「折り合い」のプロセスと構造
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第 2 章では,保護者から捉えた「協働」について論述する.これまで,先行研究で示し た通り,子ども虐待対応にかかわる「協働」関係構築についての研究は,支援者に対する 統計的な調査,支援者に対するインタビューに基づく質的研究がいくつかある.その中に は,対峙する保護者の属性に基づく対応のあり方,保護者と対峙する場面でのタイプや,
保護者の心理的特性,病理から分類し,やはりタイプに基づく対応を論じるものがある.
これまでは,保護者を支援者の側から客体として捉え,いかに治療的,指導的対応を進め るかと言った研究が多かった.当事者に対する直接の調査はほとんどない.
本論では,不本意な一時保護を体験している保護者と児童相談所との「協働」関係構築 に対しての研究であることから,まずは,当事者である保護者から子ども虐待対応場面で の「協働」について,保護者にとってはどのような体験として捉えられ,どの様に対処し ていったのか,保護者から直接話を聴くことから,調査を始めることとする.
第1節 .研究方法
1. グラウンデッド・セオリーについて
以上のことから,本研究では最も対立的な関係になり易い,不本意な一時保護(児童福祉 法第33条による保護者の意向に反しての職権一時保護,以下同じ)を体験した保護者等に インタビューを実施した.さらに,新たな実践モデル構築の仮説生成を目的とした基礎的 研究との位置づけから,グラウンデッド・セオリーによる質的分析をおこなった.
グ ラ ウ ン デ ッド・セオリー には,いくつか の 方 法 論 が あ るが,本研究で は グ レ イ ザ ー 派(クラシック グ ラ ウ ン デ ッ ド・セオリー) の 手 順 に 従 い 分 析 を 実 施 し た.グレイザー 派 グ ラ ウ ン デ
ッド・セオリー は可 能な限り
予見 を持たず に, データが 教えようとす 図1 概念指針モデル
インディケーター インディケーター インディケーター インディケーター インディケーター
コンセプト
インディケーター
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るものを探索していくことを強調する.「①このデータは何を研究させるものだろうか ② このインシデントはどんな領域を指し示そうとしているのか ③データにおいて実際に何 が起こっているのか」(Glaser 1998:17 )とデータと対話しながら,データが教えようとす るものを探索していくことを強調する.
分析では,コーディングしたインシデントを繰り返し比較分析し,パターンを見つけ図1 の「概念指針モデル」(Glaser 1978:62)によりコンセプトとしていく.ここではコンセプト を創発させるが,解釈ではなく,概念的な名前を付与する.これは,調査者の経験や考え が安易に挿入することを避け,あくまでテータに密着し,データが指し示す意味を捉えよ うとするためである.
概念指針モデルによって見つけられたコンセプトを比較分析し,上位のコンセプトを生 成する (オープンコーディング).
そして,「オープンコーディングの過程で理論を作り上げるための核となる概念(core variable),すなわち継続的に浮上し,かつどのインシデントにもかかわるコードの浮上を 期待」(志村2008a : 54)し,そのコードの浮上が叶うと,次に,この核概念に関するコーデ ィングを行っていく(選択的コーディング).
そして,核概念に基づく選択的コーディングを継続することで,さらに新たなデータを 求め,核概念を中心とした理論化が進められていく(理論的コーディング).Glaserは理論的 コーディングを「当該領域でのコードが理論に統合されるために仮説的にどのように相互 に関係しているのか概念化するものである」(Glaser 1978 : 72)としている.理論的コーデ ィングの過程をサポートするものとしてコーディングファミリーが存在し「6つのC」は代 表的なものである(図2).Glaserは理論的コーディングを「当該領域でのコードが理論に統 合されるために仮説的にどのように相互に関係しているのか概念化するものである」
(Glaser 1978 : 72)としている.
Context 状況 Condition 条件
※核となる概念は何か Cnsequence 結果 Cause 原因・要因
Covariance 共分散・
共変
Contigent 偶発要因
図2 6つのC
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そして,そこで生まれた理論について,志村(2008b : 55)は,Glaser(1998 : 17)が述べて いる「生成された理論の品質」を引用しつつ「①その理論は調査領域の関連する行動を説 明するのに使えるか②その理論は調査領域の人々に関連性を持たせるか③その調査領域に 適合するか④その理論は新たなデータが浮上した際に容易に修正できるか」の諸点を「理 論的飽和を確認する際の基準としても利用でき」る,と述べている.
グレイザー派グラウンデッド・セオリーの特徴についてSimmons(=2017 : 30)は「グラ ウンデッド・セオリーの方法は,当所から先入観を最小化するように,理論が体系的にデ ータから直接創発されることを確実にするためにデザインされた理論が可能な限り完全に データに根ざしていることを確実にするために研究者が入れ込んでくる構成主義的要素を 研究のプロセスから徹頭徹尾排除するようにデザインされたのである」と述べている.
先入観を可能な限り排除し,よりデータに密着した理論化を進めているグレイザー派グ ラウンデッド・セオリーによる分析によって,これまでの経験論にない現場実践への示唆 が期待されるひことから,本研究の分析方法として適していると考えた.
