第 5 章 孔あき鋼板ジベルの履歴構成則
5.3 基本となる履歴構成則の構築
(1) 概要
履歴構成則の構築に先立ち,せん断力−ずれ変位関係のスケルトンカーブを設定する.
(2) 孔あき鋼板ジベルのせん断耐力
PBL
のせん断耐力は,押抜き試験から得られる.PBL
の諸条件が分かっていれば,複合構造標準示方書[1]
に示されている式
(5.3.1)
より,外部拘束のないPBL
のせん断耐力を予測できる.式(5.3.1)
は,貫通鉄筋の無いPBL
を対象とした推定式である.ただし,式(5.3.1)
には,拘束状態を表現するパラメータが含まれていない.1.60
(5.3.1)
ただし,
35mm
d90mm, 12mm
t22mm, 24N/mm
2 f’cd57N/mm
2 ここに,V
psud:
孔あき鋼板ジベルの孔1
個あたりの設計せん断耐力(N) d :
孔径(mm)
t :
鋼板の板厚(mm)
f’
cd:
コンクリートの設計圧縮強度(N/mm
2)
(3) 孔あき鋼板ジベルのせん断力−ずれ変位関係
複合構造標準示方書には,貫通鉄筋を有さない
PBL
のせん断耐力に至るまでのせん断力−ずれ変位関係として,式
(5.3.2)
を示している.しかし,PBL
の拘束状態によっては,貫通鉄筋が無い場合であっても,相当の変形性能を有していることがある.そこで,複合構造標準示方書に示されている貫通鉄筋を有する
PBL
の せん断力−ずれ変位関係式を参考とし,ポストピーク挙動を表現する式(5.3.3)
を併用する.0 1 /
(5.3.2)
1 / 1
(5.3.3)
ここに,
V
ps:
孔あき鋼板ジベルの孔1
個あたりのせん断力(N)
δps:
ずれ変位(mm)
δps0
:
最大せん断力時のずれ変位(mm)
δpsu:
終局ずれ変位(mm)
α, β, γ
:
係数また,最大せん断力時のずれ変位δps0および係数α, β, γは,以下に示す式より算定できる.示方書には,
貫通鉄筋を有する場合のγの値として,
2/15
が示されている.0.006 /
(5.3.4)
ただし,
35mm
d60mm, 12mm
t16mm, 2.2
d/t5.0, 34N/mm
2 f’cd37N/mm
2500/ /
(5.3.5)
1/3
(5.3.6)
(4) スケルトンカーブの例
一例として,試験体
No.1 C-ST-PUS-1
のせん断力−ずれ変位関係のスケルトンカーブを設定する.表5.3.1 に示す4
種類の方法で係数(α, β, γ)を算定し,図5.3.1にその結果を示した.いずれのケースにおいても,PBL
のせん断耐力V
psudおよび最大せん断力時のずれ変位δps0は実験値を用いた.C-ST-PUS-1
を例とした場合,Case.1
やCase.3
は,δps0に至るまでの実験結果の再現性が低い.実構造に配置された
PBL
は,0mm
〜δps0の範囲で使用されることが多いため,載荷初期の再現性が低いことは実用上問 題がある.一方,Case.2
やCase.4
は,比較的良好に実験結果が再現できている.表5.3.1 検討ケース
α β γ
Case.1 複合構造標準示方書 複合構造標準示方書 複合構造標準示方書
Case.2 回帰分析 複合構造標準示方書 回帰分析
Case.3 複合構造標準示方書 回帰分析 回帰分析
Case.4 回帰分析 回帰分析 回帰分析
図5.3.1 スケルトンカーブの設定例 0
50 100 150 200 250
0 10 20 30 40
1孔あたりのせん断力,Vps(kN)
相対ずれ変位, δps (mm)
C-ST-PUS-1
実験結果Case.1 Case.2 Case.3 Case.4
Vps=Vpsud×{1-exp(-α×δps/d)}β
Vps=Vpsud×{1-exp(-α×δps/d)}β+Vpsud×{γ(1-δps/δps0)}
Vpsud= 187.8 kN δps0= 8.1 mm
α β γ
Case.1
54.2 0.333 0.133Case.2
12.0 0.333 0.120Case.3
54.2 0.788 0.153Case.4
18.8 0.461 0.1365.3.2 塑性点の予測
まず,岡村・前川ら
[10], [11]
が提案した応力−ひずみ関係の構成則のように,履歴挙動を支配する剛性(
PBL
ではずれ剛性)と損傷の進行を表現する破壊パラメータでPBL
の履歴挙動が表現できるかを検討した.本検討では,過去に経験した最大のずれ変位を経験最大ずれ変位(δmax
: Maximum slip displacement
experienced
)と定義する.また,除荷点(ul)と塑性点(pl)を結ぶ直線の傾きをずれ剛性 E と定義し(図5.3.2),各履歴ループのずれ剛性と最大のずれ剛性との比を破壊パラメータK0と定義する(図 5.3.3).
PBL
の初期剛性は,孔あき鋼板とコンクリート間の初期付着の影響を受けるため,試験毎の値のばらつきが大き い.そこで,各試験体の最大のずれ剛性を破壊パラメータK0算出時に用いた.
