• 検索結果がありません。

先行研究にみる多機関・多職種連携

第一節 連携の概念的特徴 1)連携の語義

子ども虐待対応についての検証に入る前に、多機関・多職種連携に関する確認作業 を行 いたい。まずは、連携の語義について確認する。 連携を構成する「連」という文字には、

「①つらなる。つらねる。②ひきつづく。くりかえす。③ひきつれる。つれ。なかま。」(広 辞苑第 6 版付録)という意味がある。その基本的な意味は、「二つ以上のものが続く」こ と、また「二つ以上のものをつなげる」ことを指す場合もある(円満字 2012:643-644)。

転じて、「二つ以上のものが同列に並ぶ」、さらに「二つ以上のものの集まり」を表すとさ れる(円満字 2012:644)。「携」には「①手をつなぐ。②手に持つ。身につける。」(広辞 苑第 6版付録)という意味があり、①の意味が転じて「“協力する”ことをも表す」(円満

字 2012:148)ようになったとされる。この二つの文字から構成される名詞「連携」は、

「スル」という言葉を付して使用するサ変動詞の語幹であり、辞書には「同じ目的を 持つ 者が互いに連絡を取り、協力をしあって物事行うこと」(広辞苑第 6 版)と記載されてい る。“連絡を取り合う”、“協力”という表現からも分かるように複数の人間が介在するこ とが連携の前提である。そのため、個人の“連携する”という行為に加えて、その行為が 複数の人間によって実行された状態像をも含むことになる(実方 2014a)。

研究領域における連携の定義を概観すると、前田(1990:13)は、連携とは「異なる分 野が一つの目的に向かって一緒に仕事をすること」と定義した。その上で、連携の発展段 階としては、まずは別個の組織が随時情報交換を行い、<点>へと展開される「連絡」段 階があり、異なる組織が定期的に業務提携を行い<線>で結ばれる「連携」段階、それが 発展すると別個の組織が統合化され、恒常的なつながりを持ち、<面>としてシステム化 されるという「統合」段階となるとしている(前田 1990:13)。この前田(1990)の定義 については、他職種・他機関での共同作業では必ずしも定期的なものに留まるとは限らず、

実践現場では「連絡」と「連携」とは一連であり、「連携」の一要素として「連絡」が含 まれるためにこの区別には意味がないのではないか、との疑問を呈する論者もいる(久保

2000;山中 2003)。これを踏まえ、久保(2000)は保健・医療・福祉の連携について、保

健・医療・福祉の各専門職ないしは各機関がある共通の目標に向けて互いに協力しながら 業務を遂行することと定義した。

山中(2003:4)によれば、連携の目的にはメンバー間で共有されているという特徴が あり、単独援助者の限界性の認識を前提とするとともに、今までの援助よりさらに多様で 総合的な援助の実現を目指しているといわれる。先行研究を整理すると、連携に関する記 述内容は、「行為・活動のプロセス」 と「関係性」という概念に大別されることが分かっ

た(山中 2003)。また、松岡(2000:41)は、複数の論者の多職種間で行われる連携の定

義の共通項として「2 人以上の異なった職種で構成されていること、共通の目的、目標を もって共に働くプロセスであることなど」を挙げている。同様に、栄(2010:54)も先行 研究を整理し、連携概念の構成要素として「①同一目的の一致、②複数の主体と役割、③ 役割と資金の相互確認、④情報の共有、⑤連続的な協力関係過程」といった要素を抽出し

30

た。その上で、「連携には、利用者のニーズの解決、ニ ーズを充足する複数の人および機 関、及びそれらの主体的な協力関係と役割分担を行い、情報の共有化を図りながら展開し ていく過程が不可欠である」(栄 2010:54-55)と述べている。

また、松岡(2000:22)の定義では、「主体性を持った多様な専門職間にネットワーク が存在し、相互作用性、資源交換性を期待して、専門職が共通の目標達成を目指して展開 するプロセスである」とされる。この松岡(2000)の定義にもみられるように、連携の構 成メンバーは個々に自律していることが前提であり 、「一緒に物事をす る」という行為は 構成メンバーの同質化を目指すものではない。それゆえに、同質化を目指す「調整」もま た、多機関・多職種連携には必要とされてはいないということができる。

2)連携概念の曖昧さ

他方、連携概念の実体化や共有化の困難性 が、複数の論者によって指摘されている。松

岡(2000)は、連携は絶え間なく変化し、その時々によって異なると述べ、その概念を固

定化すことの困難性を指摘していた。川島(2005)は、連携の進捗が停滞する理由の一つ として、連携概念自体が曖昧であり、具体的な目標を共有できていない点を挙げている。

「連携を強化する」という理念は理解できても、いざそれを実践するとなると具体的な目 指すべき姿を設定することが難しい(川島 2005)。子ども虐待対応においても、小林ら

(2007:120)が、連携・ネットワークという言葉は使い易いものの、連携の定義は使う

人間によって多義性を持ち、なかなか共有されていない気がする、と指摘した。

私たちは多様な範疇に区分することで世界を秩序づけ、世界の中での自らの位置を定め ているが、この範疇を心的に特徴づけるものが概念(concept)である(児玉2009)。複数 の事物や事象から共通の特徴を取り出し、そ れらを包括的にとらえる思考の単位であり、

