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第 4 章 過労死等の防止のための対策の実施状況

第 2 節 啓発

8 商慣行等も踏まえた取組の推進

トラック運送業では、コストに見合った適正な運賃が十分収受できない中、「ジャスト・イ ン・タイム」での納品を求められるなど、近年、発注者である荷主の要請が厳しくなってい るとされている。また、荷主側の都合による長時間の手待ち時間が発生するといった問題も 見られる。こうしたことが一因となり、トラック運送業では、トラック運転者が長時間労働 を余儀なくされている実態がある。

例えば、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(平成 27 年)では、1か月の所定内実労働 時間数及び超過実労働時間数の合計は、営業用大型貨物自動車運転者では 218 時間、営業用 普通・小型貨物自動車運転者では 215 時間となっており、調査産業全体の平均の 177 時間を 大きく上回っている。また、総務省「就業構造基本調査」(平成 24 年)では、週の労働時間 が 60 時間以上の雇用者割合について、全体の平均が 11.6%であるのに対し、自動車運転従事 者では 35.3%となっている。

産業別でみても、道路貨物運送業の年間総実労働時間(パートタイム労働者を除く。)は、

全産業の中で最も長い、2,443 時間(所定内労働時間 2,018 時間、所定外労働時間 425 時間)

であり、平均の 2,026 時間を大きく上回るなど(厚生労働省「毎月勤労統計調査」(平成 27 年))、各種調査においてトラック運転者の長時間労働の実態が明らかとなっている。

また、厚生労働省「過労死等の労災補償状況」(平成 27 年度)を見ても、脳・心臓疾患の 全支給決定件数 251 件のうち 79 件が、精神障害の全支給決定件数 472 件のうち 27 件がトラ ック運転者に対するものであり、すべての労働者の中に占めるトラック運転者の割合が大き

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な比率を占めている。

このようにトラック運転者の長時間労働の実態は深刻であり、その改善は急務であるが、

上述のとおり、トラック運送事業者側のみの努力でこれを解決することは困難であると考え られることから、発注者との取引関係のあり方も含めて改善を図っていくことが不可欠であ る。

ア トラック運転者労働条件改善事業

平成 24 年度から、「トラック運転者労働条件改善事業」として、荷主企業、元請運送事業 者及びその元請運送事業者の下請運送事業者(1次、2次下請等を含む。)を含めた協議会を 設置し、アドバイザーによる個別指導等を通じて、荷主企業とトラック運送事業者の協力に より、トラック運転者の長時間労働を改善する取組を行ってきた。

平成 27 年度にはアドバイザーによる個別指導等を引き続き実施するとともに、過去3年間

(平成 24~26 年度)の成果から作成した取組事例集を用いて、全国各地で開催したセミナー で好事例を紹介することにより、荷主企業とトラック運送事業者に対し、両者の協力による トラック運転者の労働条件改善策について周知・啓発を行った。

イ トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会

平成 27 年5月、トラック運送業における取引環境の改善及び長時間労働の抑制を実現する ための具体的な環境整備等を図ることを目的として、学識経験者、荷主、トラック運送事業 者、経済団体、労働者団体、行政(厚生労働省、国土交通省、経済産業省)などにより構成 される「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」を中央において開催した。

また、同年7月以降、すべての都道府県に同様の協議会(以下「地方協議会」という。)を設 置した。

中央協議会及び地方協議会については、平成 27 年度はそれぞれ合計3回ずつ開催され、ト ラック運送業の長時間労働の実態を委員間で共有した上で、荷主とトラック運送事業者が一 体となって長時間労働の抑制に取り組んだ事例を紹介するなどの取組が行われた。

また、トラック運転者の長時間労働の要因等を明らかにし、今後の対策検討に生かすこと を目的として、平成 27 年9月に、全国 5,000 名以上のトラック運転者とその運転者が所属す る事業者を対象に、「トラック輸送状況の実態調査」を実施し、平成 28 年2月に調査結果を 公表した。今後、調査結果を基に、各都道府県において、その実態に応じた課題に対応する べく、荷主とトラック運送事業者の協働によりトラック運転者の長時間労働の抑制に取り組 むパイロット事業(実証実験)を実施することとしている。

コラム9 トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会

平成 27 年4月に第 189 回通常国会に提出された「労働基準法等の一部を改正する法律 案」では、長時間労働抑制の観点から、月 60 時間超の時間外労働に対する割増賃金率の 引上げ(25%→50%)について、中小企業への適用猶予措置を見直すこととされた。この 見直しに当たっては、中小企業において特に長時間労働者比率が高い業種を中心に、関係 行政機関や業界団体等との連携の下、長時間労働の抑制に向けた環境整備を進める必要が あるとされた。

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このうち、特にトラック運送業においてトラック運転者の著しい長時間労働の実態が見 られるところ、荷主都合による手待ち時間など、トラック運送事業者のみの努力で改善す ることが困難であるという要因が背景にあることから、平成 27 年5月、関係者が一体と なり、取引環境の改善及び長時間労働の抑制を実現するための具体的な環境整備等を図る ことを目的として、「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」(以下「トラ ック協議会」という。)が開催された。

このトラック協議会は、長時間労働の改善という視点から労働行政を所管する厚生労働 省が参画した点や、個別の荷主企業の担当者が委員に入った点が特徴的である。

トラック協議会では、以下のロードマップに基づき、法案により割増賃金率の引上げの 施行が予定されている平成 31 年4月までの間に、実態調査やパイロット事業(実証実験)

の実施、長時間労働改善ガイドラインの策定・周知啓発等を行うことにより、荷主都合に よる手待ち時間の削減や省力化投資の促進など、トラック運送業における長時間労働の抑 制に向けて取り組むこととしている。

(2) 情報通信業

情報通信業についても、年間総実労働時間が 1,955 時間、所定外労働時間が 213 時間と高 水準であり(厚生労働省「毎月勤労統計調査」(平成 27 年))、また、厚生労働省「過労死等の 労災補償状況」(平成 27 年度)をみても、「情報通信業」のうち「情報サービス業」は、脳・

心臓疾患の全支給決定件数 251 件のうち9件、精神障害の全支給決定件数 472 件のうち 20 件と、いずれも日本標準産業分類(中分類)別にみて上位の業種となっていることなど、社 会的にもIT業界で働く労働者の長時間労働が問題視されていることから、その対策が求め られているところである。

これまでも、情報通信業における業種の特性に応じた長時間労働の削減、年次有給休暇の 取得促進の方法等を盛り込んだハンドブックの作成、配付等を行ってきたところであるが、

今後、業界団体等と連携し、IT業界で働く労働者の長時間労働対策を一層進めることとし ている。

平成27年度 平成28年度 平成29年度 平成30年度

①中央・各都道府県において 協議会の設置・検討

(厚生労働省・国土交通省、

荷主、事業者等による協議会)

②長時間労働等の実態調査、

対策の検討

③パイロット事業(実証実験)の 実施、対策の具体化

④ガイドラインの策定・普及

⑤取引環境・長時間労働改善の 普及・定着

トラック輸送における取引環境・長時間労働改善に向けたロードマップ

調査の 実施・検証

協議会の開催、パイロット事業の計画・検証、対策の検討、

ガイドラインの策定 等

ガイドラインの策定・普及 パイロット事業(実証実験)の実施

労働時間縮減のための助成事業 協 議 会 の 設 置

普及・定着の促進 助成事業の実施

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9 公務員に対する周知・啓発等の実施