
H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H27 H28 市町村数 割 合
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2007a)。連携には各関係機関の責任者の理解と協力が不可欠であり、責任者間の連携を深 めることで、組織間の共通認識の醸成、実務者の人事異動にも耐えられるだけの継続性の 担保が可能となる(厚生労働省 2007a)。会議における協議事項としては、例えば、①要 保護児童等の支援に関するシステム全体の検討、②実務者会議からの要対協の活動状況の 報告と評価、などが想定される。
また、実務者会議は実際に援助する実務者により構成され、個別のケースに対する観察 機構として機能しつつ、実践から明らかとなった課題を当該地域のマクロ・システムに還 元するための包括的作業を行う。具体的な協議事項としては、①全てのケースについて定 期的な状況のフォロー、主担当機関の確認、援助方針の見直し等、②定例的な情報交換や、
個別ケース検討会議で課題となった点の更なる検討 、③要保護児童の実態把握や、支援を 行っているケースの総合的な把握、④要保護児童対策を推進するための啓発活動、⑤要対 協の年間活動方針の策定、代表者会議への報告 、等が想定される(厚生労働省 2007a)。
そして、個別ケース検討会議は、個別の要保護児童について、その児童に直接関わりを 有している担当者や今後関わりを有する可能性がある関係機関等の担当者によ り、当該児 童に対する具体的な支援の内容等を検討するために適時開催される(厚生労働省 2007a)。
個別ケース検討会議の構成員も、要対協の構成員である以上、守秘義務が課せられるため、
関係機関等の間で積極的な情報提供を行い、要保護児童に対する具体的な支援の内容等を 検討することが期待される(厚生労働省 2007a)。具体的な協議事項としては、①関係機 関が現に対応している虐待事例についての危険度や緊急度の判断、②要保護児童の状況の 把握や問題点の確認、③支援の経過報告及びその評価、新たな情報の共有、④援助方針の 確立と役割分担の決定及びその認識の共有、⑤ケースの主担当機関と主たる直接的援助者 の決定、⑥実際の援助、支援方法、支援計画の検討、⑦次回会議(評価及び検討)の確認、
等が想定される(厚生労働省 2007a)。
階層構造や組織化は、特定の個体間のつきあいを深めるうえで特に効果があり、組織化 を行うことで、付き合いの頻度が増え、安定した協調関係を育てやすくなる(Axelrod=
1998:138)。一方で、法律や制度を創れば、関係機関や各職種が連携できるわけではない。
川﨑ら(2010:47)は、「安全確認とリスク管理を児相が行い、 その下請けが市町村であ
るというような構造になってしまうのではないかという危機感があります」と述べ、その ような構造では機能するネットワークにはならないと警告した。市町村には市町村として の主体的な判断があり、保育士にも学校の教員にも同じことが言え、そのような専門性を もった人たちをどういう風にまとめるかなどをきちんと議論しないと、機能するネットワ ークにはならない(川﨑ら 2010)と考えられる。
3)ソーシャルワーク理論における多機関・多職種連携
安定性を担保する上で制度は重要な役割を果たすが、それだけでは十分で はない。多機 関・多職種連携を実践から構築するという視点が必要であり、システムを機能化する働き かけが必要となる。こうした働きかけに関しては、ソーシャルワーク理論において 主にグ ループワーク理論(social work with groups)で取り上げられてきた。つまり、多機関・
多 職 種 連 携 を 集 団 の 一 種 と し て 理 論 化 さ れ て き た 。1940 年 代 頃 か ら“inter-profession
(inter-discipline, inter-agency, et.al) work”として取り上げられるようになったといわ れる(Toseland et al.=2003;Giterman et al.2009)。