第 2章 ラオスの経済移行過程
第 5 節 国際収支と投資・貯蓄
1.経常収支と外国資金流入
UNDP
資料により、1 9 9 0
年から96
年までのラオスの援助受取実績額と経常収支 の動きを観ると、1 9 9 0
年から9 3
年までのラオスは、援助を除〈経常収支赤字を埋 め合わせて余りある政府開発援助(無償援助と借款)を受け取っていたが、9 4
年以降は、経常収支赤字が政府開発援助を大きく上回り外国資本(直接投資を含む) がこれを補う形で推移している(第
2‑11
表参照)。すでに述べたIMF
の展望作 業も、この点を踏まえ、2 0 0 4
年まで経常収支赤字の一部を外国民間投資が補い続 けるものとしている。IMF
によれば、毎年およそ8‑9
千万ドル規模の無償援助 以外に2
億ドル程度の外国資金が実際に流入し続けることがラオスの国際収支安 定のための条件のひとつとなっているのであって、今後は外国投資の安定的な流 入を担保するための政策が一層必要となってくる。今後も、ラオス経済の規模が 大きくなるにしたがい、外国民間資本と借款への依存を強めていくことが予想さ れるが、ラオスのマクロ経済の脆弱性を考慮すると、短期資本よりは直接民間投 資などの長期資本の導入によって国際収支の運営を安定したものにしていく必要 がある。今後、短期資金を安易に導入していくようなことがあれば、マクロ経済 運営全体を厳しいものにしラオスの債務負担能力を圧迫することにもつながりか ねない。2 .
マクロ経済と経常収支9 7
年夏以降の隣国タイの経済危機はラオスの対外経済関係に大きな悪影響を与 えたが、特に、IMF
をはじめとする国際金融機関が注目しているのは、当面の経 常収支の動向である。前掲の第2‑3
表により経常収支の最近の動きを今一度確 認すると、9 2
年以降、その赤字幅が傾向的に拡大していることがわかる。すでに 述べたように、楽観的なシナリオでも、2 0 0 0
年頃までは引き続き外国資金に依存 すると想定しているが、同時に、対外貯蓄依存度が過度に高まらないように良好 な輸出パフォーマンスを持続できなければラオス経済の安定成長は望めない。し17) UNDP, R
ψ
ort on Lao PDR Macroeconomic Peゆrmance,May, 199718)外国資金導入の内、 IMFによる借款は中央銀行、世銀と2国間援助による借款は大蔵省、
外国民間投資および無償援助は首相府下の外国投資経済協力委員会が窓口となっている。マク ロ経済運営については国家計画委員会が担当することになっているが、同委員会は実際は計画 立案を担当するに過ぎず、たとえば中央銀行と大蔵省の聞の政策調整機能を有しているわけで、
はない。全体的統括機能を有し、事実上、経済運営にかかわる政策決定機能を有するのは首相 府とみられる。
たがって、原材料を輸入に依存しなければならない衣料品やオートパイも含めて、
木材や電力といった主力分野の輸出が順調に伸び経常収支動向が安定的に推移す ることがマクロ経済運営上の不可欠な条件である。圏内貯蓄動員があまりすすま ない段階で、財政支出を伴う急速なインフラ整備の推進と輸出の伸び悩みが組み あわされば、経常収支の悪化と激しいインフレそしてインフォーマルな形で蓄積 きれている余剰資金の外国逃避により、ラオスのマクロ経済運営は相当程度厳し い局面に追い込まれることになるだろう。いわゆる
GMS( G r e a t e r Mekong S u b r e g i o n )
計画を実施して行〈場合にも、このようなラオスのマクロ経済構造 面の腕弱性に十分配慮する必要がある。まして、経済危機によりタイ側の輸入需 要や対ラオス投資が抑制されている最近の情勢を考慮すると、安易に対外経済依 存型の投資計画や経済展望を抱くことは避けなければならないし、財政金融面の 一層堅実な運営が求めらる。3 .
