• 検索結果がありません。

夫婦の伴侶性と家族規範意識が追加出産意向に及ぼす影響 1 問題意識

本稿では、夫婦の伴侶性と家族規範意識が追加出産意向に及ぼす影響を分析する。既存 研究では、出生に影響を与える要因として、父母の年齢、就業、収入、居住地域等の影響 がもっぱら検討されてきた28。しかしながら、夫婦の伴侶性や家族規範意識も、夫婦の出産 行動に影響を与えている可能性は十分に考えられる。

わが国夫婦の伴侶性については、従来から欧米よりも低いことが指摘されてきた。古く はブラッド(1978)が東京在住の夫婦が米国都市に住む夫婦よりも夫婦間のコミュニケー ション等が乏しいことを指摘している。その後の研究においても、夫婦での行動や夫婦間 のコミュニケーションが低調であるということは変わっていない(佐々木 2008)。夫婦の 伴侶性と出産行動が結び付けられて考えられることは少ない。しかしながら、本来、伴侶 性というものが夫婦のパートナーシップを促進し、夫婦関係を安定・深化させるものであ ることを念頭におけば、夫婦の伴侶性が高いことは夫婦の出産行動にポジティブな効果を 与える要因になるものであると想定される。

家族規範意識とは、伝統的な結婚・出産に重きを置く価値規範のことである。家族に関 する規範は、不安定な近代家族を安定させるための重要な装置である(山田 1994)。家族 規範意識が夫婦の出産行動に影響を与えることは、既存研究においても指摘されてきた。

例えば、阿藤(2011)は、欧米諸国における少子化の背景に、伝統的家族観の弱体化と自 己実現を重視する価値観の広がりがあるという。目をわが国に転じれば、結婚・出産に価 値を置く規範意識が強い地域ほど、そこに住む住民の出生率が高い傾向があるという結果 がえられている(内閣府政策統括官 2012)。これらの点をふまえると、強い家族規範意識 は、夫婦の出産に正の効果を与えていることが想定される。

厳密に夫婦の伴侶性と家族規範意識が追加出産意向に与える影響を検証するには、パネル 調査のデータが望ましい。時点が先行する夫婦の伴侶性や家族規範意識が、その後の追加 出産意向を規定する効果の有無を確かめることができるからである。しかしながら、本調 査は 1 時点のクロスセクショナルデータであるため、そのような分析を行うことはできな い。本調査では、前述の理論的背景をもとに夫婦の伴侶性と家族規範意識が追加出産意向 に影響を与えるという因果関係を仮定し、前2者が後者に与える効果の有無を検証する29

28 例えば、津谷(2009)参照。

29 これと逆に追加出産意向が夫婦の伴侶性及び家族規範意識に影響を与えるという因果 は、現実社会では生じにくいと考えられる。現代家族において、追加出産意向がないから という理由で、それまで行っていた夫婦の伴侶的な行動をやめたり、伝統的であった家族 規範意識を革新的な考えに改めるような者がいるとは、想定しにくい。

2 サンプルと変数

本稿で使用するのは、39歳以下の男女のサンプルである。

使用した変数は次のとおりである。

子ども数:現在子ども数、理想子ども数、現実子ども数30を用いる。

追加出産意向:現在の子ども数よりも、現実的にもとうとする子ども数が多い場合を 1、

それ以外を0としたダミー変数である。

夫婦の伴侶性:この2、3年間における夫婦の行動を尋ねた質問を用いる。具体的な項目 は、「その日の個人的な出来事について話をする」「一緒に夕食をとる頻度」「メールやネッ トなどでやりとりする」「買い物に一緒に出掛ける」「旅行や趣味などで一緒に出掛ける」「言 葉や仕草などで愛情を表現する」「性的な関係を持つ」の 7 つである。それぞれについて、

「毎日のようにある」から「まったくない」までの 6 件法で頻度を尋ねている。これを週 当たりの回数に換算して使用する。また、これら7項目の頻度を足し合わせた変数を、「夫 婦行動尺度」とする。

夫婦共通趣味:夫婦の共通の趣味を「いつも一緒に楽しんでいる(=3点)」「時々一緒に 楽しんでいる(=2点)」「共通の趣味はない」(=1点)という変数を用いる。

家族規範意識:「生涯を独身で過ごすというのは、望ましい生き方ではない」から「いっ たん結婚したら性格の不一致くらいでわかれるべきではない」まで6項目の意見に対して、

