1 問題意識
少子化は先進諸国全般に見られる現象ではあるが、(イタリア、スペインなどの)南欧諸 国と(日本や韓国などの)東アジアの国々ではとりわけ深刻であり、これらの国々の合計 特殊出生率が1.30以下34であるため、超少子化国とも表現されるほどである(守泉2007、佐 藤2008)。これらの超少子化国の少子化を招いた要因のうちに、ジェンダー的不平等とと もに強い家族主義的価値観という文化的要因が共通して見出せる。ジェンダー役割に関し ては女性の家庭役割の重視、カップル関係よりは親子関係の優先、さらに家族・親族によ る相互扶助の原理が強固であることが家族主義的価値観の強い国々の特徴である。家族主 義的価値観が女性の社会進出を妨げる一方、家族の形成(結婚、出産)を困難にしている とも指摘されてきた(エスピン=アンデルセン2011、佐藤2008)。
他方、親世代からの経済的・非経済的援助が子世代の家族生活に大きく寄与しているこ とがまぎれもない事実である。日本では親との同居または近居は既婚女性の就労を促進し、
離婚を低める効果(加藤2005)が報告されている。また、親から子どもへの経済的援助は、
子どもの結婚時、住宅取得時、孫の誕生・入園・入学時に発生しやすい傾向がある(山内 2011)。さらに親世代は子世代の出産や育児に対して、経済的援助とともに子育てサポート を行っており、とりわけ 1950 年以降生まれの少産少死世代のほうが妻方からの育児援助を 多く受ける傾向が見出されており(施 2012)、親からの育児援助が近年ますます活発に行わ れるようになっているのである。これらの研究から、親との同居、親からの経済的・非経 済的援助は子世代の家族形成と家族生活に大きく貢献していることを確認できる。
ところで、果たして世代間関係が子ども世代の出生数や出生意欲に影響を及ばすのだろ うか。これまでの先行研究では、親との同居が子世代の出生数や出生意欲に影響を与える ものとして捉えられてきた。樋口・阿部(1999)は親との同居が子ども世代の出生を促進す るとしており、八代(1999)は健康な 60 歳代の女性との同居が出生を促進することを示し、
また七條・西本(2003)は妻が 20 歳以上 40 歳未満の若い世代の夫婦が、非就業あるいは 就業時間が比較的短い母親と同居している場合に子供数が多くなる傾向があることを明ら かにしている。同居する親の年齢や就業形態以外に、妻側親との同居が子ども世代の出生 力を高める効果も報告されている。星(2007)はいずれの親とも別居しているケースに対 して妻側親と同居しているケースにおいて子ども数が有意に多いとしている。これらの研 究は、健康で比較的に若く、時間に余裕のある親、とりわけ妻側親と同居すれば家事や育 児の援助を期待できることが、子世代の出生を促進すると示している。他方、親との同居
34 近年これらの国の合計特殊出生率が上昇する傾向をみせており、2010年の合計特殊出生 率は、イタリアは1.40、スペインは1.39、日本は1.39に回復しているが、人口置換水準ま でいまだにかけ離れている。また、韓国は2010年でも1.23である。
が子世代の出生力や出生意欲に有意な効果が見出せないとする研究(森田・金子 1998、駿 河・七條・張 2000、張・七條・駿河 2001、山上 1999、津谷 1999)もみられる。以上のよ うに、親との同居は子ども世代の出生にいかなる影響を及ばすかが意見が分かれており、
親との居住関係と子世代の出生力との関連を解明することが改めて要請されている。
そして、親との同居以外に、親からの育児サポートと経済的援助が子世代の出生力に有 意な効果をもたらすとも指摘されてきた。育児支援ネットワークの構成と子ども数の現実 と理想との関連を調べた星(2007)は、夫と義理の親の出現頻度が多い「夫+義理の親」
型のサポートネットワークをもつ女性対象者は、「自分の親」型のサポートネットワーク をもつ者よりも、子ども数、理想子ども数が多いと報告しており、これが義理の親から提 供される手段的サポートの多様性、そして経済的支援によるものであると見なしている。
また、親からの経済的援助が子ども世代の出生力にもつ影響に関しては、高山ほか(2000)
は、他の世帯からの受贈などの世代間移転収入が実収入に占める比率が出生力に有意にプ ラスの結果を示すと報告している。今日日本における世代間所得移転が親世代からの移転 が子世代からの移転より多いことを合わせて考えれば、親世代からの経済的援助が子ども 世代の出生力や出生意欲を高めていると解釈することが可能である。
