第 5 章 研究のま とめ
第 1 節 各章ま とめ と教育的示唆
第 2章では、外国語学習や コミュニケー シ ョンに関す る動機づけについての先行研究に ついてま とめた。外国語学習における動機づけ構造 に関す る先行研究、動機づ け と他 の要 因 との関係 に関す る先行研究、動機づけを高める要因に関す る先行研究、動機づ け と外国 語 コ ミュニケーシ ョンの関係 に関す る先行研究 についてま とめた。 これ らの先行研究か ら は、外国語学習に対す る動機づけを高める実践 と理論 を考える うえで教育的示唆 を多 く得 ることができる可能性があることについて議論 した。
例 えば、 ドルニェイ
( Do r nye i
,1 994)
の外国語学習動機づけ構造の理論 とウィ リアムズ とバーデ ン( Wi l l i am
&Bur d en
,1 997 )
の外国語動機づ け構造の理論は、教室にお ける動 機づ けの大枠 を捉 え、そ こでの動機づ けが詳細に述べ られてお り、外国語学習に対す る動 機づ けを高める実践 と理論 を考 える うえで教育的示唆 を得 ることができる。 しか し、 これ らの 2つの研究で示 されている包括的な リス トでは、各構成要素間の相互関係 は示 されて お らず、1つの動機づけモデル として見なす ことができないことも指摘 されている。また、マクイ ンター、ク レメン ト、ドルニェイ とノエル
( Mac l nt y r e
,Cl e me nt
,Do r ne ye i
,&Nbe1
8,1 998)
の "wi l l i ngne s st oc o mmum ic a t e"( WTC)
の概念モデル においては、第二言語の コ ミュニケ‑ ションには、言語能力、 自分の言語能力に対す る自信、あるいは 自信のな さ、民族間の関係、相 手文化 に対す る態度 な ど、第一言語 (母語)でのコミュニケー シ ョンよ りは るかに多 くの要因が複雑 に絡んでいることが示 されていることを述べた。そ して、 コ ミュニケ‑ シ ョンをす ることを 目的 とした場合 に、学習動機だけでなく、 自信 ・不安な ど の個人の性格要因 と、異文化接触動機や異文化‑ の態度な どが どのよ うに第二言語で コミ ユニ ケ ‑ シ ョンす る際 に影 響 す るか とい う観 点 を含 ん で い るた め、"
wi ni ngne s st o
c o mmu山c at e " ( WTC)
の概念モデル は コ ミュニケー シ ョン活動 に対す る動機づ けを高 め る 実践 と理論 を考 える うえで教育的示唆 を得 ることができると述べた。 これ らをもとに、 コ ミュニケ‑ シ ョン活動 に対す るてだて と動機づ けの高ま りの関連 に関 して、質問紙調査 と2,第 3章 ま とめ と教育的示唆
(1
)調査1
及び調査2
のま とめ と教育的示唆調査
1
では、調査対象者 に どのよ うな授業介入 を実施すれば効率 よく動機づけが高め ら れ るかについて検討 した。その結果、「道具的志向性」「
国際的志向性」「英米文化‑の興味 ・ 関心」
な どに関す る題材や教材 が、第2学年 の学習者 の動機づ けを高めるために有効であ ることが示唆 された。調査 2では、 コミュニケー シ ョン活動 に対す る自己決定理論 の 3つ心理的欲求は、互い に関連 させ合いなが ら、 コミュニケー シ ョン活動 に関す る欲求 を充た し、動機づ けに影響 を与えているのか、また、 コミュニケー シ ョン活動 に対す る動機づ けは、 自己決定性が高 まるにつれて連続体 を構成 しているのかに関 して検討 した。調査 2 (1) では、 3つの心 理的欲求は互いに関連 させ合いなが ら充足 されていることが確認 された。また、調査2 (2) か らは、 コミュニケーシ ョン活動 に対す る動機づ けは、 自己決定性が高まるにつれて連続 体 を構成 してお り、各動機づ けの概念間にシンプ レックス構造がほぼ成立す ることが確認