2.研究協力者
筆者の所属する都市圏型の特徴を備えた中規模児童相談所において,子ども虐待に伴う 不本意な一時保護を経験し,その後,家庭引取りとなったケース,および,同じく,不本 意な一時保護を経験しつつも,その後,同意による施設入所となった家族に対しての個人 および家族員に対するインタビューを実施した.分析対象は保護者(児童,親族は除く).児 童相談所継続中のケースで,一時保護解除後にインタビューを行った.筆者は,ケース担 当者ではないため, それまで継続的な関与はなかった.調査の協力を得られた家族は表 1 の通り,10家族20人,うち分析対象は16人.子どもの年齢は乳児から中学生.ネグレク ト6家族,身体的虐待3家族,心理的虐待1家族である. 7家族15人については筆者が
協力者 子どもの年齢層 概要 所在
1 父,母,姉,子 中学生 母子で家出 在宅
2 父,母 小学生きょうだい DV.父による暴力 在宅
3 母 乳幼児 頭部外傷.入院 在宅
4 母,祖母,伯母 乳幼児きょうだい 母アルコール依存.子どもを放置 在宅 5 母,祖母 小学生と幼児のきょ
うだい 母精神疾患,奇異な行動,入院 在宅
6 父,母 乳幼児 両親精神疾患,入所継続に不満 施設
7 父,母 小学生幼児のきょう
だい DV. シェルター 在宅
8 母 乳幼児 刃物を子に見せる,警察からの身柄
付通告 在宅
9 母,伯父 乳幼児 養育者不在の中で頭部のケガ 在宅
10 母 乳幼児きょうだい 母の養育能力,不注意による落下 施設 インタビュー協力者
※所在はインタビュー当時の子どもの所在 表表1 インタビュー協力者 1 インタビュー協力者
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インタビューしたが,3家族5人については,面接場面等の設定の都合により他の職員等(危 機介入時は担当者ではない)が実施し,最小限度の質問を共有した.インタビューの場所は 児童相談所の面接室,家庭訪問による研究協力者自宅,研究協力者が指定した場所(駅)であ った.インタビュー時間は30分から2時間で,平均は1時間程度である.調査期間は平成 26年8月より27年8月である.
3.インタビューにおける質問
グレイザー派グラウンデッド・セオリーでは,なるべく問題を絞り込まずに,広く質問(グラ ンドツアークエッスチョン)していくため,インタビューガイドを持つことは奨励されない.本 研究では,最低限の質問の方向性として次の質問を用意してインタビューを実施した.
①今回の児童相談所のかかわりについてご意見をください
②子どもを一時保護されるという困難な体験をいかに克服されたのでしょうか
③児童相談所との関係は何によって作られたのでしょうか.あるいは関係構築を困難にさせた ものは何でしょうか
4.倫理的配慮
本研究では研究協力者に個人情報は一切言及しないことを約束した上で研究の趣旨を説明し,
賛同していただける方のみに書面で同意をいただき,インタビューを実施した.インタビューは 許可を得て録音し,逐語化した.本研究については,筆者が所属する児童相談所長の決裁を受け た.
第2節 .コンセプトとカテゴリーの概要
逐語化したインタビュー分析の結果,表1の通り 33のコンセプトが抽出され,その内,
7つのコンセプトに対極例が認められた.33のコンセプトは12のカテゴリーにまとめられ た.核概念は「折り合い」である.さらに,「折り合い」のプロセスとその構造を説明する ため〔失う〕〔折り合い〕〔ひきとる〕の3つのステージに整理した.
65 表1 カテゴリー、コンセプト、主なインシデント
ステージ Noカ テ ゴ リ ー コ ン セプ ト 主なイン シ デ ン ト
混乱・困惑 一時保護っていう意味も最初よく分からなくて・・・一時保護とか言ってるけど『あれ.これやば いのかな』みたいな.「もう〇〇に会えないのかな」とか
無力・傷つき 理不尽だなと思いました.でもまあ私たちみたいな弱い人間,何にも出来ないから,それは従 うしかない
不運 そういうの(虐待死亡事例)があると,何でそういうのは保護しないで,うちのだけ,って * ( ) 筆者加筆
時間の剥奪 本当に時間とか決められるっていうのとかは,やっぱりまあ,仕方ないんだなあって
怒り もううちとしては信頼してた人たちに裏切られたっていう感覚だったんで,まさかそこまでやら れるとは
あきらめ 保護されるっていうことに関しては別に.「ああ,やっちゃったな」自分にめっちゃ反省しまし た,「失敗したな」って
自分を責め続ける なんか自分だけが悪いことしちゃったって感じで,そういう思いが強くなっちゃって,自分を責 めることしか無くなっちゃう
つながっていない機関 警察はある時,こう言いました.この案件は児相に移りました.なので,警察はもうとやかく言 えません」縦割り行政ですよね.丸投げ
情報からの遮断 ただ,意思を知りたいと.どういう思いでいるのかっていう意思を知りたかったんですけど,そ の意思を知る術が無かった
わからない保護理由 明確なご説明も無く,一番最初も,こう言っちゃ大変申し訳ないんですけど,だまし討ちに会っ たような感じに感じたよね
動かない児相 どんなにうちらが動いても,児相は,そんなにその時は動いてくれなかった
手続きの押し付け 児相が入って子ども連れてった時も,毎日会いたいけど,手続きを踏まなきゃ会えない,会え ない,会えないって,手続き踏んでくれ,踏んでくれって,すんごい長いじゃないですか
選択肢のない選択 法的に,もうこれは決まりだから,どうにもなりませんよって言われましたから,そこです.じゃ あもう諦めるしかないですよね
1
失 う
喪失と 傷つき
2 関係機関不信
3
選択肢 なき選 択
表2 カテゴリー,コンセプト,主なインディケーター
主なインディケーター