「賛成(=5点)」から「反対(=1点)」までの5件法で尋ねた質問である。6項目全ての 点数を足し合わせた変数を「家族規範尺度」31とし、点数が高いほどこれらの規範意識が強 いことを示す尺度とした。

統制変数:本人年齢、配偶者年齢、5歳以下の子どもの有無、本人学歴、本人職業、配偶 者年収を用いる。これら統制変数の詳細は、第2部第1章を参照のこと。

3 夫婦の伴侶性、共通趣味、家族規範意識

夫婦の伴侶性の集計結果が表1である。男女とも、「その日の個人的な出来事について話 をする」と「一緒に夕食をとる頻度」の頻度が高く、「メールやネットなどでやりとりする」

などが続く。夫婦で「買い物に一緒に出掛ける」「旅行や趣味などで一緒に出掛ける」とい う行動をする頻度はおよそ週1~2回である。年代別に夫婦行動尺度をみると、30代後半に おいて夫婦行動が若干低くなっている。

夫婦共通の趣味をみると、女性では、「いつも一緒に楽しんでいる」が 19.3%、「時々一 緒に楽しんでいる」が45.1%、「共通の趣味はない」が35.5%である(表2)。およそ3分 の2の夫婦は、何らかの共通の趣味がある。男性でも、同様の傾向である。

30 質問文「あなた方ご夫婦は現実的に何人お子さんをもつつもりですか」

家族規範尺度の平均値は、女性が18.8点、男性が20.5点で、男性の方が若干高い32。本 人年代別にこの点数をみると、女性では若い世代ほど若干得点が高い傾向がある(表3)。

表1 夫婦の伴侶性(本人年代別)

表2 夫婦共通の趣味(本人年代別)

32 7項目を足し合わせたαは0.732である。

(回/週)

その日の 個人的な 出来事に ついて話 をする

一緒に夕 食をとる 頻度

メールや ネットな どでやり とりする

買い物に 一緒に出 掛ける

旅行や趣 味などで 一緒に出 掛ける

言葉や仕 草などで 愛情を表 現する

性的な関 係を持つ

夫婦行動尺

女性 5.0 4.3 3.7 1.6 0.8 2.6 0.8 18.8

 20代前半 5.2 3.8 4.0 1.6 0.8 3.1 1.0 19.4

 20代後半 5.4 4.6 4.0 1.8 1.0 3.5 1.2 21.4

 30代前半 5.2 4.3 4.0 1.7 0.8 2.8 0.8 19.6

 30代後半 4.6 4.3 3.3 1.5 0.7 2.1 0.7 17.2

男性 4.8 4.9 4.1 2.1 1.1 2.6 1.0 20.6

 20代前半 5.5 4.7 4.9 2.8 1.8 3.4 2.0 25.5

 20代後半 5.1 5.2 4.5 2.5 1.5 3.2 1.5 23.4

 30代前半 4.9 4.9 4.3 2.1 1.0 2.7 1.0 20.8

 30代後半 4.6 4.8 3.8 2.0 1.0 2.3 0.8 19.3

(単位:%)

いつも一 緒に楽し んでいる

時々一緒 に楽しん でいる

共通の趣 味はない

女性 19.3 45.1 35.5

 20代前半 26.6 41.3 32.1

 20代後半 23.9 47.1 29.0

 30代前半 19.7 48.6 31.8

 30代後半 16.7 42.1 41.2

男性 17.8 46.0 36.1

 20代前半 31.6 52.6 15.8

 20代後半 23.5 50.5 26.0

 30代前半 17.8 46.4 35.8

 30代後半 15.1 43.9 41.0

表3 家族規範意識(本人年代別)

4 追加出産意欲

女性では、現在子ども数は1.2人、理想子ども数は2.2人、現実子ども数は1.8人である

(表4)。理想子ども数よりも現実子ども数が 0.4ポイント少ないことから、理想とする数 だけの子どもを現実にはもうけられない夫婦が少なからずいることがわかる。本人年代別 にみると、年代が上がるほど現在子ども数は多くなる。しかし、理想子ども数と現実子ど も数については、30代前半までが比較的高く、30代後半で少ない傾向がある。追加出産意 向がある者の割合をみると、20代前半・後半では約7割であるが、30代以降で大幅に減り、