された。
そ して、調査2 (3)では、3つの心理的欲求支援 (自律性支援、有能性支援、関係性 支援)のそれぞれ の認知の違い と自己決定性 に基づ く各動機づ け (内発的動機づ け、同一 祝的調整 、取 り入れ的調整 、外的調整 、無動機)の関連 について確認できた。その結果 で は、
3
つの心理的欲求支援の中で、特に 自律性支援の認知 と有能性支援 の認知が高い こと が、動機づ けを高める うえで重要な役割 を示 していることが確認 された。 また、クラスタ‑分析 による動機づ けスタイルの違 い と3つの心理的欲求支援の関連 を調査 した結果では、
「全般的動機づけスタイル群
」
と 「自律的動機づ けスタイル群」の方が 「外発的動機づ け スタイル群」よ り自律性支援の認知が高 く、 「全般的動機づけスタイル群」の方が 「外発的 動機づけスタイル群」 よ り有能性の認知が高い ことが確認 された。 したがって、 自律性支 援 と有能性支援の認知の高 ま りが、 コミュニケー シ ョン活動の動機づ けの高ま りに強い影 響 を与えることが確認できた。調査 2か ら、 自律性支援 と有能性支援の認知の高ま りが コミュニケー シ ョン活動の動機 づ けの高ま りには重要であることが確認できた。一方、実際の英語の授業で行われている コミュニケーシ ョン活動の課題 としては、コミュニケー シ ョン活動がお互いのペアーでた だ書かれている英文 を相手に向かって読み上げている活動 に とどまっているものが多い状 態になっていること (斉藤,2008)や、生徒は先生か ら質問 されて、それにひたす ら答 えて いることにとどまっている状態になっていることが取 りあげ られ る (斉藤,2008)。すなわ ち、多 くの コミュニケー シ ョン活動では、多 くの生徒が 自ら考 えて質問 した り、 自分の考 えを述べた りす る活動 に至っていない ことが課題 として考 えられ る。そ こで、調査
2
か ら 考 えられ る教育的示唆 としては、 「自分 自身の考 えを述べ る」「生徒がみずか ら考 えて誰か に質問す る」といった 自己表現力 を高めることを通 して、自律性 と有能性 を高めることは、コミュニケーシ ョン活動 に対す る動機づ けを高める有効なてだてであることが考え られ る。
なお、 この示唆に関 しては、授業介入 を通 してい くつかの実践 を行い、 自己表現力 を通 し て 自律性や有能性 を高めるてだてについては、 「動機づけのてだて とモデル」を使 って第4 章のなかで表す こととした。
3
,第4
章ま とめ と教育的示唆 (1)授業介入のま とめ と教育的示唆第
4
章では、 コミュニケー シ ョン活動 に対す る動機づ けを高める授業介入 について検討 した。授業介入においては、心理的欲求 を充足す るてだてをできるだけ多様 な角度か ら考 え、学習す る時期や題材、言語材料 に応 じてそれ らを整理 し、取捨選択 し、 しか も極力多 くを 1つ 1つの コミュニケー シ ョン活動 に位置づ けた。そ して、 コミュニケーシ ョン活動 の動機づけを高めるための 3つの心理的欲求の充足を行 うてだてを具体的に挙げ、それ ら が どのよ うな影響 を与えているかを詳細に考察 した。特 に、4
つの異なる動機づけタイプ か ら焦点を当てる生徒 をそれぞれ挙 げ、それ らの生徒 に対 して具体的なてだてを工夫 したのコ ミュニケー シ ョン活動 に対す る動機づ けを高 める方法や授 業展開 を 「動機づ けを高 め るてだて とモデル」に示 した。
これ らの考察 を通 して、生徒 のコ ミュニケー シ ョンに対す る学習活動 を表面的 に とらえ るのではな く、 「楽 しく活動 しているか
