子どもができたことをきっかけに結婚を決める妊娠先行型結婚(いわゆる「できちゃっ た結婚」)は、若者を中心に近年一般化しているとされる結婚のスタイルのひとつである。
妊娠先行型結婚を計量的に把握する試みとして、厚生労働省による嫡出第 1 子について結 婚期間が妊娠期間より短い出生に着目し、出生という観点から間接的に妊娠先行型結婚に ついておこなった分析がまずあげられる。同分析によれば、1995 年から 2002 年にかけて該 当する出生は増加傾向であったもののその後減少に転じ、2007 年には横ばいとなっている。
また、母親の年齢階級で標準化した場合、2009 年には「15~19 歳」で 8 割、「20~24 歳」
で 6 割、「25~29 歳」で 2 割の出生が該当しており、母親の年齢層が若くなるほど高くなる 傾向がある(厚生労働省,2010)。
嫡出第 1 子について結婚期間が妊娠期間より短い出生が 10〜20 歳代の母親において高い 割合を示す背景として、晩婚化が進行する今日では当該の年齢層における婚姻や出生がそ もそも少ないため、相対的に若年層において割合が高くなってしまう点を踏まえておく必 要はあろう。また、若い男性や就業している女性には出生や家族に関する規範意識の高さ が妊娠先行型結婚の背景にあるとする分析(鎌田,2006)や「意図しない妊娠」が多いと推 定できるという指摘(岩澤,2000)もなされており、性が活発になりながらも結婚や家族に 対して保守的であるという現在の日本社会状況に若者がさらされた結果、妊娠先行型結婚 が引き起こされていると位置づけることができる。
国民生活白書は、若年層における妊娠先行型結婚の増加の背景には「出生は婚姻内でお こなうべきだ」とする嫡出制の規範の強固さがあると指摘しており(内閣府,2005)、性や 恋愛に関する規範と結婚や家族に関する規範のギャップが妊娠先行型結婚後の家族運営に 与える影響について指摘している。妊娠をきっかけとした婚姻という選択はやがて困難に 直面するはずだとの認識は、母子衛生や保健分野でも共有されており、妊娠先行型結婚を 経験した家族を追跡的に調査した上での検討や(法橋,本田,平谷,2008、藤村,峯,畠中,大 森,佐野,藤澤,2008)、10 代の母親に対する出産後のサポートについての論考もおこなわれ ている(たとえば大川,2010)。
妊娠先行型結婚は、乗り越えるべき課題の多い不幸な結婚なのだろうか。2009 年の婚姻 件数は 70 万 8000 件(厚生労働省,2009,)、嫡出第 1 子において結婚期間が妊娠期間より短 い出生は 12 万 5000 件となっている(厚生労働省,2010)。法的な手続きを伴う結婚のうち 2 割程度を妊娠先行型と類推できるこの状況は、問題把握を目的としたケーススタディーだ けではなく、計量的な検討に耐えるだけの母数を妊娠先行型結婚は有しているようにみえ る。それにも関わらず、妊娠先行型結婚の背景や該当世帯が持つ特徴について俯瞰するよ うな調査分析がこれまで十分におこなわれてこなかった。そこで本稿では、妊娠先行型結 婚の夫婦と、妊娠をきっかけとはしない結婚(通常結婚)の夫婦を取り上げ、結婚時の状
況と現在の生活および子どもの出生意欲との関連について考察をおこなう。従来とりあげ られることがなかった、妊娠先行型結婚の全体的な位置づけについて検討をおこなうのが 本稿の目的となる。
2 通常結婚と妊娠先行型結婚における結婚時の状況
若者に多くみられるとされる妊娠先行型結婚であるが、通常結婚と妊娠先行型結婚を比 較した場合結婚年齢には違いが見られるのだろうか。図1は性別と結婚スタイルを区別し た上で結婚年齢を示したグラフである。通常結婚では 20 歳代後半が男女ともに最も多くな っており、男性で 47%女性で 49%とほぼ半数がこの時期に結婚したと回答している。妊娠先 行型結婚の場合女性は 20 歳代前半に結婚した者が 46%と最も多く、男性は 20 歳代前半と後 半がそれぞれ 38%、37%となった。また、問題視されている 10 歳代の結婚は通常結婚ではほ とんどみられず(男性 0.2%女性 0.6%)、妊娠先行型結婚の場合は男性 3%女性 7%となった。
