5−1 はじめに
前章までで,ドロバチ棋の個体群動態を規定する要田として,外敵および餌資源が重要であることを示してき た。しかし,かれらにとって餌資源を艶得したり,外敵の攻撃をかわす前にしなければならないこととして,ま ず営巣場所の確保という問題があることを忘れるわけにはいかない。本章では,この点に関して特にオ・オカバフ をとりあげ,まずその営巣場所選択がどのような機構濫よっておこなわれていたかについて詳細に換討した後,
営巣場所資源の季節的消長とハチの選択行動,および個体群動態との関連について述べる。また,営巣場所の資 源としての重要性とハチの社会性進化との関係についても考察を加える。
従来,其社会性以外のカリバチ類の巣艶得行動については,かれらがどのような材料を用いて,どのような場 所に巣を作るか,また巣作り時の細かい行動はどうかなど,主に自然史的な観点から記載されてきた(岩田,
1971の絵説)。これに対し,Brockmann(1980a)はアナバチ科のN儲について巣穴を掘る時間,巣穴の長さなどを 測定し,巣穴が一億の長さに達したということが巣作りを終えるきっかけになっていることを示した。また遠藤
(1980)はオオシロフべッコウバチにおいて,巣穴を掘るのに要する時間が地面の状態によって異なり,時間が かかるほどニクバェの一・種によって寄生される確率が高まることを示した。−・方,Brockmann&Dawkins
(1979)はアナパテ科の−・種が自分で巣を作る場合と他のハチが作った空巣にはいりこむ場合とで単位時間当り の産卵数がほぼ同じになることを示し,Brockrnann,Grafen&Dawkins(1979)は,これを緻密な意味での進化 的に安定な混合戦略(miⅩed ESS)であると位置づけた。このようなカリバチ類の巣作りに関する最近の定量 な研究は,巣作り行動が他の要因とからまって彼らの生活の中で重要な部分を占めていることを示している。
ハチ煩の巣作り行動に関しては特に最近,ハチ類の裏社会性の進化にかかわる生態的要因として,外敵に対す る防衛効果に加え,親世代の巣の再利用の影響があげられている(Gadgil,Joshi&Gadgil,1983;Brockmann,
1984;Krebs&Davies,1987;Wcislo,Low&KarT,1985)。すなわち,カリバチおよびハナバチ顆では−・般に巣作 りのコストが高いため,他の場所に移動して新たに巣を築造(または据坑)するよりも,同一・生息場所にとど まって親世代の巣を再利用する方が有利であり,このことが,親世代と子世代の接触確率を高め,ひいては協同 営巣性をもたらしたのであろうという仮説である。本章ではこの点について,実際に親の巣を利用する方が有利 かどうかについて,まず巣作りに要する時間および泥の急が,営巣する竹筒の切口の直径の逢いや,自分で巣作
りするか空き巣にほいりこむかの逢いに.よってどう異なるかを示し,次に巣作りする場合と入り込む場合とで次 世代成虫生産数がどう違っていたかについて述べる。Brockmann&Dawkins(1979)はアナバチ料の−・種につい て同様な比較をおこない,単位時間当りの産卵数を適応度の指標とすることにより,自分で巣作りする場合と入 り込む場合とで同程度の適応度が得られることを示した。本研究では,産卵後の子世代の生存率も親世代の巣役 得法の彩轡を受ける可能性が高いと考え,適応度の指標として次世代成虫生産数を採用した。このように本章の
目的の第一−・はオオカバフの巣狂得行動の決定機構とその適応性を探ることにある。
親世代の巣を再利用するという性質は,本研究においては亜社会性であるオオカバフおよびカバフにおいて特 徴的に認められたが,このような特性は集団営巣性をもたらし,一方で寄生者の集中をまねくことにより,その 個体群動態の特性をも規定していた。また,親世代の巣の利用可能性の時間的,空間的変動にハチがどのように 対処するかという点もハチ個体群の動態との関連で興味深い。しかし,これらの点については従来定盈的な指摘 がまったくなされていない。以上のような観点から,中心点採餌性昆虫における巣の再利用と個体群動態との関 連を探ることが本章の目的の第二点である。
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5−2 調査方法
5−2−1営巣中の行動
1982年6月から10月にかけて,オオカバフとオ・オフタオビについて,雌成虫が営巣活動を開始する早朝から,
活動を終える夕刻まで,後に述べる小生息場所において連続的に個体別の行動観察をおこなった。この観察は雨 天の日などを除いて,基本的に毎日,ハチの営巣期間を通じておこなった。1981,1983,および1984年には,こ のような行動観察を日中(6時から16時の間)に,数時間(もっとも厚くても3時間)不定期におこなった。本 調査は第4章の調査方法の節で説明したものとまったく同様にしておこなったので詳細は第4章を参照されたい。
5−2−2 利用可能な営巣場所
各種カリバチ類が営巣可能な竹筒の数を,毎年冬期にすべての小生息場所について竹筒の直径別に記録した。
このうち,ハチの完成巣が存在する竹筒については内部の育児室数および泥の乾重量を計測した。
1982年6月から10月にかけて,St71に存在する利用可能な竹筒,営巣中の竹筒,および営巣が完了した竹筒の 数をそれぞれ約2〜3日おきに調べた。