」
「有用性 を意識 できているか」
「めあてをもって取 り組んでいるか」「
達成感や成就感が今後の活動 につなが りを持 っているか」な ど内面的な 部分 を見 ることが可能 とな り、動機づ けを高 める授業モデル を提案す ることがで きた。 そ して、授業介入 を通 して、単に授業の題材や方法 のみ に楽 しみや満足 を感 じていた生徒 た ちにも、 「もっ とこんなふ うに話 したい」 「英語で話せ た ことが うれ しい」 「英語で通 じた こ とが嬉 しい」「Au の先生 の英語が聞けて嬉 しい」とい う気持 ちを高めることができたた め、そのよ うな授業モデル を提案できた ことは有意義な教育的示唆があると考 えられ る。 「ス ラ スラ と言いたいけ ど、相手 に確 実に情報 を伝 えることが最優 先 であるか ら、 自己満足的 な しゃべ り方ではいけない。」 とある生徒は述べていた。単なる機械的なや りとりとしてでは な く、何 のために英語 を学習 し、 コミュニケー シ ョン しよ うと してい るか とい う根本的 な 考 え方 をもとに活動 してい る例 と理解 できる。 コ ミュニケー シ ョン活動 に対 して、
3
つ の 心理的欲求の充足 のてだて を継続 してい くことに よって今後 も同様 の成果が期待で きる と 思われ る。現在 、生徒 の学習意欲 は低下す るばか りで、その こ とは全 ての学習 に関す る大 きな問題 となってい る。 このよ うな時代 に生徒 の顔 を授業 に向 け させ るのは容易な こ とで はない。 コミュニケー シ ョン活動 に対す る動機づ けを高 める授 業介入 を通 して、生徒 が積 極的に英語 の授業 に参加 で きる学習過程 、学習内容 、そ してそのための学習 のてだて を述 べ ることがで きた と考 えている。(2)調査 3のま とめ と教育的示唆
調査
3
では、 コ ミュニケー シ ョン活動 に対す る 自己決定理論 の3
つの心理的欲求 を充た す よ うな授業介入 を行 えば、 コ ミュニケー シ ョン活動 に対す る動機づ けを高 めることが可 能であるかに関 して検証 した。 ここでは、授業介入 によって、 コ ミュニケー シ ョン活動 に対す る 3つの心理的欲求の充足が可能であること、そ して、それ らを通 して本 当に動機 づ けを高めることが可能であることが確認 できた。約 6ケ月間の授業介入 において、全体的 な傾 向 として、 自律性支援 と関係性支援 に関 しては、授業介入 によ り心理的欲求 を充足す ることが可能であ り、内発的動機づ けと同一視的調整 といった 自律性の高い動機づ けが高 まった ことが確認 できた。 しか し、 6ケ月間の授業介入では、有能性の心理的欲求 を十分 に高めることはできなかったことが確認 された。
実際の教室で学ぶ生徒一人ひ とりの動機づ けに関 して調査す るためには、学習者 の動機 づ けスタイル を意識 して、 3つの心理的欲求支援 とその動機づ けの高ま りの関連 を調査す ることが重要である。そ こで、調査 3において もクラスター分析 を行い、 「自律的動機づ け」群、「高動機づけ」群、「低動機づけ」群、 「同一視的動機づけ
」
群の4つの動機づ けス タイルに学習者 は分類 し検討 した ところ、次の ことが確認できた。「自律的動機づ け」群では、関係性支援 の認知 を高めることはできたが、動機づけの十 分な高ま りは確認 できなかった。 これは、 「自律的動機づけ」群は、もともと自律性の認知 が高い といった特徴のために、 自律性の高ま りの認知の高ま りは見 られず、関係性支援 の 認知 に高ま りが見 られ、十分な動機づ けの高ま りは見 られなかったのでないか と考 え られ る。 「高動機づ け