経常収支の運営ラオスの
2 0 0 0
年計画さらにはIMF
の2 0 0 4
年経済展望において大きな期待が寄 せられている圏内投資拡大そして圏内貯蓄動員には、依然として不透明あるいは 時聞のかかる要素が多い。この点で、当面の重要な要素となるのは経常収支、特 に、貿易収支の動向である。すでに述べたように、ラオスの経常収支は公的援助 だけではそのギャップを埋め合わせることはできず、外国投資流入を前提としな ければならない段階に至っている。外国投資流入のためには為替相場の安定的推 移が重要な条件のひとつとなるが、タイ通貨危機のあおりを受けて、ラオス・キッ プの対ドルレートは97年8月と比べておよそ100%
近く切り下がった。また、外貨 準備高も97年9月以降一時は、数値が公表きれず、影響が深刻であったことがう かがえる。この現象がタイ経済の回復次第でおきまるものとしても、ラオスの今 後1 0
年の経済成長のためには、当面の経常収支の安定的推移は不可欠なのである。電力をはじめ既存の主力輸出部門が安定的に外貨を稼得することが望まれると同 時に、国内では効率的な金融仲介機能を強化することによって生産的な投資を奨 励し、かっインフレ抑制的な通貨管理を継続することが重要である。
4 .
投資貯蓄の安定的拡大IMF
のシナリオは、今後2 0 0 4
年に向かつて対GDP
比26%‑30.5%
もの圏内投 資率を持続することにより、限界資本産出高比率が4というやや低い投資効率の
もとでも、2 0 0 0
年までは7%
程度、2 0 0 1
年からも年率6.5%
の経済成長率を実現で きるとするものであった。また、このシナリオは、電力以外の圏内民間投資と政 府投資からなる30%
にも及ぶ圏内投資率が長期的には圏内貯蓄動員によって実現 可能で、結果として、電力開発投資の比重は1 9 9 6
年をピークに傾向的に下がるとしている。さらに、対外貯蓄依存度も国内貯蓄動員を拡大することによって
2 0 0 1
年以降は急速に低下するとしているのである。そこで、まず、投資効率があまり 変化しないとの前提のもとでは、まさに大規模な圏内投資をまかなうための貯蓄 動員のあり方こそがIMF
のシナリオの実現如何を決定するといってよいであろ う。すでに述べたように、国内貯蓄の動員、とくに銀行預金を拡大させるために は、実質預金利子率が正値をとるようにインフレを抑制すること、また、銀行届 舗の数増大や職員の訓練を進める以外にも、経済成長の見通しが安定することな どが必要な条件だが、このような条件整備には一定の時間が必要で、あり、当面は 圏内の、特に民間貯蓄を一方的に増大させることは困難で、あると言わざるを得な い。したがって、内外貯蓄動員が短兵急には困難な状況においては、目標成長率 一定のもとで、投資効率をあげて必要投資資金を可能な限り引き下げる努力も必 要になってくる。5 .
投資の効率性向上援助国及ぴ国際援助機関によって供給されている資金は、事実上その多くが政 府資本支出乃至財政赤字を補うためのものであるため、公共投資の生産性が向上 しなければ投資効率が悪化することによって投資貯蓄ギャップ拡大ひいては経常 収支の悪化を導き、結局はラオスの債務負担を増大させる事態を招きかねない。
また、世界的視野で観れば国際機関を含め援助側の対ラオス援助資金は必ずしも 潤沢で、はありえず、外国民間投資にしても中国やベトナムを含め周辺各国がすで に多くを吸収してしまっていることを踏まえると、ラオス側の希望にもかかわら ず外国資金と技術のラオスに対する供給は今後はむしろ先細る懸念さえあるの
で、さしあたって公的援助を可能なかぎり効率的に利用しなければならないこと は明らかである。公的援助による投資をより生産的なものにすることにより将来 的には外国投資を含めて民間投資を増大させることも期待できる。この脈絡にお いて、援助が必要な分野として、①徴税業務強化と圏内企業をより多く育成する 方向での公共投資案件のスクリーニング強化、②金融制度の拡充に不可欠な国際 金融業務ならびに国際貿易実務知識の普及、をあげることができる。