伊藤 愛由美 はじめに
私が今回調査した一刎は、氷見市市街地から離れた山村である。街なかで子ども時代を 過ごした私にとって、一刎のような自然に囲まれた場所は新鮮であった。この小さな村を 訪れた際に、街から離れているこの雄大な自然に囲まれた土地では、子どもが自分たちで 考えだした遊びが多く存在するのではないかと思った。また、この土地に昔から伝わる伝 統的な遊びが存在しているのならば、それも知りたいと思った。そして私は、この土地に 独特の遊びについて調査することにした。
私が今回実施したのは、主に中年から高齢者の方に対する聞き取り調査である。各家を 訪問し、一刎出身の方に子どものころどのような遊びをしていたか、どこで遊んでいたか について話してもらった。また、村の中で偶然出会った散歩中の方や、畑で作業中の方に も協力していただき、同様の質問をした。話を聞くことができたのは、60代以上が18人、
50代以下が14人である。本章では以上のデータをいかして、時代の移り変わりにともなっ て子どもの遊びがどのように変化したのかについても述べる。
以下ではまず、高齢者(60歳以上)の遊び(第2節)、中高年とそれより下の世代の遊び
(第 3 節)、現在の子どもの遊び(第 4 節)についてそれぞれ記述を行う。調査では、60 歳以上の高齢者18人(うち男性11人、女性7人)、中高年以下の大人の7人(うち男性5 人、女性 2 人)から話を聞いた。また、各家を訪問することで小学生からも話を聞くこと ができた。
1. 高齢者の遊び
ビー玉遊び
ビー玉遊びは、まず木の幹に印をつけ、その印の高さからビー玉を落として転がす。次 に別の人が同じ位置からビー玉を転がし、どれだけ遠くまで転がせるかを競った。前の人 が転がした位置よりも遠くへいったら、相手のビー玉が自分のものになった。これは70代 の男性が話してくれた遊びである。
池遊び
一刎には石 仏いしぼとけ池という池があり、この池でかつては泳いだり釣りをしたりしたそうだ。
池で遊んだと聞いたのは、7 いたようである。ある70代 で遊んだらしい。夏の暑い時 10代よりも下の世代からは
写真1. 一刎地
虫(およびその他の小動物 聞き取り調査では、数多く た。70 代の男性はオニヤン と男の子が好むイメージを持 ゃくしを捕ったと話してくれ づくことは困難だそうだ。
クギとり(クギたおし)
クギとりとは、地面に立て まず地面に円を描き、その円 分の持っているクギを投げて きる。しかし、相手のクギを
70代、40代、20 代の男性からが主であるが、
代男性によると、当時は、女性はブルマを履き、
時期に泳いだのは、とても気持ち良かったとも 池で遊んだという話は聞かなかった。
地区の地図(地区内にある案内看板を筆者が撮
物)捕り
くの虫やその他の小動物を捕る遊びについても ンマやカブトムシを捕ったと教えてくれた。また 持っていたが、60 代の女性も川でサワガニやメ れた。今はその川の周りは草だらけになってし
てたクギに手持ちのクギを投げて当てる、とい 円のなかに何本かクギを刺して立てる。そのク て、刺さっていたクギを倒したら、そのクギを を倒し、かつ自分の投げたクギが地面に刺さら
女の子も遊んで 一緒に池で泳い も話してくれた。
撮影)
も聞くことができ た、虫捕りという メダカ・おたまじ しまっており、近
いう遊びである。
クギに向かって自 を自分のものにで らないと相手のク
ギをもらえないというルールも70代の男性から聞いた。ルールは一つではなく、人や年代 によって多少変わるようだ。クギとりは地面を使うため、雪が降らない季節にする遊びで ある。クギとりをしていたのは男性だけのようで、話してくださったのは、主に70代と80 代以上の人であった。
パーカー
パーカーとはいわゆる「めんこ」のことである。これも雪が降らない季節にする遊びで、
80代から70代の男性がしていた遊びである。
地面とり
地面とりとは、地面に描いた「陣地」を、お互いにとりあう遊びである。まず地面に大 きく四角を描き、じゃんけんで順番を決める。四角の対角線上に位置して、勝った人から、
親指を支点にして残りの四本指で半円を描いて陣地を取っていく。その後は、自分の陣地 を支点に同じ要領で、自分の陣地を広げていく。最後に一番多く自分の陣地を取った人が 勝ちである。また、終わり方は確実に決まっているわけではないらしい。授業の合間の休 憩中という短い時間で遊んでいたため、休憩が終わるとともにゲームも終わっていたそう だ。「陣地のとりあい」というからには、いかにも男の子の遊びのようだが、意外にも、こ の遊びの想い出を語ってくれたのは70代の女性であった。