いずれにせよ、相互扶助や世代間連帯を重視する家族主義的価値観が強い文化圏の国々 では出生率が低いという現実がある一方、日本では親世代との同居、親世代からの経済的 または非経済的援助、つまり世代間の相互扶助が子世代の家族形成や家族生活に大きく貢 献しているのである。本稿では世代間関係が子ども世代の出生力にもつ効果に注目し、親 世代との居住関係、親世代からの経済的または非経済的援助が子ども世代の出生力にいか なる影響を及ぼすかを分析し、世代間関係のあり方と出生力との関連を明らかにしたい。
世代間関係とともに、人々は子どもをもつべきか否か、また子どもの存在をポジティブ に捉えるか、などの子どもをめぐる規範意識が人々の出生意欲に影響を及ぼすことが予想 されるため、本稿では子どもに関連する規範意識と人々の出生力との関連も調べることと する。
2 サンプルと変数
本稿の分析で使用するのは、20代から40代までの、結婚している男女双方を含む対象者 である。
使用した変数は次のとおりである。
子ども数:現在子ども数、予定子ども数35、理想子ども数を用いる。
親との居住関係について、夫方同居36ダミー、夫方近居37ダミーと妻方同居ダミー、妻方 近居ダミーの4変数を用いる。
35 質問文「あなた方ご夫婦は現実的に何人お子さんをもつつもりですか」である。
36 同居、隣・同じ敷地内を含む。
子育てに関する親からの援助は、経済的援助と非経済的援助の2種類を用いる。子育て の経済的援助について、「あなたの親やあなたの配偶者の親は経済的に子育てを支援してく れますか」という質問に対しては、「いつもたくさん支援をしてもらっている(=5)」「かなり 支援をしてもらっている(=4)」「時々支援をしてもらっている(=3)」「ほとんど支援してもら っていない(=2)」「全く支援をしてもらっていない(=1)」までの5つの選択肢が設けられて いる。また、子育ての非経済的援助については、「あなたの親やあなたの配偶者の親は子ど もの面倒をみてくれていますか」という質問に対して、「いつもたくさん面倒を見てくれて いる(=5)」「かなり面倒を見てくれている(=4)」「時々面倒を見てくれている(=3)」「ほとんど 面倒を見てくれない(=2)」「全く面倒をもてくれない(=1)」までの5つの選択肢が用意され ている。
子どもに関する規範意識には、2つの質問項目を用いる。1つ目は「結婚したら子ども をもつべきだ(「子をもつべき」規範と略す)」という考えに対して、「賛成(=5)」から「ど ちらかと言えば賛成(=4)」「分からない(=3)」「どちらかと言えば反対(=2)」」「反対(=1)」ま での5件法で尋ねている。2つ目は、「子どもをもつことで(精神的に)豊かな生活を送る ことができる(「子は精神的な豊かさに貢献」意識と略す)という意見に対して、「全くそ う思う(=5)」から、「どちらかと言えばそう思う(=4)」「どちらとも言えない(=3)」「どちらか と言えばそう思わない(=2)」「全くそう思わない(=1)」までの5件法で尋ねている。
統制変数:性別(男性=1、女性=2)、本人年齢(実数)、本人学歴(中学校・高校=1、短 大・高専=2、大学・大学院=3)、妻の就業形態(妻無職ダミー、妻正規ダミー)、夫年収(0-99 万円台=1、100万円台=2、200万円=3、300万円台=4、400万円台=5、500万円台=
6、600万円台=7、700万円台=8、800万円台=9、900万円台=10、1000万円台以上=11)
を用いる。
3 世代間関係、子どもをめぐる規範意識
表1は、対象者の年齢別にみた双方親との居住関係である。20 代前半は親との同居率 が高いが、その後一旦下がり、30 代後半から 40 代前半にかけて再び上昇する傾向が見られ る。そして、夫方との同居率が妻方とのそれよりは高い。
表1 対象者の年齢別にみた双方親との居住関係
親からの経済的援助と非経済的援助は表2に示されているように、対象者の年齢が上昇 するにつれ、減少する傾向にある。
表2 対象者の年齢別にみた親からの経済的・非経済的援助
そして、表3に示されているように、「子をもつべき」規範と「子は精神的な豊かさに 貢献」意識は年齢による差はそれほど顕著ではない。
%(N)
同居 近況 遠居 死亡 合計