一般に内包(意味内容)と外延(適用範囲)をもち、イメージよりも言語との結びつきが 強い特徴がある(廣松ら 1998:209)。人間の認識は、外的な事物や現象を認識主体であ るその人の内部に既にある「枠組み」(≒準拠枠)と合致させ、合致したときにその人にと って「意味」をもち、その結果、意識に刻印されるといった過程を経る(浅井 2011)。浅

井(2011)は、人間は五感を通じて得られた情報の取捨選択を行っているのだが、そうし

ないと印象の洪水に溺れてしまうのと同時に、これが人間とい う主観性を持つ限られた存 在が世界と向き合い、対処する最も効率的な方法だと指摘した。私たちが印象の洪水に溺 れてしまうほど、世界は可能性にあふれている。

このことは連携にも当てはめることができる。例えば、A と B という人々が、「連携」

していたとする。Aにとっての「連携」は、“お互いに同じ情報を知っていること”だとし たら、「連携」に必要な作業は、“電話をする”だけで十分かもしれないし、新しい情報が 入ったら連絡すればよいと考えるかもしれない。一方、B にとっての「連携」が“お互い にできないことを補うこと”であったとした ら、相手のできないことが何かを知りたいと 思うかもしれない。または、自分にできないことも知ってもらいたいと思うだろう。お互 いのやり方を調整する必要があるかもしれないのであれば、電話での連絡だけなく、カン ファレンス開催が必要だと考えることもある。にもかかわらず、新しい情報がないという

31

理由で Aが連絡せず、カンファレンス開催に消極的だとしたら、BはAに対して“連携し てくれない”と思うかもしれない。しかし、Aの連携像が必ずしも間違っているとはいえ ないだろう。

上記の例え話には、そもそも人間の認識は個別性に富み、複数の人々の間で常に一致す るとは限らないという前提がある。状況によって、求められる連携行動も異なる。電話連 絡だけで済む場面もあれば、カンファレンスの開催が必要な場合もある。当該状況をどの ように認識するのか、という個人差も蓄積されることを想定しなければならない。こうし た認識の個人差の蓄積により、実際の行動にズレが生じることは、ある意味、自然といえ る。多機関がかかわりをもち、虐待事例に対応しているとき、児童相談所や市区町村が動 いてくれない、対応してくれない、という不満が主に通告した施設や実際に密にかかわり を持つ機関から出されることがある(松田 2008:271)。やる気がない、逃げ腰であると いう風に見られがちであるが、実際には、双方の「思い」にずれがあることが多く、危機 感が伝わっていない、何をしてほしいのかが理解されていない、現在かかわりをもってい る機関の対応がよいのでほかの対応がイメージできない、などといった場合がある(松田 2008:271-272)。つまり、連携相手の行動や考えに疑問が生じている時、連携相手は連携 したくないのではなく、「連携する」という概念の意味が異なっている可能性を想起しなけ ればならないと考えられる。

こうした連携概念の動態性・多義性について、実方(2013)は定量的データを用いて検 証した。回答者に自ら担当した事例を一つ想定して頂く事例想定法を用い、 先行研究レビ ューや予備調査などにより選定した連携に関する記述内容を変数化し、因子分析を行った。

その結果、連携概念を構成する 3 つの潜在概念(「メンバー間で行う作業」、「メンバーの 関係性」、「対象への焦点化」)を抽出した(実方2013;2014a)。これらの潜在概念を得点 化し、任意で設定した他の変数(クライエントに対する認知、自身が担当する役割、バー ンアウト傾向、等)との相関分析を行った結果、連携を構成する潜在概念は任意で設定さ れた変数と相関関係を示し、その相関関係のあらわれ方が所属機関により異なることが分 かっている(実方 2013)。つまり、連携を認識する際には、クライエントの置かれた状況 や自身が担う役割、精神状況の影響を受ける可能性があり、そうした影響の受け方が所属 機関によって異なる可能性があった。また、概念の部分(潜在概念)に対しての影響であ るために、その変化自体が認識しにくいとも考えられる。

連携という言葉は昨今では耳慣れたものとなった。それだけに、お互 いに連携という言 葉の意味を“分かったつもり”になってしまうことも起こり得る。概念はその曖昧さも含 めて、人間らしい活動(≒認識)により創出される。ソーシャルワーク的な観点から言え ば、人間らしさを排除することはその行動原理に反する。そうであるのならば 、いかにし て認識の曖昧さという人間性を包摂するかは、 ソーシャルワーク上の課題とみるべきだろ う。尾崎(1997:17)は、対人援助の専門性とは援助という仕事が本来持つ曖昧さ・無力 感を不健康に否認しない姿勢から生まれると述べていた。「調整」とソーシャルワークの整 合性を見極める上では、こうした曖昧さを否認しない観点が必要になると考えられる。

3)関連する概念について

「①同一目的の一致、②複数の主体と役割、③役割と資金の相互確認、④情報の共有、