次に、出会ってから結婚するまでの期間について確認をしておきたい。互いのことをよ く知らぬままに結婚を決めてしまったため、いざ夫婦として生活し始めると関係が悪化す るといった問題が妊娠先行型結婚ではしばしば語られる。交際が長期に及んだために結婚 の契機をなかなか得られず、結果的に妊娠が直接の契機になった結婚は、このような問題 は生じにくいだろう。こうした状況を踏まえるとするならば、交際期間が短い婚姻と、あ る程度長期間の交際の後に妊娠がわかったために結婚を決意した婚姻とは区別する必要が あるかもしれない。通常結婚と妊娠先行型結婚における交際期間の分布は、本調査におい てはどのようなものなのか。図2に示した(男性・通常結婚 n=4412,男性・妊娠先行型結
婚 n=588,女性・通常結婚 n=4343,女性・妊娠先行型結婚 n=657)。
男性の通常結婚と妊娠先行型結婚を比較した場合、通常結婚では 5%程度であった交際期 間1年未満が妊娠先行型結婚では 11%となり 6 ポイントもの差をつけた。1年未満と1年を 合計した数字は妊娠先行型結婚においては 35%となり、妊娠先行型結婚は交際期間のまだ短 いうちに結婚を決める傾向が強いことが確認できる。これに対し、通常結婚は5年以上が 34%となっている。
交際期間の長い通常結婚、交際期間の短い妊娠先行型結婚、という傾向は女性により顕 著だ。通常結婚では 35%が5年以上、妊娠先行型結婚では 38%が 1 年以内と回答しており、
両者の違いがより明示される結果になっている。国立社会保障・人口問題研究所の調査に よれば 2011 年における結婚するまでの平均交際期間は 4.26 年となっており(国立社会保 障・人口問題研究所,2011)、通常結婚にみられる長期の交際期間という特徴に沿った結果 がでているといえる。
これらの結果をふまえ、結婚までの期間を3つのグループに分けたうえでそれぞれの年 齢の違いを検討したのが図3である(短期交際・通常結婚 n=2232,短期交際・妊娠先行型 結婚 n=455,中期交際・通常結婚 n=3518,中期交際・妊娠先行型結婚 n=522,長期交際・通 常結婚 n=3004,長期交際・妊娠先行型結婚 n=268)。結婚までの交際期間が1年以内である
「短期交際」、2年から4年程度を「中期交際」、5年以上を「長期交際」として図示して いる。なお、ジェンダー差はそれほどみられなかったため男女の区別はおこなっていない。
短期交際の夫婦のうち通常結婚の 20 歳代前半は 15%程度であったのに対し、妊娠先行型 結婚では4割程度となっている。図1で検討した、妊娠先行型結婚の方が通常結婚よりも 年齢層が若い状況がここでも確認できた。中期交際、長期交際においても同様の結果が出 ており、妊娠先行型結婚をする若い夫婦は極端に交際期間が短いと言った状況は確認する ことはできなかった。ただし 10 代で結婚した夫婦は例外で、短期交際が 7%と他に比べて多 い結果になっている。
最後に、結婚時の職業について検討しておこう。10 代の妊娠先行型結婚について考察す る際、出産に伴って退学や休学と言った学業中断を余儀なくされる事実がしばしば問題視 されている。妊娠先行型結婚は学生に多いのだろうか。男女ごと、結婚のスタイルごとに 結婚時の職業を図4に示した。男性においては正規職員が通常結婚で 88%、妊娠先行型で 79%と 10 ポイント程度の違いがみられている。妊娠先行型結婚は年齢層が若いため、パー トアルバイトや派遣といった非正規雇用が多くなるとみなすことができる。女性において は、正規職員は通常結婚で 60%、妊娠先行型で 50%であり、女性の雇用の不安定さが反映さ れた結果となっている。結婚の際に学生であった者は通常結婚では男女ともに 1%にも満た ないが妊娠先行型では 3%となっており、わずかではあるが一応多いという傾向が確認でき た。
3 通常結婚と妊娠先行型結婚経験者の現在の状況
図5に結婚年齢ではなく現在の年齢に注目し、男女別結婚のスタイル別に示した。通常 結婚、妊娠先行型結婚ともに男女での違いはほぼ見られないが、通常結婚は 30 代後半から 40 歳代が 25%程度であり、妊娠先行型結婚は 30 代前半をピークとして年齢が進むに従っ て男女ともに減少して行く傾向がある。本調査は 20 歳代の回答者に乏しく、男女を同数と なるように母数を確保している。図5の結果はデータの特性がそのまま反映されていると 考えられ、詳細な検討のためにはコントロールしておく必要がある。本稿では通常結婚と 妊娠先行型結婚を比較して現状を把握することを目的としているため、考察の参考として 示した。
次に婚姻継続期間をジェンダーごと、結婚のスタイルごとに区別し図6に示した。通常 結婚・妊娠先行型結婚ともに9割以上が初婚であり、年齢層にややずれがあることを考え ると、妊娠先行型結婚に継続年数が短い傾向がみられる可能性がある。男性においては通