本検討には,貫通鉄筋を有さない載荷パターン
A
の実験データ(試験体No. 01~08, 14~17
)を用いた.実 験データの最大せん断力時のずれ変位δps0の範囲は,1.31
〜11.75mm
とばらつきが大きい.そこで,経験最大 ずれ変位δmaxをδps0で除して無次元化した.E−δmax
/δ
ps0関係を図5.3.4に,K0−δmax/δ
ps0関係を図5.3.5に示す.EやK0とδmax/δ
ps0の間には,相関性が見 られない.δmax/δ
ps0以外にも,パラメータを変えて様々な分析を試みたが,EやK0に関する有意な相関関係を 見出すことはできなかった.図5.3.2 ずれ剛性Eの定義 図5.3.3 破壊パラメータK0の定義の例
図5.3.4 E−δmax/δps0関係 図5.3.5 K0−δmax/δps0関係 相対ずれ変位, δps(mm)
Unloading point (ul) Vul, δul
Plastic point (pl) Vpl, δpl
せん断力, Vps(kN)
ずれ剛性E(kN/mm)
0 100 200 300
0 10 20 30
相対ずれ変位, δps (mm) 1孔あたりのせん断力, Vps( kN )
各履歴曲線のずれ剛性En(n=1~12) 最大のずれ剛性Emax(E1~Enの最大値)
K0= En/ Emax E11 E12 E10
0 500 1000 1500 2000
0 1 2 3 4 5
E(kN/mm)
δmax/δps0
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 1 2 3 4 5
K0(---)
δmax/δps0
図5.3.6に示すように,経験最大ずれ変位δmaxは,弾性ずれ変位δe(
Elastic slip displacement
)と塑性ずれ変 位δp(Plastic slip displacement
)の和で表すことができる.繰返しの荷重履歴を受けると,PBL
のせん断破壊 面の劣化損傷が進行し,経験最大ずれ変位に占める塑性ずれ変位の割合が増加していくことが予測される.そこで,図5.3.7に示すように,表5.2.7に示した静的載荷試験について,塑性ずれ変位と経験最大ずれ変位 の比δp
/δ
maxとδmax/δ
ps0の関係を整理した.同図より,δp/δ
maxとδmax/δ
ps0の関係は,指数関数で表現可能である ことが分かった.以上の結果から,式
(5.3.7)
を用いることにより,PBL
の諸元や載荷パターンによらず,経験最大ずれ変位 に対応する塑性ずれ変位δpを算定することができる.ここで,係数κ,λは,図5.3.7の値を丸めて用いるこ とにした.1
(5.3.7)
ここに,
δp
:
塑性ずれ変位(mm)
δmax:
経験最大ずれ変位(mm)
δps0
:
最大せん断力時のずれ変位(mm)
κ:
実験パラメータ(= 2.8)
λ
:
実験パラメータ(= 0.5)
図5.3.6 弾性ずれ変位δeと塑性ずれ変位δpの定義 0
50 100 150 200 250
0 10 20 30
Vps(kN)
δps(mm)
δmax δp δe
δpl(=δp)
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 1 2 3 4 5
δp/ δmax
δ / δ
5.3.3 除荷履歴
PBL
の除荷時のせん断力−ずれ変位関係は,滑らかな曲線を描く.除荷を線形モデルで簡易に表現してし まうと,除荷・再載荷に伴うエネルギー消費を考慮することができない.そこで本検討では,除荷時の履歴 挙動を実際の現象に類似させ,塑性点を指向する曲線とすることにより,除荷・再載荷に伴うエネルギー消 費を表現する.除荷曲線の検討に際しては,表 5.2.7 に示した実験データを用いた.様々な形状の履歴挙動を統一して扱 うため,除荷点(ul)と塑性点(pl)を基準として,次式でせん断力−ずれ変位関係を無次元化した.ここで いう除荷点(ul)は,完全除荷・完全再載荷の除荷点(ul-1),部分除荷・部分再載荷の内部除荷点(in)の両 方を網羅したものである.
(5.3.8)
(5.3.9)
− 関係の例を図5.3.8に示す.除荷履歴は,ζの値を指数とする冪関数で表現することとし,各除荷 履歴のζの値を回帰分析で求めた.載荷パターン
C
は,除荷点(pl)と内部除荷点(in)からのそれぞれの除 荷についてζを求めた.本検討で求めたζのヒストグラムを図5.3.9に示す.ζの値は,
1.75
〜3.00
の範囲で高い頻度を示す一方で,最大は
6
に近く,広い範囲に分布する.そこで本検討では,中央値を丸めた2.5
をζの値として採用すること にした.図5.3.8 − 関係の例 図5.3.9
ζ
のヒストグラム以上の検討結果を踏まえ,除荷点のずれ変位δplを塑性ずれ変位δpに置き換え,除荷履歴を次式で表現する.
(5.3.10)
ここに,
ζ
:
実験パラメータ(= 2.5) 0
0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
-0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
無次元化ずれ変位,無次元化せん断力,
0 10 20 30 40
2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50 5.00 5.50 6.00
頻度
平均値:
2.73
中央値:2.53
5.3.4 再載荷履歴
本検討では,再載荷を経験最大ずれ変位δmaxと経験最大ずれ変位のせん断力Vmaxを指向する直線で表現す る.ここで,再載荷を開始する位置のずれ変位とせん断力は,δ0(
Current slip displacement
),V0(Current shear
force
)と定義する.任意点からの再載荷挙動は,図 5.3.10 のように表現されるため,再載荷時のずれ剛性Erは式
(5.3.11)
で求めることができる.図5.3.10 再載荷時のずれ剛性Er
(5.3.11)
ここに,
Er
:
再載荷時のずれ剛性(kN/mm)
V0:
再載荷を開始するせん断力(kN)
δ0:
再載荷を開始するずれ変位(mm)
δ
ps(mm)
V
ps(kN )
Er(kN/mm)
5.4 荷重繰返しの影響