① ②
四角を描き先攻後攻を決め、 親指を支点にして残りの四本指で 対角線上に位置する 半円を描く
③ ④
②の方法で陣地を取り進めていく 陣地を多く取った方の勝ち 図1. 地面とりの遊び方
竹スキー・竹ソリ
山間の村だけあって、一刎ではスキーやソリで遊んだという人が多かった。いずれも、
竹を使った手作りのものを使用していた。スキー板は、竹を三本に割り、割った竹の先端 を火にあぶって曲げて作ったそうだ。曲げた部分が元に戻らないように、針金で固定した らしい。滑った場所は田んぼの土手や道路の坂で、そこに積もった雪を踏みしめてから滑 った。これは、雪がよく降り、積もるという特徴がないとできない。また、これも田んぼ や坂道が多いという一刎の特徴を活かしていると言えるだろう。ソリもスキーと同様に、
三本に割った竹の先端を火であぶり、それを木箱の下に二本固定して作った。この木箱の なかに座り滑ったそうだ。
竹スキーと竹ソリをして遊んだという話は男性ばかりで、女性では60代の1人からしか 聞かなかったが、その女性は、竹スキーは父親に作ってもらったらしい。男の子は自分で 作ったり、親と一緒に作ったりする人が多かったようである。80 代の女性にスキーやソリ で遊んだかどうかを聞いたところ、「女の子は慎ましく振る舞うべきだと言われる時代だっ たため、あまり外では遊ばなかった」と話してくれた。80 代の男性は、冬はスキーで学校 から家に帰ったこともあると楽しそうに話してくれた。
また、高齢者でなく、若い世代では40代の男性のなかでも、竹スキーや竹ソリで遊んだ ことがある方が3人いた。
① ②
竹を三本に割る 割った竹の先端を火であぶる
③ ④
火であぶって曲げる スキー板にしたり、木箱を固定し てソリにして遊んだ
図2. 竹スキー・竹ソリの作り方
野うさぎ捕り
一刎では、野うさぎを捕まえることがあった。捕まえたのは冬のあいだで、雪にうさぎ の足跡がついている場所の木の近くにワナを仕掛けた。ワナは、針金で作った輪っかで、
これを木の下の方に固定する。輪っかをうさぎの頭が通る程度にしておくと、走ってきた うさぎが輪っかに頭を突っ込み、体の方がひっかかって通り抜けなくなるのである。捕ま えたうさぎは皮をはいで食べたそうだ。これは、70 歳の男性から聞いた遊びである。この 男性は、子どものころ食糧が無かったとも話してくれたが、それは一刎が海から離れてい ることや町から離れていることが関係しているのではないか。道路が舗装される前であっ たことを考慮に入れると、食糧を求めて街へ出るというのはさぞかし大変だっただろう。
その結果、動物を捕まえて食べることがあったのではないかと思う。遊びとはいうものの 食糧確保の仕事の一環ともとれるように思えた。
① ②
針金で作った輪っかを、 走ってきたうさぎが頭を輪っか 木の下の方に固定する に突っ込み、抜けなくなる
図3. うさぎの捕まえ方 すずめ捕り
一刎では、すずめもワナをかけて捕った。地面につっかえ棒でザルを固定し、ザルの下 にはすずめのエサを置く。棒には紐をつないでおき、引っ張るとザルが倒れるようにする。
すずめがエサを求めてカゴの下に入ったら、隠れていた人が紐を引っ張りザルの中にすず めを閉じ込めた。エサの少ない冬の方がワナにすずめがかかりやすいため、すずめ捕りは もっぱら冬の遊びであった。捕まえたすずめは、皮をはいで食べたそうだ。正直なところ、
私はすずめを食べるなどとは想像もしていなかったため、この話を聞いて内心とても驚い た。これは、70歳の男性から聞いた遊びである。
① ②
地面につっかえ棒でザルを固定し、 棒には紐をつないでおき、
ザルの下にはすずめのエサを置く 引っ張るとザルが倒れるようにする
③
すずめがカゴの下に入ったら、紐を引っ張る
図4. すずめの捕まえ方
うずまき
冬の日に、まず雪を踏みしめてうずまきの道をつくる。うずまきの両端をスタート地点 として、2人がうずまきの上を走る。両者が出会ったところでじゃんけんをして、負けたら 元の位置(自分のスタート地点)に戻るという遊びである。先に相手のスタート位置にた どり着いた方が勝ちである。
他にも、「うずまき」と似た遊びがあった。ルールは、地面に八の字を書いてその上で追 いかけっこをする。八の字は、冬の雪の積もった日に、雪を踏みしめて道をつくったよう