30代後半では4人に1人程度にまで減少する。

男性は、女性よりも理想子ども数と現実子ども数が多い傾向がある。

(単位:点)

生涯を独 身で過ご すという のは、望 ましい生 き方では ない

結婚した ら、家庭 のために は自分の 個性や生 き方を犠 牲にする のは当然

夫は外で 働き、妻 は家庭を 守るべき である

結婚した ら、子ど もは持つ べきだ

子どもが 3歳くら いまでの 間は、保 育所等を 利用せず に母親が 家庭で子 どもの世 話をする べきだ

いったん 結婚した ら性格の 不一致く らいでわ かれるべ きではな

家族規範尺

女性 3.4 2.9 2.8 3.4 3.2 3.2 18.8

 20代前半 3.6 2.9 2.8 3.4 3.3 3.4 19.5

 20代後半 3.5 3.0 2.8 3.4 3.2 3.4 19.3

 30代前半 3.4 2.9 2.8 3.4 3.2 3.1 18.8

 30代後半 3.3 2.8 2.8 3.3 3.2 3.0 18.6

男性 3.6 3.3 3.0 3.7 3.3 3.6 20.5

 20代前半 3.5 3.4 3.1 3.7 3.5 3.9 21.2

 20代後半 3.7 3.4 2.9 3.7 3.2 3.6 20.5

 30代前半 3.6 3.2 2.9 3.7 3.2 3.6 20.3

 30代後半 3.7 3.2 3.0 3.8 3.4 3.5 20.6

表4 現在・理想・現実子ども数と追加出産意向(本人年代別)

5 多変量解析

多変量解析に用いた変数の基本統計量が表 5 であり、この変数を用いて、追加出産予定 を被説明変数としたプロビット分析を行った結果が表6、7である。夫婦行動尺度と夫婦共 通趣味は共に夫婦の伴侶性をあらわすものであり、両者の相関も0.478(女性サンプル)の 高い相関がある。夫婦行動尺度と家族規範意識、夫婦共通趣味と家族規範意識の間には有 意な相関はない33。説明変数間におけるこの相関関係をふまえて、表6 では夫婦行動尺度、

家族規範意識、統制変数を、表 7 では夫婦共通趣味、家族規範意識、統制変数を用いたプ ロビット分析を行った。

現在子ども数 0人または1人の場合、女性では、夫婦行動尺度の得点が高いほど及び家 族規範意識が強いほど、追加出産意向を持つことが多くなる。男性では、現在子ども数 0 人の場合、夫婦行動尺度の有意な効果はみられない。

現在子ども数が 2 人の場合、家族規範意識の有意な効果はみられないが、夫婦行動尺度 はその得点が高いほど追加出産意向=第 3 子を持つ意向が高まる傾向がある。この傾向は 男女ともにみられるが、男性においてより明瞭である。

次に夫婦共通趣味の変数を用いた分析結果をみると、男性で現在子ども数が 0 人の場合 を除き、共通趣味があり、それをすることが多い者ほど、追加出産意向が有意に高くなっ ている。限界効果の大きさをみると、現在子ども数が0 人または1人の場合には、追加出 産意向に与える影響は、家族規範意識よりも夫婦共通趣味の方が大きい。

33 分析対象者全員のサンプルを用いた分析の結果。現在子ども数別に相関をみると、0.1未 満の弱い相関はある。

(単位:子ども数は人、追加出産予定は%)

現在 子ども数

理想 子ども数

現実 子ども数

追加出産 意向

女性 1.221 2.211 1.823 43.2

 20代前半 0.881 2.284 1.936 68.8  20代後半 0.896 2.247 1.969 69.5  30代前半 1.258 2.299 1.923 50.2  30代後半 1.351 2.125 1.681 25.5

男性 1.255 2.301 1.965 49.8

 20代前半 0.882 2.342 2.224 85.5  20代後半 0.831 2.319 2.000 74.0  30代前半 1.217 2.322 2.019 56.7  30代後半 1.444 2.277 1.899 34.9