5−2−3 営巣場所としての竹筒の特性
オオカバフに利用された竹筒についてその内径,長さ,および内部に作られた巣数,育児室数についての調査 を1986年11月に香川県木田郡三木町ニノ坂(標高約400m)においておこなった。同年4月に設置した人工竹100 本,および10年以上継続的に設置されている稲城竹約100本について,同年11月までにオオカバフに利用された
ものについて調査をおこなった。
5−3 結果
5−3−1営巣場所の種間比較
本調査地においては,オオ・カバフ,オオフタオビ,カバフ,およびカバオビの4裡のドロバチ頼は,既存のあ るいは人為的に設置した竹筒の内部に営巣することが多かった。なお,以後「営巣」とは,雌成虫が巣作りをは
じめてから産卵,資源採集をへて巣の入口を閉じた後,巣を去るまでの巣をめぐっておこなわれる雌成虫の行動 全般をさすことにする。代表的な2種(オオカバフとオオフタオビ)の営巣スケジュールの典型例を図1−2に 示した。オオフタオビなど,オオカバフ以外のドロバチ類は,竹筒の内部のゴミなどを大顎によって数回外へ捨 てれば,すぐに産卵,採餌を始めることができるので,竹筒さえ発見すれば巣の狂得は非常に容易である。これ に対しオオカバフでは巣の構造上(囲1−1),より多くの泥を使って巣作りするため,その巣の果造に要する日 数は4−9日間と,非常に長い(図1−2)。
実際には,オオカバフほ2通りの巣狂得方法をとっていた。その第一Lは,自分で巣作りをする築造法であり,
もう一つは成虫羽化後の穴があいている古い巣や,他の成虫が作った煙突のついている巣の中に入り,それを利 用する入り込み放である。ここで∴稲城竹の切り口の内部にオオカバフの巣が形成されていく過程を述べる。ま ず,1頭の雌バチが泥を運び込んで第1巣を築造する(築造法)。次に第2の個体,またはさきの第1個体が,部 分的に第1巣の泥も利用しながら,その横に第2巣を築造する(築造法)。あるいは,第1巣から羽化した個体,
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またはよそから移動してきた個体が,第1巣内部の成虫が羽化した後の空室となった育児室を掃除して再利用し たり(入り込み法),すでに営巣している他個体を追い出して巣を乗っ取る(入り込み法)。いったんこのような 複数の巣の集合体(複合巣)ができれば,その後は世代の交代のたびにハチやその寄生者の羽化穴があき,ハチ がそれを再利用することにより,その巣ほ何世代にもわたって使用されるようになる。小生息場所内にこ.のよう な複合巣が増えてくれば,ハチは巣を築造する努力を払わずに,羽化穴や他のハチの作った巣に入り込むほうが 有利のようにみえる。本章ではおもにこのオ・オカバフの巣独得行動の決定機構とその適応性について詳しく述べ るが,ここではまず,4種のドロバチそれぞれの,調査地における竹筒の利用状況について述べて.■おく。
まず,各種ドロバチ腰が選択した竹筒の内径を表5−1に示した。すでに第1章で述べたように本調査地には 内径0.3′−5‖Ocm程度の竹筒が充分存在していた。オオカバフ以外の3種は種ごとに選ぶ内径がおおむね決まって おり,選択の範囲が狭いことがわかる。またこれら3種については内径の選好性がかなり重なっているといえる。
これに対し,オオ・カバフでは細い竹筒(0,9cⅢ)から太い竹筒(34cm)までいろいろな太さの竹筒に営巣できる 可塑性をそなえていることがわかる。
表5−1ドロバチ4種が利用した竹筒の内径(皿)の比較。
オオカバフスジ オオフタオビ カバフスジ カバオビ 平均±95%信頼限界 20.0士3.4 10.5±0..6 8.0士0−.8 8..0士1.13 範囲 9−34 7・−14 5、11 7、9
サンプル数 20 29 24 3
図1−1のドロバチの巣の内部構造から明らかなように,オオカバフ以外の3種は,育児室の内径が竹筒のそ れと一致して:いることから,1本の竹筒に1巣以上の巣が作られることはありえない。これに対し,オオカバフ では,内径約2い5cm以上の太い竹筒(稲城竹はほとんどがこの太さである)に営巣した場合,第1の巣の外壁と竹 筒の内壁との間に間隙ができ,この部分に第2,第3の巣が作られることが多かった。−・方,オオカバフが人工 竹(内径2.Ocm以下)に.営巣した場合にはすぺて1本の竹筒に1巣しか作らなかった。
衷5−2には竹筒1本当りの育児室数を4種ドロバチ間で比較した。カバオビが竹筒を無駄なく利用すること により多数の育児室を設けるのに.対し,それ以外の3種では育児室間や巣の入口付近に空室を作ったり(オオフ タオビおよびカバフ),竹筒内部の−・部分しか営巣場所として利用しなかった(オオカバフ)ため,いずれも育児
室は2〜3室程度であった。各種とも育児室の長さは1〜3c恥竹筒の長さは人工竹の場合10〜30cm,オオ・カバ フのみが利用した稲城竹の場合3〜10cm程度であった。
表5−2 ドロバチ4種の巣あたり育児室数。
オオカバフスジ オオ カバフスジ カバオビ フタオビ
稲城竹 人工竹
完成典 放棄巣● 完成典 放棄巣−
育児審致 20士1.21.3土0.5 2い3士l31.2土0‖4 26±1一4 2.1±Llる.0士27
(平均±SD)
範珊 1−5 ト2 ト6 ト2 ト8 1_4 5_10
サンプル致 36 12 娼 23 143 】3 3
●:凍の完成以前に雌成虫が消失した巣