1)夫方親
全体 12.31 43.79 39.00 4.90 100(10000)
20代前半 14.05 44.32 40.54 1.08 100( 185) 20代後半 8.31 45.73 44.83 1.12 100( 890)
30代前半 8.52 45.38 43.92 2.18 100( 1785)
30代後半 11.45 47.79 37.64 3.12 100( 2471) 40代前半 14.26 43.76 37.20 4.78 100( 2363) 40代後半 15.57 37.51 36.12 10.80 100( 2306) 2)妻方親
全体 6.04 49.58 40.90 3.48 100(10000)
20代前半 8.11 50.27 41.08 0.54 100( 185) 20代後半 4.83 46.52 47.75 0.90 100( 890)
30代前半 4.65 50.36 44.09 0.90 100( 1785)
30代後半 5.42 51.36 41.52 1.70 100( 2471)
40代前半 6.14 50.49 39.02 4.36 100( 2363)
40代後半 7.98 47.27 37.03 7.72 100( 2306)
夫方経済的援助 妻方経済的援助 夫方非経済的援助 妻方非経済的援助
全体 2.64(1.25) 2.94(1.28) 2.69(1.21) 3.12(1.20)
20代前半 3.27(1.25) 3.62(1.24) 3.18(1.23) 3.71(1.16) 20代後半 3.10(1.24) 3.34(1.27) 3.07(1.15) 3.43(1.19) 30代前半 2.82(1.22) 3.14(1.25) 2.83(1.19) 3.32(1.16) 30代後半 2.73(1.24) 3.03(1.26) 2.81(1.20) 3.24(1.18) 40代前半 2.56(1.22) 2.84(1.26) 2.62(1.21) 3.01(1.17) 40代後半 2.33(1.21) 2.64(1.25) 2.38(1.18) 2.82(1.21)
F値 53.54*** 49.74*** 47.57*** 50.85***
注: +p<0.1 *p<0.05 **p<0.01 ***p<0.005
平均値(標準偏差)
表3 対象者の年齢別にみた子どもに関する規範意識
4 子ども数
まず対象者の現在子ども数、予定子ども数、理想子ども数を対象者の年齢別で確認する。
表4に示されているように、若い年齢層の者は、現在の子ども数が少ないが、予定子ども 数、理想子ども数はその反対に多い傾向が確認される。
表4 年齢別にみた子ども数
そして、双方の親との居住関係と子ども数との関連については、表5に示された通りで ある。親と近居または近居している者は、遠居している者より、現在の子ども数、予定子 ども数と理想子ども数が多い傾向がある。それは夫方に関しても、妻方に関しても、同様 な傾向が確認される。
「子をもつべき」規範 「子は精神的豊かさに貢 献
」意識
全体 3.59(0.98) 3.82(0.99)
20代前半 3.55(1.03) 3.79(0.94)
20代後半 3.57(1.01) 3.84(0.94)
30代前半 3.55(1.00) 3.83(0.96)
30代後半 3.56(0.99) 3.77(0.99)
40代前半 3.57(0.98) 3.82(1.03)
40代後半 3.67(0.94) 3.86(0.98)
F値 4.66*** 2.38***
注: +p<0.1 *p<0.05 **p<0.01 ***p<0.005
平均値(標準偏差)
現 在の子ども数 予定の子ども数 理
想の子ども数
全体 1.37(1.04) 1.76(0.95) 2.22(0.87)
20代前半 0.88(0.72) 2.05(0.89) 2.31(0.95)
20代後半 0.87(0.88) 1.98(0.78) 2.28(0.77)
30代前半 1.24(1.00) 1.97(0.84) 2.31(0.79)
30代後半 1.41(1.04) 1.79(0.93) 2.20(0.88)
40代前半 1.45(1.05) 1.61(0.99) 2.17(0.93)
40代後半 1.57(1.05) 1.61(1.03) 2.19(0.90)
平均値(標準偏差)